関西方面から移住前提での問い合わせも
広島県の瀬戸内海にある小さな島で、英語教育に力を入れている小学校がある。
広島県の佐木島(サギシマ)にある三原市立鷺浦小学校だ。学区域以外からも通学できる特認校に指定されており、船に乗って三原市の本土からも一部の児童が通っている。
なかには、英語教育に熱心なある親が、移住を前提に大阪あたりからも問い合わせがあったそうだ。
佐木島は、三原駅前の港から高速船で16分ほどの距離にある。島は、一周約12kmでトライアスロンの島として知られている。毎年、8月の終わりの日曜日に開催され、これまで29回の実績があり、ニュージーランドから招待選手もいるほど国際的に知られている。島の人口は現在約700人で、ピーク時は戦後まもないころ約3,000人もいた。かつて3つあった小学校は、現在はひとつに統合され、中学校は本土に統合された。その中学校の跡地を利用しているのが鷺浦小学校だ。
鷺浦小学校の児童数は、昨年度(2017年度)11名だった。内訳は、地元の島から通う児童が8名で、残り3名は島外から通う児童だ。この前の3月に、6年生3名が卒業して、島の児童は残り5名になった。一方、島内には入学予定の児童は、向こう5年間はゼロになる。島外からの入学(転校)希望者や移住者がいない限り増えない。
その危機を工夫によって乗り越え、活気を取り戻そうとしている。
人口減少の島で、英語を使った新しい取り組みが始まっている
実は、2002年に佐木島の住民の働きかけがあり、この鷺浦小学校は特認校に指定され、学区域以外の子どもたちを受け入れてきた。その後、実際に本土からも子どもがやってきたものの、小さな学校を目的とするのみで、発展性に乏しく、次なる打ち手が課題だったという。
魅力ある学校づくりが求められ、前任の神田校長が教育委員会の支援を受けながら、世界につながる島にしようと、英語教育を目玉にするアイディアを発案した。それはALT(外国語指導助手)を強化する等のプランで、2016年度からスタートしている。
通常の小学校ならALTは週に1日、または小規模なら半日しか授業を受けられない。それが教育委員会の全面的な支援により、週5日のうち4日も終日勤務することとなった。ALTは3つの国から来ていて、フィリピンの男性、シンガポールの女性、オーストラリアの男性が来校していて、2人体制の日もあれば1人の日もある。
運動会では英語力がないと負けてしまう
ALT来校の充実により、英語教育が、授業時間以外いろいろな形での交流が可能になった。例えば、給食や運動会だ。
給食の献立や食材をALTが英語で紹介。ALTは事前にランチを食べ、さらに食材を調べ、そして給食時に、ネイティヴの発音で児童にその日の給食を説明する。牛乳をmilk、じゃがいもをpotatoなど。また、運動会では、英語を使うプログラムがあり、その一つ、借り物競争で、例えば「帽子」という札が当たれば、その児童はALTのところに行き、「I want a cap」と言って、帽子を借りてくる。他にも、15分のモジュールタイムでは、児童が英語でゲームをするなど、遊びながらコミュケーションをとることをしている。
さらに学校は、外国人(ALT以外)と生で話す機会も提供している。
昨年、近畿大学の先生がアジアの建築学を学ぶ大学生を10数名集めて、ワークショップを目的に島で1週間過ごした。そこで島の名所をスクールバスに乗って名所を訪ねることになり、中・高学年が中心になり英語で案内する機会を持った。その前年から使っていた英語の台本があり、それを生かして披露したのだ。その台本づくりはALTの応援があったので、実現できたそうだ。
また、秋の社会科見学では全校で広島市に行き、平和記念公園の原爆ドームを訪ねた。
そこには世界から外国人観光客がきているので、班に分かれて話しかけることにしている。島のクイズをしながら、島のPRをするというものだ。これは「英語に対する自信や積極性を身につけコミュニケーション能力を育てるのが目的」と新山校長。初めて話す外国人に自分の言うことが通じたり、向こうの話したことがわかると児童は喜び、ますます自然と聞く力、発する力が身につくという。交流が楽しくなってくると英語の勉強も熱心になるようだ。
また平日に外国人の旅行者を案内する場合もあり、佐木島の地域おこし協力隊員の田中さんが案内する外国人のお客さまが来ると、児童たちのテンションもあがるという。「子どもは優秀で、大人のほうが顔負けです」と校長先生。
「将来、英語を使って子どもたちに世界に羽ばたいてもらいたい。また、このような取り組みを子どもにさせたいと、入学する児童が増えるのが希望だ」と今後への意欲を語る。
トライアスロンがきっかけでニュージーランドとの交流続く
さて、島では29回もトライアスロン大会をやっている。
それが縁で、ニュージーランドのパーマストン・ノース市の児童と佐木島の児童が、テレビ電話で話をする機会がある。パーマストン・ノース市と佐木島の交流は、島で開催されているトライアスロン大会に、同市出身の男性が病気で出場できなくなり、2003年、競技の代わりに旅行者として島を訪れ、住民たちと親しくなったことに由来している。男性はその翌年に亡くなったが、遺志を継いで遺族が出場したことから、記念の植樹が島で行われ、住民らも同市を訪問するなど交流が始まった。
広島県のニュージーランドとの友好協会の理事が佐木島在住でありその理事からの提案で、テレビ電話の会話が始まったのだ。パーマストン・ノース市の小学校の高学年学級の先生に了承が得られ、昨年、2回のテレビ電話交流ができた。また、2017年の7月、三原城の450周年事業の一環でパーマストン・ノース市の市長を三原市が招待。佐木島がきっかけで三原市もパーマストン・ノース市と交流事業が始まり、同市長が佐木島へ訪問したのだ。
児童は、学んできた英語を使って挨拶や島の紹介をして、和太鼓やお茶のお点前等を披露。お土産もいただき、kioraという挨拶を教えてもらい、一気にうち解けたようだ。
島の小学校が、地域を元気づける
小学校では英語の取組みのほか、児童による落語の取組みも盛んになってきた。
もともとは、佐木島に落語家の柳谷花緑さんと親しい方がいて、その縁で島に来てもらい独演会をしていた。落語を聞いているうちに小学生たちが興味を持ち、広島県内の落語家の指導のもと、当時4年生が落語を学校の発表会で披露。本番では表情も豊かで、ついに花緑さんの前座をつとめるまでになった。その後、児童の落語を聞きたいと、オファーがいくつもあり、市内の敬老会や遠く呉市まで出向いたのだ。そんな姿が後輩の小学生にも引き継がれ、落語が第2世代へと引き継がれた。「今後も楽しみだ」と校長先生はいう。
この活動は、両親だけでなく、小さな島では学校がコミュニティーの拠点であるケースが多いため、地域の関わりが大きい。島の年配者は、子どもの笑い声が聞こえてくると元気になるという。
実は、佐木島の塔の峰の千本桜は瀬戸内海の桜の名所として有名になりつつある。今後、多くの外国人旅行者が桜目的でやってきて、それをガイドする小学生の姿が当たり前になる日が来るかもしれない。
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