抗ウイルス内装材の問合せが増加。コロナ禍の混乱状態で抗菌との混同も
コロナ禍を通じ「抗ウイルス内装材」のニーズが拡大している。抗ウイルス内装材とは、抗ウイルスの機能を持つ室内の天井や壁、床などの仕上げ材のことをいう。
しかし気になるのが「抗ウイルス」とはいったい何なのか、その仕組みと効果だ。コロナ禍においては、その混乱に乗じて、濃度の誤認表示がされたアルコールや、新型コロナウイルスへの予防効果を標ぼうする商品などが登場し、消費者庁から注意喚起がなされている。ウイルス対策に翻弄されている消費者からすれば、何を選んでいいのか判断がつかない、どれもあやしく感じられてしまうというのが本音のところなのではないだろうか。
そこで今回は、壁紙やカーテン、床材などインテリア業界の最大手であり、抗ウイルス内装材を扱う株式会社サンゲツに、抗ウイルス内装材の仕組みとその使用方法について聞いた。
インテリア事業本部の岸本洋和氏によると、新型コロナウイルス感染症が広まり始めた頃から抗ウイルス内装材に対する問合せが一気に増加し、売り上げも伸びていると言う。中でも手で触れる機会が多い壁紙とカーテンの勢いが大きいそうだ。
しかしこれらの抗ウイルス内装材は、コロナ禍によって生まれたものではない。それ以前より存在し、サンゲツでは2017年より 販売を開始、主に高齢者施設や医療施設などで使われてきた。それが今回のコロナ禍で、一気に注目を浴びることになったというわけである。
しかしコロナ禍当初は世間も混乱状態にあり、問合せも「抗菌」に関するものがとても多かったそうだ。ところが話をよく聞いてみると、その9割ほどが「抗ウイルス」に関する質問であり、つまりは抗菌と抗ウイルスを混同していた人がほとんどだったという。
具体的な問合せの内容は、「抗菌商品はコロナ対策に効果があるのか」といったものをはじめ、「天井や壁、床などほとんど手が触れない場所に使用する意味はあるのか」、また「肌に触れても荒れたりしないか」「毒性は無いのか」など安全性に関するものも多いとのことだった。
確かに、いきなり抗ウイルスと言われても、すんなりと理解をするのはなかなか難しい。そこでまずは、その仕組みについて分かりやく教えてもらった。
抗ウイルス内装材の仕組み、抗菌や殺菌、除菌との違いとは?
抗ウイルス内装材について知るためには、抗菌と抗ウイルスの違いを整理する必要がある。ウイルス感染症はウイルスによって引き起こされ、細菌とウイルスでは性質も対策も異なる。
細菌は細胞を持つ生物であり、単体で生命活動ができ、捕食行為もし、次世代に生命を繋ぐために自己増殖をする。
ウイルスは細胞を待たず、生物でもないとされ、単体では移動や自己増殖もできない。しかし他の生物の細胞の中に入り込んだ場合に限って増殖をして悪さをする。「これらの違いを理解しておくと、抗菌や抗ウイルスの仕組みが分かりやすい」と岸本氏は言う。
たとえば、抗菌製品は生物である細菌の増殖を抑えることを目的にしている。滅菌は全ての細菌を完全に殺す、殺菌はある程度殺す、除菌は取り除くことを表している。つまり抗菌壁紙とは、くっついた細菌を殺すのではなく、増殖を抑える効果がある壁紙であることが分かる。
抗ウイルス内装材は、内装材の表面に付着したウイルスを変形、破壊することを目的としている。ウイルスの性質を利用して、ウイルスの一部を壊す薬剤を表面に加工したのが抗ウイルス内装材である。
目に見えないほどの極小の世界の話だけに、分かりにくく混同しがちだが、これらのことを知っておくと適切な商品選びができるのではないかと思う。
抗ウイルス内装材の信頼性と安全性、効果が持続する期間は?
気になるのが、抗ウイルス機能の信頼性とその効果のほどである。サンゲツの床材は、抗ウイルス商品とうたっているものは全て、SIAA(抗菌製品技術協議会)による抗ウイルス加工認証製品の認定を受けているそうだ。
SIAAとは、抗菌、防カビ、抗ウイルスのメーカーや試験団体が集まり、それぞれの品質や安全性の基準を整備している団体である。SIAAの認証マークがついている製品は、抗ウイルス性、安全性、適切な表示の3つの独自基準を満たし、品質と安全性に関する情報の開示も行っている。問合せの中でも多い安全性に関しては、赤ちゃんがごろごろしても大丈夫なように、一般よりも高い基準で4つの安全性のテストを行っているそうだ。
また気になるのが、抗ウイルス効果の持続期間である。実は、機能性壁紙と呼ばれるタイプの製品には効果の期限があることが多く、たとえば消臭壁紙の効果は使用環境にもよるがおよそ数年から10年程度とされている。内装材は長期にわたって使用し続けるものであるため、せっかく抗ウイルス内装材を使っても、短期間で効果が切れてしまうようでは意味がない。
岸本氏によると、「抗ウイルス内装材に関しては、使用する薬剤やそれぞれのロジックにもよるが、たとえばサンゲツの床材が使用する薬剤の一例では消耗したり変質したりすることはなく、そこにある限り効果が続きます」とのこと。期限に関しての心配は不要のようである。
ただし注意したいのが、ここでいう抗ウイルス効果は、コロナ禍以前からある特定のウイルスでの実験結果によるもので、今回の新型コロナウイルスに特化したものではないということ。また人間へのウイルスの感染を防止する効果を保証しているわけではなく、あくまでも薬剤とウイルスの関係においての話であることを、正しく理解して欲しいとのことだった。
新型コロナウイルスには未知の部分が多い。不安に駆られて、「新型コロナウイルスに効く」「感染を防ぐ」といった言葉には踊らされないよう十分に注意が必要である。
手を触れない場所に抗ウイルス内装材を使う意味とは? 天井もポイントに
では抗ウイルス内装材は、どこにどのように取り入れるのが効果的なのだろうか。
室内におけるエアロゾル粒子の軌跡シミュレーション(※)を見ると、ウイルスを含んだエアロゾルは、粒が大きなものはすぐに床に落ち、小さなものは浮力による上昇気流で天井へ向かう。そしてより小さな粒子は長時間、部屋の上部を浮遊していることも予想され、そしてその後ゆっくりと壁面近くを落下していくとされる。
つまりまず大事なのは空気を入れ換える換気であること。そして意外にも天井や壁、床など直接手が触れない面にウイルスが付着する可能性が高いことが分かる。中でも天井は、コストダウンの対象になりやすい箇所であるが、抗ウイルス内装材でパッケージする部屋を作るなら、天井も忘れずに対策しておくことが大切とのことだった。
一般の家庭で抗ウイルス内装材を取り入れる場合は、家全体に施さなくても、ウイルスを持ち込みやすい玄関から廊下、手洗い場までに限って使用する方法もある。最近のハウスメーカーの新プランには、玄関から手洗い場までを汚染区域、その後を安全区域と分ける間取りがあり、その汚染区域に抗ウイルス内装材を使えば、安心感が高まり、アルコールなどによる拭き掃除もラクになることだろう。
注意したいのが、抗ウイルス内装材は表面に膜を作るようなことをすると効果が無くなる点である。抗ウイルス内装材の加工方法はさまざまだが、表面を覆うようなワックス掛けや新たなコーティング、ペイントなどは避けて欲しいとのことだった。
(※CFD-ACE+を用いたエアロゾル粒子の軌跡シミュレーションより)
抗ウイルス内装材いろいろ、全棟抗ウイルスパッケージ賃貸住宅も登場
サンゲツが取り扱っている抗ウイルス内装材には、壁紙、床材、カーテン、家具や扉材などに貼る化粧シート、セラミック製の建材などがある。人気はカーテンと壁紙であったが、最近は床材の注目が非常に高まってきているそうで、その中でも売れている製品とおすすめ商品を教えてもらった。画像でご紹介するのでご参考になれば幸いである。
岸本氏によると、一般住宅での抗ウイルス内装材の需要はこれからも高まって いくと想定していて、ハウスメーカーによる賃貸住宅の全棟抗ウイルスパッケージが登場したり、高齢者専用賃貸住宅において抗ウイルス内装材を使用するのが標準プランになったりと、以前よりも大きな広がりを見せているという。
またホテルなどの宿泊施設では、宿泊客がチェックアウトをしてから清掃に入るまで時間をおかないと従業員の安全性が確保しにくい状況だったものが、抗ウイルス内装材でパッケージした部屋なら短時間で入って掃除ができるため、安全と仕事の効率化が同時にできるという声もあるという。
実は今回の取材をしたキッカケは、筆者が建築士会CPD制度と呼ばれる、建築士会の会員の知識や技術に関する向上を目的とした講習会に参加したことだった。抗ウイルス内装材に関してさまざまな情報を得ることで、知識不足や情報の発信不足を痛感させられたのである。岸本氏も、「抗ウイルス内装材の理解がもっと深まれば医療施設などにも貢献できる、継続して更なる情報発信を行い、普及を促進することで更なる社会貢献をしていきたい」と語っていた。
目に見えないからといってウイルスをむやみに恐れることなく、またコロナに効くといった文言に踊らされることなく、さまざまな知恵と工夫で、このコロナ禍を乗り越えていきたいものである。
取材協力:株式会社サンゲツ
公開日:










