高まる産学官連携の意義

「産学官連携」…という言葉が聞かれるようになってから久しい。背景には、ITの進歩と大学教育における大衆化・多様化、実践型の人材に対するニーズがあげられる。

企業はITの進展を背景としたグローバリゼーションにより、変化に迅速に対応できる企業経営が必要となってきており、生き残りをかけて研究開発の分野でより開発重視への転換を図っている。こうした状況下で、企業は、大学等をこれまでの新人社員の供給先としてだけでなく、「知を共有するパートナー」としても意識するようになってきている。また、一方の大学側では、社会や産業のニーズに配慮しつつ、独創性であり、かつ実践的な人材を輩出することを強く求められるようになった。

各分野においてその動きは、意義の重要性を増しつつあるようだが、不動産・住宅業界ではどうであろうか?
今までも、HOME'S PRESSでは様々なテーマで「住まい」に向き合う学生たちと研究室の動きを、事例としてとりあげてきた。

今回は、75万戸の団地を有する独立行政法人都市再生機構(UR都市機構 ※以下、UR)と京都女子大学の産学連携を例にその意義と成果について取材を行った。

京都女子大学とURの取り組み

セカンドシーズンに京都女子大学×URが手掛けた洛西新林北の「無限のハコ」セカンドシーズンに京都女子大学×URが手掛けた洛西新林北の「無限のハコ」

戦後の高度経済成長を背景に、1960~1980年前後に都市部で働くサラリーマンに良質な住宅を大量に供給するため、都市近郊を土地開発し、集合住宅の建築が行われた。いわゆる「団地」である。現在では、主に賃貸の集合住宅を、URが「UR賃貸住宅」として引き継いでいる。築50年前後をむかえるそれらのストックは、次の再生を目指して様々な取り組みが積極的にされている。URの西日本でも、建築家とコラボレーションしてのリノベーションやMUJI HOUSEとのコラボレーションなどを行っている。

一方、京都の東山区にある京都女子大学では、家政学部生活造形学科において、アパレル、デザインとともに建築のコースをもっている。今回、お話をお伺いした井上えり子准教授は、建築コースを学生に指導している先生である。

URが京都女子大学に声をかけたきっかけは、何であったのであろうか?

「縁があって、2011年京都の株式会社 八清さんから古い賃貸のワンルームマンションのリノベーションのお話をいただきました。その八清さんとの取り組みがメディア等で紹介され、2012年にURさんからプロジェクトの相談を受けました。八清さんとのリノベーション実例を学生とともに手掛けていて、教育としての観点からもよい経験だったと思っていたので、ぜひに…ということで、一緒に取り組むことになったのです」と井上先生は話す。

「2013年のファーストシーズンは、京都市都心部より約10kmの洛西ニュータウン内の洛西境谷東・洛西竹の里の2団地において学生に設計コンペを行い、8タイプの住戸のリノベーションを行いました。また、2014年のセカンドシーズンでは、洛西境谷東・洛西新林北で3タイプ、洛西竹の里で3タイプを手掛け、さらにアレンジを加えています。

3回目をむかえる今回は洛西新林北で2戸、洛西竹の里で2戸をリノベーションの対象とし、新たに学生による設計コンペ、住戸リノベーションを実施しました」。

「Style2015」プロジェクト

学生に向けては、2015年5月に説明会が行われ、6月の相談会を経て7月に提案発表会が行われた。コンペに参加したのは、22組46名の学生たち…合計26作品が提出され、4作品が選出された。

リノベーションにおけるコンペ概要として、
1)構造躯体はリノベーション対象外、水廻り位置は動かさない設計与件
2)リノベーション工事費は80万円を上限
としている。

コンペ採用作品は以下の通り
■洛西竹の里団地
・「整える暮らし」→暮らしの導線上にある収納に焦点を当て、利便性と見せ方にもこだわり日常を楽しく豊かにするというコンセプト
・「空間を彩るアクセント」→単調にならないように部屋の梁や壁にアクセントを取り入れ、光や照明にこだわった空間

■洛西新林北団地
・「光と風がとおる家」→バルコニーからの光を十分に活用するために、室内にも窓を設け、光と風が部屋全体にいきわたる開放感のある空間
・「up to you」→“あなた次第”と名付けられた部屋。緑のマグネットウォールや広々とした玄関ホールなど空間を彩る工夫ができる余地のある部屋

どの部屋も、コストや設計与件の限界や窮屈さを感じない部屋が出来上がっており、女子学生ならではの“暮らしを楽しむ”感覚が生きている部屋となっている。

写真左上から時計回りに洛西竹の里団地の「整える暮らし」(左上)、「空間を彩るアクセント」(右上)</br>洛西新林北団地の「up to you」(右下)、「光と風がとおる家」(左下)写真左上から時計回りに洛西竹の里団地の「整える暮らし」(左上)、「空間を彩るアクセント」(右上)
洛西新林北団地の「up to you」(右下)、「光と風がとおる家」(左下)

団地に新しい命を吹き込む学生たちの“コンセプト”

京都女子大学の学生が作成した冊子 「洛星NT団地リノベーションプロジェクトStyle2015」のパンフレット京都女子大学の学生が作成した冊子 「洛星NT団地リノベーションプロジェクトStyle2015」のパンフレット

UR西日本支社の団地マネージャーである関さんは、
「コンペの採用基準としては、機能性・デザイン性・実現性・コスト効率・情報発信力を検討の基準とさせてもらいました。コンペの説明から提出、設計から施工、完成まで時間がない中、またコスト的にも限界がある中で、かなり完成度の高いものが出来たことに驚いています。
URとしては、さまざまなアイディアで企業とのコラボレーションも行っているのですが、学生の方々の“暮らし”に対する感覚がまた違う団地の魅力を引き出してくれていて、毎回楽しみです。モデルルームの一般公開でも好評で、全ての住戸にお申込みをいただきました(※2016年1月31日現在)」と語る。

今回のコンペ採用となった学生の皆さんにもお話を伺った。
「整える暮らし」を設計した小倉さん、黒瀬さん(4回生)は
「細かいディテールを表現したいと思ったので、こだわれるところにはとことんこだわりました。外で内装やデザインを見ると“あ、これは使えそう”とか“どうやっているんだろう、いくらするんだろう”といろいろなものが目について気になっていました」という。

「光と風がとおる家」を設計した石田さん(4回生)は
「間仕切りが多く、暗いイメージをなんとかしたかった。光を作りだすガラスの材質等にはこだわって打合せを重ねました」という。

「up to you」を設計した佐藤さん、山本さん(2回生)は、
「色や材質、床材とのバランス…たくさんの素材を吟味して、選択することは難しかったです。サンプルだけではわかりにくいこともあるんだと感じました」という。

最初の団地の印象を学生たちに尋ねると
「古いことはいいんだけど、光が通らず暗い印象を受けました。また、収納や動線など、今の暮らしに合っていないな、と思いました。立地や古さはあまり気になりませんでしたが、便利さや快適さ、暮らしを楽しむ空間として変えていきたい、と感じました。最初の住居だと“住みたい”とは思えなかったけど、施行後の部屋は“自分も住んでみたい”と素直に感じます」と話してくれた。

「産学連携の力」の本質とは?

学生を指導し、サポートをした井上先生は
「学生にとって、納期やコストといった条件がある以上、自分の造りたいものがそのまま形になる…ということはありません。けれども現場での打合せの中でURの方や施工者さんにアドバイスをいただきながら、少しでもイメージに近づけるよう工夫をしていきます。そして、こういうこだわりこそが、“モノづくりの醍醐味”であることを学ぶのです。このような経験は教室では決して学べません。

またこのプロジェクトは、企業の中で働いている人に触れられる貴重な機会でもあります。自己の進む道を模索する時期に、本気で働く大人に接するのは、とても大事な事だと思っています。プロジェクト参加は、授業との両立で大変ですが、それでも、かけた時間や労力に優る“得るもの”が学生には多いと思います」と語ってくれた。

「実は、私は空き家の研究をしているんです。空き家の中でも賃貸集合住宅のストック率が一番ボリュームが大きく、課題が多いのです。URさんとのコラボレーションでは、そういったいちばん課題の大きいところを学生と向きあえる機会としても、貴重だと感じています」とお話しいただいた。

今回お話を伺った4回生の小倉さん、黒瀬さん、石田さんは就職が決まっている。それぞれ、住宅・不動産関係の会社で働くという。
企業と学生…単に教育の一環、というのではなく、その先の住む・暮らす人々のニーズを真摯に一緒に考え、プランするという時間と機会が、実は一番「産学連携の力の核」となっているのかもしれない…と感じた。

右から、京都女子大学2回生の佐藤さん、山本さん、井上先生、4回生の小倉さん、黒瀬さん、石田さん、UR都市機構の関さん右から、京都女子大学2回生の佐藤さん、山本さん、井上先生、4回生の小倉さん、黒瀬さん、石田さん、UR都市機構の関さん

2016年 02月25日 11時05分