セレクト土産物店「OMYAGE NAGOYA(オミャーゲ名古屋)」がオープン

取材にご対応いただいた堀江浩彰さんとNPO法人オレンジの会の山田真理子さん取材にご対応いただいた堀江浩彰さんとNPO法人オレンジの会の山田真理子さん

2021年3月6日、名古屋駅の西側、通称、駅西と呼ばれるエリアにセレクト土産物店「OMYAGE NAGOYA(オミャーゲ名古屋)」がオープンした。

ここを手がけたのは、以前当サイトで取材させていただいた複合施設「ホリエビル」を運営する堀江浩彰さん(名古屋駅西エリアで築約50年の空きビルを個人で再生。フリーペーパー専門店などが入る「ホリエビル」の事例)と、駅西を拠点にひきこもり・障がい・貧困をはじめとする社会的孤立状態に置かれた人たちの支援を行うNPO法人オレンジの会。

意外な組み合わせとも思えるが、どうして共同で事業をはじめることになったのだろうか。

名古屋の玄関口で“旅”をコンセプトにした店

ホリエビルがオープンして間もなく、オレンジの会で社会福祉士として働く山田真理子さんと知り合った堀江さん。その縁で、オレンジの会が就労継続支援B型事業所として運営していたパン店のリブランディングを堀江さんが手がけることになり、2019年11月に「包みパイ専門店MEAT PIES MEET」という店ができた。ちなみに、「MEAT PIES MEET」は「OMYAGE NAGOYA」から北へ徒歩7分ほどのところにある。

そのリブランディングとほぼ同時に、山田さんが事務所の移転先と、新しい就労の場ができないかと考えていた建物の活用についても堀江さんに相談。この建物は元旅館で、ホリエビルのほぼ向かいにあり、堀江さんにとっても幼いときからなじみのあるところだった。

話し合いを経て、堀江さんの会社が建物の借主となり、「ホリエビルANNEX」という名称に。「名古屋駅からすぐ近くで、数年後にはリニアの駅も完成する地域。そして元旅館だから、コンセプトは“旅”で、お土産のお店にしよう」という堀江さんのアイデアで、1階のショップが決まった。販売する土産物は、東海地区に暮らす作家やアーティストの作品とオリジナル商品という、ここでしか買えないもので特色を出す。

1階がOMYAGE NAGOYA、2階はまだ未活用だがOMYAGE NAGOYAで販売している刺繍アイテムの工房が毎週土曜のみショップとしてオープン。3階はオレンジの会の事務所が入る1階がOMYAGE NAGOYA、2階はまだ未活用だがOMYAGE NAGOYAで販売している刺繍アイテムの工房が毎週土曜のみショップとしてオープン。3階はオレンジの会の事務所が入る

空間は東海地区の建材を活用

ホリエビルとほぼ同じ、築50年ほどの古いビル。リノベーションは、ホリエビルも担当したデザインスタジオBouillon(ブイヨン)に依頼した。

かつて取材したとき、リニアができることで新しい施設が立ち並び「個性がないまちに急に様変わりしていくのも面白くないかも」と、古いビルを活用することについて語っていた堀江さん。その思いは今も変わらず、今回のビルもレトロな趣を醸し出すタイル張りの外観は、ほぼ残すことに。そのほかに伝えたのは「東海3県の土産物を売る店としてふさわしい面構えであることで、そのうえで基本的にお任せとしました」とのこと。

もともとあったタイルを残した外観が、まちの歴史を物語る。堀江さんの会社のデザイナーが考えたロゴは、家紋をモチーフにして、大松旅館という元の旅館の名前からとった松と、お土産の絵を入れているもともとあったタイルを残した外観が、まちの歴史を物語る。堀江さんの会社のデザイナーが考えたロゴは、家紋をモチーフにして、大松旅館という元の旅館の名前からとった松と、お土産の絵を入れている

そして出来上がったのが、地元の建材や家具を使った空間だ。床は、愛知県の三河地区で作られ、石州瓦、淡路瓦と並ぶ日本三大瓦の一つともいわれている三州瓦(さんしゅうがわら)のレンガが敷き詰められている。天井部やカウンターなどに使われた木材は、愛知県産のスギ材。照明は、岐阜県の伝統的工芸品である岐阜提灯をオリジナルデザインで設えたものや、愛知県を代表する焼き物産地の一つである常滑焼のランプシェード。店舗奥に併設した、ぱんじゅう店のタイルは愛知県常滑市の会社、INAXのものだ。

地元で作られる建材やアイテムが、東海地区の土産物を販売するにふさわしい雰囲気を生み出している。

もともとあったタイルを残した外観が、まちの歴史を物語る。堀江さんの会社のデザイナーが考えたロゴは、家紋をモチーフにして、大松旅館という元の旅館の名前からとった松と、お土産の絵を入れている床に敷き詰められたレンガや、岐阜提灯の職人が作ったオリジナルのランプシェード、スギの木材などが調和した店内。岐阜提灯のランプシェードには、ユネスコ無形文化遺産に登録された手すきの美濃和紙が使われている
もともとあったタイルを残した外観が、まちの歴史を物語る。堀江さんの会社のデザイナーが考えたロゴは、家紋をモチーフにして、大松旅館という元の旅館の名前からとった松と、お土産の絵を入れている常滑焼のランプシェード

地元作家や企業への棚貸しで建物維持の助けに

店内を見渡すと、スギ材でできた棚が並ぶ。これはレンタルボックスで、1マス1ヶ月3,500円で2ヶ月から貸し出し、販売手数料20%で作品や商品を置くシステムにした。

「地域の作家さんや企業に出店していただくことによって、その方たちを通してここの宣伝効果のアップが期待できることと、当初の48マスから最終的に60マスとなりましたが、その分の賃料が建物の維持につながるだろうと考えました」(堀江さん)

お土産品として、レンタルボックスに地元の作家、アーティストの作品や企業の商品が並ぶお土産品として、レンタルボックスに地元の作家、アーティストの作品や企業の商品が並ぶ
名古屋名物のはんこなど店オリジナルの商品もあり、それを作るのがオレンジの会利用者の仕事にもなっている名古屋名物のはんこなど店オリジナルの商品もあり、それを作るのがオレンジの会利用者の仕事にもなっている

オープン前には施設を知ってもらう手段としてクラウドファンディングを実施して目標額を達成し、着々と準備を進めていた。リニア開通を控えて、駅西エリアでは再開発が進んでおり、新たなビジネスホテルも次々と誕生しているので、需要も見込める…はずだった。だが、コロナ禍のオープンとなり、緊急事態宣言や県独自の厳重警戒宣言が続いて、いつもなら人出が多いはずの名古屋駅周辺はガラリと雰囲気が変わってしまった。観光客はおろか、名古屋市内から訪れる人も少なく、同店でもその影響を多大に受けた。

売り上げはオープンから右肩下がり。その状況でレンタルしてもらうアピールはしづらかったが、人出が戻るようになって10月にようやく前月よりプラスに転じたそうで、これからの盛り返しに期待がかかる。

お菓子も名物にして集客

あんこがね(写真右)は、1串のほか、8個入り440円でも販売。また、「MEAT PIES MEET」のミートパイも取り扱うあんこがね(写真右)は、1串のほか、8個入り440円でも販売。また、「MEAT PIES MEET」のミートパイも取り扱う

もう一つ、看板商品としているのが、OMYAGE NAGOYAに併設する形にした「創菓令和元年 たつの屋」という店舗で製造する「名物あんこがね」と名付けたお菓子。モチーフとしたのは、ぱんじゅうという小麦粉を用いた生地であんこを包んだもの。北海道や栃木に同じ名称のものがあるが、東海地区では三重県津市や伊勢市の銘菓になっている。堀江さんの好物の一つで、もともとはパン店のリブランディングの際に候補にしていたものを、ここで採用した。

「例えば東京の浅草では人形焼きだったり、せんべいだったりを売りながら雑貨も売っていて、温泉街でも見かけますよね。そんなイメージでした」と堀江さんは語る。お年寄りにも食べやすいサイズで、1串(2個)で110円と小学生でも購入しやすい金額設定にし、名物として観光客にも地元の人々にも楽しんでもらうことを目指す。

空間造りのときに、たつの屋の焼き場を手前にする案もあったが、そうすると土産物店の印象が薄くなってしまうことと、オレンジの会利用者の就労の場でもあることから、厨房のスペースを確保するためもあって店舗奥に配置した。

あんこがね(写真右)は、1串のほか、8個入り440円でも販売。また、「MEAT PIES MEET」のミートパイも取り扱う店の奥に併設した、あんこがねを製造・販売する「たつの屋」。OMYAGE NAGOYA店内に2席のイートインスペースも用意されている

地域や観光客をつなぐ、まちの交流拠点に

OMYAGE NAGOYAは、引きこもり傾向にある方々が地域と関わりを持つ場所でもある。山田さんは「私たちは“居場所”という機能を支援の中でずっと大切にしています。会の利用者さんは、人といることに慣れるような場所にはじまり、就労へと進むことを目指しますが、一息にいくと続けられなくなる方もいます。ここではオレンジの会が直接雇用しているわけではありませんが、一見するとほぼ普通のお店なので、実際の就労よりは少しハードルが下がった、練習ができる場所でありつつ、まちとちゃんとつながっています。そういう安心して働ける場所を、まちに作っていくのが私たちの課題と思っています」と語る。

オレンジの会のように自前の店舗を他業種と協働していくつか持つことは、ほかにも全国で取り組んでいるところがあるそうだ。堀江さんとの共同運営という形によって、「まちにちゃんとつながって外に協力してもらえる、本当に強力なサポーターを得て、私たちNPO法人が法人のなかで活動している以上のエネルギーが使えたんじゃないかな」という。

古いビルをまちの特徴に合わせて活用し、まちの活性化を図る。地域そのものとだけではなく、地域やそこで働く人々、また観光客との交流拠点として、これから本格的につながりの輪が広がっていく。

取材協力:OMYAGE NAGOYA https://omyage.shop/

「Iwappen(イワッペン)」というブランドのワッペンもおすすめアイテム。エビフライや手羽先といった名古屋名物をかたどったものから、ライオンやペンギンなどのかわいい動物もそろう。毎週土曜にビルの2階で好きなワッペンをつけてオリジナルTシャツを作れるイベントを開催しているが、リニア開通の頃には、2階の空きスペースを間借りショップとしてレンタルできるようにする構想もあるそうだ「Iwappen(イワッペン)」というブランドのワッペンもおすすめアイテム。エビフライや手羽先といった名古屋名物をかたどったものから、ライオンやペンギンなどのかわいい動物もそろう。毎週土曜にビルの2階で好きなワッペンをつけてオリジナルTシャツを作れるイベントを開催しているが、リニア開通の頃には、2階の空きスペースを間借りショップとしてレンタルできるようにする構想もあるそうだ

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