扇風機を爆買いする隣人は実は犯罪者?

扇風機というごく普通の家電が悪用されるとは。聞かなければ想像できない扇風機というごく普通の家電が悪用されるとは。聞かなければ想像できない

モンスター居住者の例として取材前に想定していたのは共用部に勝手に葱(!)を植えたり、駐車場に物置を作ったり、夜中に大騒ぎをするような、旧来の迷惑な人たちだった。だが、現役大家さんとの取材で登場したのは、それどころではなかった。たとえば、大家業を営む傍ら、足立区でリサイクルショップも営む渡辺よしゆきさんが見た入居者は明らかに犯罪者。

「扇風機の配達を頼まれて訪ねてみると、ファミリーが住むような3DKに若い男性ばかりが住んでいるんです。そこに扇風機を最初に10台、追加で15台と大量に配達したのですが、2度目に行った時に玄関からなんとなく室内を覗いてみても、見えるところには扇風機はないんですね。何に使っているんだろうと思っていたら、今度は埼玉に引っ越すんだけれど、また、扇風機を15台ほどお願いしますと注文が入った。いよいよ、謎だと思っていたら、ある日、テレビを見て謎が解けました。犯罪捜査を追いかけたような番組だったのですが、薬物を染ませた木片を乾かして危険ドラッグを作るというくだりがあり、そうか、あの大量の扇風機は危険ドラッグ製造に使われていたのかと」。

締め切った部屋で大量の扇風機が回っている風景を想像すると滑稽ではあるものの、笑っていられないほど危険であるのは言うまでもない。危険ドラッグの成分が締め切った部屋に充満、建具や建材にまで染み込んだまま、次の入居者に引き渡されるとしたら。危険ドラッグ調合に使われる有機溶剤に引火、火事や爆発事故が起こる可能性があるとしたら。恐ろしい話である。

大家さんを脅し、お金をゆするために入居する例も

体験談を語ってくださった大家さんたち。右から川村龍平さん、廣田裕二さん、須山弘孝さん、渡辺よしゆきさん体験談を語ってくださった大家さんたち。右から川村龍平さん、廣田裕二さん、須山弘孝さん、渡辺よしゆきさん

大家さんを脅して現金を巻き上げる例もある。現在進行形でそうした入居者を抱えているという川村龍平さんによると「現金で初期費用を用意してきたので、それを信頼した不動産会社が契約を交わす前に鍵を渡してしまい、入居されてしまいました。ところが、入居する前は『条件通り、いい部屋だ』と褒めちぎっていたのに、入居した翌日からクレームの電話、長文のメールがしつこく来るようになりました」。

その内容は「ロフトが暑くて住めない。光熱費も嵩みそうだが、そんな話は聞いていなかった」「排水口から下水の臭いがする、そのおかげで衣類が下水臭くなった」などなど。空室になっていた部屋の場合、トラップが乾燥してしまい、下水の臭いがすることは確かにあるが、水を流せばすぐに消える。それに入居後1日で衣類が下水臭くなることなどあり得ない。川村さんが反論すると、切れて一方的に大声で怒鳴り散らし、「精神的に被害を受けた、慰謝料を出せ、服がダメになった、迷惑料を出せ」と会話すら成立しないような状況なのだとか。

おかしいと思った川村さんが入居者の提出した書類を調べてみると、勤務先は虚偽。「勤務先住所を調べてみると、そこは住宅で会社自体は架空。最近は勤務先が発行したかのように書類を偽造、保証会社からの問い合わせ電話にも口裏を合わせる商売があるので、それを利用して本当は無職なのに定職があると言って、保証会社を騙したのだろうと思います。昨年年末以降、2~3カ月で住所を転々と変えており、おそらく、こうした手口で入居、大家さんから迷惑料と称して現金をゆすっては引越しを続けているのではないかと思います」。

この手の、最初から家賃を払うつもりのない、大家さんを脅すつもりでの入居者は以前からいるのはいたが、どうやら、このところ、増えている様子。川村さんの場合は男性シングルだが、聞いた中にはファミリーの例もある。ベテラン大家である川村さんは脅しに金を払うつもりなどさらさらなく、着々と退去を迫る段取りを進めているそうだが、お年寄りの大家さんなどであれば、怖くなって払ってしまうこともあろう。かくして、こうした輩が跋扈するわけだ。

不動産会社の選び方が自分の生活を守る

不動産会社が行う管理には建物の維持管理と、入居者の家賃滞納、クレームその他への対応の2種類がある不動産会社が行う管理には建物の維持管理と、入居者の家賃滞納、クレームその他への対応の2種類がある

危険ドラッグを作る隣人が嫌なのはもちろん、延々怒鳴り散らすような隣人もご免こうむりたい。どこに注意したら、そんな目に遭わずに済むか。大家さんたちが大事だと口を揃えるのは不動産会社の選び方である。

一般の人から見ると、不動産会社はどこも同じように見える。だが、賃貸の仲介業務を行っている会社には大きく2種類がある。ひとつは賃貸の仲介だけをやっている会社で、もうひとつは管理も含めてやっている会社である。前者は大家さんに入居者を紹介する会社であり、後者は入居した人がトラブルを起こすなどした場合にも面倒を見なければいけない会社といえば、違いが分かりやすいだろう。もちろん、前者でも入居後の相談に乗ってくれる会社もあり、仲介だけをやっている会社の全部が全部無責任とは言わないが、後者のほうが慎重に入居者を選ぶ傾向があることは容易に想像がつく。

この差は保証会社が増え、利用が一般的になって以来大きくなっていると、須山弘孝さん。「保証会社が保証してくれるからと、審査をしない不動産会社が出てきています。そのため、月収が9万8,000円だというのに家賃7万円の部屋に申し込んだ人を『保証会社がOK出しましたから大丈夫です』と言って入居させようとする、そんな例すら聞くほどです」。

自社で審査をするのが面倒だから保証会社の保証を鵜呑みにするというだけでなく、意図的に契約数を増やそうとして保証会社を利用する不動産会社もある。ご存じのように、不動産会社は契約を成立させることで報酬を受け取る。当然だが、たくさん契約を決めたほうが会社は利益を上げることができる。まして、入居後に何が起ころうと関係がないという立場であれば、どんな人であろうがどんどん入居してもらったほうがうれしい、そう考える会社があるとしても不思議ではない。保証会社も同様である。

さらに、そうした不動産会社を狙って前述したような架空の勤務先あるいは勤めてもいない会社に勤務している形を繕ってくれる会社が出てきている。個人で利用する人もいる。部屋を借りて悪いことをしようと思ったらできないことはない、そんな状況なのである。

面倒に思える厳しい審査が変な隣人を排除する

契約書には勤務先を偽るなどの行為が発覚した場合には契約解除、退去という文言が書かれているものもあり、嘘をついての入居は本人のためにもならない。だが、悪用したい人以外にも、支払える家賃以上の部屋に住みたい、無職である、審査に不利な仕事をしているなどの理由で、違法を承知でそうした会社を利用する人は後を絶たない。

しかし、自主管理をしているなど、経営意識の高い大家さんや、きちんとした審査を行っている不動産会社であれば、その虚偽を見抜くノウハウがあり、変な隣人を入れないでくれる可能性が高い。「最近は公的に収入を証明する書類を出さなくても良いとしている不動産会社もありますが、自主管理をしているなど、しっかりしている大家さんだったら提出は必須。会社経営という触れ込みなのに妙に年収が低いなど、怪しいと思ったら会社の登記簿謄本をあげるなど、自分で調査することもありますね」とは廣田裕二さん。「日本で雑貨を仕入れてアジアで売る仕事をしているという方からの申し込みがあった時には見た途端におかしいぞと。商売の基本は安く買って高く売るなのに、これはそうじゃない。一人で入居と偽って多人数で住むなど、何か違う用途で使おうと思っているんだろうと推察し、お断りしました」。

入居審査で提出しなければいけない書類が多いのは面倒なように思う。だが、自分に厳しい審査は他人にも厳しいわけで、その分、部屋を悪用しようとしている人などを排除できる可能性はある。そう思えば悪いことではないはず。不動産会社を選ぶ時には、管理をやっているなどで入居後にも相談ができる会社か、きちんとした審査をしている会社かを目安にしたいところである。

満足できる部屋探しは不動産会社探しから

集合住宅で暮らす場合には互いにルールを守る必要があるが、入居審査ではそこまでは分からない集合住宅で暮らす場合には互いにルールを守る必要があるが、入居審査ではそこまでは分からない

ただ、管理をしている会社だから、入居時の審査が厳しい会社だからと、それだけで安心するのは早計。管理はしていても、隣人間でトラブルがあった時には知らん顔をするような会社もあり、実際に何をしてくれるかは会社によって異なる。「契約前に物件についてだけでなく、設備が壊れた時、隣人がうるさかった時など、トラブルごとにどこに連絡すれば良いのかなど、管理の内容を聞いておくと良いですね」と川村さん。

というのは、近年、勤務先や年収などと生活態度がリンクしなくなっているため。「不動産業界では大手企業勤務、士業などの社会的認知度が高く、年収もそれなりという人を属性が良いと表しますが、最近はそうした人がイコール社会的なマナーを守れる人とは言えなくなってきています。隣からクレームが出るほど夜中に大喧嘩をするご夫婦が大手自動車メーカーに勤務していたり、航空会社勤務のご家庭でお子さんの虐待疑惑が囁かれたり。入居前の書類審査では見抜けないことも多く、その場合には間に入る不動産会社が誠意を持って対処してくれるかどうかがポイントになってきます」(渡辺さん)。

審査時に厳しいだけでなく、入居後も快適に暮らすためのサポートをしてくれる会社で借りるのがベストというわけだが、部屋探しをしている時には物件の良しあしに気を取られがちで、なかなかそこまで考えが及ばない。「でも、市場に流通している物件の大半はどこの会社でも取り扱えるもの。どうしてもこれじゃなきゃダメという物件があるならいざ知らず、それよりは信頼できる会社選びから始めたほうが、最終的には良い物件、楽しい暮らしにつながるはずです」(廣田さん)。満足できる部屋探しは実は不動産会社探しがポイントというわけだ。

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