年を重ねても住みやすく、健康維持に役立つ環境づくりを目指して

日の里ファームの出荷エリアで栽培している小松菜。売り上げは、運営費に充てている日の里ファームの出荷エリアで栽培している小松菜。売り上げは、運営費に充てている

今、UR都市機構では、子どもや若者、子育て世代、中高年、高齢者など様々な世代間交流ができるミクストコミュニティに力を入れている。その背景には、建設から35~40年経ったUR賃貸住宅の“今”がある。

昭和40年代以降、全国で大規模な団地を供給し続けてきたUR都市機構。当時家族で入居した人たちも年齢を重ね、子どもたちは巣立ち、そして現在、居住者の高齢化や空室対策が課題となっている。
UR賃貸住宅が実施した居住者定期調査によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は約39%、平均世帯主年齢は56.8歳(平成22年調べ)。恐らくどこに住まう人にとっても、住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることができるとしたら、それが一番の理想ではないだろうか。そのためには、いつまでも自分らしく自立して暮らせる身体づくりや、医療や介護、看護、そして高齢者向け住宅のサポートが必要となってくる。
そこで近年、UR都市機構は地方公共団体などと連携をして、地域医療福祉拠点の形成や高齢者の生きがいの創出、そして前述したミクストコミュニティに積極的に取り組んでいる。そして今回、食と農に着目をし、今年6月に全国初の本格的な農業施設を団地内につくった。その第一号が、福岡県宗像市にある「UR日の里団地」である。6月にできたばかりの団地の農場「日の里ファーム」をご紹介したい。

農業をテーマにした生きがいづくり

約12.6ヘクタールある広大な日の里団地のほぼ中央に設けられた日の里ファーム。500m2ある広場を農場スペースにしたそうだが、建物がそびえ立つ団地の中に突如大きなビニールハウスが表れると、「何をつくっているのだろう?」とワクワクしてくる。
UR日の里団地に限らずだが、仕事をリタイアし、また加齢により外出の億劫さを感じるようになってくると、社会とのつながりが徐々に減っていくという高齢者の話をよく聞く。日の里ファームを通して“楽しいこと”を創造できたら、家の外へ出るきっかけづくりにもなるし、顔見知りの人と農作業を通しておしゃべりをしたり、野菜の成長を愛でたり、採れたて野菜を食べる楽しみなど、参加をする度に心が元気になる要素がどんどん増えていくに違いない。
しかも日の里ファームは、身体への負担を軽減し、安全に作業できる農場だそうだ。農業というと腰に負担がかかりそうなイメージがあるが、身体への負担を軽減とはどういうことなのか? また、農機具を持ったことがない初心者でもすぐにできるものなのか? 畑を耕す力がない、うまく育てられない、水遣りが大変など、従来の農業のイメージを覆す画期的なシステムを取り入れた新しい農場施設「トレファーム」について話を伺った。

長さ33m、幅8m、高さ4.4mの大きなビニールハウス長さ33m、幅8m、高さ4.4mの大きなビニールハウス

高齢者や障がい者にもやさしい、新しい農業のカタチ「トレファーム」

日の里ファームのオープニングイベントの様子。テープカットならぬ野菜の記念カットを実施日の里ファームのオープニングイベントの様子。テープカットならぬ野菜の記念カットを実施

「トレファーム」とは、東レ建設が開発した農場施設のことで、UR都市機構では全国で初めてこの施設をUR日の里団地に取り入れたという。先述したこの大きなビニールハウスも、建設会社ならではの建築技術やノウハウを取り入れた強固な農場ハウスだそうで、台風にも強い。
中でも、今回一番の目玉となっているのが、高床式栽培用ベッドだ。高床式なので腰をかがめずに作業ができ、しかも目線に合わせて高さの調節ができるので車イスの利用者も無理をせずに楽しく農作業ができるという。これは、高齢者ではなくてもうれしいシステムだ。 また、トレファームでは、特別な農具や機材を必要としない。野菜を栽培するところは土ではなく砂培地なので、農機具を使わず砂遊び感覚で気軽に始められるし、自動潅水を取り入れているので水遣りや肥料遣りを忘れる心配もないそうだ。
そんなトレファームを取り入れた日の里ファームは、UR日の里団地で暮らす人たちを中心に構成された会員制(無料)の農地。この農地には、出荷用エリアと会員専用の栽培エリアがあり、出荷用エリアでは原則1日1~2時間参加をして、野菜の栽培のノウハウを学び、会員専用の栽培エリアでは好きな野菜を自由につくってもよい。専門家である農場スタッフは毎日15時まで常駐しているので、わからないことはすぐに教えてもらえる環境も整っている。
高齢者の生きがいづくりとミクストコミュニティの創出のために生まれた日の里ファーム。日の里ファームができたことで生まれる“楽しさ”について着目したい。

“心地よさ”をテーマにした、新たな場づくり

朝市に集う人々。イベントや栽培状況に関しては、日の里ファームのブログで告知をしている朝市に集う人々。イベントや栽培状況に関しては、日の里ファームのブログで告知をしている

日の里ファームでは、年齢・性別・ライフスタイルに関係なく「あたたかな近所づきあいのできる場」や、作物を育てることで、身体や頭を動かし、会話をし、サラサラとした砂を触ってリラックスできる「心身ともに心地よい場」、わからないことは尋ね、知恵を絞り、新たな発見や気づきを得る「学習できる場」、新しいことにチャレンジする「挑戦の場」の4つのコンセプトをベースにした場づくりに取り組んでいる。
「最初は、高齢者の生きがいづくりをしたくて始めた日の里ファームなんですけれど、蓋を開けたら、高齢者だけでなく子どもたちも喜んでくれました。新しいひとつの遊び場として、認めてもらえたようです。うれしい誤算でした」と担当者も顔をほころばせる。
出荷した野菜は、毎週日曜の朝に日の里ファーム内で開催している朝市や、宗像市内の一部直売所で販売しているが、今後はJR東郷駅前に8月オープン予定のコミュニティサロン「団地のにぎわい広場 CoCokaraひのさと」や、保育園・小学校の給食などへの提供など、地域の賑わいの創出にもつなげたいという。

日の里ファームのオープニングイベントが開催された6月19日(日)も、朝市は賑わっていた。チンゲン菜や小松菜、わさび菜が100円で販売され、希望者は自分で好きな大きさや形の野菜を選び、はさみで収穫をしていた。
このオープニングイベントに、会員の人たちはどのくらい来ていたのだろうか。購入者と直接会話はしなくとも、朝市などを通して、採れたて野菜が手に入ったと喜んでくれる人たちの笑顔を見たのならば、心の中にあたたかなものが生まれたに違いない。気持ちが元気になると、足取りが軽くなり、身体も元気になる。何かやってみようと思うパワーが生まれる。日の里ファームを通して行なう場づくりは、生きようとする力を引き伸ばす、高齢者にやさしい取り組みとしてスタートした。

団地の農場「日の里ファーム」
http://www.hinosato-f.jp/

2016年 08月06日 11時00分