建物そのものの欠格、金銭面の問題など空き家活用には様々な障壁

平成25年度に続き、二度目となる世田谷らしい空き家等の地域貢献活用モデル採択団体の発表と合わせて行われた「空き家・空き部屋等地域貢献活用フォーラム」。「オーナーとの出会いのデザイン」と題された当日のプログラムは三部構成となっており、第一部は空き家等相談窓口のこれまでの取り組み発表から始まった。平成25年7月に開設された同相談窓口の1年半に及ぶ活動で実感されたのは空き家とそれを活用したい地域団体とのマッチングが思っていた以上に難しいということだった。

その困難のうちのひとつは建物の問題。この間に窓口に相談があった物件は39物件あったそうだが、そのうち、窓口対応困難とされた物件が13あり、その要因は建築確認申請無届、無接道、容積超過、共同住宅の窓先空地の不足など。つまり、活用したいという意思があったものの、そのうちの3分の1の物件は建物の欠格から活用できないという結果に。世田谷区に限らず、老朽化した家屋のうちのかなりの部分にはこうした問題があることを考えると、意思があっても活用できないというケースはかなり多いと思われる。

もうひとつは金銭的な問題。マッチング対応をした26物件のうち、8物件は最終的に不成立になっているのだが、その要因は家賃の折り合いがつかなかった、建物を法令に適合させるためのコスト面、心理面の負担が問題となった、家族が反対したなど。世田谷区は比較的家賃水準が高いエリアだけに、地域貢献のために貸すとは言っても、それなりの家賃を期待している人もいらっしゃるのだろう。そしてお金のないNPOなどであればできるだけ安く借りたい。そのマッチングは難しい話である。

そしてもうひとつは、活用を希望する団体の多さに比べ、圧倒的に物件が少ないということ。窓口への相談で見ると、6割が活用希望団体からであり、オーナーからの相談は3割(残りはその他)。もう少し物件が増えてこないと、選択のしようがないというのが現実だと思う。

平成26年度『世田谷らしい空き家等地域貢献活用』モデル採択は障害を持つ子どもたち向けの2団体

今回モデルに採択されたにじこのこは地域で長年地道に活動してきた団体。ずっと継続して利用できる場を探していたとか今回モデルに採択されたにじこのこは地域で長年地道に活動してきた団体。ずっと継続して利用できる場を探していたとか

第一部では平成26年度にモデルとして採択された2団体の発表もあった。今回、採択されたのは障害を持つ未就学児が親子で安心して過ごせる地域の居場所づくりに取り組むNPO法人にじのこ、障害を持つ子どもたちの放課後の居場所づくりを行う一般社団法人凸凹Kidsすぺいす♪。似たような活動を行っている2団体となっており、前回に比べるとやや物足りなさも。物件の掘り起こしだけでなく、モデルへの応募などへのPR活動も必要ということだろう。

続いての第二部では他地域での活用事例としてNPO法人街ing本郷、和のいえ櫻井の活動が紹介された。まず街ing本郷だが、この団体は地域にある複数のNPOその他の地域活動を繋げる役割をしており、活動の主体ではないという、一見分かりにくい立場。そのため、5年前に立ち上げた後、1年間は町会や商店街その他地元の団体を回り、各組織と連携したいと主旨を説明して回ったという。「街のいろいろな団体が連携していないから、やりたいことができない。だったら、それを繋ぐ団体も必要だろうと立ち上げたのですが、でも、そんなの要らないと言われ続け、NPO申請も最初は却下された。しばらくは事務所と2人の職員分の借金が増える一方で辛かったですね」(街ing本郷代表理事・長谷川大さん)。

世代、所属する町会なども違う、でもいずれも地元で長く暮らしてきた商店主5人で始めたNPOで最初に始めたのは買い物難民救済のための宅配。そのための要員ということで大家さんからアパートを借り、学生を入居させる事業も行い、それが発展した形で続いているのが「ひとつ屋根の下プロジェクト」。空き室のある高齢者宅に学生が下宿するというものだ。フランスなどでは一般的に行われているようだが、日本では実験的に始められてはいるものの、あまり例はない。

空き室のある一人暮らし高齢者宅に学生が下宿

左が長谷川さん、右が山田さん。お二人とも地域に密着、様々な人間関係の中で活動をしていらっしゃる左が長谷川さん、右が山田さん。お二人とも地域に密着、様々な人間関係の中で活動をしていらっしゃる

最終的には半年で3例が実現したとは言うものの、「もう少し楽にできると思っていたが、春からスタートして決まったのは冬になってから。意外に難しかった」。高齢者側からの問題は空室はあっても片付いておらず、片づけるのが大変、どんな人が来るのか分からないので怖い、せっかく一人暮らしで気楽にやっているのにまた、食事を作ったりするのは面倒などなど。家族の反対もあった。学生側が躊躇する要因は介護が必要になるのではないか、朝起きて倒れていたら誰の責任になるのかなどだったとか。

しかし、海外では少なからず事例があるにも関わらず、日本で難しいのはどこに問題があるのか、「今年一年はそれを考え、問題を解決できるようなルール作りを考えていきたい」と長谷川さん。文京区には大学が多いが、家賃が高いため、大学から離れた地域に住んでいる学生も多い。一方で一人暮らしの老人も増えている。「うまくマッチングできれば面白いはずなので、一人暮らしの老人宅にこだわらず、シニアと学生の同居を考えていきたいと考えています」。ちなみに同NPOでは現在6~7くらいのプロジェクトが同時並行で動いているそうで、街の情報、人を編集するような作業が軌道に乗ってきた様子。他の街でもこうした動きがあれば、より活性化が進むのではないかと思う。

もうひとつの事例、和のいえ櫻井は古民家を利用した地域貢献を実践している。発端は和のいえ櫻井の修復、運営に携わる山田哲矢さんが15年前に抱いた古民家修復を通じて感じた疑問だったという。「文化財や古民家の修復を手掛けていたのですが、直しておしまいというやり方に疑問を抱きました。使いながら継承する方法はないのかと思ったのです」(山田さん)。

再生古民家に子ども、お年寄りなど多世代が集まり、交流

そこで始めたのが古民家が多く残されていたあきる野市でのアポなし聞き取り調査。家の歴史に加え、どうして古民家に住み続けるつもりにならないかを聞きとりしたそうで、その結果、古民家に住んでいる人は「寒い、汚い、暗いと思っており、中には姑の嫌な思い出がこびりついているという人も。そこで暖かく、明るく、清潔な場所に変えることができれば事業を生み出すことができるのではと思うようになりました。もうひとつ、大事なことは一度リノベしたら、次に手を入れることができなくならないような改修をしようとも思いました」。

そうこうしているところに、先代が亡くなってから5年ほど空き家になっていたという古民家再生の話が舞い込んできた。それが現在の和のいえ櫻井で、ディサービス、学童保育、蔵などを利用したギャラリー運営などが行われており、広い庭を利用してイベントが開かれることもしばしば。多世代が交流する場となっているのだ。また、業者を利用して修理すると1,000万円ほどはかかりそうな蔵の補修は左官職人さんの勉強の場として提供、2年かけてきれいな姿にしたという。

印象的だったのは万人受けする、誰にでも喜ばれる施設にするつもりはない、利用者にはやりたいことを自分で考えてやってもらっているという点。「高齢者施設がバリアフリーになっているのは運営者の安心のため。でも、施設はバリアフリーでも自宅はそうではないから、高齢者は結局、どこかで転ぶ。それだったら段差を残し、年寄りを甘やかさない施設のほうが結果的には年寄りのためになる」。これはたぶん、高齢者のみならず、他の年代の利用者に対しても同じで、運営者がすべてを用意してしまったら、利用者はいつまでもお客さんのまま。それが良いという人もいるだろうが、自分で考えたい、手を動かしたい人にはその機会を与えたほうが、施設に主体的に関わろうと思うようになるはず。実際、和のいえ櫻井の成功を参考に同じような施設が埼玉、千葉でも登場しており、街の活性化に寄与しているとか。一歩先行く空き家活用といえそうだ。

空き家所有者は実は困ってなどいない?

二度目となる今回は具体的な障壁が見えてきた回でもあった。次回、解決への道が少しでも進んでいればと思う二度目となる今回は具体的な障壁が見えてきた回でもあった。次回、解決への道が少しでも進んでいればと思う

第三部はパネルディスカッションとなっており、前出の長谷川さん、山田さんに平成25年度のモデルとして採択されたタガヤセ大蔵プロジェクトの安藤勝信さん、NPO法人せたがやオルタナティブハウジングサポートの井上文さん、一般財団法人世田谷トラストまちづくりの浅海義治さん、そして世田谷区長の保坂展人さんが登壇した。

それぞれ空き家と真剣に向き合っている方々だけに面白い話ばかりだったのだが、そのうちでいくつか印象に残ったことを。ひとつは街ing本郷の長谷川さんの「空き家にしていてもオーナーは困っていないんですよ」という言葉。そうなのである、相続した家、アパートなどが空き家になっていても、現時点では困っていない人は多く、そうした人たちには「空き家をなんとかしなくては」という論議は耳に入らない。もちろん、いずれ困ったことになる確率は高いのだが、そこまでの事態にならなければ空き家論議は他人事なのである。「そこを突いても無駄」と長谷川さん。内心分かってはいても、ズバリと言われたのは新鮮だった。

井上さんが指摘した「空き家が数多くあるからと言って住宅ニーズがきちんと満たせているわけではない」という点も重要だろう。空き家がある一方で条件の悪い住まいに甘んじている人もいるわけで、そこをうまくマッチングすることができれば一番合理的ではないかと井上さん。「公共性の高い事業であり、かつ信頼感も大事。こういうことこそ、行政がやるべきではないか」とも。

最後に保坂世田谷区長の「続けることが大事」というコメントも世田谷区の決意表明として挙げておきたい。モデル、相談窓口はともに順風満帆というわけではないが、それでもこうした事業を通じて空き家を地域に活かすという考えはある程度認知されるようにはなってきたはず。さらに続けて多くの人の耳に届くようにすることが問題解決には大きな力になる。世田谷区では平成27年度も同モデルの募集を行うということだ。詳細は世田谷区または一般財団法人世田谷トラストまちづくりホームページに掲載されている。期待したい。

一般財団法人世田谷トラストまちづくり
http://www.setagayatm.or.jp/trust/support/akiya/index.html

2015年 05月11日 10時55分