新たな多世代交流型のシェアを目指して
注目を集めている“シェア”という居住形態。しかし、今市場にあるのは、若者を中心とした単身者のシェアハウスや、同じ趣味を共有するコンセプトハウスなど、世代や属性が限られたものばかりだ。もっと、シェアにはいろんな可能性があるのではないか?
こうした疑問に新たなハウジングモデルで回答を出そうとチャレンジしているプロジェクトがある。不動産事業を展開する「コスモスイニシア」が住まいのシェア分野の研究に長けた「日本女子大学・篠原研究室」と共同で進めている「COCOLABO 2013(ココラボ2013)」プロジェクトだ。
シェア未経験の単身者や既にシェアハウスに住む居住者にアンケートやフィールドワークを行いながら、新たなシェアの形態を分析。世代やコンセプトを超え、異なるライフステージの居住者を掛け合わせた新たなシェアのカタチ「暮らしシェア」を提案している。
「暮らしシェア」とはどういったものなのか? 昨年の調査フェーズを終え、現在、実現化に向けて進められている「暮らしシェア」構想について、お話を伺ってきた。
矛盾するシェアへのニーズ
今回のプロジェクトで市場調査や新しいシェアモデルを検討した日本女子大学 篠原研究室の篠原聡子教授は、まず“シェア型住居”への考えを次のように説明する。
「日本では戦後、親族関係というものを意識的に整理してきていると思います。その中でかつては家族と一緒に住んでいたものが、ライフスタイルの多様化もあって単身ですごす人が増えてきました。その単身者が集うシェア型居住が今脚光を浴びているわけですが、若い人だけが集まるシェアハウス、高齢者だけが集う施設、といったように世代や属性を超えていません。でもそれは、本来のコミュニティではないと思うのですね。もっと世代を超えて、様々な価値観を持った人々にアクセスできる居住形態を作れないのかというのを常々思ってきました」
そこで、「COCOLABO 2013」では、市場に出ているシェア型住居を分類し、さらに一般ユーザーにアンケート(回答数:現在シェアハウスに住む37人、未経験者114名)やインタビューを行い、シェアのニーズを細かくくみ取っていったという。
この調査の結果から、シェアに対するユーザーの矛盾が見えてきたと説明するのは、篠原研究室の阿部文香さんだ。
「例えば、シェア未経験者では“人間関係が煩わしそう”とシェアに対してネガティブな意見を持つ一方で、“さみしさがない”などの理由からシェアに興味を持っています。また、一緒に住むなら趣味など共通性のある同世代の人間2~3人と小規模でシェアをしたいというニーズがある中で、視野を広げるために多様な交流が欲しいなど矛盾を抱えていました」
さらに、シェアハウスなどの実態を見ていくと、居住期間が短いことも浮き彫りになったという。
「今のシェアは一定期間に限られてしまっていました。1年2年で違うシェアハウスに移り住む。シングルマザーのシェアハウスなどにも調査に行ってみましたが、みなさん子供が中学生くらいになるとシェアからは卒業してしまう。子育て期間はOpenに接しているけどそれが一段落するとまた閉じてしまうそんな現状がありました」(阿部さん)
「別にトラブルがあって移り住んでいるわけでもないんですね。“遊牧民”というか、気軽に違った場所を求めていく。それはそれで“アリ”だと思うのですが、私は住環境において“場所の記憶”や“空間への帰属感”といったものも重要だろうと思います。単一コンセプトのシェア型住居ですとどうしても、長期間そこに住むということはできません。単身者用居住であれば、家族ができた時点で移り住まなければならない。だから今回は、1つの住居で長く移り住めるようなシェアの形態を念頭におきました」(篠原教授)
1つの建物が小さな“まち”に
同研究室が提案した「暮らしシェア」は、矛盾をはらむシェアのニーズに応え、単身向け、ファミリー向けに限らず、ましてや施設でもなくそこに長く住むことのできるシェアモデルを提案する。
「暮らしシェア」では、1つのビルディングに60世帯が共同で生活するモデルを提案。そこには、まず3つの属性が想定されている。「SOHO」「子育て世代」「単身者」がゾーン分けをしながら共生する形だ。これまでシェア住居の定番であったコンセプトや単一属性、単一になりがちな世代を掛け合わせているのが特長だ。
また「暮らしシェア」の住戸では、コミュニティの規模と共有の度合いをS、M、L、LLに区分けしている。Sは4~5世帯でバスやトイレなど水回りのファシリティを共有するグループ。このSグループが集まり20人程度のグループを形成するのがMグループ。Mの集団がいわゆる「SOHO」「子育て世代」「単身者」などのコンセプトをもったゾーンだ。Mグループでは、食事や趣味で集えるようにフロアごとにリビングやダイニングなどを共有。SOHOグループを最下層に設定しているのは、建物全体の見守り役としての意味合いもあるという。
さらに、3つのゾーンが合わさった建物全体のグループがLという区分けになり、ファシリティ的にはカフェやオフィスラウンジ、空中・屋上テラスにランドリースペースや屋上菜園などを配置。またカーシェアリングやイベント、省エネ活動といった建物全体でのプログラムを用意する。LLはさらに建物から外のコミュニティとのつながりを想定するもので、1Fに配置されるカフェやオフィスラウンジが外との接点となる。
つまり、小さな4~5戸のファシリティを共有するグループが集まり、コンセプトをもったゾーンを形成し、さらにそれが地域と開いてコミュニケーションをとり、建物内はもちろんのこと外の世界とも世代や属性を超えつながるのが「暮らしシェア」の構想だ。
建物内で移り住める、長期定住型のシェア?
この構想では、コンセプトを持った「SOHO」「子育て世代」「単身者」のグループを更に細分化しているのがおもしろい。普通であれば、コンセプトカテゴリーでファシリティの共有をまっさきに考えそうだが、なぜあえて細分化しているのだろうか?
「アンケート調査で『誰とシェアをしたいか』を聞いたところ、最も多いのが2~3人という回答でした。水回りをシェアすることに抵抗感を持つ人も多かったため、いきなり大人数で水回りのファシリティを共有するのでなく、まずは属性、生活状況が同じような少人数のグループで共有する形にしています。ただ、『何をシェアしたいか』という質問には「食事や調理、といった回答が目立ったため、キッチンやダイニングスペースは、もう少し大勢の方とのつながりが持てるように20人程度のグループで共有できる内容にしました」(阿部さん)
「調査を進めていく中で、生活のバックボーンや属性が違う方たちをいきなり混ぜ合わせるのは、現実的でないことが見えていました。ですがその一方で意外にみなさん外の地域とのつながりをシェア住居に期待をされている。その両立を図るにはどうしたらいいかということで、小さなグループを積み上げ、段階的にファシリティやサービスを共有し、最終的には外の地域の方々とコミュニケーションをとれるプランを考えたのです」(篠原教授)
こうしたライフステージの違う人々の居住区を1つの建物内で実現する意味合いは、1つの建物の中で移り住める可能性を提示しているという。
「違う世代、属性の人々が近くにいるということは、これから自分が変わっていく状況、またかつて経験してきた状況を見ていけるということです。世代間で経験値の共有もできるだろうし、同じ建物の中で単身者がファミリーフロアに移り住んだり、逆もありえるわけです。長く住むことができて場所との親密さを作れる住まいであることは、コミュニティ形成において非常に大切なことだと思います」(篠原教授)
不動産の資産価値を変える“コミュニティ”の可能性
こうした「暮らしシェア」の提案をうけ、コスモスイニシア 市場・商品戦略部の中島広貴氏は、今回のプロジェクトの具体化が「不動産資産の在り方を変えてゆく」のではないかと説明する。
「シェアというのは、一過性のものではなく、時代に沿ったハウジングモデルだと私たちは考えています。これまでの不動産資産の在り方としては、建物というハードにだけ価値が置かれ、新築時が一番資産価値が高く、年月が経つうちに必然的に目減りしていくものでした。しかし、そこにソフトともいえる「コミュニティ」という価値が入ってくることで不動産に対する資産価値が変わっていくのではないかという気がしています」(コスモスイニシア 中島氏)
「新しいシェアとはなんだろうと考えたときに、様々な世代や属性が混ざる“シェア”は、少子化や相互扶助など社会的な問題を解決する可能性があります。今回、篠原研究室では綿密な市場調査を行っていただき精度の高い提案をいただいきました。それをいち早く市場に出していきたいと考えています」(コスモスイニシア 伊藤祥子氏)
現在、コスモスイニシアでは、これらの調査結果をもとに分譲・賃貸の両面から“暮らしシェア”の具体化を検討しているという。こうした“シェア”物件が実現すれば、住宅はますます“建物”という枠組みを超え、生き方そのものを考えるうえでのトリガーになるのではないだろうか。
2014年 04月12日 16時25分