普及のきっかけはアメリカのウェブサービス

ひと昔前に比べると、街中で外国人観光客を見かける機会が増えた。観光立国を目指す日本としては、うれしい状況といえる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて今後さらに増えることは間違いないだろう。

外国人観光客の増加と同時に「民泊」という言葉を耳にするようになった。そもそも民泊とは、個人が自宅にお客さんを泊めることで、宿泊料の有無は問わない。しかし今回の場合は、おもに外国人観光客を対象に、個人が宿泊料を受け取って自宅の空室などを提供するケースだ。
2008年にスタートしたアメリカのウェブサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」によって全世界に広まった宿泊形態で、日本国内で登録されている物件数は1万1,000件以上、東京だけでも5,500件を超えている。

宿泊施設の不足を解消し、観光客としては安価に泊まれ、オーナーとしては収入が得られる民泊。ところが最近は数々のトラブルが発生し、問題となっている。そこで法的な部分も含めて、民泊の今後を考えてみよう。

法的にはグレーゾーン

「民泊」と聞くと田舎の民家をイメージする人がいるかもしれないが、実際には観光地の賃貸マンションなどが利用されることが多い。そのため周辺住民とのトラブルが発生している(写真はイメージ)「民泊」と聞くと田舎の民家をイメージする人がいるかもしれないが、実際には観光地の賃貸マンションなどが利用されることが多い。そのため周辺住民とのトラブルが発生している(写真はイメージ)

施設を設け、宿泊料を受け取って人を宿泊させる場合、法的には旅館業を営業していることになる。
旅館業法上の営業形態は次の4つに分類されている。

・ホテル
・旅館
・下宿
・簡易宿泊所(カプセルホテル、ドミトリーなど)

ホテルに関しては部屋数が10室以上、旅館に関しては部屋数が5室以上なければならず、どちらもフロントが必要。下宿に関しては、1カ月以上の宿泊が要件となる。どれも民泊には当てはまらない。
残るは簡易宿泊所となるが、こちらにも客室の延床面積が33m2以上といった要件がある。個人宅ではそこまでの広さを確保できないケースも多いだろう。

つまり民泊は法的にはグレーゾーンなのだ。ところが、国が積極的に取り締まりへ乗り出しているわけでもないので、無秩序状態。そのため、不法滞在者が住みついたり、感染症の発生現場となっても分からない可能性があるといった様々な問題点が指摘されている。

最近では京都市の賃貸マンションで、全44室中36室が民泊に使用されていたことが発覚し、京都府警が旅館業法違反容疑で運営業者に任意で事情を聴くというニュースが話題となった。

こういった賃貸マンションの借主が、部屋を収益目的で民泊に出すケースはすでに珍しいことではなくなってきている。ところが周辺住民は、そのことは知らされていないので「最近マンションへの見知らぬ外国人の出入りが激しく怖い」「夜中にインターフォンを押された」「ゴミの分別ができていない」といった苦情が相次いでいるようだ。

2015年の外国人観光客は2,000万人に

日本政府は、外国人観光客を2013年の1036万人から2020年までに2000万人まで増やす目標を掲げてきたが、2015年中にすでに達成する見込み(出典:日本政府観光局)日本政府は、外国人観光客を2013年の1036万人から2020年までに2000万人まで増やす目標を掲げてきたが、2015年中にすでに達成する見込み(出典:日本政府観光局)

このような様々な問題を抱えているものの、外国人観光客の民泊へのニーズが高まっていることは間違いない。
観光立国を目指す政府は、外国人観光客を2013年の1,036万人から2020年までに2,000万人まで増やす目標を掲げてきた。ところが2015年中にすでに達成する勢いだ。
ここで不安視されているのが、ホテルなど宿泊施設の圧倒的な不足。空き家の増加問題も抱える日本としては、民泊は一石二鳥の救世主となり得るかもしれない。

そこで政府は2014年4月に「国家戦略特別区域法」を施行。東京都、神奈川県、千葉県成田市、大阪府、兵庫県、京都府の特区に限り、ホテルや旅館に課される厳しい安全や衛生基準を緩め、一般住宅でも民泊できるようにした。
また、2015年6月に「規制改革実施計画」が閣議決定。無秩序状態の民泊に対し、観光庁と関係省庁で議論を進めて、2016年までに結論を得るとした。

民泊のルールづくりは始まったばかり

これで民泊が市民権を得る土台ができたように見える。ところが「国家戦略特別区域法」に関しては、自治体ごとに条例を制定する必要があり、これまで条例を成立させた自治体はなかった。

このような状況の中、大阪府は2015年10月に一定のルールのもとで事業を認める全国初の条例案を可決。続いて東京都の大田区も2015年12月に条例を可決し、1月からスタートさせる見通しだ。
大田区は条例化の理由を次のように説明する。「大田区は羽田空港のお膝元で、『国際都市おおた』を掲げている。東京五輪に向け、外国人を受け入れて街に賑わいをもたらすためには、この特例を生かしていくべきだと考えた」。

日本は、東京五輪に向けて外国人観光客の受け入れ態勢の拡充が急務だ。民泊は、その一つの回答となるかもしれない。しかし、その整備はまだ始まったばかり。「借り手良し、貸し手良し、社会良し」の三方良しの体制を望みたい。

2016年 01月17日 11時00分