長野県境、群馬県南牧村の最奥部にある星尾地区

(画像上)古民家群と石垣の景観が素晴らしい星尾集落<br>
(画像下)星尾温泉 木の葉石の湯
(画像上)古民家群と石垣の景観が素晴らしい星尾集落
(画像下)星尾温泉 木の葉石の湯

高齢化率が60%を超えて日本一、2014年には民間シンクタンクの日本創成会議から「消滅可能性が最も高い村」とされた群馬県南牧村。メディア等で既に語り尽くされてきたこれらのフレーズは、活気の失われた元気のない農山村を想起させるが、決してそんなことはない。

2018年9月、南牧村でも最奥部に位置する星尾集落に、新たな胎動を予感させる「星尾温泉 木の葉石の湯」がオープンした。

星尾地区は、群馬県西部の農山村に位置する南牧村の中でも最奥部の長野県境にある。山々に囲まれた谷間の集落には、斜面に張り付くように石垣が築かれ、大規模な古民家が点在する。かつては養蚕やこんにゃく栽培、林業などで繁栄した。今も残る壮大なヴィンテージ級の古民家の数々は、往時の豊かさを物語るものだ。

豊かな自然との長年にわたる共生から生まれた独特の景観美が南牧村の魅力でもある。日本の原風景とも言えるこの風景の美しさに引かれ、2017年、都内から星尾地区に移住し、現在、温泉施設を管理運営する松林建さんに話を伺った。

移住者が中心となった温泉復活プロジェクト

星尾地区への移住者であり、古民家民宿「かじか倶楽部」を営む米田優さんがリーダーとなって、2017年5月、温泉復活プロジェクトが立ち上げられた。参加したのは、現在、星尾温泉の代表を務める小保方努さん、松林さんらの移住者や知人など十数人。

「超限界集落とも言える星尾地区は、このままでは存続できなくなってしまうという危機感を皆が共有していた。地域資源を利用して誘客や地域交流を促進し、雇用の場を創りたい」
プロジェクトには、こんな切実な想いが込められた。

地域資源として考えたのは、1950年まで集落の共同浴場として使われていた温泉。かつて「塩水鉱泉」と呼ばれていた温泉である。源泉は、使用されなくなって70年近くが経過しても生きていた。この温泉を復活させ、観光や拠点の拠点とし、集落に活気をもたらすことができれば、今後の突破口となるのではないかと考えた。

ヒノキ造りの浴槽に満たされた黄金色の温泉ヒノキ造りの浴槽に満たされた黄金色の温泉

1年半、手作業の改修が身を結ぶ

地元産の食材が魅力の「せせらぎ定食」(800円)。他に冬は「おきりこみ」(800円)も人気地元産の食材が魅力の「せせらぎ定食」(800円)。他に冬は「おきりこみ」(800円)も人気

集落にある築200年の古民家を借りることができ、プロジェクトのメンバーの手作業によって改修作業を進めた。なるべく元の雰囲気を生かすべく、床の張替えや壁の修復などにとどめ、浴室部分のみ増築した。浴室のヒノキ風呂も手作りである。不要な荷物等の運び出し、手作りの改修作業に合計で1年半を費やした。

源泉は泉温が15度のため薪ボイラーが必須。温泉復活プロジェクトではクラウドファンディングを活用して100万円を調達し、主としてボイラー購入に充てた。ボイラーの燃料となる廃材は、地域の製材会社から分けてもらう。

こうして完成し2018年9月のオープンにこぎつけた「星尾温泉 木の葉石の湯」。元の建物に忠実に改修しただけに、山深い秘湯の趣が漂う。囲炉裏の間もあり、昔の田舎暮らしの面影がそこにある。

ヒノキ造りの浴室は芳香で満たされている。泉質は「ナトリウム・カルシウム炭酸水素塩泉・塩化物冷鉱泉」。施設から約200m上方にある源泉から引湯する。湧出時は無色透明というが、浴槽には黄金色のにごり湯が満たされ、濃厚な温泉の味わいだ。

窓の向こうに佇む山々を眺めながらヒノキの風呂でくつろぐのは至福の時間。施設内の休憩室にはレストラン「せせらぎ」が併設され、入浴後などには、地元産の旬の食材を用いた料理を味わえる。

西上州の山々に囲まれた秘湯

9月から5ヶ月近くが経過。幸いオープン時には、さまざまな媒体に取り上げられたこともあり、集客は週末を中心にまずまず順調だという。

「南牧村の最奥部というのは交通も不便で、観光地化もされていません。開発されていない素朴な秘湯であることが魅力だと思います。ぜひ、多くの人にその魅力を体験してほしいですね」と松林さんは語る。

近くには荒船山の登山口や立岩をはじめ、山歩きファンに人気の西上州の山々が点在する。登山後の「ひとっ風呂」は特に気持ち良さそうだ。また、南牧村の大きな地域資源でもある風景を眺めながらのんびりとドライブを楽しみ、その目的地として星尾温泉で入浴&ランチというのも贅沢な休日の過ごし方だろうと感じられる。

囲炉裏のある休憩室囲炉裏のある休憩室

広がる可能性

「もっと魅力を高め、多くのお客さまに良さを味わって欲しい」と松林さんは力を込める。施設から約200mほど離れた星尾温泉の源泉付近では、沈殿した炭酸カルシウムが水の流れをせき止め、小池が何段にも積み重なるカルスト地形「石灰華段丘」があり、炭酸カルシウムが石についた木の葉を凝固させる現象が見られる。施設から石灰華段丘まで遊歩道を整備する構想もある。また、今後、地元産の農産物など物販も行っていきたいという考えもあるという。 

今回の温泉復活プロジェクトの主要メンバーはいずれも移住者たち。南牧村では「南牧山村ぐらし支援協議会」が、村の委託により古民家バンクを設置し、空家活用による移住促進を主軸とした活動を行っている。古民家バンクのサイトを見ると、賃貸希望、売却希望の物件が数多く掲載され、契約済み・売却済みとなっている物件も少なくない。こうしたマッチング事業などを通して村への移住者が増え、今回のような活性化プロジェクトにもつながっていく。星尾温泉の成果は、村活性化の起爆剤になるだろう。


取材協力/星尾温泉 木の葉石の湯
https://hoshio-onsen.nanmokushoko.com/

源泉付近にある石灰華段丘源泉付近にある石灰華段丘

2019年 02月23日 11時00分