自発的に学び、より神楽坂のまちを知ってもらいたいと「神楽坂検定」を開始
前回は、徳川家光の御成道として大きく発展した神楽坂の歴史、「NPO法人 粋なまちづくり倶楽部」の活動内容などについて紹介した。今回は「粋なまちづくり倶楽部」が注力している活動のひとつ「神楽坂検定」の紹介、大久保通りの拡幅工事によるまちの分断など神楽坂が対峙している問題などを取り上げる。
「粋なまちづくり倶楽部」の様々な活動の中で、現在最も注力している活動のひとつと事務局長の西谷さんが話すのが、神楽坂の歴史・地理・文化・建築・店舗等の全般についての知識を問う「神楽坂検定」の実施。2016年1月に初級試験を、2017年2月には初級・中級の試験を実施。神楽坂のまちをより深く理解してもらうことで、さらに神楽坂のまちを楽しんでもらいたいという想いから始めたものだ。検定の前には「神楽坂をよく知るセミナー」と題し、まち歩きと教科書による座学を兼ねたセミナーを開催している。
「自発的に学ぶ方が楽しんで神楽坂のことを知っていただけますし、リピーターやファンになってもらえるのではないでしょうか。検定という言葉は少し固いですが、検定を通して神楽坂のまちをより深く知っていただき、楽しく学んでいただけるのではないか。また、多様な情報ニーズに対応するツールとしても活用できること等が、この検定をスタートさせた理由です」
これからまちを支えていく子どもたちにより詳しく神楽坂というまちを知ってもらいたいと、将来的には「子ども検定」も視野にいれているそう。また、現在の初級と中級に加え、まちのエキスパートとしてガイドの方等に取得してもらうような、より豊富な知識を問う上級の設定も検討しているという。
押し寄せる都市計画の波。大久保通りの拡幅工事が神楽坂のまちを分断する?
西谷さんが危惧していることのひとつが、昭和21年に都市計画道路決定をした大久保通りの拡幅工事。決定後70年近く動かなかったものが近年になって事業が進められようとしており、現在片側1車線、幅員約18mの道路を、片側2車線、歩道幅員6m、総幅員30mにする計画。大久保通りに面した地区では閉店したり転居を余儀なくされたりする家が出るなど、その影響が出始めている。大久保通りは神楽坂の中央部、「神楽坂上交差点」で神楽坂通りと直交、「まちの分断」を危惧する声が出ている。
「工事自体を止めることはできないでしょう。しかし、単純に道が広くなってしまうと神楽坂上交差点でお客様が自由に行き来して楽しむことが難しくなり、まちが分断される可能性があります。物理的にも文化的にも分断させないことが大切だという議論がまちの中で起こっています。私達だけでなく様々な団体様と協力するなどしてどうしたら神楽坂の魅力を損なわないか考えているところです」
街並みを守るための苦慮もある。伝統的な料亭街である「兵庫横丁」に建つ物書き旅館「和可菜」が2016年1月に休業。「和可菜」は寺山修司、野坂昭如、色川武大らが作品を、山田洋次監督が脚本を書いていたことでも有名な旅館。これらのように、まちの文化や伝統が失われないように腐心している。
「古くても価値のあるものは残していくこと。そういうことも大切に考えていかないといけないと思います」
交通の便が良く、日常暮らしもしやすい神楽坂。数々の魅力を後世に継承していくために
お話をうかがった「粋なまちづくり倶楽部」事務局長の西谷正さん。「自分が住み続けようとするまちを少しでもよくしたい、お手伝いしたいと考えて『粋なまちづくり倶楽部』に参加しました」。自分が暮らすまちを良くしたい。住民が皆そのような想いを抱いたら、そのまちはきっと今以上に住み良いまちになるだろう西谷さんは神楽坂で生まれ育ったわけではなく、2004年に移り住んできたそう。なぜ神楽坂を選んだのか?
「飲食や観光で神楽坂に来たことはそれほど多くありませんでした。このまちを候補のひとつとしたのは、どこにでも行きやすいフットワークの良さ。飯田橋、神楽坂、江戸川橋、牛込神楽坂の4駅が使えますし、災害などの非常時も新宿、池袋、東京などのターミナル駅まで歩いても1時間ほど。
都内で色々と15ぐらいモデルルームを見学したのですが、いちばん印象に残ったのが神楽坂でした。まちの雰囲気が良かったのだと思います。直観でここにしようと思いました」
実際に住んでから10年以上が経つ。住み心地について尋ねてみた。
「非常に住みやすいですね。よく『買い物をする店がないのではないか』とか、『物価が高そう』などと言われますが、スーパーだけでも近辺に6件ほどあるので買い物に困ることはありません。近くの江戸川橋には地蔵通り商店街もあり、そちらも利用しています。新宿や銀座のデパートまですぐに行くこともできますし、なかなか離れられないとても暮らしやすいまちだと思います」
今後も魅力的なまちであるために、西谷さんはどのようなことを考えているのだろう。
「多くの方が神楽坂に来てくださることで、まちに活気が出ます。やはり活気がないと、子育て世代の元気な世代が入ってこないでしょう。若い世代が住みたいと思うようなまちでないとやがて衰退していくのは目に見えています。若い世代だけでなく高齢の方や小さなお子さんも住みやすい、皆で共生できるまちにしていていきたいですし、積極的にそのお手伝いをしたいと考えています。
耐震の問題などがあれば古くなった建物を壊すことは仕方がないですが、メンテナンスすれば残せるものは残して使っていくべきではないでしょうか。特に神楽坂は狭い路地が多いので、一度壊してしまうと路地などは元に戻せない可能性が高いでしょう。何でも古いまま残せばいいというものではありませんし、今の形に変えていかないといけないものもあります。ただ、その見極めが大切だと思うのです」
昔ながらの商店街、ミシュランに掲載されるような著名な飲食店、黒い板塀のある路地、日本家屋の佇まいを残す小料理屋、粋と艶を感じさせる花街。個性豊かで情緒あふれる神楽坂をより魅力的なまちに育てていくために課題解決に取り組む「粋なまちづくり倶楽部」。道路の拡幅問題など直近の課題にどのように取り組んでいくのか注目して見守りたい。
■粋なまちづくり倶楽部/http://ikimachi.net/
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