人口減少が続く高知県。古民家や空き家をリノベーションして暮らす方々を取材

高知県は、四国の太平洋側にあり、東西に長く広がる県である。太平洋の黒潮打ち寄せる変化に富んだ海岸線や、清流で名高い四万十川、水面が青く美しい「仁淀ブルー」と呼ばれる淵や滝壺をもつ仁淀川、森林率日本一の山々など豊かな自然に恵まれている。
その高知県は、1990年から人口が自然減となり、若者の県外流出が続いている。特にその影響が大きいのが高知県の中でも中山間地域であり、少子化が進むことで「人口減少の負のスパイラル」となっている。

そのため高知県では9年前から、経済の活性化と人口の社会増を目指し、「ちゃぶ台を囲めば、誰とでも家族のように親しくなれる」「心があったかくて親切」という県民性を「高知県はひとつの大家族やき。」というコンセプトをもとに「高知家(こうちけ)」と名付け、プロモーションを行っている。そういったあたたかい県民性を県外に発信し、高知県へのU・Iターン希望者をオール高知でサポートしている。

今回は、高知県の自然や文化を暮らしの中で生かしながら、古民家や空き家をリノベーションして暮らす方々を取材。
そのなかのひとつとして、高知県の東部に位置し、多くの山林がある場所である高知県香美市を訪れた。今回は、香美市の空き家調査員として働き、自らも香美市香北町の中山間集落、築120年の古民家をDIYをして暮らす髙村 境次(きょうじ)さんに、古民家リノベーションのこと、田舎暮らしのことを聞いてきた。

香美市香北町の岩改に立つ髙村さんの家からの眺め。豊かな自然がひろがる地域だ香美市香北町の岩改に立つ髙村さんの家からの眺め。豊かな自然がひろがる地域だ
香美市香北町の岩改に立つ髙村さんの家からの眺め。豊かな自然がひろがる地域だ築120年の古民家購入し、DIYしてご家族と暮らす髙村 境次(きょうじ)さん

髙村さんが「生活を、趣味を、楽しむ場所」として選んだ古民家

香美市香北町は、まちと山の中間に位置し、田舎ながら便利もよい、「程よい田舎暮らし」ができる地域だという。漫画家のやなせたかし氏の出身地でもあり、まちにはアンパンマンミュージアムもある。

髙村さんが暮らすのは、香美市香北町の岩改という地域。のどかな山間の風景が広がる自然豊かな場所だ。その見晴らしの良い場所に髙村さんが購入した家がある。
「この場所を購入したのは今から6年前。3年ほど空き家になっていた450坪の畑付き、農家の古民家です」髙村さんは現在59歳。この家を購入した理由は、ご夫婦でのセミリタイアの趣味と生活の場としてと、現在一緒に暮らす息子さんのためだ。

「夫婦でフルタイムでの共働きを続けていましたが、これからの暮らしを考えて、3年前ほど前からセミリタイアでの生活の場所を具体的に探しはじめました。私がモノづくりや暮らしに手をかけていくことが好きで、趣味の陶芸や蕎麦打ち・畑などができる場所と、息子がいずれは家の離れでも一人暮らしができる場所をというので、敷地や建物など広さもあり、日当たりの良い、そんなにまちからも離れていない田舎、という条件で物件を探したのです」という。

一時は岡山県の物件も検討した時もあったが、やはり高知県内で探そうということになり、空き家バンク等で時間をかけて探し続けた。最終的には、香美市の空き家バンクのHPでこの家をみつけ「山肌の中腹で眺めも日当たりもよく、まちからも近い。元農家なので、蔵や農具の収納小屋、納屋や離れもある。何より築120年もここに建っているということは、土地の安全性もある」という判断で、ほぼ即決したという。

主屋に離れ、蔵などがある昔の農家のつくりの髙村さんの住まい主屋に離れ、蔵などがある昔の農家のつくりの髙村さんの住まい
主屋に離れ、蔵などがある昔の農家のつくりの髙村さんの住まい冬の間の暖房は、薪ストーブが主。軒下には薪が並ぶ

押宇土工房(おしうどこうぼう)と名付けた、髙村さんの未完の住まい

築120年くらいの農家の家、宅地の広さは約160坪、畑も合わせると450坪の土地に建つ。髙村さんは、そこを350万円で購入した。

「しばらく空き家だったこともあり、すぐには住めませんでした。まずは、建物自体の安全と住みやすい空間にするために主屋に手を入れました。建物構造の大切な部分や水回り・配線などは、大工さんやプロの手を借りました。梁、柱、建具など残すべきものは残し、キッチンやお風呂、トイレなど暮らす上で快適性が重視されるところは、新しいものに。せっかく古民家に住むのだから、薪ストーブも設置しました。でも、薪ストーブの床のタイルはホームセンターで、壁の漆喰は最初だけ左官職人さんの手ほどきを受けて、あとは、ほぼ自分で手を入れています」。

広い家の様々なところに手を入れた。リノベーションにかかった費用は、今のところ1,000万円ほどだそうだ。

間取りはほぼそのままに躯体や天井や床など大工などの職人の手を借りるところは借り、</br>壁の漆喰などは自分でDIYをしながらリノベーションをした間取りはほぼそのままに躯体や天井や床など大工などの職人の手を借りるところは借り、
壁の漆喰などは自分でDIYをしながらリノベーションをした
間取りはほぼそのままに躯体や天井や床など大工などの職人の手を借りるところは借り、</br>壁の漆喰などは自分でDIYをしながらリノベーションをした古民家暮らしに合う、薪ストーブを購入。
暖房だけでなく、ストーブの上ではお湯を沸かしたり野菜を干したりと活躍しているという

陶芸家としても活躍する髙村さん。農家の作業場だった場所は、陶芸の工房として、また、蕎麦打ちの場所としてつかっている。蕎麦打ちは、ご近所さんや子どもたちを集めて教えることもあるという。離れは予定通り息子さんの住まいに、また、主屋の横にはピザ窯もつくっている。

農家のつくりをうまく活用して、趣味や暮らしを楽しむ場にリノベーションしている髙村さん。家の下にある畑の横には、髙村さんの住まいを名付けた「押宇土工房(おしうどこうぼう)」の看板がたてられた。

「この土地の名前を入れて、押宇土工房(おしうどこうぼう)と名付けました。まだまだ、家は未完成。主屋の軒下はウッドデッキをつくり、そこで風景を眺めながらお茶やコーヒーを飲む場所にしたいし、崩れていた塀も冬のための薪を貯められる機能も兼ねた素敵な塀につくり変えたい。いずれは蔵も改修して、陶芸のギャラリーにしようと思っています」という。

まだまだ、楽しみながら手を入れる場所がたくさんあるようだ。

間取りはほぼそのままに躯体や天井や床など大工などの職人の手を借りるところは借り、</br>壁の漆喰などは自分でDIYをしながらリノベーションをした左上)欄間の彫は元の民家のまま
右上)襖も元のものを活用。新しい鴨居と少しサイズがずれるのもご愛敬だという
左下)陶芸家でもある髙村さんの作品 右下)旧農家だったため、脱穀機などの農機具も残され、活用しているという
間取りはほぼそのままに躯体や天井や床など大工などの職人の手を借りるところは借り、</br>壁の漆喰などは自分でDIYをしながらリノベーションをした主屋横にはピザ窯もつくっている

ライフサイクルに合わせた住み替えで培ってきた
「今の自分に合った暮らしと住まい」スキル

ここまでの髙村さんの話を聞くと「街で働いて、ずっと田舎暮らしに憧れ、ようやく手に入れた古民家と田舎暮らし」と思う方も多いかもしれない。しかし、髙村さんはこの住まいと暮らしにたどり着くまで、自身のライフサイクルに合わせた数回の住み替えを経験している。

「私はこの住まいも含めて、今まで4軒の家を購入してきました。最初は、20代に建てた親と暮らすための一戸建て、その次は結婚して子どもができたのを機に高知市市街地に16坪の3階建てを。その間にもう1軒、趣味の陶芸をするための家を競売で150万で購入しました。今回は、セミリタイアした時期から、身体が動くまでの大体85歳くらいまでの家かな、と思っています。そのあとは老人ホームかな、と。
生活を切り詰めて貯金をして、借金をして、憧れの大きな家を買って…という住まいの購入は、本当の意味で豊かに暮らせないと思うんです。今の自分の暮らしの目的に合った、身の丈の住まいを探せばいい。私自身、住み替えを繰り返すことで、その経験が重なったことで失敗が減ることを実感しました。その経験の先に、自分たちが次に大事にしたい住まいが見えてくると思います」ということだ。

暮らしもそう、夫婦で働いたセミリタイアまでの貯蓄で年金受給までの期間を計算し、今の生活を無理なく過ごせるように計画を立てていたという。現在、髙村さんは香美市の空き家調査員をしており、香美市の空き家を回って空き家バンク登録を促す仕事をしているが、その給料は「生活費として計算していたわけではないので、私たちにとっては、お小遣いです」という。
住まいの購入の借金や生活のために、お金の心配をしながらあくせく働かなくてもいいように計画的に準備をしていたというわけだ。

主屋横の蔵は、これから手をいれてギャラリーにする予定主屋横の蔵は、これから手をいれてギャラリーにする予定

田舎暮らしは「のんびりはできない」
"どこに暮らすか"より"どう暮らしたいか"が大切

田舎暮らしを楽しんでいる髙村さんに、田舎で暮らすことを考えている人に向けてのアドバイスを聞いてみた。

「田舎暮らしは“のんびりしていいな”という人がいますが、田舎暮らしは、実はあまりのんびりできません。自然と対峙しなくてはいけないし、便利でない分、自分で工夫を繰り返さなければならない。例えば、薪ストーブを楽しみたいと思ったら、冬中使える薪を前年から乾燥させて準備しなくてはいけない。草はすぐ生えてくるし、作物の害虫もいる。畑も果樹園も、手をかけないといけないんです。家が広ければ、メンテナンスやケアをしなければいけない部分も多くなってきます。でも、そういった手をかけ、手を加えつづける暮らしを楽しいと思えたら豊かになる。ある程度の自給自足力はつくし、自給自足部分が多くなれば災害時にも強い暮らしができる。住まいや暮らしに自発的に関与するということは、生活力があがるということなんです」
香美市の名刺とは別に、髙村さんのもうひとつの名刺には、「里山暮らしのアドバイザー」という肩書があった。

ちなみに髙村さんが暮らしている香美市は、高知県の中でも人口の社会増が続いているまれな町だ。自然が豊かな場所だが、高知市からは車で30分くらいであり、空港からも近い。"ほどよい田舎"として人気があるという。空き家が出ても、良い状態のものはすぐに住まい手が決まってしまうらしい。
髙村さんも「田舎に暮らしたいといっても、街の機能から隔絶した場所に住むのは、やはり、リスクが大きいです。自然も豊か、そして買い物や医療などへのアクセスも考えると、香美市は良い町だと思います」という。

髙村さんの住まい選びは「住まいは、考え方・暮らし方を表すもの。どこに暮らすかというより、どう暮らしたいか、を自分なりにじっくり考えることが大切」だと教えてくれる。「自分らしい、したい暮らし」に近づくための移住場所や住まい探しをじっくり考え、無理なく行うことが理想のようだ。

髙村さんの家の下、畑の横には手作りの「押宇土(おしうど)工房」の看板が立てられている髙村さんの家の下、畑の横には手作りの「押宇土(おしうど)工房」の看板が立てられている
髙村さんの家の下、畑の横には手作りの「押宇土(おしうど)工房」の看板が立てられている「手をかけることが好き」という髙村さんの畑。きれいに管理されているのが分かる

■香美市移住支援情報 
https://www.city.kami.lg.jp/soshiki/11-2/ijyusien.html

■高知県セミナー(2022年3月21日)※このイベントは終了しました。
密着スペシャル!多彩なゲストが語る高知の魅力〜高知出身の人も、そうでない人も見ればきっとこうちが好きになる〜

https://kochi-iju.jp/lp/mitchaku-kochi/index.html

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