湿度が高い日本は、気温以上に暑く感じる?

気象庁が発表した「向こう3か月の天候の見通し(7~9月)」によると、気象庁が発表した「向こう3か月の天候の見通し(7~9月)」によると、"気温は東・西日本と沖縄・奄美で高く、北日本では平年並か高い見込み」という見解が示された

気象庁が発表した「向こう3か月の天候の見通し(8~10月)」によると、"暖かい空気に覆われやすく、向こう3か月の気温は、全国的に高い見込み"という見解が示されている。(2016年7月25日発表)

気温といえば、2016年5月19日、インドで国内史上最高気温となる51度を記録し、連日40度を超える日が続いていると報じられ話題となった。日本では過去100年のうち40度を越えた回数が18回と、当然ではあるがインドと比較すると気温は低い。しかし、日本の夏は湿度が高いために、汗の蒸発がゆるやかとなるため、あまり涼しく感じないのだ。
まだエアコンがなかった頃、例えば江戸時代、長屋の住民たちは、夕暮れ時に外に縁台を出して、自然の風にあたりながら雑談を楽しんだり、お酒を飲んだりして夕涼みをしていたそうだ。現代であれば、ビアガーデンが夕涼みにあたるだろうか。

現代であれば、暑いと感じた場合にエアコンを使用すればよいが、エアコンの効いた部屋にばかりいると、汗腺が機能しなくなり、べとべとした汗をかくようになってしまう。できることならば自然な状況で涼みたいものだ。
エアコンだけに頼らず、家の中でできる自然な涼の取り方には、どのようなものがあるだろうか。

風鈴の音やすだれなどで感じる涼

夏の風情といわれて思い出すのは風鈴だ。風鈴が鳴ることで屋内に風が入ってきたと実感できる。風鈴にはさまざまな素材があり、鉄のものならチリチリと高く細い音が涼しげだし、ガラス製のものは澄んだ長い音がいかにも風情を感じさせる。
風鈴がいつごろに作られたかはっきりはしないが、銅鐸など、吊り下げて音を鳴らす鐘は紀元前からあった。家庭の軒先に吊るすようになったのは、室町時代ごろと言われ、江戸時代には、夏になると町を歩きながら風鈴を売る「風鈴売り」も登場していたという。

また、真夏の強い日差しや日射熱を遮るには、窓に「すだれ」や「よしず」をかけるのも涼を感じる一つの方法だ。すだれは主に葦(あし)や竹を、よしずは葭(よし)を素材として使っているから、自然素材ならではの清々しい香りも楽しめる。また、すだれやよしずに水をスプレーすることで、風が通るたびに、水が蒸発する際に周りから熱を吸収する"気化熱"が発生し、さらに温度を下げてくれる。

さらに、網にアサガオなどを這わせて、グリーンカーテンを作るのも効果的だ。植物からは水蒸気が発生しているから、水をスプレーしなくても温度を下げる効果があり、見た目に美しい。
江戸時代、盛んに品種改良されたアサガオは、夏の風物詩として愛されてきた、昔ながらの涼を取る方法の一つなのだ。もちろん、ヘチマやキュウリ、ゴーヤなどのつる野菜を植えて、収穫した実を食卓に乗せても良い。水分の多い夏野菜は体の中から冷やしてくれるから、一石二鳥だ。

肌の体感温度以外にも、風鈴の音やアサガオの見た目など、涼を感じるには様々な方法がある肌の体感温度以外にも、風鈴の音やアサガオの見た目など、涼を感じるには様々な方法がある

古くから行われてきた打ち水

水が蒸発する際の気化熱で温度が下がることを利用した打ち水水が蒸発する際の気化熱で温度が下がることを利用した打ち水

気化熱を利用したもっともポピュラーな涼の取り方は、なんといっても打ち水だろう。現代の道路はアスファルトが多く、太陽に熱されることで、陽炎(かげろう)が立ち上るほど熱くなる。太陽からの熱以外にも、道路からの照り返しも、暑さを感じる原因の一つである。この暑さを少しでも軽減するために、朝の涼しいうちから水を撒いておき、気化熱で温度の上昇を抑えるのだ。もし土がむき出しになっている部分があれば十分染み込ませておけば、徐々に蒸発してくれるので、効果的だろう。ただし、真昼の日向に打ち水をするのは逆効果。湿度があがって不快さが増してしまうからだ。

打ち水の習慣がいつごろから始まったかはわからないが、茶の湯ではお客をもてなす気持ちを表すために打ち水をするから、茶道の発展とともに生まれたものかもしれない。
利休の秘伝書とも伝わる『南方録』にも、「朝、昼、夜、三度」と、打ち水の仕方が書かれている。
夕立の後の涼しさを思いだせば、気化熱の効果がわかるだろう。

ハッカ油を利用するという手も

肌に直接に塗布して涼を得る方法の一つがハッカ油だ。薬局へ行けば20ミリリットル500円程度で販売されている。
入浴前に、浴槽に数滴入れれば清涼感のあるミントの香りが立ち上り、肌にも涼感が得られる。風呂上りに扇風機にあたれば、寒さを感じるほどだ。
なぜハッカ油を入れると涼しく感じるかというと、ハッカに含まれるメントールが、皮膚に分布しているTRPM8(トリップエムエイト)を活性化するから。TRPM8は、25~28度の刺激が加わったときに反応するたんぱく質なのだが、メントールの働きで28度以上でも反応し、ひんやり感じるのだ。ハッカ油をエタノールと水で薄めてシャツにスプレーすれば、肌にあたったときにひんやりと感じるから試してみて欲しい。
ただし、ハッカ油による涼しさは錯覚によるもので、実際に体が冷えているわけではない。「涼しいから水を飲まなくても大丈夫」と、水分補給を怠れば熱中症を起こしてしまう可能性もあるから、ハッカ油を使うときは、意識的に水分を取るようにしよう。
また、肌が敏感な人には刺激が強い場合があるので、個人に合った適量を使うようにしよう。

このように、涼をとる方法は昔から工夫されてきた。熱中症になりそうなら、無理をせずエコアンを使った方が良いが、エアコンだけに頼らず、昔ながらの涼の取り方を並行して行うことで、暑さと上手に付き合いながら夏を楽しみたいものだ。

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