大阪のど真ん中に漁港誕生

海に囲まれた島国に住む日本人は、刺身をはじめ、煮る、焼く、揚げるなど、さまざまな調理法で魚介類を楽しんできた。海から離れた土地に住んでいても、スーパーや魚屋で魚を購入できるが、漁港で刺身を食べると、日頃食べている魚と全然違うと感じる人も多いのではないだろうか。魚介類のおいしさは、鮮度と深く関わっているのだ。
そんな中、大阪の中心地である中之島に2015年、鮮度にこだわった漁港が誕生したというので、話を聞いてきた。お話を聞かせてくださったのは、スタッフの三宅松治さん。魚の取り扱いはもちろん、調理も担当している。

もともとこの地には何もなく空き地だったが、水都大阪の成長をめざし、公民共通のプラットフォームとして設立された「水都大阪コンソーシアム」から、この土地を有効活用できないかと提案されたのをきっかけに、都会で新鮮な魚を食べられる漁港を開こうと考えたのだそうだ。

生け簀から生きた魚を掬う、スタッフの三宅松治さん生け簀から生きた魚を掬う、スタッフの三宅松治さん

魚のブランド化と、インバウンド観光客への対応

大きなカンパチをつかまえる参加者大きなカンパチをつかまえる参加者

中之島漁港では、魚のブランドを、より多くの人に知ってもらう努力もしている。たとえば、鹿児島県鹿屋市で養殖されている「かのやカンパチ」は、こだわって養育された、脂のりのよいカンパチだが、まだ知名度は高いと言えない。かのやカンパチのおいしさが周知されればブランド化されるし、「中之島漁港にいけば、かのやカンパチが食べられる」と集客効果も見込めると考えているそうだ。
そのほか、鹿児島の恵比寿鯖や恵比寿鰺も扱っており、ブランドの周知と漁港の活性化を図っている。

漁港の客層は、平日は圧倒的にインバウンド観光客が多い。特に台湾からの観光客が多いようだ。
「台湾の観光客は、日本人や日本食が好きで訪れる方が多いように感じます。中国の漁港には、魚を食べる施設がないようで、おいしい日本食を食べるのが目的で漁港を訪れている方が多いのではないでしょうか。また、姿造り目当ての方も多いです」と、三宅さん。会話は英語だが、片言とボディランゲージで意思疎通が可能。食を求める客が多いので「これ、おいしい」だけでも通じるのだとか。目の前で活きた魚がさばかれるのを、動画や静止画で撮影しながら、興味津々で観察している人が多いそうだ。

子供向けのイベントも

金曜日の夜は会社帰りのサラリーマンが増える。10月まで実施しているビアガーデン目当ての客だ。
そして、土日は近隣のファミリー層も訪れる。
「家族連れのお客様は、生け簀を泳ぐ魚を見て、水族館のように楽しんでくださっているようです。泳いでいる魚をその場でさばいて食べられる場所は、そんなにたくさんありませんから、自然学校が、食育の一環として利用されることもあります。子供さんたちに新鮮な魚のおいしさを知ってもらい、魚を丁寧に扱う重要さを認知してもらいたいので、子供向けのイベントも実施しています」
今までに実施されたイベントは、生きた車エビを使ったえび釣りや、カンパチのつかみ取りなど。参加者たちは生きたエビやカンパチが動くのを、興味津々で観察するのだとか。それをその場でさばけば、新鮮な魚介類のおいしさを知るとともに、食べるとはどういうことなのかを感じとるだろう。
カンパチのつかみ取りは二回実施してきたが、かのやカンパチのブランド化を目指し、年に一回ペースで開催できればと考えているそうだ。

また、外国からの輸入が増えた結果、旬を知らない消費者も少なくない。魚の旬とは、一番栄養を蓄えている時期のこと。魚の種類によって、産卵前に脂をしっかり蓄えるものもあれば、産卵後に栄養をたっぷりとる魚もおり、それぞれに旬も違う。漁港で旬の魚を知るのも、学びの一つだろう。
「中之島漁港には、最大200~300尾の魚が泳ぎ回れる生け簀が6基あります。種類も豊富ですから、新鮮な旬の魚を刺身やバーベキュー、鍋などで味わい、そのおいしさを再発見していただきたいと思っています」

子供たち向けに、カンパチのつかみ取りも開催している子供たち向けに、カンパチのつかみ取りも開催している

人の集まりやすい都会の漁港だから、できること

漁港開設にあたって、代表が北海道から鹿児島までひとつひとつ視察し、魚を丁寧に扱っている20以上の漁港と提携を結んだ。しかし、「魚を丁寧に扱う」とは、具体的にどのようなことなのだろうか。
三宅さんに聞くと、「魚の扱いにはいろんなポイントがあるので、一言で説明はできませんが、たとえば、魚が傷つきにくい網を使用したり、網を使わず水から水へ直接移し替えたりといった手法で、いかに魚を傷つけず水槽や活魚運搬車へ移動させているかに注目しています。締め方も大事です。神経締めといって、背骨の神経を針金で抜き取り、死後硬直を遅らせる技法があります。だから、魚の鮮度が保たれやすいんですが、一般に周知され始めたのが最近のため、まだ浸透していません。運搬方法にもさまざまな工夫が試みられていますが、現在のところ鮮度を長持ちさせる手法についての結論はでていません。どの漁港でも試行錯誤の段階ではないでしょうか。どんな魚介類も、死んだ時点から鮮度が落ちていきます。だから私たちは、お店や消費者のみなさんに、生きたままの魚介類を届けたいと考えています」と、説明してくれた。産地直送というだけで満足するのではなく、魚を丁寧に扱うことにより、鮮度を保つ工夫をしているのだ。

しかし、神経締めが鮮度を保つのに有効だとわかっていても、強制はできない。遠回りではあるが、たくさんの人に、新鮮な魚の甘みや舌触り、のどごしなどを味わってもらい、神経締めの良さが広く知られるようになれば、多くの漁港において、締め方の工夫がされるようになっていくのではないかと考えている。そして、消費者自身にも、食べ物を丁寧に扱うことで、おいしさに変化があると知ってもらえるだろう。この点で、交通の便がよく、人が集まりやすい都会の漁港で、新鮮さにこだわった魚を提供するのに、大きな意味があるのだ。

都会の真ん中にあるため、仕事帰りにも立ち寄れる中之島漁港。今後さらに産地との関係を密にし深めていくことで、より新鮮な魚介類を扱っていくという。都会にあっても新鮮さにこだわった魚介が味わえることを中之島漁港に行って確かめてみてはいかがだろうか。

神経締めにより、生きたまま届く魚神経締めにより、生きたまま届く魚

2017年 09月30日 11時00分