様々な社会の変化を「暮らし」の視点から考える

くらしノベーション研究所長 松本吉彦氏くらしノベーション研究所長 松本吉彦氏

2014年10月3日、旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所が「くらしノベーションフォーラム」を開催した。少子高齢化に伴う家庭での子育て環境や地域コミュニティーの再生、また地球温暖化対策としてのエネルギー問題などの課題に対して、暮らしの変化の観点から住まいのあり方を考えるためにメディア向けに開催され、今回で13回目となる。

今後さらなるエネルギー不足が予想され省エネが叫ばれる昨今、エコ家電やHEMSなど機械面(ハード)の進歩に対し、それらを効率的に活用する“暮らし方”というソフト面についてはあまり提案されていないように思う。そうした状況のなか、今回同フォーラムではエネルギーをテーマとし、京都大学大学院 エネルギー科学研究科教授の手塚哲央氏が「自律生活のすすめ ~エネルギーシステム学から家庭のエネルギー利用を考える~」と題した講演を行った。また、環境に優しい暮らし方を提案する目的で同社が2002年から開設している一般ユーザー向けサイト「EcoゾウさんClub」の10年間の活動調査報告も行われた。

同研究所長の松本吉彦氏は冒頭の開催趣旨説明で「これからのエネルギー消費時代を考えるにあたり、多様な分野を総合的に扱った視点から、自身の生活を見直してエネルギーを減らすことを考えるきっかけになれば」と話した。
“ソフト面の省エネ”とは、一体どのようなことを指すのだろうか?

エネルギー消費の基準は”幸せ度”

講演する京都大学大学院 エネルギー科学研究科教授 手塚哲央氏。「エネルギーシステム学」という新たな分野の確立を目指した研究を行っている講演する京都大学大学院 エネルギー科学研究科教授 手塚哲央氏。「エネルギーシステム学」という新たな分野の確立を目指した研究を行っている

講演の題にある“エネルギーシステム学”。聞きなれない言葉だが、手塚氏はこの新しい分野の確立を目指した研究を進めている。その定義について手塚氏は、葛飾北斎の“群盲象を撫ず“の絵を例に挙げ、大勢の盲人が象の体を撫でて、各々が自分の触れた部分の感触のみから象について説明したというエピソードを用いながら「多様な専門分野が連携して様々な角度からエネルギーを考える事を趣旨とする学問」と説明した。
また、システム学の特徴として、“その時や状況によって物の見方が異なる”習性を持つ人間が関わる事に着目する必要があるとした上で、「そもそもエネルギー消費はそれ自体が“目的”ではなく、あくまでも“派生需要”。エネルギーを使う事と“幸せ度”のバランスが重要」と説明した。

つまり、省エネ行動を追求するあまりに人の生活が不便になるべきではなく、あくまでも主役は“人”。エネルギーを消費する際に、それによる利便性(幸せ度)や必要性のバランスを考えて行動することが重要ということだ。人やものに頼っていいものは頼る。しかし自分で考えてエネルギーを使う。手塚氏はその行動を「自律生活」とし、そうした行動を、家庭単位だけでなく自治体や国がそれぞれのレベルで意思決定し、バランスを取った自律分散型のシステムとすることが今後の社会には必要であると強調した。

そうした社会の中で今後、人の役割は自ら進んで生活様式を見直す行動をとること、一方で社会の役割は、そうした価値観の多様性を認めること。手塚氏は「まだ実証できていないので学会ではできない話ですが」と前置きした上で、「自律的な行動、価値観の多様性はこれからの社会にとって非常に大事。これができれば、エネルギーに依存しない暮らしができるのでは」と今後のエネルギー不足社会への提案を投げかけた。

一般向け省エネ推進活動、ポイントはやはり「楽しんで続ける」

2002年に旭化成ホームズ株式会社が一般ユーザー向けに開設した無料webサイト「EcoゾウさんClub」は、ユーザーが毎月の電気、ガス、水道などの使用量と料金をサイトに入力。そのデータを基にした自宅の二酸化炭素排出量や昨年からの削減量、全国の他の家庭と比較したランキングや節約術などのコンテンツで、楽しみながら家庭で省エネを実践するためのサイトだ。
開設から10年間の取り組みをもとに、家庭でのエネルギー利用に対する意識・行動の変化の調査報告が今回のフォーラムで行われた。

数値等の詳細は「EcoゾウさんClub」サイトで確認いただくとして、実際にこの10年間でEcoゾウさんClub会員のエネルギー消費量が削減できたという結果が出ているという。数値以外にも「待機電力がもったいないと、子どもがテレビ本体の電源を切るようになった」など、サイトを利用し省エネに取り組むことで家庭全体で意識や行動が変わったという会員の声も紹介された。
報告にあたった同社くらしノベーション研究所 主幹研究員の下川美代子氏は「10年間を通して確認したのは、省エネの鍵は楽しく継続すること」と話し、そのために今後もEcoゾウさんClubに求められる事として、
「定期的にエネルギー消費量を確認したいと思うきっかけ作り」
「“実際にどのようなアクションを起こしてみたいのか、その効果や楽しかったことは?”という、行為者の気持ちを受け止める場づくり」
「会員相互の交流の場づくり」
の3点を挙げた。
こうしたツールを用いて、家庭で楽しんで省エネ活動に取り組み、他の家庭との比較状況も把握することは「自分で考えて行動」し、「多様性をもつ・認める」事を子どもも幼いうちから習慣づけることができる。つまり、手塚氏の話す「自律」や「多様性を認める」ことにつながると感じた。

EcoゾウさんClubに登録してみた。検針票の結果を翌月10日までに入力すると、</br>ランキンググラフが表示されるなど、定期的に意識して入力したくなる仕組みも考えられているEcoゾウさんClubに登録してみた。検針票の結果を翌月10日までに入力すると、
ランキンググラフが表示されるなど、定期的に意識して入力したくなる仕組みも考えられている

変化する社会の中で考えていくべきこととは

2020年には住宅の省エネ基準適合が義務化され、「省エネ住宅」や「スマートハウス」といった言葉が多く聞かれることにも表れているように、私たちの暮らしにおけるエネルギー消費問題は今後さらに関心が高まると予想できる。その中で、開発される機器(ハード)を使用する“ソフト”としての人間がどう考えて行動するべきか、という議論はもっと行われていくべきだろう。

“人”が主役で考えるエネルギーシステム学の確立、またエネルギー問題に限らず、くらしノベーション研究所で行われている人口減少に伴う家族構成の変化など、様々な社会の変化を「暮らし」の視点から考えた発信は、今後も注目していきたい。

2014年 11月16日 10時51分