2005年に1号店をオープンし、現在は全国で20店舗を超える
コインランドリーと聞いて、どんな場所を連想するだろうか。大型洗濯機や乾燥機が並ぶだけの殺風景な室内を思い浮かべる人が多いだろう。そんな従来のコインランドリーのイメージとは異なる、「ソーシャルランドリー」という形態の店が登場していることをご存知だろうか。都市部を中心に増えつつあり、カフェが併設されている店があったり、洗濯の待ち時間を快適に過ごせるよう、各店で特色を打ち出している。
そんなソーシャルランドリーの先駆け的存在なのが、「WASH&FOLD(ウォッシュ&フォールド)」。コインランドリーだけではなく、洗濯代行サービスをメインにして店舗展開をしている。店舗の展開・運営を手がけるのは、株式会社アピッシュ(本社:東京都渋谷区)。もともとは飲食店を経営していたが、同社の山崎美香社長がケータリング事業の視察でアメリカへ出張した際、現地のコインランドリーで洗濯代行サービスのことを知り、興味をもったのが始まりという。日本でも需要があると考えた山崎社長は2005年3月、東京・代々木に1号店としてWASH&FOLD代々木店をオープンした。創業当初は1日に洗濯代行の利用が1件、2件くらいしかなかったのが、メディアに紹介されたのを機に利用客が増え、今では全国に22店舗(フランチャイズ含む)を構えるほどになった。
今回は、東京都目黒区にあるWASH&FOLD中目黒高架下店を取材した。
おしゃれな店内で、洗濯の待ち時間をゆったり過ごせる
東急東横線・東京メトロ日比谷線中目黒駅。この駅を起点にした高架下に商業施設「中目黒高架下」が開設されている。約30店舗の店が並ぶ一角に、WASH&FOLD中目黒高架下店がある。外観は、カフェや雑貨店といった趣。店内もスケルトンの天井が特徴的な明るく開放的な空間で、BGMには軽快なポップスが流れる。
「内装やコンセプトは店舗によって異なりますが、どの店もシンプル、清潔、スタイリッシュを基本に、男性も女性も気軽に来店いただけるような雰囲気づくりをしています」と、アピッシュの営業部広報室部長の久湊良子さん。
この中目黒高架下店は2017年4月にオープンした。店舗デザインを手がけたのは、デザイナーズブランドの店舗などを手がける「ITO MASARU DESIGN PROJECT / SEI(イトウ マサル デザイン プロジェクト/セイ)」。
そんな同店では洗濯代行サービスを受け付けているほか、併設のコインランドリーには最新のランドリー機器が揃う。ギルバー社(スペイン)の大型洗濯機と乾燥機をはじめ、エレクトロラックス社(スウェーデン)のおしゃれ着専用の洗濯機など、世界のランドリー市場で知られるメーカーの機器が配され、普段着だけではなく、シルクやカシミアなどのおしゃれ着、スニーカー、大型の布団まで洗うことが可能だ。
洗濯サービスのクォリティにこだわる
洗濯代行サービスは、普段の洗濯に特化した家事代行サービス。依頼された衣類を洗濯し、乾燥させて折りたたみ、利用客に返すというもので、店舗への持ち込みのほか、集荷・宅配にも対応している。料金は専用バッグに詰め放題の定額制で、レギュラーサイズ(Tシャツ約60枚分)で2200円(集荷・宅配は3000円)、スモールサイズは1500円(集荷・宅配は2200円)。
「この中目黒高架下店のお客様は30代、40代の方が多く、朝、出勤するときに洗濯物を持ち込み、夜、会社帰りに立ち寄って、仕上がった洗濯物を受け取るという方もいらっしゃいます。当店が駅のすぐ近くにあって、毎日朝8時から夜11時まで営業しているので、利用しやすいようです」(久湊さん:以下同)
また、中目黒高架下店ではクリーニングの取り次ぎも行なっているが、同店で扱うのはドライクリーニングではなく、水洗いクリーニング。
「石油系有機溶剤を一切使用しない水洗いクリーニングは、地球環境にもやさしいうえ、レザー素材やダウンジャケットなどもきれいに仕上がります。しかし、一般的には高額なため、ごく一部の人しか利用されていません。そこで、弊社では多くの人に気軽に利用してもらおうと、自社工場を開設して『LICUE(リクエ)』という水洗いクリーニングのブランドを立ち上げました。ワイシャツなら1枚250円、ダウンジャケットで3900円といった具合に、比較的リーズナブルな価格となっています」
このほか、店内の物販コーナーには世界的にヒットしているシミ抜き剤や、地球環境に配慮した洗濯用洗剤、柔軟剤などが並ぶ。シミ抜き剤は無料で試せて、洗剤は必要な分だけを量り売りで購入することもできる。
洗濯サービスを通じて、豊かな生活スタイルの提案をしたい
このように洗濯に関して、質の高いサービスを提供しているのが特長だが、ここ中目黒高架下店をはじめWASH&FOLDが目指しているのは「便利できれいに仕上がる洗濯」にとどまらない。「豊かな生活スタイルの提案」という。
「私どもの洗濯サービスを利用していただくことで、これまで洗濯にかかっていた時間をほかの何かに使っていただけたらと思っています。ご家族や大切な方と遊びに出かけたり、趣味に打ち込んだり…。そうした豊かな時間をつくり出すためのサービスでありたいのです」
家庭用洗濯機の容量は最大でも10キロ前後くらいだが、同店のコインランドリーの洗濯機は最大24キロまで一度に洗濯できる。平日は仕事に追われている人や、共働き世帯などは週末にまとめ洗いをすることになるだろうが、そんなときにたまった洗濯物を家庭で数回に分けて洗っていたのがここでなら一度で済ませることができる。
「せっかくの休日なのに、大量の洗濯物を洗ったり干したりしているだけで1日が終わってしまうということになりがちです。でも、コインランドリーなら1時間程度で乾燥までできます」
洗濯にかかる時間を大幅に短縮できるうえ、ガス式の大型洗濯機・乾燥機を使うので、家庭で洗う場合よりもふんわりと仕上がるという。
話題は少し飛ぶのだが、都市部の高層マンションなどのなかには、「建物の景観を損ねないように」といった理由で洗濯物をベランダに干すことを禁止しているケースがある。また、花粉やPM2.5、黄砂などの影響が心配される季節には、洗濯物の外干しは避けたい。そんなことを考えると、高性能洗濯機のあるコインランドリーや、洗濯代行サービスのニーズは今後も高まりそうだ。
さて、WASH&FOLD中目黒高架下店に話を戻す。
洗濯が終わるまでの待ち時間は、店内のベンチに座って雑誌や本を読んだり、店内設置のウォーターサーバーでコーヒーやお茶(無料)を飲んだりしながらくつろげる。ベンチには電源があり、無料でWi-Fiを利用できるので、ノートパソコンやタブレットを持ち込む人も少なくないそうで、この取材中にもノートパソコンで作業をしながら待っている男性客を見かけた。
「週末には若い共働きカップルの来店も多く、ここで洗濯がてらコーヒーを飲んでくつろいでいたり、待ち時間に近くのお店に買い物に出かけたりして、思い思いに過ごしていただいています」
地域の小学生や高齢者に親しまれている店舗も
着目したいのは、地域のコミュニティを育くむ場にもなっているということ。
「平日には、ベビーカーで小さなお子様を連れたお母さん同士がここで洗濯をしながらおしゃべりを楽しんでいますよ」
WASH&FOLDのそれぞれの店舗では、多くの人の交流の場になるような工夫や取り組みが行われている。
「例えば、名古屋星ヶ丘店は店舗の2階をイベントスペースとして地域の人たちに開放し、サークルの集まりや発表会などに活用されています。また、2017年12月にオープンした葉山店(神奈川県)は海の近くのリゾート地にあり、地元住民のほか、県外からの観光客などさまざまな人が集まる場になるようにと、飲食店との複合店舗になっています。葉山店にはサーファーも集まるので、店内の洗濯機はウェットスーツが洗えるよう設定されています」
この中目黒高架下店でも独自の企画として、洗濯や衣類の手入れをテーマにしたワークショップを開催している。これまでにアイロンがけ講習会や、「メーカーズシャツ鎌倉」とのコラボでシャツのケアをテーマにワークショップを開催したところ、予想外に男性受講者が多く、好評だったという。
そうした取り組みとともに、大きな特色はスタッフが常駐していることだ。無人のコインランドリーと違って安心して過ごせるので、「店舗によっては、学校帰りに立ち寄って宿題をしている小学生がいたり、スタッフとの世間話を楽しみに毎日シルバーカーに洗濯物を積んでやって来るお年寄りもいらっしゃいます」と、久湊さん。
久湊さんはこんな話もしてくれた。
「1号店の代々木店には、オープンしたときから10年以上になる常連のお客様がいらして、『この店があるからほかの街へ引っ越せないんです』と言って下さったんです。とてもうれしかったです。『WASH&FOLD』は今後も各地で出店を計画しています。こんなふうに地域にかけがえのない店だと、多くの人に思ってもらえる存在になりたいです」
そう遠くない将来、お気に入りのソーシャルランドリーがあるのかどうかが、住まい探しのチェックポイントのひとつになる時代がくるのかもしれない。この中目黒高架下店のスタッフが洗濯代行サービスで仕上げた洗濯物を1枚1枚丁寧にたたむ様子を目にしながら、可能性を感じた筆者だった。
■取材協力
株式会社アピッシュ
https://wash-fold.com/
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