「洋光台中央団地」と「洋光台北団地」において「団地の未来プロジェクト」が進行中

昭和30~40年代の高度経済成長期に、戦後から続く都市部における住宅不足の解消などを目的に数多く建築された団地。現在ではその多くが築50年を越え、建て替えや改修の時期を迎えている。団地の老朽化が進めば入居者の高齢化、空室率の増加、大地震による倒壊の危険度の増加、景観や治安の悪化、周辺の街の活力低下などの要因となることから、大きな社会問題となってきている。

そんな中「団地の未来プロジェクト」と題した継続的に団地の価値を高める取組みのモデルケースとして、独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)が約50年前に建設した横浜市磯子区の洋光台団地においてさまざまな取組みが進行中だという。そのプロジェクトの内容、いきさつを取材してきた。

JR根岸線「洋光台」駅前に建つ「洋光台中央団地」。駅近の利便性の高い立地ということもあり入居率は高いJR根岸線「洋光台」駅前に建つ「洋光台中央団地」。駅近の利便性の高い立地ということもあり入居率は高い

昭和40年代の標準的な団地だった洋光台団地を選択。隈研吾氏や佐藤可士和氏らと共にプロジェクトを推進

たくさんの大規模団地がある中、なぜ洋光台団地が選ばれたのか。まず率直な疑問をお聞きした。教えてくれたのはUR都市機構の山下健さん。

「40年以上の歴史を持つ団地の価値を、精緻に見つめ直し、磨き、新しい時代の輝きを与えていくという、UR都市機構で進めている『団地の未来プロジェクト』のモデルプロジェクトとなるため、昭和40年代の標準的な団地を選んだということが、洋光台団地を選んだ大きな理由になります。隈研吾さんを中心とした『アドバイザー会議』に加え、神奈川県や横浜市、磯子区の担当者など行政の方や『まちづくり協議会』という地域の方々の団体、小林重敬先生のほか有識者にもご参加いただき、10年ほど前から年に1・2回『エリア会議』を行っていたという、行政や地域の方と一緒に取組んできたという背景が洋光台団地にはありました。さまざまな成果をあげてきた洋光台団地の取組みを活かしながら、そのエッセンスについて今後ほかの場所でも広げていければと考えています」

また今回のプロジェクトには著名な建築家の隈研吾氏やクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が名を連ねる。隈研吾氏は世界的な建築家であり、洋光台地域の開発当初の様子も把握していたこと、また「東雲キャナルコートCODAN」の設計でUR都市機構とつながりもあったことか
らアドバイザー会議の座長を依頼、その後、隈氏が佐藤氏に声をかけ、「プロジェクトディレクター」として迎え入れたという。ほかにも社会学者の上野千鶴子氏、東京大学教授の大月敏雄氏、千葉大学教授の広井良典氏らがアドバイザーとして参加している。

リニューアルされた洋光台中央団地の「広場」。「西洋にあるような広場ではなく、縁側のような空間をつくろうと設計されています」と山下さん。生まれ変わった「広場」は、ベビーカーを押すママ、読書を楽しむ社会人、友人と談笑する高齢の方など、さまざまな世代が気軽に使う場として活用されているリニューアルされた洋光台中央団地の「広場」。「西洋にあるような広場ではなく、縁側のような空間をつくろうと設計されています」と山下さん。生まれ変わった「広場」は、ベビーカーを押すママ、読書を楽しむ社会人、友人と談笑する高齢の方など、さまざまな世代が気軽に使う場として活用されている

広場改修や住棟外壁リニューアル、デッキを新設しクラフト系のショップを集めた「洋光台中央団地」

2020年8月1日に「洋光台中央団地」前の広場で、リニューアル工事後のオープニングセレモニーが開催された。「洋光台中央団地」では駅前空間に回遊性を生み出し、また、人が集い、とどまることができる賑わいの場とすることで、団地を核とした洋光台エリア全体の活性化を目指した大規模な広場リニューアル工事が行われた。

「洋光台駅ができたのと同じ1970年(昭和45年)に洋光台団地も完成しました。外部から入居者を募ったので、広場のまわりの店は1階の店舗と2階の住居がセットになっており、直接2階にアプローチはできませんでした。そこであまり活用されなくなった2階住居部分を店舗として有効活用し、広場の回遊性を高めるため、直接2階にアプローチできるデッキを新設。新たに生み出した2階部分の店舗には『クラフトマルシェゾーン』として工芸作家の出店を図り、ハンドメイドの雑貨やアクセサリー等を手がけるクリエイターが全国から集うイベントを開催するなどしています。ほかにも時間貸しで会議用などに部屋を貸す『コミュニティチャレンジラボ』、横浜市と協働で、スタッフが常駐し街の情報発信や情報交換の場として活用していただく『まちまど』などを設置しました」(山下さん)

広場を構成するマテリアルにはリサイクル材や自然素材などの「環境マテリアル」を中心に採用。コンクリートのハコに囲まれた既存の「かたい広場」から、人と自然に優しい「やわらかい広場」として再生。また人々のアクティビティを誘発させる装置として、木でできた「ダンチファーニチャー」を点在させ、昔の日本の「縁側」を彷彿とさせるあたたかい風景を団地に取り戻している。敷地の高低差を活かした設計を行った「立体縁側広場」と「環境マテリアル」「ダンチファーニチャー」で団地を包み込むことにより、21世紀のラフスタイルにふさわしい「やわらかなヴィレッジ」として変身させることを試みている。

また、住棟外壁リニューアルでは露出していた室外機置き場をアルミ製の「木の葉パネル」で覆うことで、マイナス要素をプラス要素へと反転。広場のコンセプトである「やわらかなヴィレッジ」にふさわしい、統一感のある色彩を実現した。

左上/改修を終え、温かみのあるスペースへと変わった広場 右上/室外機置き場をアルミ製の「木の葉パネル」で覆うことで柔らかな印象になった  左下/植栽帯とベンチが融合した「エンガワプランター」 右下/「シンボルツリー」は佐藤可士和氏と隈研吾氏のコラボレーションによるデザイン左上/改修を終え、温かみのあるスペースへと変わった広場 右上/室外機置き場をアルミ製の「木の葉パネル」で覆うことで柔らかな印象になった  左下/植栽帯とベンチが融合した「エンガワプランター」 右下/「シンボルツリー」は佐藤可士和氏と隈研吾氏のコラボレーションによるデザイン

「団地の集会所 OPEN RING」や屋外広場、住棟ファサードの大規模リニューアルを行った「洋光台北団地」

2020年秋には「洋光台北団地」エリアのリニューアル工事が終了。これまでの集会所が、サンクンガーデン(階段で囲まれた広場)や芝生広場と一体となった「団地の集会所 OPEN RING」へと一新。この「団地の集会所 OPEN RING」は、148案応募があった建築アイデアコンペの最優秀案をベースに、隈研吾氏と佐藤可士和氏のディレクションにより具現化されたもの。新設された集会所にはコミュニティカフェを併設。この「団地のカフェ(よっしーのお芋やさん)」には「団地のライブラリー」等を設置。団地に住む人はもちろん、近隣に住む人が気軽に訪れる場になっている。

「サンクンガーデンは、以前あった広場の階段部分を広げ、イベントなどができるようにしました。毎朝ラジオ体操をする人がいるなど、思い思いにご利用いただいています。『団地のライブラリー』は、団地の中で気軽に本が楽しめるようにしたものです。カフェには3冊の本が入った籠が24個置いてあり、団地の中ならどこへ持ち出して読んでもいいシステムになっています。このシステムの考案や本の選定はブックディレクターの幅允孝さんに監修を依頼しました。中央団地内の『まちまど』や建て替え工事が終わった洋光台北団地高層棟への設置も考えており、団地の中に合計3か所展開したいと考えています」(山下さん)

屋外広場のリニューアルでは、以前の広場にあった柵や段差をなくして芝生敷きに。高度成長時代の「団地」のイメージを刷新して誰もが使いやすいオープンで気持ちのいい屋外空間にした。また白く塗装されていた住棟ファサードには手すりなどに暖かな木目のデザインが施されるなど、佐藤可士和氏のデザインにより、緑と調和するように変更されている。

左上/団地や地域の人に活用されている「団地の集会所 OPEN RING」 右上/スペースを広げ、使いやすくしたサンクンガーデン。奥が「団地のカフェ」 左下/「団地のカフェ」内に設置した「団地のライブラリー」。団地内の豊かな屋外空間の中で本に触れ、ゆったりとした時間を過ごしてもらう仕掛けとして本とレジャーシートがバスケットに入っている 右下/芝生が広がる屋外広場と美しく生まれ変わった住棟ファサード左上/団地や地域の人に活用されている「団地の集会所 OPEN RING」 右上/スペースを広げ、使いやすくしたサンクンガーデン。奥が「団地のカフェ」 左下/「団地のカフェ」内に設置した「団地のライブラリー」。団地内の豊かな屋外空間の中で本に触れ、ゆったりとした時間を過ごしてもらう仕掛けとして本とレジャーシートがバスケットに入っている 右下/芝生が広がる屋外広場と美しく生まれ変わった住棟ファサード

「ファミリーが暮らしやすいという団地の魅力を伝えていきたい」

お話をうかがった、UR都市機構 東日本賃貸住宅本部 神奈川エリア経営部 団地マネージャーの山下健さん。「団地の魅力を今回のプロジェクトを通じて多くの方に知っていただきたいですね」お話をうかがった、UR都市機構 東日本賃貸住宅本部 神奈川エリア経営部 団地マネージャーの山下健さん。「団地の魅力を今回のプロジェクトを通じて多くの方に知っていただきたいですね」

洋光台中央団地、同北団地のリニューアルを進め、団地の再生に手ごたえを感じているという山下さん。感想などをうかがった。
「団地は高度成長期にファミリー世帯に向けてつくったものなので、緑も豊かですし家族で住みやすい環境になっています。この年代に建設された団地は配置の工夫や広い住棟間隔を確保しているなど、日照や採光にすごく配慮されています。そのような魅力を多くの方にお伝えし、知っていただきたいと考えています。今ご入居されているご高齢の方にはできるだけ長く快適にお住まいいただき、さらに若い世代の入居者を招くことで活力を注ぎたいと考えています。

リニューアル後は、カフェに団地の外で暮らす近所の方も足を運んでくださるなど新しいコミュニティの場が生まれているなという手応えがあります。中央団地の『まちまど』や『コミュニティチャレンジラボ』にもさまざまな年代層の方が集まってくださり、新しい地域活動が生まれています。単に住宅を提供するだけではなく、新しい暮らし方全体をご提案していきたいと思っていますし、そのお役に立てているのではないかと感じています」(山下さん)

「洋光台団地で取組んで好評だったことも、今後のリニューアルでは必ずしも同じパッケージで進めるのではなく、それぞれの団地に合ったことを考え、取組みの方向性を模索しながら広げていきたい」と話す山下さん。

若い世代の入居促進など、大規模団地のリニューアルは地域の活性化にも直結する。40年50年の時を経て、大規模団地がかつてのような輝きを取り戻すことを期待したい。

■取材協力:UR都市機構
団地の未来プロジェクト (danchinomirai.com)

2021年 03月02日 11時00分