UR賃貸住宅【豊明団地】内 ロボティックスマートホーム実証研究施設

既存の集会所棟を改修して医療・介護に関する機能を加えた、豊明団地の『けやきテラス』。その2階にロボティックスマートホーム実証研究施設がある既存の集会所棟を改修して医療・介護に関する機能を加えた、豊明団地の『けやきテラス』。その2階にロボティックスマートホーム実証研究施設がある

厚生労働省の介護保険事業状況報告によると、2016年における要介護者は622万人。この数は日本の高齢者(65歳以上・3,470万人)の17.9%で、総人口(1億2,700万人)の4.9%にあたり、超高齢化が進む中で要介護認定者数は年々増えている。同時に高齢者世帯も急速に増加しており、総世帯の1/4が高齢者世帯で、その半数は単独世帯いわゆる“独居”なのだという。

高齢者が住み慣れた自宅で生活を続けるためには支援が必須。そこで、移乗支援ロボットやテレビ型機器など各種支援機器を開発して製品化。それらが活躍できる空間をデザインし、リアルな場面で実証も行うというプロジェクトが愛知県で2016年から進められている。

以前の記事でUR賃貸住宅【豊明団地】を活用した、産学官協働の地域包括ケアシステムづくりをご紹介したが、同団地内の集会所棟『けやきテラス』2階にプロジェクトの拠点施設がある。
今回は、その施設『RSH(ロボティックスマートホーム)実証研究施設』に注目してみたい。

藤田医科大学リハビリテーション部門が提案するRSH

最先端の支援機器開発・実証が行われている『RSH実証研究施設』最先端の支援機器開発・実証が行われている『RSH実証研究施設』

RSH(ロボティックスマートホーム)=ロボット×スマートホーム。
『ロボティックスマートホーム実証研究施設』は、医療系総合大学として知られる藤田医科大学が提案・推進する施設。同大学のリハビリテーション部門は、長寿社会をより豊かなものにするために自治体や多数企業と連携して精力的に生活支援機器やロボットの開発を行っており、2017年9月にその実証実験施設として開設した。
施設は75m2程の広さで、「玄関」「リビング・ダイニング」「寝室」「浴室」「洗面所」そして大小2ヶ所の「トイレ」があり、実際の住宅空間を模している。そんな“模擬住宅”の中にさまざまな仕様の生活支援機器を導入し、長寿社会に適した住まい開発を目指している。

介護支援ロボットと空間デザインを同時開発

床のものを拾うなどさまざまな場面で生活をサポートする「生活支援ロボット」、可動式の吊り下げ装置によって不意の転倒を防止する「歩行支援ロボット」、座ったままトイレやベッドなどへの移動・移乗がラクにできる「移乗支援ロボット」などが導入されている床のものを拾うなどさまざまな場面で生活をサポートする「生活支援ロボット」、可動式の吊り下げ装置によって不意の転倒を防止する「歩行支援ロボット」、座ったままトイレやベッドなどへの移動・移乗がラクにできる「移乗支援ロボット」などが導入されている

では、加速する日本の長寿社会に求められる居住空間とはどのようなものだろう? 

スマートホームに関しては数多くの会社が参入しているが、その“快適性”が高齢夫婦・高齢独居世帯のニーズを捉えているか?と聞かれると、「YES」とは言い難い。
IoTやAIなどの技術に疎く、中には拒絶反応すら起こすお年寄りもいるだろうし、例えば廊下ひとつとっても、段差のないバリアフリーであれば良い訳でも、手摺りを付けたユニバーサル仕様にすればOKな訳でもなく、車椅子が通れる幅があれば全て解決するという訳でもない。
そもそも、シニア向けの住まいにするためには広さが必要になるため、一戸建てならば新築や建替え、マンションならば専有面積の広い物件を探した上で改築するなど、新たな家づくり・家探しも必要になると想像できる。
シニアが快適に暮らせるように自宅環境を整える、「住まいの高齢化対策」が広く一般化できていない現状は、スマートホームの“弱点”とも言えるのではないだろうか。

「高齢者にとって快適な我が家をつくるためには、どんな『面倒』が起こって、どんな『便利』が必要で、どんな『支援』が要るかを考えた【長寿デザイン】の住まいであることが必要です。同時に、力の要る作業のサポートなど【物理的支援】も欠かせません。
真に役立つ製品づくり・空間づくりを目指して、住空間デザインと介護支援ロボットの同時開発をハウスメーカーや住宅設備メーカー、電気機器メーカー等とも連携して進めています」と、企業と共に開発を進める田辺茂雄氏(藤田医科大学准教授)は言う。

「50m2」「移動/移乗」「操作」「情報」がキーワード

田辺氏によると、スマートホームと高齢者を考える上でキーワードとなるのは、「50m2」「移動/移乗」「操作」「情報」なのだとか。それぞれについて、どのような課題があるのか紹介しよう。

■50m2
生活支援ロボット・生活支援機器は海外でも製品化されているのだが、それを導入すればOK!という話でもない。
1戸あたりの床面積を見ると、アメリカ75m2・フランス71m2・イギリス84m2、日本は…42m2(リクルート住宅総研調査)。つまり、海外製品は日本の住宅サイズには合っていないのが現状であり、「日本の家屋に合ったロボット(=小型化)が不可欠」になる。

■移動/移乗
介護に欠かせない車椅子はとても便利だが、移乗が難しい。
例えば、車椅子からベッドに移る場合、ベッドサイドに正面から付ける(ベッドと車椅子を垂直に付ける)のは容易だが、それでは被介護者とベッドの間には距離が生じ、移乗するのは難しい。ならば、ベッドに車椅子を横付けすれば良いのだが、寄せて付けるのが難しい上に、移乗するには車椅子の肘掛けが邪魔にもなってしまう。そこで、スムーズに移るための横移乗型車椅子が求められる。
また、介護者が被介護者を抱きかかえて車椅子から移動させるのは負担が大きいため、被介護者の全体重を力強く下方から支える昇降型の支援機器も必要。このように、車椅子が持っている問題を解決することを主とした開発が進められている。
さらに、歩けるシニアの転倒予防用として、ハーネスを胸部に装着し、天井に這わせたレールに沿って転ばずに歩行できる懸架型のものなど、障がいの重症度に応じた多様な移動系ロボットもある。「できることは自分でやる」をサポートするのも長寿社会には大切なことだろう。

■操作
暮らしをサポートしてくれるロボットは、シンプルなボタン操作など、簡単に使えることが求められる。
加えて、同施設には生活支援ロボットの「トヨちゃん」がいるのだが、目の前に立つとこちらを見上げ、可愛らしい声と表情(?)で自己紹介をし、握手もしてくれる。彼(彼女?)は、「ブラインドを開けて」と頼めばIoTで開けてくれるし、「水が飲みたい」と言えばペットボトルを持ってきてくれたりもする。そして、そんなお願いごとの他に雑談までしてくれる愛嬌もあって、まるで友人やペットと暮らしている感覚になる。
そんな“会話のできる”ヒューマンサポートロボットは、ハンドロボットとして被介護者の「手」になってくれるだけでなく、家電IoTでさまざまなシステムと連携しながら快適環境を整え、バトラーとしてのコミュニケーションの役割も担う。シニアの独居や2人暮らしの寂しさも埋めてくれるだろうし、“被介護者のコンシェルジュ”的な存在を、音声で操作できるのはポイントだろう。

■情報
被介護者のデータ収集、IoT連携、外部とのコミュニケーション促進など、情報支援の総合的な開発も行われている。
ユーザーの日々の健康状態をモニタリングする健康チェックトイレや、着るだけで脈拍などをモニターできる服など、居住者の行動と生体情報をモニターして疾病リスクを低減する長寿スマートホームの開発も進んでいる。

情報支援の一つとして導入されている「テレビ型コミュニケーション装置」。遠隔コミュニケーションが取れるだけでなく、</br>例えば、家からでも体操教室に参加して、装置を着けることで脈拍なども測定。安全に運動できるのも安心感が高い情報支援の一つとして導入されている「テレビ型コミュニケーション装置」。遠隔コミュニケーションが取れるだけでなく、
例えば、家からでも体操教室に参加して、装置を着けることで脈拍なども測定。安全に運動できるのも安心感が高い

スマートホームと支援機器・ロボットの調和で長寿家庭をサポート

「高齢者が在宅生活を続けられる支援・開発が必要ですが、スマートホームが高齢夫婦や高齢独居世帯のニーズを捉えていないのが現状です。

中でも多いのが、『トイレ介助の問題で家に帰れない』との声。
1人で入ることを想定して設計されているトイレ空間に、介護者と介護ロボットを含めた2人+1台を収めるためには、配置や向きなどのアレンジやロボットの小型化も必要です。つまり、空間と一緒にロボットも開発する必要性があるのです。
トイレに限らず、さまざまな空間の問題を解決できれば、在宅生活ができる高齢者も増えると考え、ちょうど日本・アジアの住居サイズと同等のUR豊明団地を舞台に、団地に住む高齢者にも体験して頂きながら実証実験・開発を続けています。

介護支援システムは、単一では成立せず、多システムの共生が不可欠です。多様なロボット・機器の開発を相互に作用させて進化を促したいと思います。

ロボットの研究は行われていても実用化の難しさが悩ましくもありますが、IoTやAIの技術がどんどん発展する中、幅広い世代の方が使いやすいスマートホームや、要所要所のわずかなリフォームでそれが叶うような“ロボティックスマートホームとしてのパッケージ化”を実現したいですね」(田辺氏)


体験した高齢者の意見を反映し、少子高齢化社会の長寿家庭をサポートするロボティックスマートホーム。2020年には経済産業省とNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催するロボットの国際大会『ワールドロボットサミット』が開催される。その頃に生活支援ロボットがどんな進化を見せているのか、楽しみだ。

ロボティックスマートホーム実証研究施設の田辺茂雄氏(中央)とスタッフのお二人</br>手前は、頼れるヒューマンサポートロボットの「トヨちゃん」ロボティックスマートホーム実証研究施設の田辺茂雄氏(中央)とスタッフのお二人
手前は、頼れるヒューマンサポートロボットの「トヨちゃん」

2019年 09月11日 11時05分