20年間で約1.9倍になった使い道の決まっていない空き家
近年、住宅に関する問題として常に取り上げられるようになった空き家の増加。1998年時点では576万戸だったが、2018年には849万戸まで増えている。20年間で約1.5倍になってしまったのだ。しかもそのうちの「賃貸用または売却用の住宅」以外、つまり使い道が決まっていない住宅を含む「その他の住宅」の数は約1.9倍(182万戸→349万戸)に増加している。放置され老朽化した空き家は、倒壊の危険性があるだけでなく、不審者の侵入、放火、ゴミの投棄、悪臭、害虫の発生など周辺の住環境へさまざまな悪影響を及ぼす可能性があるので対策が必要だ。
とはいえ、国は空き家問題を放置しているわけではない。2015年5月に空き家対策特別措置法が施行され、空き家への立ち入り調査や指導、勧告、撤去命令などの権限が全国の自治体へ与えられた。それでも放置される空き家が増加している。同法は順調に機能しているのだろうか。その施行状況を確認してみよう。
空き家の所有者に対して指導や勧告ができる空き家対策特別措置法
空き家対策特別措置法に関しては、これまでにもたびたび本サイトで取り上げてきた。
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指導・勧告・命令・代執行の対象となる「特定空き家」で空き家対策は進むのか
簡単に内容をおさらいしておく。空き家対策特別措置法は、自治体が本来個人の資産である空き家に対して立ち入り調査や指導、勧告、撤去命令、行政代執行などを行えるようにした法律だ。ここでいう空き家の定義は、「建築物またはこれに付属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」としている。ただし、同法の指導や勧告などの対象になるのは、空き家の中でも「特定空家等」とされるものだ。具体的には「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態または著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」である。
この特定空家等の所有者に対して市町村長は、立ち入り調査を行い、その結果に基づいて必要な措置を助言、指導、命令などができる。立ち入り調査を拒否すれば20万円以下、命令に違反すれば50万円以下の過料に処せられる。
また空き家対策特別措置法では、市町村が任意で「空家等対策計画」を立案し、「法定協議会」を運営することもできる。
●空家等対策計画
市町村が空家等対策に関して基本的な全体像を策定するもの。
●法定協議会
空家等対策計画の策定および変更、実施に関することなどを協議する会。市町村長ほか学者や地域住民、宅地建物取引士などによって構成される。
半数以上の自治体が空き家問題に計画的に取組んでいる
では、空き家対策特別措置法の施行状況を確認しよう。まず各自治体による空家等対策計画の策定率に関しては、2016年度が20.5%だったのに対し、2019年度は69%となっている。そして法定協議会の設置率は、2016年度が21.3%だったのに対し、2019年度は47%となった。全国の自治体の半数、またはそれ以上が空き家問題に対して計画的に取組んでいるといえるだろう。
その結果は下の図のとおりだ。同法が施行された2015年から2019年度にかけて「助言・指導」「勧告」「命令」「行政代執行」「略式代執行」の実績は、すべてにおいて伸びている。これは空き家対策特別措置法が順調に機能している証拠なのだろうか。
ここで気になることがある。2018年度の空き家のうち「その他の住宅」の数は約350万戸。一方で自治体が助言から代執行まで何らかの措置を行った数の合計は約2万件。つまり約0.57%。この差はあまりにも大きいのではないだろうか。その中でも特に行政代執行は合計で69件しか行われておらず、最新のデータである2019年度ではわずか28件だ。最近は住宅街を歩くと頻繁に空き家に出会う。特に地方に行けば、それこそ老朽化によって崩れそうな家屋を見つけるのは難しいことではない。
自治体が所有者に代わって解体もできる行政代執行
行政代執行とは、自治体が空き家の所有者に対して何度改善を要求しても対応しない場合、所有者に代わって道路に越境している樹木の枝を伐採したり、放置されたゴミを撤去したり、場合によっては建物を解体することだ。その費用は後日所有者へ請求され、支払わない場合は不動産や自動車などの財産を差し押さえ、競売にかけることができる。ちなみに略式代執行とは、空き家の所有者が特定できない場合の措置で、その費用はいったん自治体が負担して、所有者が確定した段階で請求される。
自治体は代執行へ至らないための努力を続けている
このような代執行の実績が年間30件以下というのは、空き家全体の数に対して少なすぎるのではないだろうか。その理由を知るために空き家の委託管理などを請け負っている「NPO法人 空家・空地管理センター」理事の伊藤雅一氏を取材したところ、次のような意見をいただくことができた。
「確かに年間28件というのは少なく感じるかもしれませんが、それは私が現場を見てる限り、自治体の努力によってその数にとどめているから、だと思います。代執行の対象となる空き家は、今にも倒壊しそうといった本当に緊急性の高い物件です。自治体は、そこまで至らないように所有者と連携して、解体や売却を促すことを行っています。
それどころか、たとえば東京23区のほとんどでは、特定空家等に認定されないための動きも活発に行っています。最近の住民はメディア報道などのおかげで空き家問題をよく知っています。そのため、少し怪しいと思えるような空き家でも自治体へ連絡をするようになりました。自治体としては、特定空家等に認定される物件が増えれば増えるほど決められた対処をするために費用がかかります。ですから認定される前に所有者へ連絡し、きちんとメンテナンスなどをするようにお願いしているのです」
代執行が少なく感じるのは、放置しているわけではなく自治体が対象物件を増やさない努力をしているから。これは朗報といえるだろう。さらに伊藤氏はコロナ禍によって空き家所有者の動きにも変化があるという。
「以前から空き家所有者の多くは、責任を持ってメンテナンスを行っていました。定期的に通って草刈りなどをしていたのです。しかし、コロナ禍でそれができない所有者が増えました。そのため私たちへの相談件数が増え、2020年9月の件数は前年比約1.8倍になっています」
849万戸という空き家数を耳にすると、その膨大さに驚いてしまう。しかし、その所有者の多くは責任を持って対処しているようだ。とはいえ、それはけっして100%ではない。地域差も大きいだろう。空き家の数は今後も増えることは間違いない。自治体はそのことを見越して対策の計画等を立てているようだが、我々住民にそのことが十分伝わっているとは言い難いだろう。「空き家になりそうな物件を相続する予定」「空き家の使い道が分からない」。自治体は、そういった特定空家等予備軍を所有する人たちに対する相談窓口の広報活動にもより注力をしてほしい。
取材協力
NPO法人 空家・空地管理センター
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