珍しい洋風長屋のリノベーション

三角屋根が特徴的なアベノ洋風長屋は、近所でもよく知られた建物三角屋根が特徴的なアベノ洋風長屋は、近所でもよく知られた建物

古い建物の価値が見直されるようになり、現在では長屋を利用した店舗も見られるようになってきた。だが、洋風の長屋はあまり目にしないだろう。

大阪の阿倍野区昭和町で2018年2月にオープンしたのは、洋館のような外観の「アベノ洋風長屋」。古本屋や古着屋、コーヒーと白ワインのカフェ、オリジナル漢方茶などを販売するサロンと、4軒の個性豊かな個人店舗が集まり、イベントを開催するなど地域の人が集まる場にもなっている。

昭和町は、大阪が「大大阪」と呼ばれた昭和初期に開発された土地。計画的に区割りをし、大量に長屋が供給された。富裕層が対象の住居だったので良い材木が使用され、一戸が広く、坪庭があったり、床の間があったりと、遊び心のある間取りの長屋も多いのだそうだ。

「アベノ洋風長屋」のリノベーションに携わった、一級建築士事務所 連・建築舎の伴現太さんにお話を聞いてきた。

阿倍野区昭和町に古い長屋が多い理由

「現代人の感覚では、富裕層向けなら一戸建ての方が良いのではないかと考えてしまうかもしれません。でも当時は、都市の住居といえば長屋が一般的でした。建材の質が良いので、建物の寿命が長く、昭和町には今でも築90年近い長屋がたくさん残っているんです」と伴さん。
確かに、連・建築舎の事務所から洋風長屋まで500メートルほどの距離を歩いただけでも、10棟近い長屋を目にした。ユニークな改築がされているものもあるが、そんな中でもアベノ洋風長屋は特に目を引く、かわいらしい外観だ。

「このあたりには比較的洋風の長屋が多いんです。昭和初期の比較的新しい町で、近くには教会もありますから、異文化の受け入れに抵抗がなかったのかもしれません。また、欧米に対する憧れもあったのではないでしょうか」(伴さん)
さすがに生活スタイルまで変えるのは容易ではないためか、内部は和室が多いというが、洋風の三角屋根をもつ長屋は複数ある。アベノ洋風長屋の隣にも、ほぼ同じ作りの三角屋根の長屋があった。

共用の庭では、店主同士が土をいじりながら雑談することも共用の庭では、店主同士が土をいじりながら雑談することも

外観はそのままに、近所とのつながりをつくる

伴さんは、アベノ洋風長屋のオーナーから、「昔ながらの印象をできるだけ残して再生したい」と依頼を受けてリノベーションすることになった。

しかし、外観をそのまま残すリノベーションは大変だったという。耐震補強のため、基礎をすべて刷新したほか、柱のほとんどを入れ替えたのだそうだ。「土台や柱の下部が腐朽していたので、基礎工事が必要でした。また、湿度の高い柱の下部は、シロアリに食べられて、床が傾いていましたから、入れ替えねばなりません。柱の上部を鉄鋼で支えて腐食部分だけを切り取り、そっくり入れ替えました」

長屋は部屋が縦長になりがちで、縦方向の揺れには比較的強いが、横方向の揺れには弱い。しかし耐震性を上げるために建物内を横切る壁を作ると、居住性が悪くなる。そこで、5室あるうちの2番目と4番目の奥行きを短くし、その分、両端の住戸の間取りをL字状にすることで壁をつくった。両端は、居住空間つきの店舗になっている。
また、各戸の間取りが縦長の長屋では、中央部の部屋に光を採り入れるため、坪庭が作られることが多い。洋風長屋にも坪庭があったが、一部を減築し、共有の庭にした。減築することで居室の面積は減ってしまうものの、回遊性のある魅力的な空間にできると考えたという。
建物前面の一部は草屋根にして、植物を植えた。植栽コーナーも設け、町並みに緑を添えている。これも、植物をきっかけにご近所のふれあいが増えるのではないかとの考えがあったからだ。

「工事をしている途中で、手を入れなくてはならない場所が次々発見され、予定よりもずっと費用がかかりましたが、大家さんはこの建物に愛着を持っておられたから、残そうとされたのだと思います。近所でもこの建物は有名で、リノベーションの後、『三角屋根が残って良かった』との声も聞きました」と、伴さん。洋風長屋はまちの人たちにとても愛されているようだ。

アベノ洋風長屋の2階には、ひとつながりになった木製のバルコニーがある。
「リノベーションするまでは、腐り果ててボロボロでした。防水対策がされていなかったので、雨に当たる部分が多いと腐食しやすいのです。そこから湿気が入り込んだのでしょう。でも、僕はこのバルコニーを残したかった。個として完結するのではない、つながりを感じさせる空間が欲しかったんです」(伴さん)

柱の上部を鉄鋼で支えて、下部の腐食部分をそっくり入れ替える大改築となった柱の上部を鉄鋼で支えて、下部の腐食部分をそっくり入れ替える大改築となった

仲の良い借り主たちが運営に携わる

借り主の募集は建築中に始めたが、希望すれば誰でも借りられるわけではない。
「長屋は共有空間ですから、コミュニケーションがとれる方でないと困ります。また、古着屋の横にカレー屋があると匂いがついてしまいますよね。そういったバランスも考えなくてはいけません。そのため、コンセプトを説明してお断りした方もいます」
その結果、借り主たちの関係は良好で、庭の水やりはもちろん、イベントの開催なども借り主たちの自主性に委ねられている。
内装も借り主任せで、カフェと漢方茶サロンには連・建築舎が携わったが、古着屋と古本屋はDIYで内装工事をしたという。

有名な長屋なので、すでに近隣の方も遊びにきているそうだが、現在のテナント4件が入ったのは2019年2月末。稼働から2ヶ月なので、まだ地域に根付いてはいない、と伴さんは言う。
そこで、毎月28日に開催されている「庭の日」イベントに、2019年4月にお邪魔してみた。この長屋の特徴の一つでもある共有の庭で、アベノ洋風長屋とご縁のあるクリエイターやショップが集まり、ワークショップなどを開くイベント。この日は耳つぼマッサージや似顔絵、占いなどが行われていた。
12時に開始してから、近所の方が覗きに来たり、お店の告知でイベントを知った常連さんがサービスを体験にしに来るなど、客観的に見ると徐々に地域に受け入れられてきているのではないかと感じられた。正面向かって左端の空き店舗にテナントが入れば、さらににぎやかになるだろう。

大阪が一番栄えた時代の面影を残す昭和町には、さまざまな長屋が残っており、アベノ洋風長屋のように改修して活用されている例も多い。古い建築物の好きな方は、一度足を運んでみてほしい。

毎月28日に開催される「庭の日」イベントには、近所の人も顔を出す毎月28日に開催される「庭の日」イベントには、近所の人も顔を出す

2019年 06月19日 11時05分