存続の危機に面している多くの古民家

愛知県新城市に本社を構える株式会社戸田工務店の代表取締役会長であり、一般財団法人全国古民家再生協会・愛知第一支部支部長でもある戸田由信氏愛知県新城市に本社を構える株式会社戸田工務店の代表取締役会長であり、一般財団法人全国古民家再生協会・愛知第一支部支部長でもある戸田由信氏

各地の気候風土に合わせて、匠の知恵と技術を詰め込んだ古民家。古民家カフェ、古民家シェアハウス、古民家を使った福祉施設など、古民家を再生させ有効活用する例が増えてきている反面、存続の危機に面しているものも少なくない。

「田舎暮らしをしていた親の家を相続したが、だれも住む人がいないので取り壊す」
「固定資産税もかかるし更地にして土地だけを売りたい」
「古くて寒いし新しい家に建て替えたい」
など、古民家を取り壊す理由はさまざま。
しかし、このように古くから培ってきた日本の伝統的な住文化が消えていくのは、とても残念なこと。古民家は一度壊してしまったら再現することはできない。全国各地に残るそうした日本の住文化を未来に残そうと活動している一般社団法人全国古民家再生協会愛知第一支部・支部長の戸田由信氏に、古民家を取り巻く現状や問題点についてお話を伺った。

耐震問題が大きく横たわる

日本独特の茅葺屋根。夏の直射日光を遮り、冬は居間の奥まで光を届ける役割をしていた。開放的な縁側やふすまでの間仕切りも、湿気の多い日本の気候風土に合った造りなのだ(写真提供/愛知県古民家再生協会)日本独特の茅葺屋根。夏の直射日光を遮り、冬は居間の奥まで光を届ける役割をしていた。開放的な縁側やふすまでの間仕切りも、湿気の多い日本の気候風土に合った造りなのだ(写真提供/愛知県古民家再生協会)

まず、古民家とは何か。
「日本の伝統技術を用いた住宅」という漠然としたイメージはあるのだが、定義について戸田氏に伺うと
「古民家の定義というのは法律的にはない」とのこと。国の登録有形文化財の登録制度が築50年以上の建築物と定めていることを参考に、協会では築50年以上の住宅を“古民家”と定めているという。

なぜ古民家は失われつつあるのか。古民家を取り巻く問題点について、大きな壁となっているのが耐震の問題なのだそう。

「現在の建築基準法は戦後アメリカが持ち込んだものが多く、耐震性能については壁量で測るんです。つまり壁の面積がどれくらいあるかで判断します。しかし、日本古来の家というのは太い柱に支えられてはいるけれども、壁量は少ない。そうすると現在の法律に照らすと耐震性の弱い家となってしまうわけです」(戸田氏)。
昭和56年に新耐震基準ができたことで、それ以前に建てられた民家に対して国は耐震補強の補助制度を設けている。しかし、その補助を受けるときに、大きなハードルがあるのだという。

古民家にとって現在のところ選択肢は

A:現在の建築基準法にのっとった耐震工事をする(=たくさんの壁で仕切ることになり、古民家本来の機能が失われる)
B:建築士による複雑な構造計算の上、耐震に問題がないことを証明する(=時間と費用がかさむ)

の二択。
Aなら国から補助が下りるが、Bの場合、建築士に依頼する費用や、耐震工事の費用が多額になるうえ、補助金が下りない可能性もでてくる。結局、施主側がAの現行法に沿った耐震リフォームを選択することになり、戸田氏いわく「必然的に壁が多い、いわゆる今風の家となってしまう」のだとか。

実際のところは
「日本古来の民家というのは太い柱による免震構造となっており、鑑定をしてみると耐震には問題がないことが多いんですよ」と、戸田氏。地震の際、家自体は大きく揺れるのだが、複雑にかみ合った木のおかげで揺れを逃がし倒壊を避けることができる造りになっていることが多いという。

古民家鑑定で文化的価値を算出

古民家鑑定書には建物の文化的価値が明記される。鑑定料は10万円。現在の住宅とは違う、古民家ならではの価値も鑑定士が調査してくれる古民家鑑定書には建物の文化的価値が明記される。鑑定料は10万円。現在の住宅とは違う、古民家ならではの価値も鑑定士が調査してくれる

「固定資産税の評価では、日本の木造建築はだいたい築25~30年で税法上、建物価値がゼロとなってしまいます。それを見るとだいたいの人は、もう建て替えしようかとなってしましますよね。でもそうじゃない」と、戸田氏は熱を込める。
古民家の新しい価値を見出そうと、協会では古民家鑑定を行っている。協会に加盟する古民家鑑定士が現地へ赴き、約600項目にわたる調査結果をもとに鑑定書を作成。古いから価値がないと思われがちな古民家に文化的な側面から評価をおこない、金額を査定してくれるのだという。

鑑定書には、建物の文化的価値を金額で表記してある。明細には
◆躯体構造 ◆屋根 ◆外壁 ◆基礎 ◆内部 ◆予防保全 ◆周辺環境 ◆環境性能
の8つの項目をグラフにし、新築と比べどの程度の劣化があるかを一目瞭然にしている。
この結果、再生移築可能もしくは不可能という結果が出される。それを見て、改築するかどうかを判断する目安にもなるし、古民家を売る際の価格の目安にもなるという。最悪、取り壊すことになった場合でも、家の骨組みや部材は古材として再利用できる。古民家再生協会の場合、古材鑑定士が鑑定し、販売できるものは買い上げ、全国へ流通させることもできるそうだ。

「木というのは、長い年月をかけて水分が抜けていき強度を増していくものなんです。ですから50年以上たっている木は貴重なんですよ。法隆寺に使われている木は、1300年以上たってもまだ強度が上がっているというデータもあるくらいです」と戸田氏。新品の時が一番強度がある鉄やプラスチックと違い、木の強度が落ち始めるのは800年~1200年以上たってからともいわれている。そんな木が贅沢に使われた古民家は、実のところ耐久年数の長い住宅ともいえるのに、最大の力を発揮する前に廃棄されてしまっているのが現状だ。

また、鑑定書には「ブナの木2,532本分」との表記。
「この建物を解体せずに再活用することによりブナの木が1年間に吸収する二酸化炭素に換算すると2,532本分」と説明書きがある。
「木は二酸化炭素を吸って酸素を吐く性質がありますよね。樹齢50~80年のブナの木だとして、それが年間に循環させる機能をわかりやすく表記したものなんです。つまり、ブナの木2,532本が立つ森と同じ機能を持っているということです」。
これは天然乾燥された木の場合。
「安価なプレカット材ではこうはいかない。高温で強制的に乾燥してしまうので木のセルロースなどが分解されてしまい、その機能は著しく低下する」と戸田氏。二酸化炭素の排出を抑えるという意味でも、古民家は環境に優しい家なのである。

時代に合わせた古民家に作り替えることが、後世に残る可能性を広げる

曳家と呼ばれる工法で家ごと持ち上げて柱を修繕する。腐った部分を切り、新しい木を継ぎ足して造りかえるのは、高度な大工技術が必要なのだそう(写真提供/愛知県古民家再生協会)曳家と呼ばれる工法で家ごと持ち上げて柱を修繕する。腐った部分を切り、新しい木を継ぎ足して造りかえるのは、高度な大工技術が必要なのだそう(写真提供/愛知県古民家再生協会)

そうはいっても、古民家の改築はやはり現在のそれよりもずっと難しいようだ。

「長い年月を経た木造家屋なので、まずは腐っている部分を修復する作業が必要です。曳家(建物を持ち上げ上下左右に動かす工法)により建物を浮かせた状態にして、柱に接ぎ木をします。鉄などの場合、溶接すれば簡単に済みますが、木の場合はそうはいかない。木と木を繋ぎ合わせる高度な技術が必要となってきます」と、戸田氏。
接ぎ木の場合、木と木をつなぐためにつなぎ目に「込栓(こみせん)」という楔状の木片を打ち込むが、時間をかけて木がしまっていくのを計算に入れて「込栓」の形状や大きさを変えるというから、まさに匠の技である。

戸田氏が代表取締役会長を務める株式会社戸田工務店(愛知県新城市)の本社は、新潟にある古民家を移築改修したもの。
現地で家の骨組みをばらした後輸送し、柱一本一本を丁寧に磨き上げ、墨付けをし組み上げなおしたのだとか。基礎や金物を使わない伝統工法で建てられたものだったが、愛知へ移築するにあたり、現行の建築基準法に沿う形での再築になったため、基礎を鉄筋コンクリートで仕上げ耐力壁を新たに設けたそうである。
「費用や時間をかければ伝統工法での再築は可能ですが、現実的に考えると現行法に沿っての再築も検討すればいい。現代の技術と伝統的な技術をいいとこどりする。それでいいんだと思います。過去の空間に現在の安全安心を入れて、未来的なおしゃれさを取り入れるのも粋でしょ」と戸田氏。
床暖房、断熱気密、カーテン、暖炉などを取り入れて、時代に合わせた住み心地のいい古民家に作り替える。
古民家を当時のまま再現する方法はもちろんいいのだが、こうして手を加え今の時代に合わせていくことで後世に残る可能性も広がるのかもしれない。

「古民家再生議員連盟」が設立。施策の決議を目指す

今年11月に開催された古民家再生議員連盟設立の総会。49名の議員が参加し協議をする。古民家存続のための道筋に光がさすことを願いたい(写真提供/一般社団法人全国古民家再生協会)今年11月に開催された古民家再生議員連盟設立の総会。49名の議員が参加し協議をする。古民家存続のための道筋に光がさすことを願いたい(写真提供/一般社団法人全国古民家再生協会)

戸田氏が愛知第一支部・支部長を務める、一般社団法人全国古民家再生協会の働きかけもあり、今年11月に「古民家再生議員連盟」が設立された。
目的としているのは、大きくわけて以下の4点。
1.「古民家」を活用した地方創生の方策
2.「廃棄される古材」を活用した環境への貢献
3.高齢者技術者を活かした大工職人の育成
4.古民家の知恵を活かす住教育の推進

戸田氏はこの連盟で、「私たちの協会が唱える古民家の存続に関わる施策を、国会で決議してもらいたい」と、今後の展開について期待を寄せている。

2020年の東京五輪を前に、世界から注目を集める日本。諸外国からの多くの観光客が見込まれるなか、地方への観光客流入も期待されている。きっと外国からの旅人たちがイメージしている景色は、最新のタワーマンションやスマートハウスだけでなく、日本人の繊細さと粋がつまった古き良き日本の住まいなのではないだろうか。
城、神社仏閣と同じように、古民家も重要な日本の文化財として、私たち日本人自身が誇りをもつことを忘れないでいたい。

取材協力/一般社団法人愛知県古民家再生協会
http://www.kominka-aichi.com/

一般社団法人全国古民家再生協会
http://www.g-cpc.org/

株式会社戸田工務店
http://www.todasanchi.com/index.html

2017年 01月27日 11時09分