パワースポットの成り立ち、コトバの歴史は浅いが古くからある聖地信仰

パワースポットとして有名な佐賀県の武雄神社の御神木の大楠。五行では「木」に分類される。武雄神社の創建は735年で350年生きたと伝えられる武内宿禰を祀っているパワースポットとして有名な佐賀県の武雄神社の御神木の大楠。五行では「木」に分類される。武雄神社の創建は735年で350年生きたと伝えられる武内宿禰を祀っている

パワースポットに行って元気をもらってきたという話を聞いて、皆さんは何を思うだろうか。自分も行ってみたい、そんなの効果があるわけがない、反応は人それぞれだ。だいたいパワーと言われても目に見えないのだから、本当にもらったかなど検証のしようがない。

しかし今日もパワースポットにはパワー、つまり何らかのご利益を求めて多くの人が集まっている。パワースポットを観光の名所として売り出しているところもあるほどだ。

実際のところパワースポットとは何なのだろうか。今回は、その成り立ち、ご利益別パワースポットの分類、効率よくパワーを頂く作法や、パワーを吸い取られるスポットの注意点など、パワースポットの秘密に迫ってみよう。

パワースポットは辞書にも出ている言葉である。デジタル大辞泉によると、「霊的な力が満ちているとされる場所。[補説]1990年代ごろからのオカルトや超自然主義の流行に伴って使われだした。」とある。

つまり当初のパワースポットは、人が潜在的に持つとされる人知を超えた能力、つまり超能力を増幅、強化するための場所という意味であった。四角錐にはピラミッドパワーがあり、頭が良くなる、食べ物が腐らないといったような話題が盛り上がった時代である。

2000年頃になるとパワースポットの意味合いが微妙に変化し始める。風水やスピリチュアルブームの到来により、各地の神社仏閣がパワースポットの仲間入りをしたのである。風水は中国の古代思想である五行思想を礎としていて、神道や陰陽道などにも大きな影響を与えている。このころからパワースポットはオカルトめいた場所から、信仰の場、新たな「聖地」としての色合いが強まっていった。

このようにパワースポットというコトバそのものの歴史は意外と浅い。しかしながら、パワースポットを信仰の対象である「聖地」として捉えると、その歴史はかなり古く、例えば、富士山をはじめとする山岳信仰、数多くの海や湖、洞穴などへの自然崇拝などは、古事記や風土記などにもその片鱗が見え、その歴史は1,300年を超える。

日本人の持つ宗教観では、大自然のすべてに神威が宿る。山にも宿るし、川にも宿る。巨岩にも大樹にも鏡にも猛炎にも宿る。まさに八百万の神の国なのである。現在のパワースポットもこの聖地信仰の一種と考えると、昨今の人気も頷けるものがある。

五行思想の影響が色濃く表れている聖地、パワースポットをご利益別に分類

「火」のパワースポットで最大規模と言えるものは何と言っても太陽だろう。古来、日本人は御来光に神威を強く感じてきた「火」のパワースポットで最大規模と言えるものは何と言っても太陽だろう。古来、日本人は御来光に神威を強く感じてきた

日本の聖地信仰や自然崇拝は、総じて中国の古代思想である五行思想の影響を色濃く表している。五行思想が中国から日本に伝わってきたのは、日本書紀によると513年、その後、ありとあらゆるものが五行思想の影響を強く受けることとなった。

例えば、商売の神である稲荷社の鳥居は赤く、祖先の安らかな眠りを守る僧侶は黒衣をまとい、他にも節句や七五三、水引などもその影響を受けている。

そこで今回は、パワースポットを古式ゆかしき五行思想に則って分類、どこへ行けばどんなご利益が得られるかをまとめてみた。

まずは五行思想について簡単にご紹介しよう。五行思想とは、世の中のすべての事象は「木・火・土・金・水(もっかどごんすい)」という5つのエレメントに分類され、それぞれが独自の性質を持っているというものである。当然、聖地も五行に分類することができ、それぞれに意味を持つ。

御神木や森林を主体としたパワースポットは、「木」に分類される。「木」の特性は、柔軟な生命力にある。植物の枝や根は曲直し上に下に横にと自由に広がってゆく。また、人が吐き出すよくないものを浄化して清浄なものへと変えてくれることから、「木」には、成長、再生、柔和、浄化という特性が与えられた。ご利益は病気平癒とか健康維持といったことが考えられる。

火山や温泉場といった温熱地帯を主体としたパワースポットは、「火」に分類される。神社仏閣でも火の神や不動明王を祀っているなら「火」となるだろう。「火」の特性は、燃焼のパワーにあり。その本義は温熱と光明、そして燃焼によって引き起こされる対流にある。そのことから、「火」には、炎上、陽熱、上昇、飛躍という特性が与えられた。ご利益は人望、出会い、恋愛など対人関係での運気上昇にあるとされている。

富士山のご利益は悩み解決、商売繁盛、金運を狙うなら水場へ

山や街といった土地を主体としたパワースポットは、「土」に分類される。霊場なども「土」と考えて良いだろう。「土」の特性は、生命を育み、死を包み込み自然へ返すことにある。土中で死体が腐り、それを栄養分として新たな生命を育む。そのことから「土」には、長養、生化、受納、変化という特性が与えられた。ご利益は新規事業の成功や懸案事項の解決、商売繁盛などがありそうだ。

岩や金属性のものを主体にしたパワースポットは、「金」に分類される。ストーンサークルや神鏡、神剣を御神体とした神社なども「金」と考えて良いだろう。「金」の特性は、熱伝導の良さにある。金属は触れれば冷たく、汚れても水で流すだけできれいになり、重く重厚であり、熱で形を変える。そのことから「金」には、清涼、清潔、変革、収斂という特性が与えられた。ご利益は冷静な判断力や冷徹な分析力、知恵から生まれる金運や勉強運などが考えられる。

海や湖、滝や河川といった水を主体にしたパワースポットは、「水」に分類される。竜神や水神を祀る神社なども「水」と考えて良いだろう。「水」の特性は、液体であることだ。水はものを湿らせ冷やし、よく火を消し、下に向かって流れ落ち、低地によく溜まる。そのことから「水」には寒涼、滋潤、下降、集結の特性が与えられた。ご利益は倹約や貯蓄など財産を集め貯めこむことにある。

「土」のパワースポットの代表はやはり富士山だろう。数ある山岳信仰の霊山としても圧倒的な人気のスポットである「土」のパワースポットの代表はやはり富士山だろう。数ある山岳信仰の霊山としても圧倒的な人気のスポットである

効率よくパワーを貰う作法、聖地を敬う気持ちも

金峰山山頂の五丈石は「金」に分類される。山岳信仰と相まって山頂に存在する巨岩は特に強い信仰を集めた
金峰山山頂の五丈石は「金」に分類される。山岳信仰と相まって山頂に存在する巨岩は特に強い信仰を集めた

さて、パワースポットの分類ができ、期待できるご利益の整理ができたところで、次は訪れる際の作法をご紹介しよう。ご利益を頂くための聖地訪問なのであるから、できれば効率よくパワーの恩恵にあずかりたいと願うのが人情である。

五行思想において、五行のパワーは同じ行に集まるとされている。すなわち木は木を引き寄せて森林を作り、水は水を集めて大河になるという考え方である。お金は金持ちに集まると言われるのも、五行的には真理ということになる。

つまりパワースポットに行く際は、欲しいご利益に属する五行の物を身に付ければ、効率よくパワーを引き寄せられるということだ。例えば「金」に属するパワースポットを訪問するなら、金属製の装飾品や白いシャツ、「木」なら緑のジャケットや本を持つ、「土」ならなめし革のカバンや黄色のスカーフ、「水」なら黒いコートやペットボトルの水。「火」ならライターや赤い帽子といった具合である。

また注意したいのが、パワースポットは聖地であるからして、敬う気持ちを忘れずにいることである。畏敬の念を持って訪問することが肝心で、ゴミを散らかすなどはもってのほかであろう。

パワースポット訪問の際の注意点、パワーをもらえる場所と吸い取る場所がある?

那智一の滝は飛龍神社の御神体であり、日光の華厳の滝と並んで霊験があるとされている。「水」に分類されるパワースポットだ那智一の滝は飛龍神社の御神体であり、日光の華厳の滝と並んで霊験があるとされている。「水」に分類されるパワースポットだ

五行思想に照らし合わせていくとパワースポットにも落とし穴があることが分かる。パワーがもらえる場所と、吸い取られる場所があるということだ。

五行の5つのエレメントはそれぞれの特性上、2極に分かれていて、上昇と下降、放出と吸引、活動と停滞といった対立関係を持つ。「火」と「金」は上昇放出グループに属し、「水」と「木」は下降吸引グループ、「土」は中庸である。

例えば活動的で頑強な身体をつくるパワーが欲しいと願ったとしよう。健康運なので「木」に属するパワースポットへ行けば良いと考えがちだが、「木」の特性は余分な活力を吸い取り、安静な環境で体調維持をすることにあり、活発な行動力を求めるならむしろ逆効果となる。この場合は「火」に属するパワースポットが適しているだろう。

他にもお金を稼いで財産を増やしたいと願って、「金」のパワースポットに行くと、金まわりは良くなるが、入ってきた分出ていってしまうので、お金を貯めることとは意味が異なる。財産を増やしたいのであれば、「水」に属するスポットが向いている。

神社へ行く際も、合格祈願には天満宮へ行くように、パワースポットにもそれぞれに向き不向きがありそうなので、期待する効果を吟味して、適切なパワースポットを選ぶことが肝心となる。

日本人は畏敬の念と洒落っ気という一見相反する感覚を、絶妙なバランスで生活の中に取り入れてきた。回向院の境内で行われる幽霊興行然り、塀の立小便除けの鳥居の絵も然りである。パワースポットがこれほどまでに人の心を惹きつける魅力に満ちているのも、日本人の心に古くから刻まれている万物への畏敬の念と、とりあえず流行に乗って楽しもうという洒落っ気の相乗効果によるものだろう。パワースポットは恭しく、かといって委縮することなく、思い切り楽しむのが良さそうである。

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