テレビ番組さながらの全編オンライン配信

2020年11月14日、一般社団法人リノベーション協議会が主催する「リノベーションEXPO JAPAN 2020」が開催された。毎年多くの人を集めて賑やかに行われるのが定番のスタイルとなった同イベントだが、今回は新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、東京都港区のコミュニティ施設「SHAKOBA」から全編オンライン配信での実施となった。
これまで同様、リノベーション事業者によるセミナーや、リノベーション住宅の購入経験者によるトークなど、リノベーション検討者にとって役立つコンテンツで構成される。加えて今回は、オンライン配信のメリットを生かし、全国の魅力的なリノベーション事例に中継カメラを繋いでリレー形式で巡る「日本全国リノベ旅」や、「リノベーション会社対抗!リノベーションプランニングバトル」といったコンテンツも実施された。どの企画もテレビ番組さながらの完成度で、テレビの1チャンネルをジャックしているかのようだった。配信された映像はYouTubeに公開されているので、ぜひご覧いただきたい。

リノベーションEXPO JAPAN 2020 ライブ配信動画(YouTube)

テーマは「新しい生活様式 変わるもの 変わらないもの」

イベントに先立ち、 前日の13日には「新しい生活様式 変わるもの 変わらないもの」というテーマで前夜祭トークイベントが開催された。リノベーション協議会の会員企業向け、事業者向けに行われるトークイベントだが、業界を牽引する有識者によってリノベーションの今と展望が語られるトークは、業界関係者のみならず垂涎のコンテンツだ。本記事では、この前夜祭トークイベントの模様をレポートする。

モデレーターはLIFULL HOME’S総研所長 島原万丈氏。トークゲストとして、一般社団法人リノベーション協議会会長 内山博文氏、株式会社タムタムデザイン代表取締役 田村晟一朗氏、食べチョク代表 秋元里奈氏が登壇。そこに沖縄からリモート出演の株式会社アートアンドクラフト顧問 中谷ノボル氏が加わる。

トークは、ゲストからの話題提供を中心に進行する。
まずは沖縄から中谷氏。中谷氏は1998年にリノベーション事業を開始した業界の先駆者だ。リノベーション協議会設立の10年以上前である。その後一戸建てや中古マンションのリノベーションを手掛け、リノベーションによる宿泊施設「HOSTEL 64 Osaka」や大阪R不動産も展開。しかし中谷氏が先駆者たるのはリノベーションだけではない。2012年には沖縄に事務所を開設。沖縄に滞在し大阪の仕事は主にリモートワークで行うようになった。当時、周囲からは「移住したの?」と聞かれたというが、本人はそのつもりはなく、昨今話題の「リモートワーク」や「二拠点居住」を早くも実践していたのだ。

続いては、食べチョク代表の秋元氏。食べチョクとは、農家や漁師といった生産者が、直接消費者に販売できるオンライン版のマルシェで、生産者の顔が消費者に見え、消費者の声が生産者に届くサービスだ。流通価格が農協によって決められるのが当然だった農業の世界だが、食べチョクであれば値付けを生産者自身でできるため、こだわりを価格に反映させることもできる。

なぜ、一見リノベーションとは関係ないように思える「食べチョク」の代表である秋元氏が登壇しているのだろう。秋元氏は「食べチョクのユーザーは、暮らしを豊かにしたいという想いが強く、食にこだわるのと同様に、住まいも良くしようとしている方が多い」と話す。内山氏も「リノベーションする人は、食事や料理のシーンを大切にする人が多く、キッチンにこだわる人は多い」と同意。食べチョクを利用するユーザーと、リノベーション検討者は、親和性が高いのだ。「農家の人が一生懸命に食べる人のことを考えるように、リノベーションを手掛ける人は、一生懸命に住む人の幸せを考えている」とは内山氏の弁だ。

ライブ配信の様子。左から、モデレーター島原万丈氏、内山博文氏、田村晟一朗氏、秋元里奈氏、リモート出演の中谷ノボル氏ライブ配信の様子。左から、モデレーター島原万丈氏、内山博文氏、田村晟一朗氏、秋元里奈氏、リモート出演の中谷ノボル氏

コロナ禍がリノベーションのプランニングに与える影響とは

タムタムデザインによるコロナ禍でのリノベーション施工事例。室内で遊べる空間をつくったほか、断熱性能と耐震性能といった建物性能も向上させた(田村氏のスライドより)タムタムデザインによるコロナ禍でのリノベーション施工事例。室内で遊べる空間をつくったほか、断熱性能と耐震性能といった建物性能も向上させた(田村氏のスライドより)

コロナ禍はリノベーションのニーズにどのような変化をもたらしているのだろうか。タムタムデザインはリノベーション協議会が主催するリノベーション・オブ・ザ・イヤーにおいて2016年、2018年の総合グランプリを受賞するなどリノベーション業界を牽引するプレーヤーだ。テレビでは、在宅勤務に対応するためのワークスペースをつくる事例などが話題を集めており、同社でも子どもが室内で遊べる空間をつくったケースもあったという。しかし田村氏は、そもそもの断熱や耐震性能を上げる提案を積極的にしているという。島原氏と内山氏も、コロナ禍で在宅時間が増えたことによって、建物の性能の大切さが求められるようになっていると分析。島原氏自身も自宅の窓枠をアルミサッシから断熱性の高い樹脂サッシに交換したことで、在宅時間が増えたにもかかわらず光熱費は下がったという。ワークスペース設置に代表される、表面的な在宅での居心地のよさがにわかに注目を集めているが、中長期的には、断熱や耐震といった本質的な家の居心地のよさを実現する建物性能を求めるニーズが高まるという、リノベーション業界の展望が示された。

ニューノーマルを再定義する

内山氏からは「New Local in the New Normal」というテーマで話題提供がされた。「“ニューノーマル”という言葉はリーマンショック時に登場し、グローバル化を前提とした大きな経済圏で考えた元来のノーマルに対し、ローカルな(小さな)経済圏で考えることで本当に必要なものを問い直すべきだとして使われた言葉であり、オンラインコンテンツやテクノロジーといった「新しい生活様式」を指す言葉ではない」と内山氏。コロナ禍でのニューノーマルも、一歩先を創造することであり、そのためには本質を問い直して再定義することが、未来を考えるきっかけになるという。これまで当たり前とされてきたことを自分たちで問い直し、実現するために行動することがリノベーション業界にとっても大切だと述べた。

島原氏も、巷でいわれる“ニューノーマル”に違和感を示した。「これまでの普通がなくなり、別の普通がやってくるというのは違う」という。例えば通勤時間を基準に住まいを選ぶというこれまでの普通がなくなり、その代わりに、ワークスペースがあるという新しい普通がやってくるという意味ではなく、普通という概念がなくなるのではないかという解釈だ。これまでは多くの人が通勤時間を基準に住まいを選んでいたが、通勤の制約がなくなったとき、海が好きな人は海の近くに、山が好きな人は山の近くに住むことができるようになる。誰にも当てはまる一般的な正解がなくなるというのだ。

内山氏も「“普通”は人によって違うものとなり、多様性に富むものになる。リノベーション業界もその多様性に対応しなければならない」と、業界団体の会長としてリノベーション業界の今後あるべき姿を示した。

内山氏からは「○○を再定義をする」という思考のフレームワークが語られた(内山氏のスライドより)内山氏からは「○○を再定義をする」という思考のフレームワークが語られた(内山氏のスライドより)

コロナ禍で求められるリノベーションの思考

秋元氏は「食べチョク」によって、スーパーで食材調達をするという普通をなくし、生産者から直接買うという選択肢を作った。中谷氏は世間の潮流よりいち早くリノベーションや二拠点生活を実践してきた。どちらもこれまで普通とされてきたものに一石を投じ、新たな選択肢を示した。

10年前、中谷氏は周囲から「中谷さんだからできるんだよ」と言われていたというが、今後ニューノーマルが再定義され、多様な普通が広まると、中谷氏がそのように評されることもなくなるだろう。
リノベーションEXPOというイベント自体も、オンライン配信という新たな挑戦で、イベントの開催方法を再定義した。その結果、質の高いテレビ番組さながらのコンテンツを、世界のどこへでも届けるという新たな価値を生み出すことができた。

リフォームとリノベーションの違いは、役割はそのままに元のきれいな状態に戻すか、新たな役割や価値を生み出すかの違いだとよく定義される。ニューノーマルを再定義し、「新たな価値を生み出す」というリノベーションの思考が、コロナ禍の今あらゆる分野で求められている。
リノベーション業界は、その担い手として、あらゆるニューノーマルに対応する可能性をもっているし、対応せねばならないというメッセージが込められた前夜祭であった。

2021年 01月02日 11時00分