個人店を開業するまでに最初は何を準備するのか

福岡市の西新エリアにオープンした街のお弁当屋さん「park」(テイクアウト専門店)福岡市の西新エリアにオープンした街のお弁当屋さん「park」(テイクアウト専門店)

個人で何か商いをやりたい、実店舗を構えたい……。
初めてそう考えた人にとって、そのプロセスは未知なもの。特に飲食店の場合、開業資金等のハードルも高く、実現に至るまで難しい印象だ。まずは簡単に、今回は飲食店開業までの流れとポイントを見ていきたいと思う。

①コンセプトを考える
どんな年齢層、どんな雰囲気の人をターゲットにするのかを掘り下げ、他店に負けない光るものを考える。具体的な商品や出店するエリアのイメージなどをしっかりと掴むことも重要。

②財務モデリングを行う
自分のやろうとする店はどれくらいの客単価で、月にどの程度売上を出せるのか。家賃はどの程度に抑えるべきか。かかりそうな諸経費等も洗い出し、できるだけ細かく計算できるモデリングシートを作成しておくと良い。

③物件探しを開始する / 創業計画書の作成(開業1年〜半年前)
街歩きやインターネットを使い、コンセプトに合致するエリア・予算等の物件を探す。タイミングよくすぐに見つかる場合もあるが、大方は難航し、なかには2年程かかる場合も。焦らず粘り強く探し続けよう。
並行して、融資を申請するための創業計画書を作成する。できるだけ実地調査結果を基に綿密に。融資の承認を得るためだけでなく、開業後の経営の指針ともなりうるからだ。

ここまでは、開業を目指す人が1人でも準備できる内容である。では次は、実際に物件を契約してからの流れを見ていこう。

個人店開業まで、不動産賃貸借契約から融資申請、営業許可申請まで

厨房機器販売と店舗の開業支援を行う鈴木さん[左]と、不動産仲介を行う新村さん[右]厨房機器販売と店舗の開業支援を行う鈴木さん[左]と、不動産仲介を行う新村さん[右]

物件が見つかったら、不動産賃貸借契約を交わす。
開業用の自己資金があればすぐに本契約が可能だが、手元に資金がない場合、物件オーナーへは創業計画書を基に融資申請をすることを伝え、申込みをして押さえてもらうことができる。開業の計画のシミュレーションが甘ければ融資が受けられないリスクも高く、オーナーが物件を押さえるのを嫌がることも。双方にとって「ビジネス」であることは意識しておきたい。

④融資申請
自己資金で全て賄う場合を除き、物件の仮契約後間髪入れずに融資申請を行う。担保や実績のない個人店の開業においては、日本政策金融公庫から融資を受けることがほとんどだ。準備してきたコンセプトシートや創業計画書等を添付して、審査を受ける。なお、物件が決まる前に融資申請を出すことはできない。賃料やそのエリアの売上予測がわからなければ判断しようがないからだ(相談は可能)。また、融資が否認されれば契約金を損してしまうため、融資が下りる前に物件の本契約をしてしまうのも危険。

⑤外装・内装工事(開業4~1ヶ月前)
内装業者等に工事を依頼する。予算により、資格のいらない作業はDIYで行う人も。工事前に気をつけたいのが、建物の建築確認申請や用途変更届などについて。小規模店舗であれば必要ないこともあるが、工事費用やオープン時期にも関わる部分のため事前に出店エリアの管轄行政に問合せをしておいたがよいだろう。

⑥営業許可申請 / 保健所立入り検査(開業1ヶ月前~オープン前)
飲食店は、営業許可申請と保健所立入り検査のクリアは必須。申請方法は各自治体に問合せを。(申請・検査自体は直前でも可。ただし相談は早めに。)また、自治体で開催される講習を受け「食品衛生責任者」の資格を取得することも忘れずに(調理師免許があれば受講は不要)。

その他、看板のデザインや、店舗チラシ・フライヤー・webページの制作、スタッフを雇用するつもりであれば、求人やスタッフの研修など、やるべきことは多岐に渡り、そのいずれもが重要である。また、業種業態にもよるが、飲食店開業の資金としては一般的に「1000万円」と言われ、個人で店を構えるには、あまりにハードルが高いように思う。

そこで今回は、「小さくはじめる」を念頭に実際に開業した例として「park」を紹介したい。
福岡の人気住宅地「西新」エリアに、2019年2月にオープンしたばかりの弁当店だ。開業に関して、店主の寺元力さん、厨房機器販売と店舗開業のサポートを行う鈴木健太郎さん(株式会社K・コネクト代表)、物件の仲介を行った新村朝和さん(New village代表)に話を伺った。

実際の開業例:街のお弁当屋さん「park」

学生時代、研究室や誰かの家に泊まり込んで作業をすることも多かったという寺元さん。当時「揚げ物とごはん」のお弁当を毎日のように食べていて、ある日突然受け付けなくなったという経験もあるそう。野菜がたくさん食べられて、見た目もキレイで素敵なお弁当屋さんが、デパ地下まで行かなくても近所にあったらいいのにな、と昔から漠然と思っていたそう(提供写真)学生時代、研究室や誰かの家に泊まり込んで作業をすることも多かったという寺元さん。当時「揚げ物とごはん」のお弁当を毎日のように食べていて、ある日突然受け付けなくなったという経験もあるそう。野菜がたくさん食べられて、見た目もキレイで素敵なお弁当屋さんが、デパ地下まで行かなくても近所にあったらいいのにな、と昔から漠然と思っていたそう(提供写真)

「”街にあるお弁当屋さん”もしくは”街で買えるお弁当”って今のところスーパー、コンビニ、フランチャイズ店が圧倒的多数でしょう?それをなんとかしたいと思いました」と寺元さん。以前から素敵なお弁当屋さんが近所にあったらいいなと漠然と考えていたという。

もともとデザイナーを目指そうと、大学では建築デザインを専攻した。在学中にパリへ留学したことも。けれど結局当時はそこまで建築(というハード)に興味が持てず、卒業後は飲食の道へ。ソフト面での「場づくり」の方に興味を持ったのだという。いくつかのカフェやレストランで働き、27歳の時にワーキングホリデー制度を使って再度パリへ渡る。ミシュラン掲載の地元フレンチ店や日本人が経営する弁当店で働いた。このパリの弁当店が、寺元さんの”弁当屋”のイメージを覆したそう。
「お弁当屋さんなのに、オシャレで、シェフが作っていておいしくて、お客様とのコミュニケーションがしっかりとあるお店でした」と寺元さん。帰国後は自分もそんなお弁当屋さんをやりたいと決意したという。

ところで、多くの飲食店の売上はお酒などのドリンク類に頼る部分が多いもの。だが弁当店はそうはいかない。そこで、利益構造が似ている”定食屋さん”で働くことにした。福岡で複数店を展開する人気店で、以前から寺元さんが大好きだった店だ。1~2年後に独立したいという意思を伝え、調理場での仕事のほか、メニュー表や新店舗のグラフィック関連等どんどん仕事を任せてもらい色々な事を学んだそう。同時に開業する店のコンセプトを考えたり、知人の会計士さんの力を借りて財務モデリングを行ったり、スタートアップカフェ等に創業相談に行ったりと、粛々と準備を進めたという。

本格的に物件を探し始めたのは昨年6月頃から。まずはネットで探し、目星をつけて新村さんにコンタクトを取った。この時の物件は申込みはしたものの、オーナーの意向で結局飲食はダメとなり、契約には至らなかった。仕切り直して新村さんのヒアリングを受け、じっくりと見て回ることに。10月頭に今の物件と出会い、鈴木さんと一緒に内装や設備にかかる費用を算出。算段がついたため仮契約を交わし、日本政策金融公庫に融資の申請を出した。提出した創業計画書等は税理士さんに相談して作成(専門家支援付融資の場合、最短2週間と比較的早く審査結果が下りる)。11月半ばには無事審査が通り、12月入居で物件の本契約、12月〜1月で改装と設備の搬入を済ませ、保健所等の立会いを経て、1月半ばからプレオープン、2月1日にオープンという流れだった。

物件が決まってしまえば、比較的早くコトが進む。開業日が確定されると「待ったなし」になるため、それまでの準備が重要なのだそう。

個人ビジネスはリカバリーが利く範囲内で小さくはじめ、撤退する判断は迅速に

今回寺元さんは、店舗取得に80万、内装・設備に150万、その他備品など全て含めて300万円弱で開業している。頼めば結構な費用のかかるグラフィック関連やサイトの制作はスキルを活かして自身で行った。「それでも想定より高くついた」そう。これに関して鈴木さんは「こちらがびっくりするくらいの破格」と笑いながら、「でも、理想的」と太鼓判を押す。

「一般的に飲食店開業には1000万円かかると言われます。当然融資を受けますが、そのための自己資金が300万円、借入は700万円。でも”やりたいこと”のためにどれだけの費用が必要かではなく、周囲がそういうシステムになっている為にそういうものだと思っている人は案外多いです。また、開業するオーナー自身が、内装や設備に趣味や拘りを詰めすぎる場合も。何十万もするアンティークの照明を入れたり、明らかに過重スペックな設備を導入したり…。センスは必要ですが、それがどれだけの売上を生むのか、経営感覚は不可欠。不必要にお金をかけるべきではないと私は考えます」と鈴木さん。

自己資金300万…飲食業で働く人の多くにとってこれは年収と同等かそれ以上に当たる。貯めるには相応の期間と努力を要し、失敗すれば多額の借財を抱え、再起が難しい。オープンの際はタブーとされがちな話題だが、飲食店の廃業率は高く、2年で半数、3年で7割の店が閉めると言われる世界だ。

「もちろんそうならないために一生懸命やるつもりです。でも現実的に考えればこのリスクは無視できない。挑戦に失敗はつきものだし失敗から得られることも大きいから、失敗そのものは決して悪くない。問題はその後のリカバリーが利かないこと。だから僕は、”なるべく若いうちに”、”リカバリーが利く範囲内で小さく始める”と決めました。ダメだったらたとえ半年でもサクッと辞めます」と寺元さん。

開業時寺元さんは29歳で、融資の返済期間は5年。今回の経験を糧にまだ選択肢は広がると踏んでいる。

お弁当屋さんとしては珍しいフルオープンのキッチン。理由は壁を作ると改装費が上がってしまうから。「お客様からは丸見えなので、僕に逃げ場はありません(笑)でも、調理中もコミュニケーションがとりやすいし、一人でやってるのでむしろメリットの方が多いです」と寺元さん(提供写真)お弁当屋さんとしては珍しいフルオープンのキッチン。理由は壁を作ると改装費が上がってしまうから。「お客様からは丸見えなので、僕に逃げ場はありません(笑)でも、調理中もコミュニケーションがとりやすいし、一人でやってるのでむしろメリットの方が多いです」と寺元さん(提供写真)

大切なのは「コミュニケーション」 。エリアで自生する店へ

物件探しにおいて住居用も店舗物件も、流れは実はそう変わらない。ただ物件によって細かな条件が設定されている場合があり、確認事項の多さに差があるだけだ。だからタイミングが良ければ、1ヶ月以内に決まる人もいる。
しかし新村さんは「(種蒔きの期間を含め)物件探しには1年以上の期間をかけるべき」と言う。

「もちろんお客さんの状況によってはすぐに決めたい場合もあるでしょう。ただ、個人店の主な客層は近所の人です。だから何より人脈づくりが重要。それに自分のやりたいこととその土地が合致するのか、実地調査がまず必要です。いろんなエリアの街歩きをして、目ぼしい街を見つけたら、周辺の店舗に足繁く通って顧客になり、自分がやりたいことをプレゼンして回るよう僕はお客さんに伝えます。可能ならそこに住んだがほうがいい。すると次第にそのエリアの先輩達が”ここ使ってちょっとやってみない?”と言ってくれたり、”あそこが空くらしいよ”と情報をくれたりする。始めたときには周りのお店が応援してくれるため、うまくいきやすいです」と新村さん。

そういった種蒔きに時間とお金がかかるので、今の仕事は辞めず余裕を持って取り組んでほしいと話す。

「大型店や有名店ように資本力やネームバリューがあれば別ですが、個人がそこと同じ戦い方をしても負けてしまいます。個人店の場合、植物のようにそこで自生していけるかが肝。その街に根付いていくにはコミュニケーション能力が不可欠です。僕はその人がその街で自生していけるかどうかの『目利き』を仕事としています。不動産の契約は、極論オーナーさんと個人が結べばいいんですから、目利きをやめてしまった瞬間、僕ら仲介の存在意義ってなくなっちゃうと思っています。」(新村さん)

parkが入る長屋には、先にここで商売を始めたコーヒー店があり、物件オーナーも事務所を構える。店主同士は毎日お弁当とコーヒーを互いにオーダーする仲で、オーナーは毎日のようにお昼を買いに来てくれるという。オープン前から彼らは、お客さんや周囲の人々に宣伝し応援してくれていたそう。
「オーナーが毎日お客さんになってくれる店って、実はなかなかないんですよ。寺元さんの人柄もありますが、周囲の人も本当に温かい」と新村さん。比較的早く成約に至ったわけだが、「ここなら大丈夫」と思ったという。

「毎日試行錯誤の連続です。でも、楽しい」(寺元さん)
そう言って向けられた笑顔に、こちらも自然と頬がゆるんだ。

[写真上]寺元さんと、3軒隣のNIYOL COFFEEの越智さん(中)、オーナーの渡辺さん。毎日お弁当を買ってくれて「何か困ったことがあったらいつでも言って」と声をかけてくれるという。[下]建物は築年数の経つ長屋で、1区画に1階約5坪と地下5坪という造り。parkの地下は現在倉庫にしているが、売上が上がればイートインスペースを作りたいと考えているそう[写真上]寺元さんと、3軒隣のNIYOL COFFEEの越智さん(中)、オーナーの渡辺さん。毎日お弁当を買ってくれて「何か困ったことがあったらいつでも言って」と声をかけてくれるという。[下]建物は築年数の経つ長屋で、1区画に1階約5坪と地下5坪という造り。parkの地下は現在倉庫にしているが、売上が上がればイートインスペースを作りたいと考えているそう

2019年 04月07日 11時00分