リノベ展示や家具・グリーンにカフェ。暮らしのヒントを盛り込んだ施設
2019年1月、大阪市港区築港に、築66年のレトロビルをリノベーションした複合施設「KLASI COLLEGE(クラシカレッジ)」がオープンした。
「リノベーションのある暮らしを学ぶ」をテーマに、リアルなリノベーション空間を体感できるショールーム、インテリアパーツやグリーンを販売する店舗のほか、コーヒースタンドやカフェを併設し、「暮らしのヒントが詰まった学校」のような施設を目指す。
運営を手掛けるのはリノベーション会社・美想空間。代表の鯛島康雄さんは「KLASI COLLEGE」を呼び水として、このエリア一帯の活性化を目論んでいる。
大阪近代港湾発祥の地、築港・天保山。観光化の一方で商店街は地盤沈下
「KLASI COLLEGE」のある築港・天保山エリアは、大阪メトロ中央線・大阪港駅を中心とする、半径3キロほどの島状の地域だ。大阪における近代港湾発祥の地であり、観光地としても長い歴史を持つ。「天保山」とは、天保2(1831)年に行われた安治川の浚渫によって川底からさらわれた土砂で築かれた山で、現在の標高はわずか4.53mだが、江戸時代には約20mほどあり、花見や船遊びの客で賑わったという。
物流拠点としてのピークは昭和30〜40年代の高度経済成長期だったが、バブル期のウォーターフロント開発によって1990年に「天保山マーケットプレース」「海遊館」がオープン。約30年経った今も、「天保山マーケットプレース」に年間600〜700万人、「海遊館」に年間230〜240万人の来場者がある。これは、沖縄美ら海水族館に次ぐ数字という。(大阪市港区「築港・天保山まちづくり計画」2018年による)
しかし、人の流れが観光施設に偏ることで、まちのバランスは崩れてしまったようだ。メインストリートを挟んで北側の海遊館方面は賑わっているのに、南側の商店街にはシャッターが目立つ。「かつては港湾や物流に携わる人々で大盛り上がりだったと聞きますが、今ではすっかり元気がなくなっています」と、鯛島さんは語る。
美想空間は、4年前からこの築港・天保山エリアでカフェを運営している。鯛島さんはその過程で、このエリアの魅力と課題に関心を持つようになったそうだ。地元のまちおこしグループとも接点ができ、たまたま聞き及んだのが、現在「KLASI COLLEGE」が入居するビルの取り壊しの噂だった。
「更地にして駐車場にするらしい、もったいないね、と嘆く声を聞きつけて、何の気なしに見に来たら、そのレトロな雰囲気に、すっかり惹き付けられてしまいました。幸い、持ち主の理解も得られて、借り受けることになったんです」と鯛島さん。
建物は戦後間もない昭和27(1952)年に建てられ、増築を繰り返している。床レベルも構造も異なる3棟がつながった、複雑な構成だ。最も古いのが鉄筋コンクリート造2階建てのA棟、そこに鉄筋コンクリート造3階建てのB棟が接続し、さらに鉄骨造2階建てのC棟が続く。全体の面積は約1300m2に及ぶ。
外から集客するだけでなく、地域の人々にも貢献できるテナントを誘致
リノベーションにあたって鯛島さんが考えたのは、前述の「暮らしのヒントが詰まった学校」というコンセプトに加え、地元の人々にいかに貢献するかということだった。
「付近にある飲食店は観光客向けで、地元で働く人が日々のランチをとるには割高でした。そこで、リーズナブルな価格でおいしいごはんを提供したいと考えた。さらに、自家焙煎のコーヒーも提案することにしました」。
「KLASI COLLEGE」A棟1階にはまず、美想空間が運営するカフェ「FUN SPACE DINER」と「かもめ焙煎所」がオープンした。「美容院を誘致したのも、地元に必要だと感じたからです」と鯛島さん。
もちろん、本業のリノベーションとインテリアにも力を入れる。リアルなリノベーションショールームとして、館内にリビングとダイニングを施工。テーブルやライト、カーテンなどインテリアコーディネートを含めた展示を行う予定だ。
「無垢板の家具を提案するショップや、アメリカ西海岸にあるようなアンティークモールもオープンしました」。
見通しのいい屋上には、以前から美想空間と協業するグリーンショップ「NOOSA」がミニ植物園をつくる。「通りの向こうに水族館(海遊館)があるから、こちらには植物園を」と鯛島さん。ピザ窯を設置し、カフェのテラス席も用意するという。
空き家を活用した分散型宿泊施設「まち宿」を構想。第一歩は銭湯改修から。
「KLASI COLLEGE」オープンを目前にした2018年12月、美想空間は大阪市港区と連携協定を結んだ。「KLASI COLLEGE」によって地域活性化に取り組む姿勢を評価した港区が、行政としてのバックアップを宣言する協定だ。「協賛や指定管理としてではなく、僕たち独自の事業としての取り組みを区が認めてくれたことが大きい。地域の家主さんたちの理解を得るための後ろ盾になります」と鯛島さん。
集客施設としての「KLASI COLLEGE」に次いで美想空間が目指すのは、築港・天保山エリア一帯を回遊してもらう拠点としての「まち宿」の展開だ。
「このまちにはせっかく大勢の人が来てくれるのに、滞在時間があまりにも短い。せいぜい海遊館で遊んでランチをとるぐらいです。じっくり回遊してもらうためには、宿泊施設が必要だと思います。ただ、それには僕たちだけでは力が足りません。付近には風情のある空き家がたくさんあるから、志ある人に参入してもらって、分散型の宿泊施設をつくりたいと考えています」
そのためにはフロント機能を担う「KLASI COLLEGE」のほかに、入浴施設が必要になる。
「簡易宿泊所の許可を取るための、最大のハードルがお風呂なんです。このまちには7年前に廃業した銭湯がある。まずここをリノベーションして再開する予定です。オーナーの了承はいただけたし、区も支援してくれています。あとは資金繰りだけ。区も巻き込んだクラウドファンディングを考えています」
築港・天保山エリアの対岸にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンがあり、2025年には大阪で国際博覧会の開催も決まった。可能性に満ちた大阪湾岸に新しい風を吹き込むことができるか。美想空間の「まちリノベーション」は始まったばかりだ。
■取材協力:
KLASI COLLEGE https://www.klasicollege.com/
2019年 04月25日 11時05分