入居後1年、花見の主役は入居者

テントの準備、片付けも入居者の皆さんが驚くほどてきぱきと。テントの向こうが通称たちばな公園テントの準備、片付けも入居者の皆さんが驚くほどてきぱきと。テントの向こうが通称たちばな公園

前夜からの雨が少し残る日曜日の朝10時。11時から始まる花見のために、足立区西新井にある賃貸住宅パルコカーサの敷地にはテントが建てられ、一画では女性陣が集まって野菜を刻んでいた。本日のメニューは前週に入居者が中庭に集まって決めたもので、豚汁、焼きそば、カレー、焼き肉といった野外の定番料理を中心に、子どもたちのためにバウムクーヘンも焼くという。女性たちが刻んでいたのは豚汁やカレー、焼きそばなどに使う人参、椎茸、キャベツ、玉ねぎなどなど。前日に買い物に行き、皮剥きは各戸で分担、後は切るばかりにしてあったというが、山のような野菜である。

もちろん、男性陣が何もしていないわけではない。業務用と思われる大型の鍋でカレー作りを始める人、炭火を起こして焼き鳥の準備をする人、肉やソバを炒めるための鉄板を設置する人と、それぞれが役割を分担、用意は着々と進み、あちこちからは笑い声も聞こえてくる。子どもたちはこれから始まるイベントにやや興奮しているようで、その間を走り回っている。

1年前には見も知らぬ他人だった人たちがたまたま同じ物件に入居、再び春を迎えての花見なのだが、この和やかで自然な雰囲気はなんだろう。1年前、入居を祝っての花見時には全員が初対面でもあり、いささか固いものがあったことを覚えているが、その固さはどこへやら。たった1年ですっかり打ち解け、羨ましいくらい、楽しそうである。去年は大家さん家族や関係者がせっせと動いていたように記憶しているが、今回は入居者主体で物事が動いていた。

入居者同士、地域との間にコミュニティが生まれる住宅を

パルコカーサがあるのは昭和40年に現在の所有者である田口3兄弟の祖父が始めた銭湯、「たちばな湯」があった場所。隣の公園が「たちばな公園」と呼ばれていたほど、地域に愛されてきた地である。当時は日本を世界第二の経済大国に押し上げたいざなぎ景気のさなかで、銭湯は入浴の順番待ちが出るほど賑わったという。そのため、銭湯の仕事は多忙を極め、田口兄弟は父と遊んだ記憶がほとんどないそうだ。

それでも、その頃にはご近所づきあいというものがあった。田口兄弟はご近所の人や銭湯の常連客に見守られて育ち、旅行の土産やお年玉をもらったり、おかずのおすそ分けをしてもらうこともしばしばだったとか。その記憶が銭湯を廃業、賃貸住宅を建設する際にこの物件を他と違うものにする原動力となった。銭湯が担っていた地域のコミュニティの場としての役割を継承しながら、ここに住む人の間にもコミュニティが生まれる住宅、パルコカーサはそんな住宅として計画されたのである。

その意図は敷地を見れば一目で分かる。敷地の中央には緩やかにカーブする広い道が作られ、住戸の間にはベンチが置かれた中庭のような空間も。立ち話も良し、座って話し込むも良し、会話が生まれやすい場なのである。また、住戸も背を向けあうのではなく、プライバシーに配慮しつつも、互いを意識できるような配置となっている。豊富な植栽、玄関前に作られた自転車置き場などのゆとり、気遣いも他では見ないところ。こうした配慮と余裕のある敷地を利用したイベントなどが入居者間にたった1年のうちに自然なつながりを生み出し、花見の準備の和やかな空気に繋がったのだろう。

ゆったり取られた敷地内の通路。真ん中にベンチのあるコーナーが設けられているゆったり取られた敷地内の通路。真ん中にベンチのあるコーナーが設けられている

入居の条件は地域との関わりを大事にすること

突然のプレゼントに戸惑う入居者家族だったが、すぐに笑顔に。左側の男性が田口氏突然のプレゼントに戸惑う入居者家族だったが、すぐに笑顔に。左側の男性が田口氏

住戸はメゾネット2戸が1棟となっており、6棟全11戸(1棟のみ平屋)。間取りは62.1m2~70.38m2の2LDKで、間取りからも分かるように対象はファミリー。中にはまだ子どものいないカップルも入居しているが、単身者は基本入居不可である。加えて近隣や地域に関心のない人もお断りだという。大半の賃貸住宅の入居者審査は家賃が払えるかどうかが重視されるが、パルコカーサではそれ以上に地域コミュニティを大事に思い、他人の子どもにも自分の子どもと同じように声が掛けられる人を良しとする。そのため、入居者の町会への加入は必須要件とされている。

と聞くと、入居者間での付き合いは良しとしても、それ以上は面倒と思う人もいるのではないかと思う。特に賃貸に暮らす若い年代にとって町会は縁のない存在だ。町会費を払ったことのない人も多いだろうし、払ったけれど、何のメリットもなかったと楽しくない気分になる人もいるだろう。だが、この地域の町会はちょっと違う。地元西新井15部町会の青少年部部長でもある田口兄弟の長男、田口昌宏氏は「この町会は世帯数が200と少なく、月に500円という、他に比べれば高めの町会費を徴収していますが、払った会費分は還元される仕組みになっています」という。

この日も花見の準備中のパルコカーサに青少年部副部長という女性が現れ、入居者の子どもに入学祝いの図書券を手渡す場面があった。「町会が各戸に新入学児の有無についてアンケート調査を行い、新入学児のいる家庭には町会役員が訪問、図書券を贈るようにしています。町会長は『子どもは街の宝』が信条ですが、そのひとつの表れが図書券です」。

他の町会がこうした事業を行っているかどうかは分からないが、来訪を知った時の入居者親子の戸惑った顔、事情が分かって図書券を受け取った時の笑顔からは、彼らにとっての町会の意味が明らかに変わり、親近感を抱いたことが伺えた。町会、地域が身近になった瞬間だと思う。

郵送ではなく、わざわざ役員が届けに行くようにしているのは、直接のやりとりを通じて地域に関心を持ってもらうためだそうで、それは同時にどこに何年生がいるかを地域の人が知ることにもなっている。子どもを狙った犯罪が増える昨今、こうした地域の目が有難いことは言うまでもない。

町会のお祭りを経て成長していく子どもたち

最後は全員で記念写真。皆さん、楽しそうである最後は全員で記念写真。皆さん、楽しそうである

この町会では図書券だけでなく、夏休みに公園でラジオ体操を開催、参加した子どもたちにお菓子を配ったり、季節ごとに餅つき、盆踊りなどの行事を開いたりと地域で楽しめるイベントを各種開催しており、特に子どもたちはそうしたイベントを心待ちにしているそうだ。

「小さいうちは大人がクレープを焼いているのを眺めているだけですが、少し大きくなるとやってみたいと思うようになる。でも、なかなかやらせてもらえず、高校生くらいになってやっとやらせてもらえる。それが子どもにとってどれだけ誇らしいことか。ひとつ、大人への階段を上がったという自信になり、余裕になり、だからでしょう、そうした子たちは小さな子どもたちの面倒をよく見てくれます。ちゃんとありがとうを言えるようにもなります」。同じ年代で遊ぶことが多い学校生活と違い、地域の祭りその他の活動では大人も含め、様々な年代が交わる。それが子どもたちを育ててくれるのだろう。

だが、残念ながらこうした、きちんとした活動が行えている町会はそれほど多くはない。町会ががんばっていても、田口氏のように活動に参加する大家さんばかりではない。しかし、活動している町会であれば、そして町会に参加している大家さんがいるなら、生活の楽しみ、安心が手に入るのである。入居者もそこに参加して損はない。特に地域の目を我が子の安全に役立てたいファミリーなら、参加しない手はない。次に引っ越す際には地域の活動ぶり、大家さんの様子なども参考にしてみてはどうだろう。

同じことは大家さんにも、町会にも言える。互いに知らん顔をして若い賃貸居住者に関わりたくないと思われるより、関わってもらうほうが街を元気にできるはずだし、それは街の評価を上げることにもなる。年代、賃貸、持ち家などといった違いにこだわらず、同じ街に住む仲間として関われれば、街はもっと暮らしやすくなるのではなかろうか。

みんなで焼いたバウムクーヘンに大歓声

さて、最後に花見の様子を。

最初から最後までわいわいと賑やかだったのだが、そのうちでも一番盛り上がったのは宴も終盤に近付いた頃に焼きあがったバウムクーヘンが披露された時である。園芸用のプラスチック支柱にアルミホイルを巻きつけ、そこに溶いた種を少しずつ掛け、焼きながら層を厚くしていくという作業だったのだが、率直なところ、そんなモノでバウムクーヘンが焼けると思っていた人は少なかったのではないかと思う。

特に最初の頃はほんの1ミリの層にもならず、種は滴り落ちるばかり。プラスチックの支柱が溶けやしないかも懸念された。だが、チームワーク良く焼き手を何度も替え、時間をかけ、少しずつバウムクーヘンは厚くなり、やがては見事な幹状に成長。最初に包丁が入った時は期せずして一斉に歓声が上がった。『みんなでやればできるね』。入居者、大家さんの気持ちを代弁すればそんな言葉になると思う。熱くて甘いバウムクーヘンを頬張りながら、早速『来年は何にする?』という言葉も出ており、入居者の皆さんのお楽しみはまだまだ続きそうである。

ちなみに住戸内にも子育て世帯にうれしい様々な配慮があるが、ここでは省略した。関心のある人は物件ホームページを参照していただきたい。

パルコカーサ
http://www.parcocasa.jp/

不可能(!)に思えたバウムクーヘン作りだが、最終的にはこんな見事な姿に不可能(!)に思えたバウムクーヘン作りだが、最終的にはこんな見事な姿に

2016年 05月04日 11時00分