公的施設の建築・運営と地域の活性化をPPP/PFIで

2021年9月17日、国土交通省主催の「官民連携推進講演会」がオンラインで行われた。講演会では4件の官民連携事例が紹介され、関わった自治体、民間企業、金融機関がそれぞれ取組みを語った。
本稿では、それぞれの立場が官民連携で得られた効果や、導入に対する課題を、事例を通して考えたい。

最初の事例は、石川県野々市市の「中央地区整備事業」だ。金沢市に隣接する野々市市の中央地区は、市役所の移転や大型スーパーの閉店などで活気が乏しくなったうえに、2008年の県立養護学校の統廃合によって生じた未利用地の活用、図書館や公民館の老朽化といった課題を抱えていた。

課題の解決と地域の活性化のために、市では図書館を中心とした文化交流拠点施設と、公民館を中心とした地域中心交流拠点施設の整備を計画。その建設と運営をPFI方式で行うことに決定する。
PFIとはPrivate Finance Initiativeの略で、民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や運営を行う事を指し、PPP(Public Private Partnership=官民連携)の手法のひとつだ。

野々市市は、中央地区整備事業のためにつくられた特別目的会社(SPC)である野々市中央まちづくり株式会社とPFI事業契約を結び、SPCから建設や運営を各企業に業務委託するという形を採用。金融機関との契約は、野々市市、SPCがそれぞれ行った。

野々市中央地区整備事業における事業体系図。SPCが各企業と業務委託契約を結ぶ野々市中央地区整備事業における事業体系図。SPCが各企業と業務委託契約を結ぶ

2014年1月の検討委員会の設置からスタートした事業は、市民参加の新図書館フォーラムや、子どもたちの工事現場見学会などをはさみながら進み、2017年11月に、文化交流拠点施設の「学びの杜ののいちカレード」が開館。2019年4月に地域中心交流拠点施設の「にぎわいの里ののいちカミーノ」がオープンした。

カレードにある新図書館の入館者が、旧図書館の約8.6倍になるなど、両施設には想定を上回る人が訪ね、中央地区の休日の滞在人口は増加に転じた。事例を紹介した同市生涯学習課の山崎京子氏は「金沢市のベッドタウンというイメージから、グレードアップしたように思います」と、市が事業から得られた効果を説明した。

野々市中央地区整備事業における事業体系図。SPCが各企業と業務委託契約を結ぶ旧図書館の入館者5万8,365人(2016年度)から、約8.6倍となる50万2,450人(2018年度)の入館者を記録した野々市市の「カレード」
野々市中央地区整備事業における事業体系図。SPCが各企業と業務委託契約を結ぶ「カミーノ」も旧公民館の利用者数を上回り、成果指標をクリア

将来にわたって持続可能なインフラにするために

三条市 建設部建設課 吉澤覚氏三条市 建設部建設課 吉澤覚氏

次の事例紹介は、新潟県三条市。同市が取組んでいるのは、既存のインフラの維持管理業務の一部を民間事業者が行う「包括的維持管理業務委託」だ。市道や橋、街灯、公園の遊具や植栽、ポンプ場といった三条市のインフラには、建設から40年近くが経過して老朽化が進んだものが少なくない。ところが、建設業の従業員や市役所職員は減少していて、今後のインフラの維持管理に支障をきたすおそれが生じてきた。こうした状況の中で、インフラを将来にわたって持続可能なものにする方策の検討が2014年から始まり、有識者、市民、建設や電気、造園などの業界代表が参加する検討会などで議論を重ねた結果、決まったのが維持管理業務の包括的民間委託だった。

事業者の選定は公募型プロポーザル方式で行い、建設会社、造園会社、電気工事会社からなる共同企業体が業務を受注した。2017年から第1期の包括的民間委託が、中心市街地でスタート。現在は第2期の事業が、中山間地などに対象エリアを広げて実施中で、2024年からは第3期の事業を全市で行う予定だ。

道路の維持管理に対する市民の満足度の調査結果は、包括的民間委託を導入している地区と、未導入の地区で大差はなく、包括的民間委託でも管理の水準は維持できているというのが市の見解だ。また、事業者に包括的民間委託への参加意欲をたずねた調査では、「とてもある」「ある」の合計が約半数に達し、今後の事業継続や拡大に期待が持てると、同市建設部建設課の吉澤覚氏は展望している。

三条市 建設部建設課 吉澤覚氏包括的民間委託導入地区と未導入地区(市役所の管理)で、満足度の差は見られない
三条市 建設部建設課 吉澤覚氏約半数の事業者が参加意欲を示すことから、三条市は包括的民間委託の拡大を期待している

建設会社が経験したPFI事業と、その効果とは

続いての事例紹介は、民間事業者の立場から行われた。加和太建設株式会社は、静岡県三島市に本社を置く建設会社。同県の函南町が実施した道の駅のPFI事業に参入した。代表取締役の河田亮一氏によると、事例は道の駅の整備・運営を行うもので、同社としては施設の建設に参加できればいいと、当初は考えていたそうだ。しかし、地域活性化の施設にもかかわらず、運営に手を上げる企業がないことから、河田氏は「施設の運営の経験はないが、地元企業として応募する必要がある」と考えるようになる。そこで、建設コンサルタントの情報やノウハウをもとに、応募や運営時のリスクを検討するとともに、新しい事業に参入する魅力なども考え合わせた結果、覚悟を決めて応募した。

応募にあたっては、SPCの組み合わせ、提案書類の作成、約23億円の総事業費の按分などの点で、経験がないことから戸惑うこともあったが、建設コンサルタントのサポートなどで乗り切った。そして、受注決定後は、施設の運営に必要な人材の採用業務や、地域住民への情報発信などに力を入れた。2017年にオープンした道の駅は、コロナ禍までは、年間約170万人の利用客があり、年間60万人から70万人という想定を大幅に上回っていた。

PFI事業への参入について、施設の運営に携わることができる人材が入社したこと、道の駅と同様の案件や本業の建設工事の引き合いが増えたことを、河田氏は効果と総括している。道の駅オープンから売り上げは約1.4倍伸び、社員は100名増を記録。会社の成長につながっている。

加和太建設が代表企業を務めたPFI事業で整備・運営される「道の駅 伊豆ゲートウェイ函南」加和太建設が代表企業を務めたPFI事業で整備・運営される「道の駅 伊豆ゲートウェイ函南」
加和太建設が代表企業を務めたPFI事業で整備・運営される「道の駅 伊豆ゲートウェイ函南」PFI事業は、通常の公共事業とは異なり計画段階から参加する

小規模自治体に必要なPPP/PFIプラットフォーム

沖縄振興開発金融公庫 調査部地域連携情報室 伊志嶺朝彦氏沖縄振興開発金融公庫 調査部地域連携情報室 伊志嶺朝彦氏

最後は、沖縄からPPP/PFIプラットフォームについての報告だった。沖縄地域PPP/PFIプラットフォーム(代表機関:沖縄振興開発金融公庫、沖縄県、沖縄電力株式会社)は、沖縄振興開発金融公庫の主導で、2018年から活動を開始。セミナーや勉強会などを通じて、県内自治体からの参加者などと連携、情報や事例の共有などに努めている。また、内閣府・国土交通省とPPP/PFI地域プラットフォーム協定を締結し、自治体向けの支援制度などの最新情報を取得できるようにしている。

沖縄県に多い小規模自治体では、職員が少ないので、行政サービスにおける官民連携の必要性は高いが、PPP/PFIの専門家や組織などがないために、相談することも、PPP/PFI手法の採用が妥当かどうかの判断もできないという。こうした地域こそ、PPP/PFIプラットフォームの役割は重要と、同公庫調査部地域連携情報室の伊志嶺朝彦氏は強調。官民連携の導入に対する課題と、その打ち手を示した。

財政の逼迫や人員の不足といった理由から、公共施設の整備や運営などを民間と連携して行うことに関心のある自治体は少なくないだろう。国もPPP/PFIの推進には積極的だ。一方で、「PPP/PFIは魔法の杖ではありません」と、事例紹介の中で伊志嶺氏が戒めたように、官民連携ですべてが解決するわけではないが、一方で安易な期待があるようだ。

住民の間にはPPP/PFIに対する誤解もあり、講演会では事例紹介に先立って、東洋大学教授の根本祐二氏が「PPP/PFIの誤解を解く」と題して基調講演を行った。PPP/PFIに対する安易な期待も誤解も、知識や情報不足が招くもの。PPP/PFIに関わるそれぞれの立場の生の声を聞くことで、効果と現状を知ることができた。講演会は、このような粘り強い情報提供の必要性を教えてくれるものだった。

沖縄振興開発金融公庫 調査部地域連携情報室 伊志嶺朝彦氏自治体、民間企業、金融機関それぞれが効果を感じられる、事業の設計や推進が大切だ

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