シャッター通りにスナック誕生!

団地の中に建築事務所ができて、そこがスナックになる団地の中に建築事務所ができて、そこがスナックになる

多摩ニュータウンに新しい場所ができた。と言っても、巨大ショッピングセンターでもタワーマンションでもない。スナックだ。

だがカラオケスナックではない。若い建築家3人が多摩ニュータウンの団地の中の古い商店街の空き店舗に事務所を開き、そのスペースを地域の中や外のいろいろな人たちが集まれる場所にしよう、そして夜はスナック、といってもお金を取る営業はしないが、軽く飲食をしながら、楽しく語らおう、そしてそこを「建築スナック」と名付けたのである。
だからスナックという店舗があるのではなく、あくまで一時パーティとしてのスナックである。

建築家3人とは横溝惇(あつし)とそのパートナー、そして元同僚だった渡辺真元(まさゆき)である。
私は彼らと今年1月に行われた「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」で出会った。同シンポジウムで私が講演をし、それを聴いていたのが彼らだったのだ。

本連載でもしばしば書いているように、私は郊外再生の一つの方策として「夜の娯楽」をつくることを提案している。実際玉川学園のママたちが街中にイスとテーブルを置いて仮設スナックを作ったり、一時的に場所を借りて小料理屋を開いたりした事例を本連載でも紹介した。

だからそのシンポジウムでも、私はこれからの郊外にはスナックのようなものが必要であり、その萌芽が出始めているから、「郊外スナックネットワーク」をつくろうと思うと発言した。その発言に反応したのが上記の3人だったのだ。

郊外建設の前提が時代に合わなくなっている

都市計画の実験の場だったニュータウンだが都市計画の実験の場だったニュータウンだが

郊外は、1960年代に計画されているため、男性が都心に働きに行き、女性は家で家事と育児をするという性別役割分業を前提として設計されている。だから、昼間に母親と子どもが健康と健全に暮らせることが重視され、緑や公園が充実するようにつくられた。

それはそれでいいことだが、時代が変わり、女性も多くが大学を出て、企業などで働くようになり、出産後も男女ともに子育てしながら働くようになった。それは郊外の設計の大前提が180度変わったことを意味する。

また最初に郊外に移住してきた団塊世代以上の世代はすでに高齢者となったが、昔の高齢者とは異なり、まだまだ健康で、ある程度働ける人々が増えた。高齢者も生き甲斐や年金の足しにするために働き続ける社会と街をつくらないといけなくなった。

このように、女性も高齢者も働く人が増えると、どうしたって仕事の後に軽く一杯やろうじゃないかということになるはずだ。
ところが郊外には画一的なファミリーレストランや居酒屋などのチェーンしかない。子連れでも入れて、少しはお酒も飲めて、おいしい料理が食べられて、という店が今後はもっと欲しいはずだ。

私は、注目を惹くために「夜の娯楽」という誤解を招きやすい表現をあえて使っているのだが、これから必要なのは、男性のために女性がサービスするだけの昔の夜の娯楽ではない。女性が楽しむ、子連れでも楽しめる、新しい夜の娯楽である。

女性と子どもの娯楽と言えば公園と遊園地とテーマパークという固定観念も捨てて欲しい。男性並みに働く女性が増えて、夜も、酒だ焼き鳥だホルモンだと飲み食いしてきた今の時代の女性が、結婚し、子育て期に入った現代という時代における夜の娯楽である。

住宅街にもお店を作りたい

郊外には健康な昼の暮らしはある郊外には健康な昼の暮らしはある

私の「郊外スナックネットワーク」という言葉に反応して、会場から意見を述べたのが横溝氏の奥さんだった。
「多摩ニュータウンでは、お店は駅前かロードサイドにしかない。住宅街に入ると、住宅しかない。夜は街路は暗い。公園は恐い。もっと住宅地の中にもお店を作って欲しい。」という発言だった。

夜の街路が暗いのも帰宅する男性しか歩かないことが前提となっているからだ。「落合横丁」という横丁が25年くらい前に多摩センター駅近くのビルの地下につくられたが、それも帰宅するのが男性しかいない前提だから駅近くにつくったのである。

たとえば吉祥寺なら、駅から住宅街に至る街路に沿ってお店があり、閉店後もシャッターを閉めない店も多いので、夜遅くまで明かりが漏れ、道を照らす。女性が1人でも楽しく安心して帰宅できるのだ。
吉祥寺が住みたい街の上位でありつづける理由の1つは、そういうところにもあるのだが、意外に気づかれていない。

逆に言うと、多摩ニュータウンなどの郊外は、昼間、現役世代の男性が歩いていると不思議がられる。失業したか、フリーターか、下手をすると不審者かと疑われる。現役世代は都心に働きに行っているはずだからだ。
だが吉祥寺、西荻窪、高円寺などの中央線の街は、昼、大の大人の男性が歩いていても不思議がられない。仕事をせずにぶらぶらしている30−40代の男性がいても、いっこうに違和感を感じない。
そういう点でも郊外が性別役割分業の空間であることがわかる。

建築スナックを開き、ニュータウンを語る

建築家の横溝さん(右)たちによって商店街に拠点が建築家の横溝さん(右)たちによって商店街に拠点が

彼ら3人は、シンポジウム終了後、会場の出口で私を待ち伏せしていたらしいが、うまく会えず、メールをしてきた。
「郊外スナックネットワークにはわくわくする、ぜひわれわれもやりたい。ちょうどさびれた商店街の空き店舗を借りて事務所にして、2階に住んでいる。事務所を使ってスナックをやりたい。一度見に来て欲しい。」といった内容だった。

私は即座に「いいですねえ。ぜひやりましょう。建築スナックですね。せっかくだから、同じようにスナックをしている建築家や、玉川学園のママたちも呼びましょう」ということで、3月17日にみんなで集まった。

私の声がけで集まったのは、本連載でも取り上げた中央区新川の現代の長屋風オフィスビルの建築家、横浜の野毛で古い賃貸住宅を改造しコミュニティスペースをつくり、週末にスナックも開く建築家、郊外でまちづくりをしている編集者、ニュータウンを研究する学者など15名ほど。横溝さんのほうも、地元つながりで10名ほどの若い世代を集めてくれた。

最初の予定では、私や他の建築家によるトークショー形式のイベントにしようかと思っていたが、みなさん三々五々集まってきたので、そうはならず、最初から飲み始めて、ある程度人数が集まったところで、自己紹介をしてもらっていたら、それがむしろ面白かった。

田舎育ちで、結婚して夫の実家のある多摩ニュータウンに引っ越してきて、最初は人工的な環境に違和感を感じたが、今は公園も広いし、子育てにはいいなと思っている女性。中京圏のニュータウン育ちでニュータウンが嫌いで古い商店街に住んだこともあるという女性など、みんなが、何も事前打ち合わせをしていないのに、ニュータウンと自分の関わり、その心理を語り始め、内容がどれも興味深いものだった。

古くて新しいシンポジウムの形 

この前のニュータウンシンポジウムよりも、こういう若いみんなの実感のある話をたくさん聞けたほうがよっぽどいいよ、と私は横溝さん夫妻に話した。
シンポジウムとは、いろいろなポジション(立場、意見)をsyn(総合する)という意味である。語源はギリシャ語であり、プラトンの著書「饗宴」の現代がシンポジウムである。「饗宴」では宴会に集まった人々が愛の神、エロースについて互いに好き勝手に話す。そこにソクラテスが登場して問答をして、論点を絞り込み、議論を発展させ、愛の本質に迫る。まずはいろいろな意見を自由に話すことが大事だ。

特にニュータウンの今後を考えるときは、住民の意見をいかに取り入れるかが重要だ。そのとき、ずっとニュータウンに住んできた高齢者も大事だが、人口減少に悩むニュータウンとしては、ニュータウンを出ていってしまいそうな若い世代、あるいはニュータウンに戻ってきたり、新たに入ってきたけど不満を持っているもっと若い世代の意見を聴くべきだろう。そうしないと、会社と同じで年長者の意見ばかり尊重されがちになるから。

そのためには、立派な会場の壇上で「有識者」が堅苦しい話をするよりも、みんながフラットな場所に集まり、やっぱりちょっと酒を飲んで心を開き、それこそスナック菓子でもつまみながら話すほうが実は面白い本音がたくさん聞ける。
節度のある飲み方をする今どきの若い世代は酔っ払ってくだを巻くこともないので、こういうスナックはとても良い。今回の建築スナックは大成功だったと思う。他のニュータウンでもぜひ建築スナックを開いてみましょう!

第1回建築スナックは大いに盛り上がった第1回建築スナックは大いに盛り上がった

2018年 04月07日 11時00分