「リペア」とは?
ちょっとした室内の傷みは、日常の営みの中で生じるものだと思う。
我が家を見渡してみても、モノを落としてできたフローリングの傷、掃除機をぶつけてできた柱の欠け、ドアの塗装剥がれなど、自分のガサツさを感じずにはいられない傷の数々。そして、それらは気になりつつも生活に支障をきたすわけではないので、そのままになってしまっている。
今回は、プロのリペア職人 リペアさしょう 代表 辻弥佐さんから、ホームセンターで材料が購入でき、かつ素人でもそれなりに仕上げられるフローリングの補修のコツを教わった。皆さんのお住まいにもきっと存在するであろう「買い替えや取り替えるほどのものではないが、気になる箇所」の簡易リペアにぜひトライしていただきたい。ただし、賃貸物件の場合、事前にオーナーや管理会社に相談し許可を受けた上で実施することをおすすめする。
まず、そもそもリペアとはなんだろう。
手直しなどを指し、住まいにおけるリペアは傷のついた箇所を修復する作業を意味している。居住中の住まいに限らず、新築引き渡し前にもリペアは行われ、床、壁、柱など、対応箇所も多岐に渡る。
簡易リペアが不向きなフローリング素材
今回は、対象を「合板フローリング」に絞る。似ている素材は同じ手順で簡易リペアできるものもあるが、傷の程度などにより技術を要するものもあるので注意したい。ちなみに、合板フローリングとは、複数の合板を接着剤で張り合わせた合板の表面に天然木の薄板を張りつけたものである。
ただし、一口にフローリングと言っても以下の素材には手を出さない方が良いそうだ。
<白木>
・染みができやすい
・無垢材か 薄い白木の貼られた合板かの見極めが難しく、後者の場合はペーパーを掛けることで下地がでてしまうことがある
<無垢材>
・補修材の色合わせが難しい
<ペンキ塗装された材>
・補修材の色合わせが難しい
・擦ることで周囲の塗装が剥げてしまうことがある
補修材選び ホームセンターなどで買える材料を知る
合板フローリングの簡易リペアを行う際にホームセンターで購入できるものは、主に下記の2種類。
①クレヨンタイプ
<利点>
素材が軟らかいため削る、練る、掻き出すなど扱いやすい
布やカッターなどで取ることができやり直し可能
<欠点>
耐久性に欠ける
②蝋タイプ
<利点>
耐久性がある
拭き取ることができやり直し可能
プロ用品に比べれば扱いやすく、時間がない場合はプロも用いることもある(短時間で多くの箇所の作業ができる)
<欠点>
電気コテが別に必要
熱を加えて使用するため技術を要する(プロでも3ヶ月かかる)
電気コテだけで平らにすることが経験が浅いと難しい
その他、ホームセンターにはなくネットで購入可能なものとして、樹脂やプラスチックのスティックタイプ補修材があるが、熱を加え溶かしながらコテで平らにする、溶剤を用いないと取ることができないためやり直しが難しい、など、「未経験者が最初から手を出すことはお勧めできない」と辻氏のアドバイスがあった。
実際に、フローリングを補修してみよう!
※今回は簡易リペアの手順を学ぶため、フローリングサンプルにあえて傷を入れ、そこに補修材を充填していった
<用意するもの>
・フローリング補修材 クレヨンタイプ(1,000~2,000円程度)
・ボールペン
・カッター
・新聞紙など下に敷けるもの
・平らな面のあるもの(木の端材など 100円ショップなどでも購入可)
・布巾
①傷周辺の凹凸をなじませる
フローリングの傷の多くが、モノの落下によるもの。
その場合、傷周辺が盛り上がっていることが多く、補修材がその上に乗ると平らな面が出しにくい。周囲の凸凹をボールペンのペン先を出していない状態や木製スティックなど、硬さのあるもので押さえ、傷の周りの膨らみをなくす。
②補修材の色を選ぶ
簡易リペアで一番「失敗した」と感じやすく、逆に言えばココを押さえておくと仕上がりに満足しやすくなるポイントが「色選び」だ。
「1色で補修しようとするから難しいんです。例えば、フローリングを写真に撮って行き、地の色、薄い部分の色、木目の濃い色…という感じで、3色ほど購入しておくといいですよ」と、辻さん。
③補修材を加工する
クレヨンタイプの補修材を各色5 ミリ幅程度に輪切りにし、それを指でよく練る。こうすることで補修材も軟らかくなるし、色馴染みもしやすくなる。
「これからの時期は寒くなり、補修材が硬くなりがち。手で混ぜにくい場合は、ドライヤー等で少しクレヨンを軟らかくしてやると混ぜやすいですよ」(辻さん)
④傷に補修材を充填する
練った補修材を傷に埋め込む。
クレヨンタイプは先述の通り搔き出しやすいため、やり直しも容易。
色が濃い・薄いと感じたら必要に応じて色を足し③と④を繰り返し、近い色を作っていく。
⑤補修材をなじませる
平らな面のある木の端材を、フローリングに対して平行に当てて擦る。
私も挑戦してみたが、つい角度をつけて擦りやすい。
平行に当てて擦らないと削り過ぎてしまう部分ができ、均一に充填されないので注意したい。
「傷に補修材を入れる際も、なるべく平らに入れるよう気をつけます。平らなもので擦るとクレヨンが溶けて自然に平らになってくれます。この時も、寒い時期は少しドライヤーを当ててクレヨンを軟らかくしてから作業すると平らにしやすいです」(辻さん)
⑥布巾で拭き、仕上げる
リペアの魅力
簡易リペア体験をしてみると、塗り絵のような、工作のようなどこか懐かしい感覚が蘇る。
手先の器用な人であれば、初心者でもきっとそれなりに綺麗に仕上げられるのではないかと思うし、私のような大雑把な者が作業してもパッと見た感じでは傷が気にならなくなる程度になった。なにより、傷が入ったまま、塗装が剥がれたまま放置してあるより、ずっと気分が良い。
最後に、辻氏にリペアの魅力を尋ねた。
「私にとってリペアの魅力は【モノを大切に使うことに繋がる】点。持っているものに愛着が湧き、より大切に使うようになりました。」
辻氏によると、残念ながら、リペアという職業や作業が日本ではあまり浸透していないらしい。しかし、振り返ってみると、襖の穴開きに母が和紙を桜型に切り貼りしていたことを思い出す。あれもリペアの一つの形だろう。
「買い換える」から「直す」へ…。
モノを大切にすることが見直され始めて久しいはずの日本。より心豊かに暮らすため、リペアが私たちの暮らしの中に取り込まれることを願う。
取材協力:リペアさしょう 辻 弥佐氏
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