生活スタイルの変化が生んだ洗面所の新しい役割、家事シェアの時代へ

皆さんの家では、洗面所で毎日どんなことをしているだろうか。洗面所は名前のとおり顔を洗う場所という意味だが、昨今の住宅プランでは、それ以外の様々な役割を担う場所として考えられるようになっている。

特に最近目立つのが、洗面所を家事のキーステーションとして位置付け、家事を楽にこなせるようにした間取りだ。共働きの増加で「家事はできるだけ手早く済ませたい」というニーズが増え、それに応えるために水場と洗濯機がある洗面所をもっと活用しようというわけだ。

家事が楽にできる家というコンセプトは、住宅メーカー各社がこぞって注力していることのひとつで、大手ハウスメーカーの大和ハウス工業は、家事と名付けるほどではないが日々必要な雑事を「名もなき家事」と名付け、それらのためにいかに時間が取られているかということを分析している。

そしてこの名もなき家事をスムーズにこなすためには、今や家事はひとりで行うものではなく、家族でシェアするものであり、そのためには都度出し入れしやすい収納の設置や、生活動線の見直しが必要であるとしている。例えば、洗面所もしくはユーティリティを家事の中心軸として、家族の生活動線上に配置すれば、全員が家事に参加しやすくなるというわけだ。

以前は家事が楽な家というと、掃除がしやすいキッチンのレンジフードや浴室の排水口など、主に設備の機能に依存した話題が多かったが、今どきはそれらに加えて、それぞれの家事の連携や家族でのシェアの仕方などを考えた家づくりが進んでいる。

住まいにおける家事のしやすさは、暮らしの質と直結している。若くて元気なときは、少しくらいの手間なら我慢して頑張ればいいと思いがちだが、忙しいときや高齢になるとどうしても手が回らなくなり、生活環境が悪化しやすい。

洗面所のプランが良いと家事の流れは各段にスムーズになり、暮らしやすい家になる。しかしキッチンや浴室に比べて実感が薄いためか、華やかさに欠けるためか、どうしても後回しにされがちで、ましてやリフォームともなると、浴室を広くするために洗面所を狭くしたり、予算のしわよせで結局は以前と同じような洗面台と内装の交換で終わってしまったりというケースが少なくない。生活を改善するせっかくのチャンスを逃してしまうのはもったいないことである。

実は洗面所は時代と生活スタイルの変化に伴って、水回りの中でもかなりの進化を遂げている場所である。今回はそんな洗面所にスポットをあて、洗面台の進化過程で生まれた新ニーズや、今の時代に求められている洗面所プラン、最新の設備情報をご紹介しよう。

キッチンのすぐそばにユーティリティ(家事室)を配置したショールームの展示。ユーティリティは洗面所と兼用するプランが多い。ショールームでは新しい生活提案の展示も行われている(TOTOショールーム)キッチンのすぐそばにユーティリティ(家事室)を配置したショールームの展示。ユーティリティは洗面所と兼用するプランが多い。ショールームでは新しい生活提案の展示も行われている(TOTOショールーム)

ピエール・カルダンの洗面化粧台、朝シャンから生まれた家事のための新ニーズ

洗面の歴史を少しひも解くと、日本に洗面という習慣をもたらしたのは、曹洞宗の開祖である道元禅師といわれている。道元禅師の表した「正法眼蔵」というお経の中に、洗面についての作法が書いてある。洗面器が使われだしたのも同時期、鎌倉時代からといわれている。

洗面所を部屋として独立させるのが一般的になったのは1950年代、公団住宅が生まれた高度成長期の頃である。それまでは陶器製のボウルを壁掛けにするスタイルが一般的であったが、工事の簡易化のために木製キャビネットと洗面器を組み合わせた「洗面ユニット」が生まれた。現在の洗面化粧台の原型である。

1968年には、東洋陶器株式会社(現TOTO株式会社)が収納とボウルを組み合わせた「洗面化粧台」を発売。なかでも世界的に有名なピエール・カルダンによるデザインの「カルダン洗面化粧台」は人気を博した。

カルダン洗面化粧台の実物の写真は下にご紹介しているが、現代にも通用するサイケデリックなデザインで、まるで家具のような設えである。ちなみに家具調テレビが発売されたのも同時期で、設備や家電に威厳や格調が求められていた時代であった。

1980年代に入ると、洗面化粧台に大転換期が訪れる。朝シャンブームとシャンプードレッサーの登場だ。朝シャンとは当時、化粧品会社が満を持して売り出したシャンプーのCMから生まれた言葉で、朝出かける前に洗面台で髪の毛を洗うという習慣だ。当時の若い女性たちは、ヘアスタイルが決まるということで、こぞって朝シャンをして出かけていた。

実はシャンプードレッサー自体は、朝シャンという言葉が生まれる少し前に既に発売されていて、その存在が朝シャンブームを押し上げた要因のひとつになったといわれている。

シャンプードレッサーは、頭がすっぽり入るようにボウルが手前に大きく丸く張り出していて、ボウルサイズがかなり大きく、水栓金具は引き出し式シャワーとなっている。しかし朝シャンブームはバブルの崩壊と共に終わり、それに伴い洗面化粧台はまたコンパクト化していくこととなる。

というのも、日本の洗面所の広さは1坪以下であることがほとんどで、特に集合住宅においてはさらに面積が限られていることが多いため、奥行きが大きなシャンプードレッサーを設置できない、無理に入れたら身動きが取れない、扉が引っかかって開きにくいといったことが頻発していたからだ。

しかしこのシャンプードレッサーの登場で、消費者の新たなニーズを把握することができたと、TOTOミュージアムの館長、大出大氏は言う。大きなボウルはシャンプーのためではなく、セーターを洗ったり、バケツに水を汲んだりといった家事をするのにとても便利で、頭は洗わないけれど家事のために大きなボウルが欲しいという声があちこちから上がっていたのだ。

それまでは家事のための水場は洗面化粧台ではなく、洗濯流しと呼ばれる深さのあるボウルで行うのが一般的だった。しかしそれも床面積に余裕があってこそ。当時、リフォームの現場でも、朝シャンはしないけれど家事のためにシャンプードレッサーを入れたいという要望は多く、しかしやはり面積の壁に阻まれて実現できないケースも少なくなかった。

さて現在の洗面化粧台はというと、家事がしやすい大型のボウルでもデザインの工夫で奥行きは55cm程度以下に抑えられている。以前のシャンプードレッサーが64cm程度あったことを考えると、サイズをコンパクト化しつつ、でもボウルは大きくというニーズを的確にとらえた形に進化していることがわかる。

ちなみに洗面化粧台はボウルの縁までの高さも変化していて、以前は洗面器の標準設置高さは72cmだったが、現在は家庭では75cm~80cm、オフィスでは80cmが標準となっている。

手前から洗面化粧台の原型である洗面ユニット、カルダンデザインの洗面化粧台、奥には朝シャン時代のシャンプードレッサーが並んでいる。シャンプードレッサーの奥行きは64cmほどあった(TOTOミュージアム)手前から洗面化粧台の原型である洗面ユニット、カルダンデザインの洗面化粧台、奥には朝シャン時代のシャンプードレッサーが並んでいる。シャンプードレッサーの奥行きは64cmほどあった(TOTOミュージアム)

洗面所は顔を洗う場所から、化粧、家事、健康を担う多機能ルームへと変化

洗面所でお化粧をするならパウダールームとして、洗濯機があれば家事室として、浴室の隣りにあれば脱衣室としての機能が求められる洗面所でお化粧をするならパウダールームとして、洗濯機があれば家事室として、浴室の隣りにあれば脱衣室としての機能が求められる

暮らしの中で洗面所に求められる機能も、時代と共に変化している。以前、「どこでメイクをしていますか?」というアンケート(※1)を取ったことがあるのだが、一番多かったのが洗面台という回答だった。

ちなみに男性が髭剃りをする際も、電気シェーバーの場合は洗面所が1位(※2)となっている。そうなれば当然、手元や顔が見えやすい照明、顔がよく映る鏡、小物類が収納しやすいキャビネット、髭剃りやドライヤー用のコンセントが必要になる。

洗面所が浴室の隣りにあれば脱衣室としての機能も満たす必要がある。脳卒中の原因になりやすいヒートショック現象を起こさないよう寒さ対策を行い、水による腐食を防ぐ構造や仕上げにしておくことも大切だ。

そして洗面所に洗濯機が置いてあれば家事室としての役割が求められる。大きなボウルや家事用品がストックできる収納がついた洗面化粧台をはじめ、家事シェアがしやすいよう家族の生活動線の途中に洗面所を配したり、炊事をしながら洗濯もこなせるなど家事の連携がしやすい間取りにしたりなどの工夫が必要になる。

実際ここ20年ほどで、新築住宅における洗面所のプランはかなり変化していて、以前は洗面所と浴室は家の隅にポツンと独立して廊下から入る間取りが多かったが、現在はキッチンから通り抜けができたり、物干し場と連携しやすいようになっていたり、なかには玄関から直接入ることができたりなど、洗面所を家事の軸にして動きやすいよう工夫された間取りが増えている。

このように現代の洗面所はもはや顔を洗うだけの場所ではなく、多機能ルームとしての役割が求められている。洗面所次第で生活の質や健康をも左右するほど大きな影響力を持つ場所になっているのだ。

(※1HOTdinosアンケート/ディノス調べ・筆者監修)
(※2ヒゲ剃りトラブルと肌意識の調査/エフシージー総合研究所調べ)

消費者ニーズに合わせて洗面化粧台も進化、清潔志向に合わせた除菌も

最新の洗面化粧台は、このような消費者ニーズに合わせて進化し続けている。洗面所が多機能ルームであるなら、収納する物も増加するため、より効率的な収納システムが必要になる。今や引き出し式収納はキッチンだけでなく、洗面化粧台でも当たり前の時代になりつつある。

化粧をする場所、パウダールームとしての機能を求める人には、アイラインをひくなど細かい作業がしやすいよう、手元まで伸びてくる鏡がついた洗面化粧台もある。また最近よく聞くようになったのが、洗面化粧台でペットのシャンプーを行うというものだ。大型ボウルならこんな要望も叶えることができる。

細かいところでは水栓金具の取り付け形状が変わっている。悩みのひとつに水栓金具の根元に水垢が付きやすく掃除が大変というものがあったが、現在は洗面ボウルの背面を立ち上げてそこに垂直に水栓を取り付け、水が自然に流れ落ちるように工夫された洗面台が登場している。

最新型の洗面台には除菌水が出るタイプもある。これはもともとTOTOのキッチンや便器に装備されていた仕組みで、キッチンなら食中毒防止、トイレなら汚れ防止で役立つのはわかる。しかし洗面台で何のために必要なのだろうと聞いてみたところ、歯ブラシやコップ、排水口など洗面所でも除菌のニーズは多いとのこと。そう言われれば確かに歯ブラシの菌やコップの汚れは気になる。健康や清潔志向が高まった現代人ならではのニーズだろう。

洗面所は地味だが暮らしを支えるとても大切な場所だ。洗面所が良いと本当に暮らしやすい家になる。家づくりやリフォームを考えている人は、ぜひ洗面所にも少し予算を配分して、さらに快適で便利な住まいにしていただければと思う。

取材協力:TOTO株式会社

最新の家事がしやすい洗面化粧台。洗濯機と並ぶと奥行きが小さいことがわかる。ボウルはデザインの工夫でかなり容量が大きくなっている。洗面ボウルの背面に水栓金具が取り付けられているため、水垢が付きにくい(TOTOショールーム)
最新の家事がしやすい洗面化粧台。洗濯機と並ぶと奥行きが小さいことがわかる。ボウルはデザインの工夫でかなり容量が大きくなっている。洗面ボウルの背面に水栓金具が取り付けられているため、水垢が付きにくい(TOTOショールーム)

2018年 11月13日 11時05分