大人も子供も熱狂した“リアルトーマス”の迫力

大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』が来る――。
このニュースに対する反響は、予想を超える広がりを見せた。『トーマス号』が運行されるのは、2014年7月12日から10月13日までの55日間のみ。チケット発売直後から予約が殺到し、マスコミが騒ぎ始めた頃には、すでに『トーマス号』のチケットは完売の状況だった。

人気の秘密は、リアリティあふれる『トーマス号』の仕上がりの秀逸さにあった。SL・C11形227号機の車体を青く塗り直し、トーマスの顔を付けると、絵本から抜け出してきたかのような『きかんしゃトーマス』が出現した。大井川鐵道株式会社取締役営業部長・坂下肇さんは、当時をこう振り返る。

「実際にトーマスが走っているのを見たときは、鳥肌が立ちましたね。トーマスの車体が沿線の茶畑の緑に映えて……やはり、写真で見るのと本物を見るのとでは、迫力が全然違います。実を言うと、イギリスのトーマスとはSLの型が少し違うのですが、それでも、お客様の目には十分にリアルだったようです。トーマスを見て一番喜んでいるのは、小学校高学年の男の子と、20代から50代までの大人たち。大人のほうが熱狂的で、子供そっちのけで見ている親御さんも多かったですね」

大井川本線を疾走する『トーマス電車』。まるで、おとぎの国に身を置いているかのような光景が繰り広げられる大井川本線を疾走する『トーマス電車』。まるで、おとぎの国に身を置いているかのような光景が繰り広げられる

トーマス効果による乗客増で、2014年度は黒字に転換

千頭駅構内にいる『ヒロ』(※)に会うため、『トーマス』がイギリスから会いに来たという設定になっている<br>※ヒロは映画「きかんしゃトーマス 伝説の英雄」で登場した日本のきかんしゃ千頭駅構内にいる『ヒロ』(※)に会うため、『トーマス』がイギリスから会いに来たという設定になっている
※ヒロは映画「きかんしゃトーマス 伝説の英雄」で登場した日本のきかんしゃ

“トーマス人気”による波及効果も大きかった。『トーマス号』に乗れない人が通常のSLや電車を利用したため、シーズン中の運賃収入が大幅に伸びたのだ。

「トーマスが走る日は、黒いSLや普通の電車も満席になる。(大井川本線の終点である)千頭駅で開催しているトーマスフェアを見るために、大勢のお客様が他の列車を利用されたのです。フェアの来場者のうち、トーマスに乗って来られた方は全体の2割程度。トーマスに乗れなくてもいいから、トーマスが走っているところを見たい、写真に撮りたいという人が大勢いたわけです」

3期連続赤字を計上し、深刻な経営危機に直面していた大井川鐵道にとって、『トーマス号』の導入は、まさに起死回生の一策となった。“トーマス効果”で、2014年度はようやく赤字経営を脱し、黒字転換となる見込み。この勢いが続けば、2015年度にはさらなる増収増益が見込めるという。

今年の『トーマス号』運行は6月7日から10月12日までの4ヵ月間。土曜・休日や夏休みを中心に、約90日間にわたって運行される予定だ。

「チケット申し込みのメールが、今も1日1,600通のペースで届いています。ただ、『トーマス号』は1日1往復しか運行しないので、1日5,000~6,000人の申し込みに対して、実際に乗れるのは700~800人しかいない。本数に限りがあるので、お客様をどう割り振るかに苦労しています」
そう、坂下さんはうれしい悲鳴を上げる。

最大の課題は「いかにトーマス人気を持続させるか」

千頭ー井川間を走る井川線。『トーマス号』は走らないが、トロッコ列車に乗って南アルプス山麓の絶景が楽しめる。写真は、急勾配の登り下りに活躍するアプト式機関車千頭ー井川間を走る井川線。『トーマス号』は走らないが、トロッコ列車に乗って南アルプス山麓の絶景が楽しめる。写真は、急勾配の登り下りに活躍するアプト式機関車

『トーマス号』によって、見事に復活を遂げた大井川鐵道。自力再建へのメドもついた格好だが、けっして楽観はできない。仮に何らかの事情で『トーマス号』の運行が継続できなくなれば、経営再建の道も閉ざされてしまうためだ。

「『トーマス号』が走る時期はいいのですが、オフシーズンは今も減収が続いています。バス料金の値上げで、バスツアー自体が催行されなくなった影響も大きいですね。会社を続けていくためにも、今後10年は『トーマス号』を続けられるような流れにしたい。最大の課題は、今のトーマス人気をいかに維持するか。トーマスの運行期間を限定している理由の1つは、SLの定期検査を行うためですが、もう1つの理由は、お客様を飽きさせないためなのです」

そのための対策として、大井川鐵道ではさまざまなイベントを計画している。
2015年は、『きかんしゃトーマス』のメインキャラクターの1つである『ジェームス号』を新たに投入。『トーマス号』に加えて『ジェームス号』も満席になれば、乗客数も前年の6万人から10万人強に増える見込みだという。

2015年は『ジェームス号』も登場。企画力でさらなる集客を目指す

大井川鐵道沿線の寸又峡にある「夢の吊り橋」。「トリップアドバイザー」がまとめた「死ぬまでに渡りたい世界の徒歩吊り橋 10」で、世界ベスト10にランクインした大井川鐵道沿線の寸又峡にある「夢の吊り橋」。「トリップアドバイザー」がまとめた「死ぬまでに渡りたい世界の徒歩吊り橋 10」で、世界ベスト10にランクインした

「『ジェームス号』は車両の形式もオリジナルと似ている上に、車体の色も赤と来ているから、見た目のインパクトはトーマス以上。来ていただけた方には、昨年以上に楽しんでいただけると思います」

と、坂下さん。今後も、さまざまな企画やイベントを継続的に打ち出していくという。世界的な人気を誇る『きかんしゃトーマス』を、鉄道観光のキラーコンテンツとして最大限活用することにより、あの手この手で集客を図っていく計画だ。

物語が持つ魔法の力を借り、鉄路を夢の舞台に変えることによって、大井川鐵道は見事に甦った。
一方では、『トーマス号』の成功が起爆剤となり、大井川鐵道の地元である自治体にも町おこしの機運が盛り上がっている。自治体ではトーマス人気を、どのように地域活性化に活かそうとしているのか。次回は、大井川鐵道の地元自治体の1つである、静岡県島田市での取り組みを紹介する。

2015年 03月27日 11時14分