斬新なコンセプトで話題。1,500冊の漫画がなんと読み放題!

「少女まんが館Saga」。インパクトのあるこの屋号、一見すると少女漫画を専門とする本屋のように思えるが、実は、大の少女漫画好きというオーナーが開業したゲストハウス。東京都あきる野市の私設図書館「少女まんが館」の姉妹館(自主独立)で、本家にない宿泊機能を備えている。

施設があるのは、佐賀県唐津市。佐賀県の北西に位置し、玄界灘の恵み豊かな町。イカで有名な「呼子」も唐津市である。ここ2~3年は、唐津市が舞台のアニメが立て続けにテレビで放映されたため、アニメゆかりの地を巡る「聖地巡礼」に沸いている。市も巡礼マップを作成したり、のぼり旗を掲げたりするなど、まち全体が巡礼者を歓迎するムードに包まれている。

その巡礼者をはじめ、唐津に1人で訪れる旅人の拠りどころになっているのが、「少女まんが館Saga」だ。ゲストハウスには、オーナーが集めた1,200冊と寄贈された300冊の計1,500冊が所蔵されている。特に歴史を題材にした漫画が多いとか。宿泊スペースは1階にあり、ベッドは8つ。原則、女性限定だが、各月1回のミックスデーとメンズデーは男性も宿泊できる。

2階には1,500冊の少女漫画がずらりと並ぶ。13時~21時は宿泊者以外も利用できる2階には1,500冊の少女漫画がずらりと並ぶ。13時~21時は宿泊者以外も利用できる

構想から約6年。金銭的な準備を整え、唐津へUターン

Uターンして夢を叶えたオーナーの池田愛子さん。地域コミュニティの場にもしたいと奔走するUターンして夢を叶えたオーナーの池田愛子さん。地域コミュニティの場にもしたいと奔走する

運営する池田愛子さんは、唐津市生まれ。関西の大学を卒業後に上京し、出版関係の仕事に従事した。充実した社会人生活を送る一方で「ずっと東京にいるイメージはなく、いずれは地元に戻りたいと思っていました。特に、東日本大震災の時は、帰ろうと強く思いました」と池田さん。フリーランスの編集者として、移住者の声を集めた書籍の編集に携わったことも帰郷への思いを加速させたと回想する。

移住やUターンは今、注目されているワードだ。しかし、仕事はあるのか、地域のコミュニティに適合できるかなど、無視できない現実的な問題と隣り合わせ。池田さんはその点とどう向き合ったのだろうか。

「ポンと飛び込む勇気も必要だと思いますが、収入源の保証がないと簡単に移住はできないですよね。私は自分の仕事は自分で作ろうと考え、ゲストハウスの開業を想定して、移住の5~6年前から貯金を始めました。2016年秋に目標額が貯まったので、年末にはUターンを宣言して、翌年の初夏には地元に戻りました」

唐津駅から10分の好立地に、築約40年の鉄筋造りの建物を見つけ、賃貸契約。予算的な問題から、構造上のリノベーションは専門業者に依頼し、二段ベッドや本棚などは家族の協力なども得て自分たちで作り上げていった。帰郷から半年後には、ゲストハウスをオープン。スピード感をもって実行できたのは、数年前から温めてきた計画があってこそ。また、地の利やツテの多さも、Uターン開業をスムーズにした。

Uターン、起業の不安を拭ってくれた「複業」という選択肢

ベッド脇には日本地図が貼られており、宿泊者は来た場所をピン止めして帰るそうベッド脇には日本地図が貼られており、宿泊者は来た場所をピン止めして帰るそう

ゲストハウスの運営日は、週4日。池田さんは、運営日以外は「複業」を行っている。現在も、フリーランスの編集者兼ライターとして、方々から仕事を請け負う。

「インターネットと電話があれば地方でも仕事ができます。ゲストハウスのオープンまでのインターバル期間は、その分の収入を生活費に補填しました。補填できる環境を持っておかないと、経済的な体力はもたないと思います。複業のおかげで、精神的に余裕をもってゲストハウスを運営できていますね」と、2つの仕事に優劣はない。

近年は働き方改革が加速し、政府も大手企業も副業を推奨している。個人事業主なら、リスクヘッジのためにも複数の事業に携わる「複業」は有効な手段。まさに、暮らしたい場所で生きることを可能にする最良の手段とも言えるのではないか。

開業から1年。この間にゲストハウスの隣の空きスペースは、物件のオーナーによってシェアオフィスになった。池田さんは「ゲストハウスは、漫画喫茶として共有スペースを開放したり、月に数回飲み会を開催したりしています。また、今後は隣のシェアオフィスとも連携して、企画などを行っていく予定です。それらの活動を通じて、宿泊者だけでなく、唐津市内の方にも存在を知ってもらい、ゲストハウスの垣根が低くなればいいなと思っています」。

漫画という大衆的なツールを強みに、地域のコミュニティとしての価値を模索し続けている池田さん。故郷や移住先で夢を叶えたい人の、理想的なモデルケースになりそうだ。

2019年 04月11日 11時05分