パリで始まった「パリ・ソリデール」

先進事例の「パリ・ソリデール」の方々と京都府から「京都ソリデール」の委託業者選定を受けたアッドスパイスの岸本さん先進事例の「パリ・ソリデール」の方々と京都府から「京都ソリデール」の委託業者選定を受けたアッドスパイスの岸本さん

花の都 パリと千年の都 京都……両都市は、2018年友情盟約締結60周年を迎えるようだ。
どちらも芸術・文化の中心都市であり、また多くの学校や大学をもつ文教都市でもある。特にパリでは古い建物が残り、家賃も高額なため、学生は住まい探しに苦労するようだ。そんな中、パリでユニークな同居紹介システムが生まれた。「パリ・ソリデール」というフランスのボランティア団体による、独り暮らしの老人と住まいを探している若者をマッチングして紹介する同居システムだ。

きっかけは、2003年のパリの猛暑……暑さにより、独り暮らしの高齢者が大勢亡くなったという。ふたたび孤独なまま高齢者を亡くしてはならないと、若者の同居により無理なく支えられるように始まったようだ。そのシステムは、物件オーナーである登録者はボランティア団体に同居システムを利用する申し込みを行い、審査を経て登録する。団体は入居希望の若者の面談を行い、条件等を精査して高齢者とのマッチングを行い、互いに了承すれば同居をする、という仕組みである。

京都も古い家が残り、少子高齢化による独り暮らしの高齢者が多くなってきている。中心部で一人暮らしのアパートやマンションが増えてきたのは近年であり、それまでは多くの学生が寮に入るか下宿をしていた。そんな中、古くから「下宿」文化のあった京都で、パリ・ソリデールを参考とした取り組みが始まっている。

京都ソリデールの仕組み

京都には、大学が多いこともあり親元を離れた学生の住まいとして、下宿の文化は前からあった。京都大学のHPによると全学生のうち自宅通学者の割合は約3割で、残る7割の学生が下宿生活(※アパート、マンションの一人暮らしを含む)をしているという。2016年9月15日現在推計の京都市の65歳以上の高齢者人口は40万5,280人で、総人口に占める割合(高齢化率)は27.5%となり、市内の約3.6人に1人が65歳以上となっているようだ。

そんな中、京都府は地域創生戦略に基づく新しい住宅施策として、高齢者宅の空き室に低い負担で若者が同居し、交流を促す次世代下宿「京都ソリデール」事業を推進している。また、京都府域における事業の継続と事業を希望するマッチング団体、高齢者・住宅、若者の増加を図るため、公募型プロポーザル方式による委託業者の選定を行った。

その仕組みは、シニアのオーナーは委託業者と賃貸契約を結び委託管理料を支払う。借主(若者)は委託業者と転賃借契約を結び、管理費を支払う。委託業者は事前のヒアリング・募集・希望者の面談などを行うとともに事後の相談にのるケースもあるという。(※下図は、京都府の資料より)

その中のひとつ、実際のオーナーと入居者をマッチングさせ、実際に同居をしているという京都府から委託業者に選定されたアッドスパイスの例を紹介しよう。実際にアッドスパイスを通して「京都ソリデール」の仕組みを活用したオーナーと同居者に取材させていただいた。

京都ソリデールの仕組み(京都府資料より)京都ソリデールの仕組み(京都府資料より)

同居のポイントはお互いの「マッチング」

お話を伺った、左)武田さん と 右)倉内さんお話を伺った、左)武田さん と 右)倉内さん

京都市左京区に住む倉内さんは、地元でBeerWineBarを営む。2人のお嬢様は、それぞれ結婚し独立。お母様と暮らし、それまでは京都に来る外国人の方などのホームステイなどを受け入れたこともあったというが、お母様を亡くしてからは、しばらく一人暮らしだったという。

「一人暮らしも気ままで楽しんでいるのですが、たまたまBarにいらっしゃるお客様に京都府の職員の方がいて、"こんな制度があるから活用してみたら"と紹介されたんです。まあ、部屋はたくさんあまっているし、もったいないかなあとも思っていたこともありました。ホームステイを受け入れたりした経験から、他人と暮らすことにそんなに抵抗もなかったので、応募してみようかと」と、倉内さん。

倉内さんは、ソリデールの説明を受け応募をし、複数の希望者と面談をした。
「娘たちからは、"事件とか起こるご時世だから、男の子はやめて"とクギをさされました(笑)。条件として出したのはそのくらいです。でも、面談するといろいろな先方の条件やこちらの感性などがあわなかったりするケースもあり、すぐ決まるわけではなく、意外と慎重でしたね」という。同居の肝はマッチングであるようだ。

現在は、面談を経て実際に武田さんという女性と同居している。同居している大学生の武田さんは、
「私は、世界遺産などをめぐったりするなど、歴史に興味があり、京都は憧れの街でした。ちょうど、在学する早稲田大学と同志社大学の学部交流学生の制度があり、応募をしたんです。大学の国内留学は叶いましたが、住まいは自分で探さなくてはならず、寮にも入れなかったためどうしようかと悩んでいたんです。京都ソリデールのことを知り、行政が提供しているサービスなら安心だと申し込みました」。

「その土地の人と暮らしてみることが、貴重な機会」

同居をして、実際にお2人はどう考えているのだろうか?武田さんは、
「交換留学は意外と孤独で(笑)、実際にまだ友達ができていないので、同居でなかったら誰とも話さないのかなあ…と思いました。ここからは、大学まで自転車で通える地の利もあるのですが、せっかく京都に住む機会を得たのに地元の方と関わりがないのはもったいないですし、世間話をしていていろんな情報ももらえるので嬉しいです」。

倉内さんは、
「あまりベタベタしても、お互い気を使っても、一緒に住む以上疲れるだろうし(笑)。つかず、はなれずがよいのかな、と思います。それでも“こんなイベントがあるから、行ってみたら?”とか伝えてみたり、まあ、ぼちぼち楽しくやってます」と、笑顔で話してくれた。

コミュニケーションの積み上げから生まれるものは、なかなか意図的にはむずかしい。しかし、“同居”を通じてお互いの間に生まれるものは、一人暮らしでは得られないものでもある。アッドスパイスの代表の岸本さんは、
「次代下宿の目的は、“暮らし方の文化をつくる”ことです。特に京都では、憧れて京都に上京する大学生や移住者が多いにもかかわらず、京都らしい暮らし方や住環境が無いまま数年を過ごし、京都を去ってしまいます。また、独居くらしのシニアにとっては空いた部屋を収益化すること、同居で防犯面の安心が多少あがることなどメリットがあります。まちにとっても、若者がまちに入り込めるきっかけが生まれたり、空き家化を防ぐきっかけになると思います。京都には古くから下宿文化がありましたが、次世代につなぐ下宿暮らしをコーディネートできたらと思っています」という。

取材をして一番感じたのは「その土地の人と暮らしてみることが貴重な機会だ」という武田さんの言葉であった。
もちろん、パリ・ソリデールの例にあるように有事の際に高齢者の手助けになるということもあるだろうが、それよりも本質的に人と暮らすことの大切さを学び体験する機会として、京都ソリデールの仕組みが、ポジティブに機能するとよいと思った。
世代間交流の機会でもある「下宿」という仕組みから、また新しい暮らし方提案が発信できるとよいと思う。

★取材協力★
アッドスパイス「次世代下宿 京都ソリデール事業」
http://addspice.jp/case/jisedaigeshuku/

京都市左京区の倉内さんが経営するお店の前で。奥がおふたりが同居する住居部分京都市左京区の倉内さんが経営するお店の前で。奥がおふたりが同居する住居部分

2018年 02月15日 11時04分