まちのシンボル・築140年古民家の解体。失敗を教訓に始まった空き家再生

上/頴娃おこそ会と学生による空き家改修ワークショップの様子 下/解体前の「原田書店」</br>(写真提供:頴娃おこそ会)上/頴娃おこそ会と学生による空き家改修ワークショップの様子 下/解体前の「原田書店」
(写真提供:頴娃おこそ会)

鹿児島県南九州市のNPO法人「頴娃(えい)おこそ会」は、観光振興で実績を挙げてきたまちおこし団体だそれがここ5年ほどは、空き家再生にも取り組んでいるという。過疎化が進む人口約1万2000人のまち・頴娃で、どうやって空き家を活かすのか。活動の経緯と課題を聞いた。


おこそ会が初めて「空き家問題」に直面したのは、大切な観光資源だった古民家の解体だ。この家は頴娃の中心・石垣商店街にあって、シンボル的な存在だった。

石垣の集落は、かつて貿易で栄えた港町としての歴史を持つ。築100年を超える古民家や蔵が立ち並び、坂道や裏路地に味わいがある。おこそ会は、石垣商店街で代々呉服店を営む原田弘志さんをリーダーに、まちあるきコースの設定やガイドマップの作成に取り組んできた。その重要なスポットのひとつが、前述の古民家、通称「原田書店」だった。年月を経た漆喰壁の佇まいに風情があったという。

その原田書店に取り壊しの話が持ち上がったとき、おこそ会石垣チームは、商店街のシンボルを失いたくない一心で、家主に保存を訴えた。熱意に打たれた家主は、おこそ会に無償で譲ろうと申し出てくれたそうだ。

しかし、不動産を「もらう」のは簡単なことではない。所有権を移すには登記が必要で、費用や税金がかかる。ただでもらえば「贈与」にあたるので、贈与税も発生する。おこそ会石垣チームに、そんな資金の用意はなかった。せっかく「譲る」と言ってくれた家主に保留を申し出る結果になり、落胆した家主は解体に踏み切った。遠方に住む家主にとって、崩壊の危険が伴う老朽化した建物を放置することはリスクにつながるからだ。石垣チームにとっては痛恨の出来事だった。

“保存”から“活用”へ。観光振興の実績が地域の学校や住民との連携を後押し

石垣チームの様子を見ていたおこそ会古参の副理事長・石元宏二さん(現:理事長)は、原田書店の向かいにある空き家を借りてきて、再チャレンジを提案した。やはり家主は遠方に住んでおり、家財道具もそのままに、30年近く放置されていた家だという。これまた築100年を超える商家だ。
宿題を与えられた石垣チームは、真剣に「空き家の再生」に向き合うことになる。

「それまでは、古い建物を“残したい”とは思っていたけれど、残してどうするかまでは考えていませんでした」と振り返るのは、おこそ会「空き家再生プロジェクトチーム」リーダーの加藤潤さんだ。

幸い、石元さんの尽力で家賃は免除されている。活用策を考える余裕はあった。おこそ会空き家チームは、「まず、できることから始めよう」と、家の中でホコリを被っていた家財道具や不要な建材の片付けに着手した。ただそれだけのことでも、一段落するまで1年近くかかったという。

ここで生きたのが、おこそ会が積み重ねてきた観光振興の実績だ。ちょうどこの頃、会が2014年度の過疎地域自立活性化優良事例で総務大臣賞を受賞する。地元紙が取材に訪れ、併せて空き家再生の取り組みも報じてくれた。そこから、この取り組みが地域に知られることになり、ネットワークが広がっていく。

そして2015年春、県内にある第一工業大学の建築デザイン学科との連携が生まれる。講師の根本修平さん(現:福山市立大学講師)と学生たちが頴娃にやってきて、建物を測量し図面に起こし、さらには改修案までつくってくれたのだ。地域の拠点として、「お茶どころ頴娃のイメージを活かした茶店風に改装する」というアイデアだった。おこそ会も資金集めに奔走し、県や地域活性化センターから補助事業の採択を取り付けた。空き家は、かつてここで商われていた商品の名前を取って「塩や、」と呼ばれることになった。

「塩や、」。「屋」や「家」ではなく「や、」としたのは、空き家再生を今後につなげたい思いから。左上/塩や、で開催された「古民家マーケット」 右上/塩や、内部。甕はもともとここにあったもの 左下/改修では地域住民にも参加してもらって、壁紙を漉くワークショップを開催した 右下/電気工事には頴娃高校電気科の生徒たちが実習を兼ねて参加してくれた</br>(右上以外写真提供:頴娃おこそ会)「塩や、」。「屋」や「家」ではなく「や、」としたのは、空き家再生を今後につなげたい思いから。左上/塩や、で開催された「古民家マーケット」 右上/塩や、内部。甕はもともとここにあったもの 左下/改修では地域住民にも参加してもらって、壁紙を漉くワークショップを開催した 右下/電気工事には頴娃高校電気科の生徒たちが実習を兼ねて参加してくれた
(右上以外写真提供:頴娃おこそ会)

空き家活用が、地域の拠点づくりから、移住者への住居提供、宿の開業に発展

2015年の夏には、おこそ会の空き家再生にギアが入る出来事が2つあった。
ひとつは、第一工業大学の学生15人が頴娃に合宿し、本格的に「塩や、」の改修作業に取り組んだこと。

もうひとつは、おこそ会が初の専従スタッフとして移住者の福澤知香さんを迎え入れたことだ。移住者には住まいを提供しなければならない。「空き家を探して住めるようにして貸す」、おこそ会にとって、空き家再生の新たなフェーズとなった。

「塩や、」の改修作業には、地域の住民も参加してくれた。まちのために若者たちが汗を流してくれるのは嬉しい出来事だったことだろう。住人から合宿用のふとんの提供や飲食の差し入れも行われた。
途中、講師の根本さんのアイデアで、シュレッダーくずを材料にした「紙漉きワークショップ」を開催。住民と学生が肩を並べ、壁紙をつくって貼る作業は、建物そのものへの愛着にもつながったようだ。
「塩や、」がひとまずの完成を見たあとも、ご近所からさまざまな「いただきもの」があるという。「かまどを補修してくれたり、井戸にポンプを付けてくれたり」と前出の加藤さん。「できの悪い子どもだから、俺たちがなんとかしてやらなくちゃ、と思ってくださるみたいで」と笑う。

NPOと学生と地域住民の連携による空き家再生は、地元テレビや新聞が繰り返し取り上げてくれた。これを見て、九州各地はもとより、国外からも視察団が訪れるようになる。

遠来の客が来れば、宿が必要になる。観光業の経験を持つ福澤知香さんは、おこそ会が探し出した空き家に暮らしながら、民宿の運営を始める。この家は福澤さんの苗字を一字とり「暮らしの宿・福のや、」と名付けられた。
かくして、おこそ会の空き家再生は「起業」への糸口をつかんだ。

現在の「福のや、」。はじめは福澤さんの住まいの一部を宿にしていたが、現在は専業の一棟貸しの宿だ。工務店による施工とDIYを組み合わせて改修した。みんなで集まるリビングと、カウンター付きのキッチンを設け、一部を仕切って個室をふたつ用意した。掲示板には近隣のおすすめの観光スポットなどが手描きで張り出してある。古い民家には無いことが多い洗面台も手づくりで新設。合板でつくった箱にシンクをはめ込んでいる。右上の写真は改修中の様子。左端が福澤さん。旅行会社や観光協会で働いた経験を持つ。旅に送り出す側よりも、迎えてもてなす側に立ちたい、と頴娃への移住を決めたそうだ(左上写真提供:頴娃おこそ会)現在の「福のや、」。はじめは福澤さんの住まいの一部を宿にしていたが、現在は専業の一棟貸しの宿だ。工務店による施工とDIYを組み合わせて改修した。みんなで集まるリビングと、カウンター付きのキッチンを設け、一部を仕切って個室をふたつ用意した。掲示板には近隣のおすすめの観光スポットなどが手描きで張り出してある。古い民家には無いことが多い洗面台も手づくりで新設。合板でつくった箱にシンクをはめ込んでいる。右上の写真は改修中の様子。左端が福澤さん。旅行会社や観光協会で働いた経験を持つ。旅に送り出す側よりも、迎えてもてなす側に立ちたい、と頴娃への移住を決めたそうだ(左上写真提供:頴娃おこそ会)

3つの大学が合宿で改修に取り組む。おこそ会には地域おこし協力隊が参加

2016年9月には、第一工業大学に加え、東京の共立女子大学建築デザイン学科、鹿児島大学経済学科の学生たちが、入れ代わり立ち代わり頴娃にやってきた。おこそ会が新たに借りた空き家を教材に、再生改修の実践授業に取り組んだのだ。このときは、石垣商店街に並んで立つ2棟と、少し離れた農村地帯に残されていた1棟が対象となった。おかげで3棟の改修が一気に前進しただけでなく、学生ならではの創意工夫で施工法にもバリエーションが生まれた。何より、過疎のまちが近年にないほどの活気に溢れた。
「その一方で、いつまでも学生のパワーにすがるわけにはいかないことも悟りました」と加藤さん。学生との連携はこの年で一旦終了し、その後はおこそ会メンバー主体の改修に舵を切る。

同じ年の11月から、おこそ会は「地域おこし協力隊」として新たな移住者を迎え入れることになった。まず前迫昇吾さん、次いで蔵元恵佑さんが頴娃に着任。彼らの任務は「観光まちづくりを基盤とした創業」で、自ら空き家を改修して住みながら、再生活用に取り組む。この頃、おこそ会の再生実績も7軒に届こうとしていた。

現在、「福のや、」は別の再生空き家に移転し、「一日一組限定の宿」として多くの来訪者を迎えている。福澤さんは新たに食品加工と飲食業の許可を取り、頴娃で出会った夫・瀬川祐星さんが育てるとうもろこしでお茶やポップコーンをつくって販売し始めた。さらに、まちあるきや物々交換会などのイベントも仕掛け、まちの賑わいづくりに努めている。宿だけでは、地元の人との交流が生まれにくいからだ。

前迫さんと蔵元さんは再生空き家に「おまけ」として付いてきた離れを改造し、シェアオフィスとして使い始めた。福澤さんや加藤さんもここに席を置く。
前迫さんは前職の経験を活かし、デザイナーとしても活躍中だ。

一方、蔵元さんはおこそ会が立ち上げた新会社「オコソコ」の社長に就任。おこそ会の空き家再生は、おこそ会が家主と賃貸契約を結び、オコソコが借り手を付けるなど活用面を担うことになった。再生空き家のうち一棟は、オコソコ直営のゲストハウスとした。

左上/頴娃の農村地帯、茶畑が広がるエリアの地域拠点「茶や、」。地域で立ち上げた「茶寿会」メンバーを中心に、合宿に訪れた学生たちや美術作家の支援も得て、約2年かけて改修した 右上/学生たちによる「茶や、」改修の様子 下2点/ひとつの敷地に2棟並んでいたことから名前は「ふたつや、」。左は「母屋」で、半分を地域の集会にも使えるリビングダイニングスペースに、半分を仕切って簡易宿泊所にしている。右は「離れ」。県内外から移住してきて頴娃で活躍する人たちのシェアオフィスだ。市役所の職員や近隣住人など、さまざまな人が気軽に出入りし、新しい仕事やプロジェクトのきっかけが生まれる</br>(上2点写真提供:頴娃おこそ会)左上/頴娃の農村地帯、茶畑が広がるエリアの地域拠点「茶や、」。地域で立ち上げた「茶寿会」メンバーを中心に、合宿に訪れた学生たちや美術作家の支援も得て、約2年かけて改修した 右上/学生たちによる「茶や、」改修の様子 下2点/ひとつの敷地に2棟並んでいたことから名前は「ふたつや、」。左は「母屋」で、半分を地域の集会にも使えるリビングダイニングスペースに、半分を仕切って簡易宿泊所にしている。右は「離れ」。県内外から移住してきて頴娃で活躍する人たちのシェアオフィスだ。市役所の職員や近隣住人など、さまざまな人が気軽に出入りし、新しい仕事やプロジェクトのきっかけが生まれる
(上2点写真提供:頴娃おこそ会)

過疎のまちで空き家再生をビジネスに。新会社で改修活用の取り組みを続ける

最初の「原田書店」の経験から、おこそ会の空き家再生は所有権を持たず「賃借」を原則にしている。契約に際しては「おこそ会から借り手にまた貸しすること」「借り手が負担して改修する代わり、原状回復はしないこと」などを家主に理解してもらう。

オコソコのプロデューサーに就任した加藤さんは、空き家再生を経済的に成り立たせる仕組みを模索中だ。
「家主に払う家賃は、固定資産税や火災保険などの維持経費程度に抑えてもらってます。だいたい年額3万円くらい。格安ではあるけれど、家主にとっては老朽化した建物を人の手で手入れしてもらえ、余分な水道光熱費が要らなくなるメリットがあります。そして、借り手には相場に合わせて月3〜4万円で貸す。改修費用さえ抑えれば、なんとかやっていけそうです」

7軒以上の空き家再生経験を積んで、改修の要領もつかめてきたそうだ。プロに頼むべきこととDIYでできることの切り分け、コストダウンのコツ、昔の間取りを使いやすくカスタマイズするポイントなど。これまでに得た知見は2冊の小冊子にまとめ、オコソコのHPで販売している。
「人手を集めたいときはワークショップを開催します。古民家再生や空き家対策に関心のある人がたくさん来てくれるんですよ。そこからまたネットワークが広がって、移住促進にもつながっています」と加藤さん。

8軒目の改修では、ワークショップ当日だけでなく、DIYに興味のある人や、建築士、設備業者、不動産業者といったプロも訪れて、合計30人以上が改修に手を貸してくれたという。この家は「つきのや、」と名付けられ、鹿児島市から移住してきた上村ゆいさんが古民家ヨガ教室を営む。

さらに、つきのや、のワークショップの参加者のなかから、映像作家の鮫島歩さんとブロガーの福島花咲里さんのカップル、オートクチュール・デザイナーの待井千明さんが移住を希望。それぞれ、オコソコが提供した空き家を借りて、住みながらDIY改修を進めている。

移住者の住まいや仕事の拠点としての空き家再生が進む一方で、最初に改修した「塩や、」には課題も浮上している。
改修当初は大学との連携が注目を集め、視察や研修、合宿がひきも切らなかったが、3年近く経過して活用度が落ちているという。

「塩や、は規模が大きく、大勢が一堂に集まれるように改修したので、住居や宿には向きません。かといって、そうたびたびイベントも開けない」と加藤さん。
幸い、近隣住人の協力もあって、塩や、には手づくりのピザ釜やIHヒーターなど厨房設備が整っているので、ここで飲食業が営めるよう許可を取った。今後は、週末だけ飲食店を誘致し、それ以外はおこそ会が集会やイベントに使うなど、新たな活用策を検討しているそうだ。

頴娃おこそ会空き家再生ものがたり http://akiyasaisei.ei-go.jp/
福のや、https://www.fukunoya-ei.com/
オコソコ http://okosoco-japan.com/
空き家再生冊子の販売サイト オコソコストア  https://okosoco.stores.jp/

「つきのや、」。古民家ヨガ教室の屋号「月下美人」にちなんで名付けた。左下はワークショップの様子。右下は上村さんの希望で加藤さんがつくった「囲炉裏」。洋風の窓も手づくりしたという。前列中央が上村さん、右端が加藤さん</br>(左上以外写真提供:頴娃おこそ会)「つきのや、」。古民家ヨガ教室の屋号「月下美人」にちなんで名付けた。左下はワークショップの様子。右下は上村さんの希望で加藤さんがつくった「囲炉裏」。洋風の窓も手づくりしたという。前列中央が上村さん、右端が加藤さん
(左上以外写真提供:頴娃おこそ会)

2019年 09月24日 11時05分