空間だけでなくスキルやアイデアもシェア

新しいワーキングプレイスの一つとして、各地に定着した感のあるシェアオフィス。オンラインコミュニティが盛んになり、従来のオフィスに縛られない自由な働き方が可能になったことが、シェアオフィスやコワーキングスペース隆盛の一つの理由だろう。シェアオフィスが登場した当時は、場所を共有することが目的の、いわばレンタルオフィス色が強かったが、人が集まることで智恵や技術も持ち寄られ、アイデアや人脈が広がる場所と進化し、現在では自由な働き方を求める人とそれを支援したい企業とのマッチング(雇用創出や雇用支援)にも一役買っている。

今回紹介する大阪・大正区にある「TAISHO DOCK」もそうしたシェアオフィスの1つだ。ただ単に場所を共有するオフィスとして提供するだけではなく、そこに集まる人たちのスキルやアイデアをシンクロさせ、智恵や人脈を育みながら、町おこしにも取り組んでいる点が興味深い。これまでの経緯や活動内容、今後の展望などについて、「TAISHO DOCK」を立ちあげた今村謙人氏にお話を伺った。

3階にあるシェアオフィス。4階にある個室はプライベート性が高まる分料金は上がるが、</BR>3階のデスクを占有するだけなら気軽にシェアオフィスを始められる3階にあるシェアオフィス。4階にある個室はプライベート性が高まる分料金は上がるが、
3階のデスクを占有するだけなら気軽にシェアオフィスを始められる

「作る」ではなく「残す」発想で行うリノベーション

古い壁をめくって現われたコンクリートをそのまま生かした壁面。木やグリーンをあしらうことで温かい表情を加えた古い壁をめくって現われたコンクリートをそのまま生かした壁面。木やグリーンをあしらうことで温かい表情を加えた

JR大正駅すぐ近くにある、1階路面に焼鳥店が入った昭和45築の飲食店ビル。その2階をカフェ(現在はテナント)、3階を、デスク貸しのオープンシェアオフィス、4階を個室シェアオフィスとして活用しているのが「TAISHO DOCK」だ。以前の勤め先である設計事務所OpenAで共にリノベーションやまちづくりを行ってきた仲間から、これまでの経験を生かして、「大正区でプロジェクトを始動させるから一緒にやらないか」という誘いを受けたのがきっかけだった。夫婦で1年間の海外旅行を終えた後、日本でもおもしろいことがやりたいと思っていた矢先に舞い込んだ話だった。もともと無から有を創り出すよりも、リノベーションのような有る物をより良い形で残していくことに興味があった今村氏は、当時、空きテナントとなっていた2~4階部分を見て好奇心を駆り立てられた。

「2階部分は20~30年前にはカフェとして利用されていたようでした。あちこち傷んでボロボロでしたが、できるだけ費用はかけずに使えるものは有効に活用していきたいと考え、使えそうな床材は剥がして壁にパッチワークしたり、色を塗ったり板を貼ったりするのに必要な人手はワークショップで集めたり。倉庫を物色して見つけた古い缶詰や当時を偲ばせる看板などは今もそのままオブジェとして使っています」。

こうしてTAISHO DOCKは、古い建物の魅力を活かし、その上に新たな価値を積み上げる、まさにレイヤーを重ねるようにリノベーションして、人が集まるシェアオフィスとして再生させた好事例となった。

TAISHO(大正)というまちのポテンシャル

TAISHO DOCKの中心人物である今村謙人氏。「おもしろい人が集まって、大正の町がもっとおもしろくなれば」と語るTAISHO DOCKの中心人物である今村謙人氏。「おもしろい人が集まって、大正の町がもっとおもしろくなれば」と語る

TAISHO DOCKは、単に建物を再生するだけにとどまらない。大正区というまちのポテンシャルと今村氏の経験や人脈を活かし、町全体に人を呼び込む町おこしの活動でも注目を集めている。その1つがTAISHO DOCKのメンバーでもある「WeCompass」(大正・港エリア空き家活用協議会)という団体である。「WeCompass」では「ゲストハウスの作り方」、「親子イベント『CAKE BOXでインテリア模型を作ろう』」といった、大正の魅力の原点となっている「ものづくり」をテーマに、つくる楽しみを日常に取り入れることで新しい暮らしや仕事の創出につなげるトークイベントやワークショップを行ってきた。

他には、地元の建設会社や不動産会社とコラボした企画「大正のちょっとおいしいとこどろ散歩〜TAISHO SAMPO〜」。日本でも問題視されている空き家は大正にとっても課題だった。空き家問題の解消に乗り出したものの、不動産会社が内覧希望者を空き家へと案内するただの空き家巡りでは面白くない。何もない空き家に屋台を置き、「食べる」「飲む」「作る」のコンテンツをつくり、実際に生活圏を“散歩”しながら大正の町の魅力を実感してもらうことで、1人でも多くの人にこのまちに住みたい・働きたいと感じてもらうのが狙いだ。

大正に面白い「ヒト、モノ、コト」が集まることを目指して

こうしたユニークな発想の原点には、今村氏の海外での経験や、暮らすように旅したことで得られた視点が生かされているという。
「あえて旅程の滞在日数なども決めず、面白いと感じたら長居する。そんなスタイルで妻と2人でいろんな町を旅しました。もっとも思い出深いのはメキシコ。ゲストハウスのオーナーがとても面白い人で、宿泊客もおのずと面白い人たちが集まっていました。『こんなことがやりたい』と伝えたら、必ずチャレンジを応援してくれました。実際に私も、見よう見まねで路地に焼鳥の屋台を出店して宿泊費の足しにしていたこともあります。大正のまちにもそんな風に面白い人たちが集まって、またさらに面白い人が集まり、面白い人たちと面白いモノやコトをどんどん生み出していける場所にしたい」。

今村氏にとって今や居住地となった大正も、世界中に無数ある町の1つであり、「面白さに惹かれて住み着いた」に過ぎない。今後どんなヒトに出会い、モノやコトを仕掛けていくのか、楽しみにしたい。

■取材協力
TAISHO DOCK
http://taisho-dock.wixsite.com/base

2017年 07月22日 11時00分