古民家の調査・鑑定を行ない、コンディションを評価する

一般社団法人古民家再生協会東京のオフィスで取材に対応してくれた古民家鑑定士の杉本龍一さん。「父親が大工だったので、子どものころから住宅に興味がありました」。大手住宅メーカーに27年勤めた後、2014年12月より古民家再生協会東京の代表理事。大の古民家好きで、プライベートでも古民家を活用した店を見かけるとつい立ち寄ってしまうという一般社団法人古民家再生協会東京のオフィスで取材に対応してくれた古民家鑑定士の杉本龍一さん。「父親が大工だったので、子どものころから住宅に興味がありました」。大手住宅メーカーに27年勤めた後、2014年12月より古民家再生協会東京の代表理事。大の古民家好きで、プライベートでも古民家を活用した店を見かけるとつい立ち寄ってしまうという

古民家に住んでみたいと憧れる人が増えている。その一方で、古民家を持つ人のなかには「老朽化した家屋にこのまま住み続けていけるのだろうか?」「建物の手入れの方法がわからない」と悩んでいるケースも多いという。そんな古民家所有者の悩みに対応し、住まいの調査・鑑定を行ない、建物のコンディションを評価する古民家鑑定士という専門家が活動していると知った。

そこで古民家鑑定士の一人、杉本龍一さん(47)に取材させていただき、活動内容や古民家再生に賭ける想いを語っていただいた。

杉本さんは大手住宅メーカーに勤務していた一級建築士。住宅メーカーに在籍していた2010年に古民家鑑定士の資格を取得した。2014年9月に勤務先を辞め、同年12月、一般社団法人古民家再生協会東京を立ち上げた。この協会は、古民家鑑定士を主な構成メンバーとする一般社団法人全国古民家再生協会の東京支部でもあり、「全国の古民家再生協会の仲間と連携しながら、古民家の有効活用に取り組んでいます。私自身、東京のみならず、地方にも出向いて古民家再生活動にかかわらせていただいています」と、杉本さん。

ちなみに古民家鑑定士の資格は、財団法人職業技能振興会が認定するもので、2009年に創設以来、現在までに全国で約8,000人の資格取得者が誕生しているという。

古い建物には本当に価値がないのだろうか?

古民家鑑定はその建物の築年数や構造、増改築歴などの基本情報をもとに調査をする。写真は愛知県古民家再生協会の会員とともに実施した古民家鑑定の様子古民家鑑定はその建物の築年数や構造、増改築歴などの基本情報をもとに調査をする。写真は愛知県古民家再生協会の会員とともに実施した古民家鑑定の様子

古民家鑑定士は、依頼を受けて現地へ出向き、調査をする。立地条件、建物の老朽度や傷み具合、屋根裏や床下の状況、雨漏れの有無、使われている部材など、調査項目は450項目にもおよぶ。「調査のために壁や床を壊したりすることはありませんが、建物と敷地のあらゆる部分を調査しますので、平均して3時間程度はかかります」。宅地建物取引業法や不動産鑑定評価に関する法律に基づくものではないのだが、家屋に使われている伝統的な資材、建具の出来栄え、大工技術といった文化的価値の側面から古民家を評価し、建物評価額を算出するという。建物の現在のコンディションを判断し、今後の点検・メンテナンスの計画や、増改築の履歴も残せるように提案するとしている。

「私どもでは、築50年以上が経過している木造住宅で、伝統構法あるいは在来工法で建てられた住宅を古民家と定義しています。固定資産税評価額では築20年から30年で建物の価値はほぼゼロとする評価がなされていますが、長く大事に住んできた家屋に本当に価値がないのでしょうか? 思い出や愛着の詰まった家の価値がゼロになってしまうなんて……。家は、そういうものではないと思うんです。古いというだけで取り壊して新築に建て替える。それは社会経済的な面ではよいことなのかもしれませんが、古民家は日本の伝統文化です。ある程度の修繕は必要になりますが、この先も住み続けることが可能ならばできるだけ壊さずに残していきたいです。そして、古民家とそこに暮らしてきた人たちの想いを未来の子どもたちのために遺していく。それが私たち古民家鑑定士の役割です」

古民家が空き家になって困っているケースにも対応

古民家鑑定は、空き家を未然に防ぐことにもつながる活動。古民家鑑定士の資格試験は20歳以上なら誰でも受験できる。より専門的な知識が求められる伝統資材施工士、伝統再築士とワンランク上の資格もある古民家鑑定は、空き家を未然に防ぐことにもつながる活動。古民家鑑定士の資格試験は20歳以上なら誰でも受験できる。より専門的な知識が求められる伝統資材施工士、伝統再築士とワンランク上の資格もある

古民家の鑑定料は一つの建物につき、10万円(税別)。鑑定を依頼する家は、どのような状況なのだろう? 全国古民家再生協会の調べ(2012年)によると、「今も住んでいる」が45%、「5~10年空き家」36%、「10年以上空き家」19%。鑑定後の状況については「売却希望」が15%、「リフォーム希望」63%、「鑑定のみ」22%となっている。こうしたデータをみる限り、鑑定の結果、なんらかの形で古民家が活用されているようで、空き家の解消にも役立っているといえるだろう。

「私が鑑定にかかわったケースで多いのは、“このまま住み続けたいけど、耐久性が心配なので、解体するべきかどうしようか、悩んでいる”という人たちです。相続が絡むご相談を受けることもあります。これまで住んでいた人はこのまま残したい、でも他の相続人は“建物を壊してアパートなど収益物件を建てたらどうか”と言ってきて困っていると。そうしたお困りごとに対し、私どもが調査・鑑定を行なわせていただく。その結果、“大丈夫です、壊さずに住めますよ”と、経済面だけではなく、そこに住む人の想いを遺すことを提案できることに、やりがいを感じます」

耐震改修は大切なことだけど、古民家のよさを損ねてはいけない

杉本さんは一般の古民家のほか、文化財になっている建造物等の耐震診断にも携わる。写真は国の登録有形文化財になっている旧新井家住宅の母屋(埼玉県日高市)。建築されたのは、江戸時代末期から明治時代前半といわれている杉本さんは一般の古民家のほか、文化財になっている建造物等の耐震診断にも携わる。写真は国の登録有形文化財になっている旧新井家住宅の母屋(埼玉県日高市)。建築されたのは、江戸時代末期から明治時代前半といわれている

古民家を残し、活かす。そのために非常に重要になってくるのが、古い建物を活かしつつも、自然災害に対する備えをどうするかである。安心して住めてこその住宅だ。「特に地震対策は欠かせません。地震に強い古民家にするためにどういう補強をするべきか、適切なアドバイスをする。私自身が古民家鑑定士として力を注いでいることです」。こう話す杉本さんは20年前、住宅メーカーに勤めていた27歳のとき、大阪へ赴任し、阪神・淡路大震災の被災地で住宅の復興事業に携わった経験がある。

「被災状況は、想像を絶するものでした。建物が倒壊し、それによって多くの尊い生命が失われたのです。私たちは人の生命を奪うような建物を建ててはいけない。心からそう思いました」。大阪での2年間の赴任の後、東京に戻り、大規模リフォーム事業を18年間に渡って担当。古民家のリフォームにも数多く携わり、古民家のよさを活かした改修法や耐震補強ができないものかと、真剣に考えるようになったという。「もともと古民家が好きだったんです。古民家鑑定士の資格のことを知ったときは自己啓発になると思い、迷わず取得しました」と、杉本さんはふり返る。

住宅メーカーで大規模リフォームに従事していたころから現在まで、杉本さんがかかわった古民家等の住宅は約1,000戸にもなり、日本古来の伝統構法で建てられた建物も数多くみてきた。
「伝統構法の家は希少な存在ですから、残したいです。しかし、現行の建築基準法では、伝統構法の家は地震に弱いと診断されます。伝統構法の家は、無垢の木材を使い、太い柱と梁を組み合わせて耐力を生み出すという考え方によってつくられていますが、現行の耐震基準では、建物の耐震性を評価するのは壁の量です。壁の量を多くすることで地震に耐える力を強め、地震の揺れを抑えるという論理です。この耐震基準に合わせて古民家を改修すると、柱や梁を壁で固めたり、縁側の広い開口スペースも壁でふさいでしまうといったような、壁ばかりの家になってしまうケースも多々あります。となると、歳月を経た木材の風合いを楽しんだり、縁側で日なたぼっこするとか、そういう古民家のよさが損なわれてしまう……。果たしてそれでいいのだろうかと、常々、疑問に感じています」

伝統構法の建物にも対応できる動的耐震診断

埼玉県日高市の旧新井家住宅で動的耐震診断を行なう杉本さん。写真左は「早稲田式動的耐震性能診断」を開発した毎熊輝記さん埼玉県日高市の旧新井家住宅で動的耐震診断を行なう杉本さん。写真左は「早稲田式動的耐震性能診断」を開発した毎熊輝記さん

では、壁が少ない伝統構法の古民家は、地震に弱いのだろうか? 
「そうとは言い切れないと思います。伝統構法で建てられた家は、壁ではなく、太い柱と梁をしっかり組み上げた軸組に構造的な力点を置いています。地震が起きれば比較的大きく揺れるのですが、やじろべえのように振動に対してバランスを取る力を発揮し、建物全体で揺れを吸収するという免震的構造です。柱や梁の接合部が少しずつ動きながら一緒に揺れることで、地震力を逃がすのです。ですから地震に弱いということではありません。実際、東京にも関東大震災を免れた築90年を超える古民家が残っています」

今の建築基準法では、壁で建物を固める「耐震構造」の考え方が基本なので、伝統構法の「免震的構造」の考え方とは根本的に異なっているのだ。「現行の耐震診断では、伝統構法で建てられた家が地震に対してどうなのかをはかることは難しいのです」。そこで杉本さんら古民家鑑定士が推し進めているのが、伝統構法の構造にも対応できる動的耐震診断だ。

耐震診断の方法は大きく分けて静的耐震診断と動的耐震診断がある。一般的に行なわれているのは静的耐震診断で、図面や現場を確認し、建物の地震に対する安全性を診断する。一方、動的耐震診断は、建物の振動特性を測定して耐震診断を行なうもので、古民家鑑定士が導入しているのは、元早稲田大学理工学部教授の毎熊輝記さんが開発した「早稲田式動的耐震性能診断」という診断法。どのような方法かというと、まず、地面と家屋のそれぞれに計測器を設置する。車の走行や風などの影響で日常的に発生している微弱振動と、それに起因する建物の振動を計測し、建物の振動特性をパソコンで解析する。そうして実際の地震発生時にどのように振動するかを推測し、耐震補強の助言をするという。

「この動的耐震性能診断によって、現状のまま住み続けることが可能と診断され、解体せずに残すことができた事例は少なくありません。また、補強が必要という診断であっても、修繕すべきところを修繕することで長く住み続けることができます」

使える部分は壊さず、次の世代へ残していきたい。これが古民家鑑定士・杉本さんの願いだ。もちろん、古民家それぞれで状況は異なる。杉本さんが活動の拠点とする東京では伝統構法の古民家も数万棟残っているというが、「木造住宅密集地域もありますから、そうした地域の古民家再生では不燃化対策を視野に入れて取り組む必要があります」。

不燃化対策のみならず、住む人のライフスタイルの変化も考えていかなければならない。場合によっては、家を解体して建て替えるケースもあるのだが、古民家を解体したときに取り出される古材を活用することも古民家再生の形だという。

次回は、古材の魅力や活用法についてレポートしていきたい。

☆取材協力
一般社団法人古民家再生協会東京
http://www.kominka-tokyo.org

2015年 05月21日 11時07分