記録的な豪雨によって深刻な被害をもたらした台風19号

水害など大規模な自然災害は、「職場などの収入の道がなくなったのに、住宅や車のローンが残った」といった事態も招く。そういった際の債務整理に役立つのが「自然災害債務整理ガイドライン」だ水害など大規模な自然災害は、「職場などの収入の道がなくなったのに、住宅や車のローンが残った」といった事態も招く。そういった際の債務整理に役立つのが「自然災害債務整理ガイドライン」だ

2019年9月9日に千葉県に上陸した台風15号は、想像を絶する強風で大きな爪痕を残した。その復興がままならない状態の10月12日、台風19号が伊豆半島に上陸。神奈川県の箱根町では、24時間で922.5mmという日本記録を塗り替える雨量となり、その他の地域でも浸水や土砂崩れなどによる深刻な被害をもたらした。国土交通省によると、7県の河川の90カ所で堤防が決壊(10月17日午前5時現在)。総務省の発表では、全半壊した住宅が94棟、浸水家屋は3万3600棟以上となっている(同日同時刻現在)。

このような大規模な自然災害は、私たちの安全だけでなく、財産や職場も奪うことがある。今回の災害でも収入の目途がなくなってしまったのに、住宅ローンや個人事業のローンだけが残ってしまった、という人もいるだろう。そういったローン返済に困窮する被災者が、返済負担の軽減(債務整理)にぜひ利用したいのが「自然災害債務整理ガイドライン」だ。その内容や対象となるための要件を確認しよう。

新たな借り入れやクレジットカード作成ができなくなる破産・再生手続

一般的にローン返済が困難になった際の債務整理の方法は2つある。「破産手続」と「再生手続」だ。

●破産手続
返済ができなくなった債務者の財産を現金化して債権者へ支払い、生活の立て直しを図る裁判手続きのこと。

●再生手続
返済ができなくなった債務者が、債権者に対する返済総額を少なくし、その減額された金額を原則3年間で分割して返済する裁判手続きのこと。

破産または再生手続を行うと、政府や省庁の決定事項などが掲載される官報に名前が記載される。また、個人信用情報として登録されるため、新たな借り入れやクレジットカードをつくることができなくなってしまう。したがって、できれば避けたい方法といえるだろう。

そこで「自然災害債務整理ガイドライン」を利用すれば、破産・再生手続を経ることなく、債務の免除を受けることができる。このガイドラインのメリットをまとめると以下のようになる。

1.個人信用情報に登録されない
同ガイドラインの利用は、個人信用情報に登録されない。そのため、新たな借り入れやクレジットカードの作成などに影響はない。

2.弁護士など登録支援専門家が無料で手続きを支援する
国の補助により、弁護士などの登録支援専門家が無料で手続きを支援する。

3.財産の一部を手元に残すことができる
具体的金額はケースバイケースだが、預貯金などの財産の一部をローン返済に充てずに残すことが可能。

対象者は「災害救助法」が適用された被災者

「自然災害債務整理ガイドライン」の対象者は以下のような要件をクリアした人だ。

●対象者
・2015年9月2日以降に「災害救助法」が適用された自然災害によって、住宅や自動車、事業などのローン返済ができない、または近い将来できなくなることが確実と見込まれる個人と個人事業者(法人は対象外)。「災害救助法」の適用状況は、下記サイトで確認できる。

【災害救助法の適用状況】
http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo_tekiyou.html
台風19号の場合は、2019年10月19日現在で391の市区町村が適用対象となっている。

上記に加えて主に下記のような要件も満たすことが必要だ。

・災害が発生する前に、倒産の危機など返済期限を早めるような事態(「期限の利益喪失事由」)になっていなかったこと。
・同ガイドラインを利用した場合に、破産・再生手続と同等額以上の回収の見込みがあるなど、債権者にとっても経済的なメリットが期待できること。
・債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に価値があり、対象者への支援によって再建の可能性があることなど。

「自然災害債務整理ガイドライン」利用手続きの流れ

「自然災害債務整理ガイドライン」の利用手続きは、次のような流れで行う。

1.金融機関に手続き着手を伝える
もっとも多くお金を借りている金融機関に対して、手続き着手の申出をする。

2.登録支援専門家に手続き支援を依頼
金融機関の手続きの同意を得られた後、地元の弁護士会などを通じて登録支援専門家に手続き支援を依頼する。この専門家には、弁護士のほかにも公認会計士、税理士などもいるが、弁護士以外は一部の業務を行えない。

3.債務整理(開始)の申出
登録支援専門家の協力の下、申出書などの必要書類を作成し、融資を受けているすべての金融機関に債務整理の申出をする。これによって債務の返済や督促は一時停止となる。

4.調停条項案の作成
登録支援専門家の協力の下、ローン減額などの債務整理の方法を記載した書類である調停条項案を作成する。

5.調停条項案の提出と説明
調停条項案を登録支援専門家を通じてすべての金融機関に提出し、説明をする。なお、債務整理の申出から調停条項案の提出は、原則として3ヶ月(事業継続型の場合は4ヶ月)以内に行う。金融機関は1ヶ月以内に同意するか否かを回答する。

6.特定調停の申立
すべての金融機関から同意を得られたら、簡易裁判所に特別調停を申し立てる。調停(話し合い)には、原則として債務者本人が参加しなければならない。また、特定調停手続きの費用は、債務者が負担する。

7.調停条項の確定
特別調停によって調停条項が確定されれば、債務整理が成立する。ただし、すべてが帳消しになるわけではなく、収入や資産によって一定金額の返済が必要になることもある。

「自然災害債務整理ガイドライン」利用手続きの流れ。まずは借入れをしている金融機関への手続き着手の申出からスタートする。その方法など分からないことがあれば、本記事最下部の「全国銀行協会相談室」などへ問い合わせを(出典:政府広報オンライン)「自然災害債務整理ガイドライン」利用手続きの流れ。まずは借入れをしている金融機関への手続き着手の申出からスタートする。その方法など分からないことがあれば、本記事最下部の「全国銀行協会相談室」などへ問い合わせを(出典:政府広報オンライン)

全国銀行協会相談室でも問い合わせを受付

以上のように自然災害債務整理ガイドラインが利用できれば、個人信用情報に登録されることなく、債務を整理できる。災害によって「すべてを失ったのにローンだけが残った」と深く落ち込む被災者もいるだろう。しかし、このような制度を利用できれば、一歩前へ進めるかもしれない。ぜひ活用を検討していただきたい。なお、借入先が銀行の場合は、全国銀行協会相談室(https://www.zenginkyo.or.jp/adr/)で詳しい内容を聞けるので、興味がある人は問合せをしてほしい。

2019年 10月31日 11時00分