実は一番難しい「住人の絆」を重要視したシェアハウス

2016年5月にオープンした東部練馬の「みんなでつくるシェアハウス・絆家」2016年5月にオープンした東部練馬の「みんなでつくるシェアハウス・絆家」

日本でも「シェアハウス」は居住形態として定着した感がある。しかも、さまざまなコンセプトのシェアハウスが登場し、居住者のニーズや個性に合わせ選択肢も豊富になってきた。趣味や仕事をテーマにしたシェアハウスは当たり前、農園付きやゴージャスな共用施設を設けるところも多い。

そんな中、最もシンプルで実は一番運営が難しそうな「住人の絆」を最重要視したシェアハウスがある。その名も「みんなでつくるシェアハウス」だ。「第二の家族を作る」をコンセプトに、シェアハウスの構想自体も一から手掛ける。内装をデザインして、壁紙や床材を選びDIYで家づくりに参加。その後のコミュニティ作りや地域とのつながりのアイデアなどもお互いに出しあう。

自分たちでDIYというとこじんまりした一軒家を思い浮かべるが、2016年5月にオープンした東武練馬のシェアハウスは「4階建て屋上・テラス付き、入居定員36名」、なかなかの規模の物件だ。

ハードよりもソフト。住民の「絆」を最重要視し、「第二の家族を作る」シェアハウス。ここでどんな暮らしが繰り広げられているのか。東武練馬にある「みんなでつくるシェアハウス・絆家」を訪れてみた。

コミュニティづくりの延長にあるシェアハウス

「僕は、もともとシェアハウスを作ろうとしたわけではないのです」と言うのは、このシェアハウスのオーナー平岡雅史氏だ。もともとインテリア雑貨のバイヤーとして会社勤めをしながら、気の合う仲間とイベントを中心としたコミュニティづくりを行っていたそうだ。高円寺のカフェをベースに年間100件以上のイベントを企画したという平岡氏は、「コミュニティづくりの延長としてシェアハウスがある」と6LDKで仲間と住居をシェアしたのが始まりだという。

その後、2011年に企業の社宅として使われていた建物を5年契約のサブリースとして借り受け、自分たちでDIYしながら物件づくりから始めるシェアハウスプロジェクトを発足。この場所の契約が切れる2016年に、東京板橋区「東武練馬」に「絆家シェアハウス」を新たに誕生させた。

ここは、4階建て屋上付きの36人規模のシェアハウス。2015年11月からSNSなどを通じて一からシェアハウスを作るプロジェクトメンバーを募集し、内装デザイン、コミュニティの在り方などを検討。実際に、屋上デッキを自分たちで木材を組み上げ作成したり、壁紙を貼ったり、ペイントなどを行って家をつくりあげた。プロジェクトメンバーには、建築士といった専門家が加わりアドバイスをしながらの実践。オーナーの平岡氏は、「これは実は家づくりが目的ではありません。参加者が意見を言い合いながらみんなの力を一つにする。そのコミュニティ創造の場として家づくりがある」と狙いを語った。

実際に、家づくりのプロジェクトに参加したメンバー全員がシェアハウスに住むわけではない。ただし、このメンバーは、いつでもシェアハウスを訪れ、「親戚づきあい」のような関係になる。

「みんなでつくるシェアハウス」プロジェクトでは、一からシェアハウスの構想を集まったメンバーで相談した(写真左上)。リノベーション前の現地見学会の様子(写真左下)。リビングにシンボルツリーを置くことを計画。メンバー達で東京・檜原村に間伐材を調達に(写真右上)。屋上のウッドデッキは木材が室内経由で運べず、一本いっぽん窓の外から運び上げてつくった(写真右下)「みんなでつくるシェアハウス」プロジェクトでは、一からシェアハウスの構想を集まったメンバーで相談した(写真左上)。リノベーション前の現地見学会の様子(写真左下)。リビングにシンボルツリーを置くことを計画。メンバー達で東京・檜原村に間伐材を調達に(写真右上)。屋上のウッドデッキは木材が室内経由で運べず、一本いっぽん窓の外から運び上げてつくった(写真右下)

シェアハウスは「人生の学校」

では、どのようなシェアハウスが出来上がったか。まずは室内の様子を紹介しよう。

この建物は4階建ての各フロアは異なるコンセプトで内装が施されている。リビングとキッチンの共有フロアがある1階はウッドスタイルの暖かみのある雰囲気。2階の男性専用フロアは、個室と4人部屋のドミトリーを配置したアメリカンビンテージ。3階も同じく個室とドミトリーからなる女性専用フロアで、フランスの子供部屋がイメージされている。4階は北欧をイメージしたペアルームフロア。取材時にはまだメインのキッチンを造作中で、2階から4階のミニキッチンで炊事が行われていた。

屋上には、広々としたウッドデッキもあり、夏はバーベQなどのイベントにも重宝しそうだ。

しかし、このシェアハウスの最大の特長は「第二の家族を作る」こと。過ごしやすい共有部分を持つだけではそれは実現しない。そこにはどのような工夫があるのだろうか?

平岡氏によれば、「各フロアのミニキッチンは最小限に留め、リビングのドアも帰ってきた人の気配が分かるガラス張りにしている」というが、本質はそんなことではないようだ。実は平岡氏ご自身も奥様と二人でこのシェアハウスの4階に住んでいる。

「家族のようなコミュニティ、それを目指すには“しくみ”ではなく“思い”の部分が大切だと思っています。実感するのは、ハウスリーダーの心がそのまま家(コミュニティ)に反映するということ。自分自身が忙殺されていたりすると、家の中も不思議と殺伐としてきます(笑)」(平岡氏)

「思いが大切」だという平岡氏は、自身もご夫婦でこのシェアハウスに住みながら、住人の絆づくりに自然と気を配る。この日、取材に訪れた時も住人に会うたびに声をかけていた。その内容は「先日の面接どうだった?」「今日は夜、遅くなる?」など、一人ひとりを把握しているのが印象的。ずいぶんと住人のことを把握しているオーナーさんだなと思ったのだが、一緒に暮らしていると聞いて驚くと同時に納得した。

ここでは、共同生活におけるルールはほとんどないという。「共用部分に物を置かない」「食器は乾かしてしまうまで責任を持つ」「夜は騒ぎすぎない」その程度だ。その代わりに、普段の当たり前の生活をシェアしようとしている。ここでは食事が大切にされ、別段イベントというほどでもないが、頻繁に住人で食卓を囲む時間を持つそうだ。そのときに、みんなで顔を突き合わせて何気ない話をする。元気がない人がいたら、さりげなく声をかける。そんな団らんが「絆」を強めていく。

「シェアハウスは、人生の学校だと思うのです。共同生活でさまざまな価値観を受け入れて、自分を顧みる場。そのことは事あるごとみんなに話しています。毎日生活を共にするわけですから、家族と同じようにいざこざだっておきます。でも、その時に誰かのせいにするのではなく自分を顧みる。それができれば、自然と“誰かが誰かのために動く”その環が出来上がっていきます」(平岡氏)

2階男性フロアの個室(写真左上)。女性フロアのドミトリーは、写真のような収納スペースつきのベッドが4つ用意された4人部屋(写真左下)。各階にトイレ、バス、ドレッサーがあるが階ごとのイメージでしつらえられる写真は女性フロアのもの(写真右上)。1階はウッディなイメージで温かみがある。写真は1階廊下(写真右下)2階男性フロアの個室(写真左上)。女性フロアのドミトリーは、写真のような収納スペースつきのベッドが4つ用意された4人部屋(写真左下)。各階にトイレ、バス、ドレッサーがあるが階ごとのイメージでしつらえられる写真は女性フロアのもの(写真右上)。1階はウッディなイメージで温かみがある。写真は1階廊下(写真右下)

人前で涙を流せる、本当の家族のように

リビングは、ちゃぶ台もあって自然と入居者の距離が縮まる空間リビングは、ちゃぶ台もあって自然と入居者の距離が縮まる空間

実際に、平岡氏のその思いは入居者にも伝わっているようだ。入居者の一人、三川真里奈さんは「この家は第二の家族」と言い切る。富山県出身の三川さんは、人生で1度はシェアハウスを体験したいと都内で物件を探し、このシェアハウスに出会った。本当は別の物件にほぼ決まっていたが、どこかシェアハウスといいながらもコミュニケーションが希薄なことがひっかかっていたそうだ。最後に見学した平岡氏のシェアハウスにほかの物件にはないものを感じて入居を決めた。

実際に暮らしてみても、その選択に間違いはなかったという。とにかく、リビングにいる平岡氏がいつも笑っている。その笑顔に影響されて入居者もいつの間にかリビングに集い笑顔になる。奥様の淑子さんは、入居者の表情を繊細に読み取り、細やかな配慮をしてくれるそうだ。

「先日、別の住人が言っていました。『就活が辛くて話していたら泣いてしまった。人前で泣くなんて心を許している証拠。ここは私の家族なんだね』と。それは私も感じています。家族って選べませんよね、損得で付き合うのではなくただ家族だから一緒にいる。ここは本当にそういう場所です。長所も短所も含めてみんなが素の自分を出して安心できる、まさに第二の家族を実現している場所です」(三川さん)

平岡氏は、現在シェアハウスのプロデュース会社として「株式会社 絆人」を経営している。今後は東京の中野、葛西と新たなシェアハウスを展開する予定だ。それぞれのハウスにはハウスリーダーが存在する形で、単なるコンセプトの水平展開ではなく、毎月の家族会議によりしっかりと平岡氏の「思い」をつなぐ橋渡しをしていく考えだ。

将来的には、団地を再生したシェアハウスを!?

オーナーの平岡雅史氏(写真真ん中)、入居者の三川真里奈さん(写真左)、同じく谷口由記さん(写真右)。みんなが集えばとにかく笑顔!後ろに見える絵画も美術を専攻する入居者の方が書かれたもの。この家を象徴するかのような温かい色使いが印象的だオーナーの平岡雅史氏(写真真ん中)、入居者の三川真里奈さん(写真左)、同じく谷口由記さん(写真右)。みんなが集えばとにかく笑顔!後ろに見える絵画も美術を専攻する入居者の方が書かれたもの。この家を象徴するかのような温かい色使いが印象的だ

平岡氏が目指すのは、あくまでもコミュニティづくり。人と人のつながりだ。「みんなでつくるシェアハウス」プロジェクトでは、住人同士のコミュニティの在り方を模索すると同時に、住人と町の人々とのつながりも考えられている。

「住む人間が、その町のことを知らないのはおかしいと思います。そこで、プロジェクトでは、街の商店街の店主さんにインタビューして、商店街MAPも作成しました。今後は地域とこの家がつながるイベントなども実施していきたいと思います」(平岡氏)

「第二の家族」のようなシェアハウス。そこに集う人々の思いで実現するものだけに、コンセプトベースで展開するよりも難しいと思っていたが、それを実現している場があった。シェアハウスは若い世代が作る新しいコミュニケーションの形のように思えるが、なんだか平岡氏ご夫婦の存在は、昔の「下宿」のご主人夫婦のような温かさも感じさせてくれる。

「子どもが生まれたら、さすがに迷惑をかけるだろうからここには住めないと思います。でも、歳をとってもシェアハウス暮らしをするつもり。将来的には団地再生をプロデュースして、多世代型の村のようなコミュニティを形成するシェアハウスを作りたいですね」(平岡氏)

団地とは、もともと生活共同体であったはず。そこにシェアハウスの概念を入れるのは相性がいいのではないだろうか。平岡氏がどのような村をつくるのか、今から楽しみになってしまう。


■みんなでつくるシェアハウス
https://peraichi.com/landing_pages/view/kizunato

■絆家 facebook
https://www.facebook.com/kizunaya/

2016年 08月10日 11時05分