駅西銀座通商店街に新たな交流拠点
喫茶文化が根付く名古屋エリア。総務省による家計調査(※)では1世帯あたりの「喫茶代」の支出金額が、名古屋は1万4,301円と全国平均の5,770円を大きく上回り全国第1位となっている。
そんな名古屋の喫茶文化を象徴するのがモーニングサービス。ドリンクを頼むとトーストやゆで卵がついてくるお得なアレだ。このモーニングの聖地・名古屋に、2019年5月1日オープンしたのがその名も「喫茶モーニング」。
場所は、リニア開通を控えて注目を集める名古屋駅の西側。「駅西銀座通商店街」にある。
もともとは陶器屋だったという2階建ての空き店舗を、カウンター、ソファ席、キッズスペースを設けた喫茶店にリノベーション。
一見すると普通の喫茶店だが、ここのコンセプトは”多様性を尊重しあう持続可能なまちづくり”。モーニングを軸にした店とまちはどのようにつながっているのか。喫茶店から発信する多様性とはどんなものなのか、代表の市野将行さんに伺った。
(※)総務省統計局家計調査(二人以上の世帯):品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2013~2015年平均)
名古屋市商店街商業機能再生モデル事業としてスタート
【写真上】「名古屋人が愛するモーニングで名古屋の文化を広めていきたいし、まちを元気にしたい」とオーナーの市野さん【写真下】「商店街OPEN2018」の様子。空き店舗を魅力ある店に生まれ変わらせるべく、地元の有志、建築士やデザイナー、まちづくりに興味のある学生などが集まり事業プランを練った(写真提供/喫茶モーニング)
「喫茶モーニング」のリノベーションは、名古屋市商店街商業機能再生モデル事業としてスタート。空き店舗活性化に向けてのワークショップ「商店街OPEN2018」で集まったアイデアをベースに進められた。
プロジェクトの中心となったのは、市野さんのほか、引きこもりの自立支援活動をするNPO法人「オレンジの会」の山田真理子さんと、名古屋のまちをキャンパスにユニークな学びを提案する「大ナゴヤ大学」理事長の大野嵩明さん。
ワークショップには途中から参加したという市野さん。
「僕がワークショップに参加した時は、再生する場所も決まっていて飲食店をやるという意見もまとまっている段階でした。それを事業として成り立たせるにはどうしたらいいかという話し合いのなかで、店舗の管理を山田さん、運営を僕が担うことになりました」
店では「オレンジの会」利用者がスタッフとして働き、社会復帰の足掛かりの場としても機能させている。
「もともと駅西エリアで引きこもり支援の活動拠点を探していた山田さんや、新しいステップを踏み出そうとしていた僕、みんなそれぞれが自分たちの想いに沿って活動している中でたまたま、”多様性を尊重しあう持続可能なまちづくり”というコンセプトにみんながフィットした結果、『喫茶モーニング』が生まれたという形です」
世界の旅人と繋がるグローカルカフェの経験をもとに”まちとつながる”
実は市野さん、2015年に同じ駅西エリアで外国人向けのホステルを併設した「グローカルカフェ」をオープンさせている。世界80カ国を旅した経験を基に、「多様性を活かした多文化共生まちづくり」をテーマに掲げ、年間5,000人以上の宿泊客を受け入れるなど、成果を上げてきた。
「グローカルカフェの中でいえば多文化共生はできるようになったけれど、まちとどれだけつながれたかというとまだまだ。自分たちのやっていることに自信が持てたけれど、今度はそれを広げていくためにどういったアクションを起こしていこうか考えているタイミングで、たまたま駅西銀座の再生事業に関わることになったんです」
「グローカルカフェ」の「グローカル」とは「グローバル(世界)とローカル(地元)をつなぐ」という市野さんの想いを込めたネーミング。世界の旅人たちと名古屋をつないできた市野さんとスタッフは、「喫茶モーニング」で、よりローカルに焦点を当てた人と文化の交流拠点を目指し動き出した。
「名古屋の文化をみんなでつくること」を目指したい
空き店舗は名古屋市からの補助金とクラウドファンディングで集まった250万円などの協力を得てリノベーションされ、古民家の雰囲気を残すノスタルジックなものに仕上がった。
「でも喫茶店をただオープンさせただけでは人の交流は生まれません。“多様性”をテーマにしているので誰でもどんな人でも受け入れる場所でありたい。だから、年代も性別も問わず、外国人でも日本人でも受け入れられる場所にしようと思い、たどり着いたのが“モーニング”なんです」
確かに。地元の人はもちろん、モーニングは誰にでも喜ばれるサービスで間口は広い。
「僕らがやりたいのは、人のつながりや名古屋の文化をみんなでつくっていくこと」と市野さん。
名古屋の喫茶文化を広めるため、自店のものだけでなくあえて他のお店のコーヒー豆も販売しているのも、そうした考えから。
「こうすることで、そのお店の店主がうちのお店に来てくれたり、SNSにアップしてくれたりして他の人も巻き込みながら交流の輪がどんどん広がっていきます。お客さんに対しても、今度はあちらのお店にも行ってみてください、というコミュニケーションのツールにもなるんです。
キッズスペースにあるカリモクの⼦ども⽤チェアをお客さんが気に⼊って販売店に買いに⾏き、後日またそのお客さんや販売店の⽅がうちの店に来てくれた、なんていうこともありました」
「喫茶モーニング」は単なる喫茶店としてではなく、人やモノをつなぐハブとして機能しているようだ。
「やっていることはグローカルカフェと同じ。ただ、グローカルカフェは国際交流ができるカフェというプロモーションをしていたので、それが一般の人からすると少しハードルが高かった部分はあったかもしれません。やっている自分たちとしては誰でもどうぞと扉を開いているつもりでも、受け取る側はそうじゃなかったんだなということを理解したので、そのハードルをもっと下げて本当に老若男女だれでも受け入れられる形態にしたいとまとまったのが今の形。
グローカルカフェでの経験があったからこそできたアプローチの仕方だったと思います」
名古屋の魅力を知る入り口に。モーニング+αの出合いが見つかるかも!?
【写真上】一番人気は名古屋名物でもある「小倉トースト」(写真提供/喫茶モーニング)【写真下】人の目を引く仕掛けとして店の入り口に置かれた自動コーヒー焙煎機。自分で選んだ生豆をその場で焙煎して持ち帰ることもできる(写真提供/喫茶モーニング)
「喫茶店ってどこにでもあるけど、どれも同じじゃない。各々違いがあってそれぞれに良さがある。人も同じ。そういった多様性を知ったり受け入れたりする1つの入り口として機能していけたらいいなと思います。
『喫茶モーニング』をきっかけに、名古屋の多様な魅力を地元の人も他のエリアの人も外国人にも知ってほしい」
と、これからについて話す市野さん。
1日中モーニングが食べられるというのが「喫茶モーニング」のひとつの個性。
ドリンク代だけでトースト、ゆで卵、サラダ、ヨーグルトが付く基本のモーニングサービスは、ドリンク代+100円で小倉トーストや、サンドイッチが付くセットのほか、ドリンク代+200円でバターチキンカレーセットもしくはケーキセットにもできる。
キッズサービスや大盛のオーダーもできるから、まさに老若男女、多様なニーズに応えるラインナップとなっている。
また、先述したプロジェクトメンバーの大野さんのつながりでイベントを開催したり、アート作品の展示も行っている。今後は名古屋のイベントに絡めた企画などもどんどん計画していく予定だそう。
喫茶文化が根付く名古屋で、モーニング+αの出合いが見つかりそうな「喫茶モーニング」。これからの動きに期待が膨らむ。
【取材協力】
喫茶モーニング
https://kissamorning.com/
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