北海道の森の隣で家具をつくろう

木が体を優しく包んでくれるようなチェアや、木目を指でなぞりたくなるテーブル。お気に入りの木製家具が店舗や自宅、公共空間にあると、不思議と心が豊かになりそうだ。ただ、食べ物とは違って「これって、どこの木?」と思いをはせる機会はそれほどない。実は日本では森林資源が十分に活用されておらず、木製家具はその産地が見えにくい。そんな中、地元の木材を生かそうと呼びかけるプロジェクトが、北の大地で育っている。北海道の屋根・大雪山系を望む地域で作られ、100年以上の歴史をもつ旭川家具だ。

JR旭川駅から車で15分ほど走った国道沿いに、もともとは倉庫だった、重厚で黒い外観の巨大な建物がある。旭川市にある「旭川デザインセンター」。この地域は日本五大家具産地のひとつで、センターは40社が名を連ねる旭川家具工業協同組合が運営している。館内にはモダンな木のテーブル、表情豊かな一枚板、洗練された色とりどりのチェア、ゆったりとしたソファがずらりと並ぶ。施設の名前に「デザイン」と冠するだけあって、思わず「おしゃれー」とため息が漏れそうな雰囲気だ。

その入り口近くに、クマのイラストが添えられた、目を引く黄色いポスターが掲げられている。よく見ると、「進めていきます。旭川家具を、北海道の森の木でつくること。」とある。「北海道の森」と聞くと、まさに大自然を絵に描いたようなスケールで、十分な資源量がありそうなイメージだ。なので「使われていなかったの?」と意外な感じがするが、専務理事の杉本啓維さんがその事情を教えてくれた。カギは、旭川家具の歴史にあった。

洗練されたデザインのチェアやテーブル、ソファーに触れられる旭川デザインセンター洗練されたデザインのチェアやテーブル、ソファーに触れられる旭川デザインセンター

時代の波に翻弄された旭川家具

スタイリッシュな外観が目を引くデザインセンターで、旭川家具の魅力を発信する杉本啓維さんスタイリッシュな外観が目を引くデザインセンターで、旭川家具の魅力を発信する杉本啓維さん

明治時代に発祥したとされる旭川家具は、軍都・旭川での師団の建設や鉄道の開通に伴って職人が移り住み、木工場が建ち並んだ。良質なミズナラをはじめ豊富な森林資源が近くにあり、木材の集散地でもあったことが発展の土台にあった。かつては道産材を多く使っていた。ただ輸出もされて⾼く評価されるようになり、地元での値段が⾼騰。さらに伐採に伴って資源量は減っていった。1980年代半ばからは⽐較的安くなった輸⼊材に頼る割合が増え、近くにあるはずの道産材があまり使われなくなった。

一方で、業界としては着実に存在感を増していった。昭和30年代にはバイヤーを積極的に招いて販路開拓に本腰を入れ、消費地の首都圏で展示会も開いた。今も地元の業界をけん引しているメーカー「カンディハウス」の創業者・長原実さん(故人)は、道産材がヨーロッパに輸出され、高級家具となって日本にも輸入されている現実を目の当たりにし、地元材でデザイン性の高い家具を作ろうと奔走。デザインを教える大学の存在もあって、デザイン性を磨く機運が高まり、国内外に知られるようになった。1990年からは3年ごとにコンペを核にした国際家具デザインフェア(IFDA)を、2015年からは旭川デザインウィーク(ADW)を開催。海外デザイナーらとの結びつきを太くしていった。また技能五輪では6大会連続で旭川の選手が日本代表で国際大会に進むなど、高い技術力を培ってきた。杉本さんによると、戦略的に打ち出したい要素は3つ。うち2つは、「デザイン性の高いものづくり」と「技術・技能」という。

「自分たちの強み」から見えた道

「ここの木の家具」プロジェクトとして、北海道産の木材をふんだんに使ったことを示すパネルやプレート「ここの木の家具」プロジェクトとして、北海道産の木材をふんだんに使ったことを示すパネルやプレート

そして近年、力を入れている3つ目が「道産材の活用」だ。2014年、組合の理事長に渡辺直行さん(カンディハウス会長)が就任した。新しい取り組みを模索する中で、徹底したのは、「旭川家具の強みは何か」を考えることだった。
他産地との差別化する上で旭川の特色は何か。森がそばにある。家具づくりに適した広葉樹は北海道に集中し、全国の家具産地の中で、自分たちの近くにある森の木を使える。森のとなりで家具をつくろう。「国産」ではなく、販路開拓が求められている海外にも訴求しやすい「北海道産」を名乗ろう―。就任と同じ年に、「木部の外観表面の80%が北海道の広葉樹であること」を基準にした「ここの木の家具・北海道プロジェクト」がスタートした。

当時、プロジェクトを始められる好条件が重なるという幸運もあった。
「北海道産材は多くが輸出されていましたが、1980年半ばから円高となって輸出が停滞し、1990年以降は、徐々に適正な管理がなされて資源量が回復し始めました。旭川の家具業界としては1992年をピークに生産規模も小さくなっていたので、家具製造に使う幅広な広葉樹の量がまかなえる環境が整ってきていました」
間伐材の活用が始まっていて、杉本さんが「利子」と呼ぶ、木の年間成長量の範囲内で使用量をまかなえることも分かったという。

日本の国土の7割は森林で、世界有数の森林国と言われている。資源量はこの50年で3倍に増加していて、近年では利用できる資源量は毎年約7000万立方メートル増えているが、供給は約3000万立方メートルと半分以下。木材自給率は増加傾向だが、まだ36.1%(2017年林野庁より)だ。年々自給率は上昇しているものの、十分に活用が進んでいない。北海道でも「十分な資源がない」と長らく思われていたが、実はそうではなかったと分かってきた。

森やユーザーとの接点を求めて

デザインセンターで開かれるワークショップ。家具職人が木工の楽しさを伝えているデザインセンターで開かれるワークショップ。家具職人が木工の楽しさを伝えている

プロジェクトには加盟40社のうち30社ほどが参加。スタート時点では道産材の使用割合は20%ほどにすぎなかったが、2017年には36.7%に伸び、2018年に40%を超えることが確実になった。無理なく継続させ、将来的には50%を目指している。道外を中心に小売店からの反応は良く、地元の材料にこだわりを持つ消費者は増え、発注する自治体も地元産への意識が高まっているという。同じ道北地方で旭川と稚内の間にある中川町からタモを調達し、旭川に隣接する東川町の民有林でメーカーの社員と家族らがミズナラを植樹するなど、「森づくり」にも目を向けている。「木材業界は山側の『川上』から製造の『川下』までありますが、分断されがち。中川町や各地の山の関係者と繋がりが出てきたのは良かった」と杉本さんは言う。

国内市場の拡大が見込めない中で組合は海外への販路開拓に力を注ぐが、ユーザーや地元との関係づくりにも力を入れている。2018年5月にJR旭川駅のコンコースに誕生した「旭川家具ラウンジ」では、16社が95点をJR側に貸し出し、観光客や市民らを楽しませている。パネルを置き、ここでも「森とつくる家具」を打ち出している。

「北海道の森の恵みを使って家具を作っているので、その循環に貢献したいということもあります。道産材を使い続けることが価値になり、健全な森づくりにつながっていきます。『北海道の木で作った家具がほしい』とお客さんが言ってくれれば、それが一番いいのかなと思います」と杉本さん。プロジェクトは5年たち、「旭川家具」というブランドに新しい魅力を加えている。

デザインセンターや旭川駅、各ブランドのショップでは、プロジェクトの一環で作られた家具に黄色いタグがつけられている。幸運にもこのタグを見つけて手にとってみれば、そこから北海道の森を想像できるかもしれない。

取材協力/旭川デザインセンター
http://www.asahikawa-kagu.or.jp/center/

2019年 02月20日 11時05分