一枚板のテーブルを検討する人が増えている
私たち消費者が商品を選ぶ基準は何だろうか。ここ数年でサスティナビリティへの意識が高まり、私たちの商品選びの基準は変化しつつあるように思う。一番身近なのは「食」への意識だろう。フードロスや地産地消に心掛けるとか、コロナ禍にあってさらに意識が高まったという方もいるのではないだろうか。住環境もしかり。高断熱性能、省エネ・創エネなど環境に配慮した設備に投資する人が増えている。
「家具の選択にも意識の高まりは見られます」と話してくれたのは、名古屋市守山区にある有限会社みずの家具の代表取締役社長・水野照久さん。代々家具店を営んできた水野さんは、消費者の意識はここ数年で変化してきていると話す。
「長く使えるいいものを購入したいという人が増えました。特にリビングの顔となるテーブルには、一枚板の天板をとこだわって探していらっしゃる方が多いです」。家を建てる、またはリフォームに合わせて一枚板のテーブルを購入するケースが増えているという。
生育環境により色や形、木目が違い、同じ木から切り出したとしても一つとして同じものはない一枚板。使っていくうちに付いた傷までも、味わいとして馴染んでしまう懐の深さも魅力のひとつだろう。水野さんによると、5年ほど前から一枚板のブームが来ているという。
廃棄される天板を再活用する「rewood」の立ち上げ
面白いことに、一枚板を使う文化は日本特有の文化らしい。「海外では突板(つきいた)といって薄くスライスした板を使い、木目をきれいに揃えて仕上げるテーブルが主流。無垢材を使うというのは、まれに中国では見かけることはありますが、それ以外の外国ではめったに見かけません」(水野さん)。
水野さんによると、最初のブームは1980年~2000年初頭にかけて。「重厚感のあるどっしりとした一枚板の天板を使った座卓が流行った」そうだ。
実はこのころに流通した一枚板のテーブルが、再燃するブームとは裏腹に廃棄されているという。「当時は、艶のある塗装で高級感を演出した座卓が多く、それらは今の時代にフィットしないのです」(水野さん)。
水野さんはこうした現状を受け、貴重な天然木の天板が廃棄される現状をなんとかしたいと一枚板を再生活用するためのブランド「rewood(リウッド)」を2016年に立ち上げた。
5年にわたる活動の中で買い取ってきた天板は1,000枚を超えた。
端材を使ったミニテーブル作りのワークショップ
今回は、みずの家具のショールームで開催された「rewood」の端材を使ったミニテーブル作りのワークショップにも密着させていただいた。まずは、参加者に向けた水野さんの挨拶を紹介しよう。
「今回みなさんに使っていただく木材は、廃棄されるはずだった家具の一部です。一枚板のテーブルがブームになった20年~40年ほど前、テーブルを作るために樹齢100年、200年の希少価値の高い木々が伐採されてきました。人間の勝手な都合で乱伐されてきたんですね。
ところがブームが過ぎ去ると、不要になった一枚板は行き場をなくしてしまった。捨てるのは忍びないから引き取ってもらえないかという相談も多く受けるようになりました。僕ら家具屋はこうした一枚板を引き取り、『rewood』というブランドとして新しい家具や建材に再生させる取り組みを始めました。
今回みなさんに使っていただくのは、そういった一枚板を再生させる過程で出た端材となります。触り心地、木目、すべて1点もの。貴重な資源を使っているということを頭の片隅にちょこっと置いてもらって、ミニテーブル作りを楽しんでもらえたらいいなと思います」
自分がこれから作るミニテーブル。材料となる木材が辿ってきたストーリーを知ると、ワークショップの価値もまた違ったものになるだろう。
五感で木を感じながら自分好みの天板に仕上げる
ワークショップは、①材料選び、②削り、③オイル塗料塗布、④脚の取り付けの4工程でテーブルを完成させる。
参加者は材料選びが一番ワクワクしたのではないだろうか。コブのあるもの、溝や節穴がある個性的なものから、色白やピンクっぽく色づいた木材など、1つとして同じものはない。自分好みの板を選んだら、まずは表と裏を決め、あとは表面や角をひたすら削る作業に。
参加者が紙やすりで木材を削り始めると、たちまちあちらこちらで「木のいい匂いがする」と声が上がる。「手触り、香りなど五感で木を感じてください。今の時代、大人も子どももなかなかそういう体験ってできないですからね」と水野さんは参加者に声をかける。木の香りにはフィトンチッドと呼ばれるリラックス効果や森林浴効果をもたらす物質が含まれている。多くの人が心地良い気分に浸りながら作業を進めていたようだ。
工程の半分ほど、1時間近くかけてテーブルの表裏を研磨したら次はオイルを塗りこんでいく。今回はドイツ・オスモ社の自然素材の塗料を使用。水野さんによると、木がしっとりするまで3回ほど重ね塗りをするのがいいとのこと。丁寧に塗り込むと、木材によっては「斑(ふ)」と呼ばれる模様が出てくることも。
オイルがしっかりと染み込んだら、最終工程の脚付け作業に取り掛かる。円筒形の木製の脚か、折りたためるアイアン製の脚のどちらかをセレクト。水野さんはじめスタッフらの手ほどきを受け、全員見事に完成させていた。
一台一台表情の違うテーブルが完成
今回行われたのは「大ナゴヤツアーズ」が主催したワークショップで、2021年9月12日に開催されたもの。8月1日にHPで募集をスタートし、19日には定員に達したという。同ツアー担当の菅原さんは「予想以上のスピードで定員が埋まりました」と話していた。
今回の参加者は全員「大ナゴヤツアーズ」のリピーターということにも驚く。1人でも気軽に参加できるところも人気の理由なのだろう。今回の参加者に伺ったところ、「体験がモノとして残るというのがいいなと思った」とか、「コロナ禍でおうち時間が増えて、創作欲求というか何か作りたいという気持ちになったので」という人、子ども連れの方は「学校行事も遊びも全部中止になってしまった中、子どもでもできそうなイベントだったので参加しました」といった声が聞かれた。
和菓子店、老舗料亭、猟師、陶芸家など地元で活躍する人やモノに焦点を当て、発見や感動を創出する「大ナゴヤツアーズ」。毎回オリジナリティあふれる切り口が魅力だが、今回が初となる家具店とのタッグも大盛況だったようだ。
「大ナゴヤツアーズ」については何度か取材させていただいたので、興味がある方はこちらも参考にしてもらいたい。
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どこの何を使っているのかを考えることが大切
今回のミニテーブル作り。天板に使用した木材は一枚ずついろいろな表情があった。自然が作り出した形状や木目など、一枚板の独特の風合いはまさに自然の恩恵。小さなテーブルひとつとっても、木材が成長してきた過程や背景を想像すると大切に使い続けたいと思えるのではないだろうか。
「生態系とか環境保護とか大きな話はわからなくても、自分の身の回りのものがきちんと循環されていればいいんです。そういう暮らしをみんなで目指していけたらいいなと思っています。新しいものを買うことがいけないわけじゃなくて、どこの何を使っているのか、どこから買うのかということをきちんと考えることが大切なのではないでしょうか」と水野さんは話していた。
ワークショップの参加者のなかには「貴重な木材が廃棄されていることを初めて知った」「rewoodの話を聞いて今回作ったテーブルを大事に使わなくてはと思った」という人も。商品選びの基準や自分の価値観と向き合うきっかけになった人も多いのではないだろうか。
乱伐はしない。計画的に管理された森を守ることで地球の未来を明るくしたい
必要以上の伐採はせず、今あるものを再利用して生態系を守っていこうというのが「rewood」の理念。
一方で木を伐採して使うことが生態系を守ることにつながる場合もある。例えば、国内の人工林。利用期に入った木を適切に伐採し、活用していくことも健康な森林を維持していくためには欠かせないこと。水野さんは、国内の針葉樹を利活用する「コダマプロジェクト」の活動も手掛けている。地元の山の森林資源を適正に使うことで放置林を減らし、健全な山の生態系を守ろうという取組みだ。「rewood」も「コダマプロジェクト」もアプローチの仕方は違えども、俯瞰で捉えれば私たちが生きている地球環境を守るための手立てといえる。
この2つの取組みが「地球の未来を明るくすると本気で思っています」と水野さんは話していた。
「コダマプロジェクト」の詳細はこちら
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00577/
建築、家具、日用品など、日本人は昔からさまざまな形で木と関わってきた。これまでもこれからも、切っても切れない関係にあるように思う。
SDGsの取組みや考え方も少しずつ浸透してきた今。買うのなら長く使えるもの、繰り返し使えるもので、少しでも環境保護に貢献できるものがいいと考え始めた人も多いのではないだろうか。
何をどういう観点で選ぶのか、消費者の目も問われる時代が来ている。
【取材協力・写真提供】
みずの家具
http://www.mizuno-kagu.jp/
rewood
https://re-wood.jp/
大ナゴヤツアーズ
https://dai-nagoyatours.jp/
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