地場産レストラン&古民家ゲストハウス『SENTŌ』から道南全域の魅力を世界に発信

NPO法人やくも元気村の赤井義大さんNPO法人やくも元気村の赤井義大さん

北海道の八雲町に大正時代からあった古い銭湯。
かつてそこは、赤ちゃんからお年寄りまで文字通り老若男女問わず、たくさんの町民が集い、1日の疲れを癒やす地元のコミュニティスペースだった。しかし時代の移り変わりとともに銭湯を利用する人は減少。経営者の高齢化や後継者不足の末に閉店となっている。

そんな、古くから親しまれてきた銭湯を改修し、形を変えて現代のコミュニティスペースとして蘇えらせたのが、NPO法人やくも元気村の赤井義大さん。この、地場産レストラン&古民家ゲストハウス『SENTŌ』は現在、世界各国から訪れる旅行者へ向けて町の魅力を発信しながら、同時に旅行者と地元民、または地元民同士の触れ合いの場を提供している。

かつて浴場だった場所は、八雲の食材をふんだんに使った料理やお酒を提供するレストランへと変身。2つ並んだ小さなタイル張りの浴槽(この中で食事もできる)や高い天井、牛乳メーカーのロゴがドンと入った入浴の注意書き看板などはあえてそのまま残され、当時の雰囲気を伝えている。『SENTŌ』の立ち上げからマネジメント、さらには八雲町の観光コンテンツの開発やプロモーションを独自に行い、ゆくゆくは道南全域の魅力を世界へ発信しようと奮闘中の赤井義大さんに、詳しくお話をうかがった。

大都会で見つけた、田舎でやりたいこと

浴場のつくりをほぼそのまま活かした、レストランの内観浴場のつくりをほぼそのまま活かした、レストランの内観

はじめての海外は、小学校2年生のときだったという赤井さん。町内の旅行グループにお父さんと一緒に所属していたことから、毎年海外を訪れる機会に恵まれた。そのせいか、自然と視線は海外へと向き、中学生になると国際交流プログラムを通して韓国、そしてロサンゼルスで、現地の人や異文化に触れながらの中学生時代を過ごしてきた。高校もニュージーランドの学校を選び、卒業後はそのままカナダの大学へと進学した。

様々なことを学び、特に専攻した心理学からは影響を受け、帰国した赤井さん。しかしその段階では特にやりたいことが定まっていなかったそう。まずは日本での社会経験を積もうと、東京のとある会社の企画戦略部で働き始めたという。そうして2年がたつ頃、とうとうやりたいことが見つかった。それは都会に住んでいたからこその気づきだった。

「東京で感じたのは、友人たちの話す内容がみんな会社の愚痴とかマイナスな事ばかりだな、ということでした。逆に地元の八雲町に帰ると、明るい話題が飛び交っていました。東京よりも地元の方がいきいきしていることに気づき、帰るたびに田舎が大好きだという思いが強くなっていきました」

それと同時に危機感も持っていた、という。
「でも、このまま何もしなければ田舎から先につぶれていくな、と思いました。田舎は元気はあるんだけど、なんせ人がいないんです、特に若い人が…」

東京で目にした元気を失っている人たち。田舎で感じた将来への危機感。赤井さんは都会の人と田舎の町を結びつけたらどちらの役にも立てるのでは?と思い人材紹介会社を立ち上げた。しかし...。

「いざ起業してみると、八雲町の企業からの需要に対して東京からの人材の供給が追いつかなかったんです。最大の原因は、八雲町の知名度が低くて、移住関連事業に力を入れている他の市町村に人が流れていってしまうことでした。そこで、まずは八雲町を知ってもらうこと、観光でいいから八雲町に来てもらってその良さを肌で感じてもらうところから始めようと、2018年の11月に、ゲストハウスとそこに併設するレストランをオープンさせました」

地元民と旅人の交流拠点としてのゲストハウスづくり

『SENTŌ』で交流を深めるゲストたち『SENTŌ』で交流を深めるゲストたち

古くから一次産業が盛んな八雲町は「北海道酪農発祥の地」とも呼ばれ、牛乳の生産量は道南一の規模、また軟白ねぎに代表される農業も盛んな場所。さらに太平洋と日本海に面している土地柄、漁業も盛んで、特に噴火湾のホタテの養殖が有名だ。そんな食材の宝庫にもかかわらず、知名度はいまいちなのだとか。

「一次産業で栄えてきた町なので、観光業に頼らなくてもよかった、逆に言えば観光に力を入れてこなかったというのがその理由の一つです」

「観光」といえばその土地土地の「名所」を見てまわるのが主流だった。しかし外国人観光客が増加した近年、「体験型の観光」が主流となってきていると赤井さんは話す。

「正直、八雲町にこれといった観光名所はないんです。でも訪れる人を魅了する人や環境、産業が八雲町にはある。だからそれを『体験』として提供したい、あわよくば長期滞在してもらって、友達を作ってもらって、この先何度も八雲町を訪れて欲しいんですよね。だってどんなに素晴らしい"名所"でも、それだけを目的に何度も来てくれる人はいません。だからホテルや温泉宿ではなく、ゲストハウスを作ったんです。地元民と旅人が交流できる拠点として」

函館から北上するルート上にある八雲町にひょっこりと現れた元銭湯の古民家ゲストハウスは、JRや自転車、時にはヒッチハイクや徒歩で本州からきた北海道内を旅行する外国人旅行者たちに見事にうけ、これまでフランス、台湾、シンガポール、オランダ、オーストラリア、トルコなど様々な国から訪れた旅行者が泊まっている。中には数ケ月の長期滞在者もいるという。

「外国人や、バックパッカーは、WWOOF(ウーフ)に代表されるような、労働力を提供する代わりに食事・宿泊場所・経験などを得るというボランティアシステムに慣れているので、気に入った場所に何ヶ月も滞在することは珍しくないんです」

そのため赤井さんは、体験コンテンツの開発にも力を入れた。軟白ネギの収穫体験や和牛のお世話体験、ホタテ養殖体験など地元の生産現場を知れる体験ツアーが大好評だそう。
一方、併設するレストランでは、地元の食材を使った料理を提供するだけではなく、訪れた外国人や旅行者と地元の人たちとの交流を図るイベントが開催され、少しずつ『SENTŌ』の和が広がっている。

道南チームで世界にアプローチ

八雲町の春の風物詩、ホタテの耳吊り作業(養殖用のロープにホタテの稚貝を取り付ける)体験をするため、作業着に着替える外国人ゲスト八雲町の春の風物詩、ホタテの耳吊り作業(養殖用のロープにホタテの稚貝を取り付ける)体験をするため、作業着に着替える外国人ゲスト

ただ、観光事業を進めていく中で、こうした長期滞在者を八雲町だけに滞在させておくには限界を感じ始めていた赤井さんは、次のステップとして道南エリアの町のみんなで手を組み、「道南チーム」で世界にアプローチしていきたいと考えた。

「例えば、通訳や登山ガイドなど、それぞれの町が持ち合わせている知識やスキルなどを、お互いにシェアできたらいいなと思うんです。集合体となれば「道南」として大きくPRもできるし、長期滞在がここで完結できるような道南周遊プランも組める。さらには、道南という割とコンパクトな地域で旅が完結できれば、比較的時間の無い旅行者も移動を最小限に抑えることができるし、道南を満喫してくれれば、次は道央に行ってみよう、道東をまわってみよう、と何度も北海道に来る理由作りにもつながる。だから各地域がしっかり連携して、受け入れ態勢を確保してPRしていくことがすごく大事なんです。そのために今は、各市町村で同じ志をもった人たちを集めて、きちんとした組織作りを進めています。具体的にはDMO(※)を目指しての協議会の発足です」(※その後、7/12に発足)
※「Destination Management/Marketing Organization」の略。官民の幅広い連携によって観光地域づくりを推進する法人のこと

その上で赤井さんは、2021年に北海道で開催される「アドベンチャートラベルワールドサミット」という旅行の世界的商談会で道南周遊モニターツアーを提案しようと計画中だという。
「アドベンチャートラベルの市場規模って世界的にとても大きくて、これからさらに盛り上がっていくだろうと観光業界でも注目されているんです。そんなアドベンチャートラベルの世界的商談会が北海道で開催されるこのチャンスに、まずはなんとしても道南のモニターツアーを実現させたいんです。世界のメディアや旅行会社を対象に行われるこのモニターツアーで道南の魅力をうまくアピールできれば、そこから一気に盛り上げていけると思うんです。そのためにもみんなで力を合わせなければなりません。コロナの影響で準備にかける時間はたっぷりありますから、万全の態勢で挑みたいと思います」

赤井さんは、「最大の目標は、少子高齢化を止めること」と言い切る。見据えるのは、たくさんの人に八雲町や道南を知ってもらい、訪れてもらったその先なのだ。

かつて北海道のどこよりも早く世界と繋がり、様々な西洋文化を取り込みながら発展を遂げてきた道南エリアは、赤井さんのような、広い視野と志を持つ人たちによって、近い将来、再び世界から脚光を浴びることだろう。

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◎筆者:くらしごと編集部 佐々木 都

2020年 08月23日 11時00分