交流を意図した学生寮が増えている

神奈川大学新国際学生寮の外観と内覧時の寮内。吹き抜けの開放的な感じがお分かりいただけようか神奈川大学新国際学生寮の外観と内覧時の寮内。吹き抜けの開放的な感じがお分かりいただけようか

学生寮と聞くと廊下に面して部屋が並ぶ無味乾燥な建物を想像する人も少なくないだろうが、最近の学生寮は大きく様変わりしている。寝る、学ぶだけの場所ではなく、学生同士が交流する場などとしても考えられるようになっており、建築として、空間として、変化に富んだものになっているのである。

2019年夏に完成した神奈川大学の新国際学生寮も、テーマのひとつは国際交流。同大学では2020年4月に新学部・国際日本学部が開設されることになっており、多くの留学生が来日、学ぶことが想定されている。そのため、2016年に同大学の卒業生を対象に国際学生寮建設のプロポーザルがスタート。株式会社オンデザインパートナーズの萬玉直子氏の提案が選ばれ、以降、設計、工事にそれぞれ1年半以上をかけて完成した。

場所は横浜市神奈川区栗田谷。東急東横線反町駅から急坂を上った、横浜市中心部を見渡す高台でもともとは横浜市営住宅があった土地。住宅街を抜けた先の緩やかに下る斜面に立つ白い曇りガラスが印象的な4階建ての建物である。入り口からはそれほど大きくは見えないが、奥行きが80m超と長く延びた建物で、斜面に沿った段差を利用して内部は3つのブロックに分けられている。

もうひとつ、入り口からは分からないのが内部空間の楽しげな雰囲気。外からは四角く真面目な顔に見えるが、一歩中に入ると、4層吹き抜けの高く広い空間を自在に使った楽しい空間になっているのである。吹き抜け自体はほかでもよく見る。だが、この建物の場合、四方の壁に沿って作られた廊下、寮室・浴室などを除いた中央部のほとんどすべてが吹き抜けになっており、空間のボリュームは圧倒的だ。

吹抜きけ内の「ポット」は住む人が全員で共有する居場所

さらにその吹き抜けには階段が左右から上下にと延びており、中間階のところどころにはドアはないものの、半分個室のようになった小部屋が点在する。この10m2ほどの小部屋は「ポット」と呼ばれる共有スペースで、全体で20ヶ所に設けられている。

ポットの作り、広さや色、素材、置かれている家具はすべて異なっており、畳や人工芝が敷かれたもの、デスクとチェアが備えられたもの、ソファが置かれたものなど、場所によって、使う人によってさまざまな使い方ができるようになっている。ポットを繋ぐ階段は行き止まりが生まれないように作られており、同じ場所に行くのにもさまざまなルートがあり、広がりを感じる。エッシャーの建築不可能な構造物を見ているようなわくわく、どきどきがあると言うと怒られるだろうか。

また、ポットほど明確に仕切られていないものの、1階のリビングストリートと名付けられた廊下部分などにもデスクやカウンターなど、話をしたり、本を広げたりと多様に使える場が作られており、自分の部屋以外に使ってもよい場所が建物内あちこちに散りばめられているのである。

その分、寮室は2m×3.5m=7m2と非常にシンプルでコンパクト。ベッドが備品で入り、個室内でできることは寝る、着替えるくらい。それ以外のことはすべて寮室の外、共用部分でやってくださいという作りなのである。寝る以外の大半の生活を共有部で送る生活にすることで、日常的に同じ建物に住む人たちを意識し、接点を持つようになることが意図されているのだ。

洗面所など水回りに行く際に吹き抜けの脇を通るようになっているのも同様の意図から。ポットにいる誰かと互いの雰囲気が感じられるようになっているのである。

ポットは個室ではないため、廊下や階段にいる人と会話したり、挨拶しあうなども可能。撮影/鳥村鋼一ポットは個室ではないため、廊下や階段にいる人と会話したり、挨拶しあうなども可能。撮影/鳥村鋼一

全体を感じつつ、一人にもなれる空間を

「このプロジェクトに関わるにあたり、最近の学生寮を調べてみたのですが、多いのは4~6人をひとつの単位としたユニット型。ひとつの共有部を数人で使うような形で、それが複数集まって全体として200人など大人数が住む寮になるというものです。あるいはフロアごとに共有部を配するなど。こうするとユニット内でのコミュニケーションは取りやすくなるものの、ユニット外の人とは会うチャンスが少なくなります。この寮の定員は200人超と非常に多く、せっかく、それだけの人がひとつ屋根の下に暮らすのに限られた人としか会えないのはつまらない。全体を感じられる、でも一人になれる場所もある、そんな寮を作りたいと考えました」と設計を担当した萬玉氏。

そこで考えたのがまちのような国際学生寮というコンセプト。広い立体的な共有空間をまちと見立て、そこで人がすれ違い、出会うと考えればよいだろうか。形としては最初から4層吹き抜けの中に求心性のある居場所が多数点在、多中心という現在のものをイメージした。

ただ、4層分の吹き抜けを作るには工夫が必要だった。普通であれば火災の際の安全のため、シャッターを付け竪穴区画を作る、排煙設備を設置するその他空間を遮るような作りをせざるを得ない。だが、この建物では窓際に設けた寮室の外に建物外周をぐるりと繋ぐ、避難経路ともなるバルコニーを設置することで大臣認定を取得した。寮からバルコニーに出れば左右どちらに避難しても外部階段にアクセスでき、避難できるようになっているのである。この作りによって内部の大きな空間が可能になったのだ。

畳、人工芝の敷かれたポットもあれば、ソファ、デスクが置かれたポットもあり、場所により居心地はさまざま畳、人工芝の敷かれたポットもあれば、ソファ、デスクが置かれたポットもあり、場所により居心地はさまざま

自分で選べる他人との距離感

ポットの配置、作りにも工夫がある。ひとつは中間階にあるという点。特定のフロアにあると、その階に住む人たちの場所と受け止められがちだが、2階と3階、3階と4階の間なら特定の階の人のものではなく、みんなのものと意識するだろう。

壁も床もあるが、部屋ではないという点もポイント。仕切られた空間ではないので誰かが通ればその気配は感じられるし、挨拶をしたければ挨拶もできる。もちろん、籠って何かに集中することも。ドアを開ける必要がないので気軽に使え、全体が見えているので先客の有無はすぐ分かる。

「一人で過ごしやすい、数人で集まりやすいなどポットごとに異なる設計になっていますし、建物内の位置によっても使われ方の頻度は変わって来ると思います。人によって他人との間に求める距離感はそれぞれですが、ここではポットの使い方で200人いたら200通り、その人が好ましいと思う距離感を選べるようにと考えました」

人がいるのは感じられる。だが、気を使う必要はなく、共有部にいても一人になれる。その一方で大きな、他人もいる空間にいることで自室にいるよりは緊張もする。萬玉氏はこの状況をときにサードプレイスとも称されるカフェに通う人たちの気持ちで表現した。

「一人になりたいけれど、一人ぼっちになりたいわけではない」

ポット以外にもソファや立って利用できるデスクなどが随所にあり、気分を変えたいときには違う場所を使えばよいポット以外にもソファや立って利用できるデスクなどが随所にあり、気分を変えたいときには違う場所を使えばよい

イベントではなく、日常の挨拶から始まる交流を

寮室はほぼ寝るだけの空間と位置付けられており、外の空間と比べると差がある寮室はほぼ寝るだけの空間と位置付けられており、外の空間と比べると差がある

交流を謳う施設ではどう集まるかが優先されがちだが、ここではまず、その人がその人らしくいられる空間、人との距離感を配慮し、そのうえで自然に交わるようになることが考えられているのである。月に1度のイベントで盛り上がることを良しとするのではなく、日常の挨拶のようなさりげないところから始まっていく交流が意図されているのである。

そうした交流のためにもうひとつ工夫されたのはドアの脇に設置された自己紹介用のディスプレイボード。個人の趣味や母国の紹介から、お互いを知り、日常の会話を生み出す仕掛けとして設置された。

「自分から挨拶をし、自らを開いていかないと交流は始まりません。それを生むためには何かしら、外に向けて発信するものが必要と設置しました。趣味の品を飾ったり、イベントを呼びかけたり、多目的に使ってもらえればと思っています」

完成後、現在は真ん中のブロックに40人ほどの学生が居住。本格的に留学生が入ってくるのは2020年の春以降になるそうだが、せっかく、これだけの面白い空間があるのである。上手に活用され、日本を訪れた学生たちが長く付き合える友と出会う場になってほしいものだ。

個人的にはポットはもちろん、17ヶ所に及ぶキッチン(しかも、これまた1ヶ所ずつ作りが違う!)にも惹かれた。世界各地の国から来た人たちがここで腕を振るったら、どんなに楽しい場になることだろう。毎日の食卓から始まる国際交流ならきっと忘れられないものになるだろうと思う。

2020年 02月13日 11時05分