極端に低い容積率、容積率に算入できない土地……、難問山積の建替え計画

建替えられた建物には緑を望むラウンジなどもあり、どこにいても自然を感じられる建替えられた建物には緑を望むラウンジなどもあり、どこにいても自然を感じられる

マンション建替えには様々な困難が待ち受けている。容積率に余剰がない、余剰があっても立地的に考えて売れそうにないために建替えると持ち出しが多額に及ぶ、区分所有者の合意形成が大変……といった一般的な難問以外にも、物件ごとに異なる障壁があることもしばしば。1971年(昭和46年)に東京都住宅供給公社によって分譲された調布富士見町住宅もご多分に漏れず、大きな問題を抱えていた。

そのうちのひとつは調布富士見町住宅が都市計画法上の一団地認定を受けて建てられていたことである。都市計画法の一団地認定は、昭和40年代くらいまで、郊外の団地を建てる際に建物に付随する道路や下水道、公園等の公共施設を総合的に整備することを目的として定められた制度で、当時としては意義のある制度だった。この時点では団地の回りも広く空いていたためだと思うが、建ぺい率は20~30%程度、容積率は70~80%程度に抑えられていた。

しかし、我が国のその後の経済成長による都市化は郊外にも及んだ。調布富士見町住宅の場合、周辺の容積率は200%になっているのである。ところが、一団地の住宅施設の指定がある調布富士見町住宅は建築当時のまま。これでは容積率を生かした建物は作れない。当然、建替えの費用も捻出できない。

しかも、もうひとつ、敷地を分断するように公道が通っているという問題もあった。具体的には中庭を挟んで建つ2列の建物の背後に公道があり、道を挟んで駐車場、ゴミ置き場が配されていたのである。この道は元々、この住宅の敷地であったものを市道として提供したもので、この道路の位置によって敷地の一部が容積率に算入できなくなっていた。そもそも、低い容積率に加え、道路位置による容積率不算入の敷地の存在。建替えるためには、一団地の認定を外すことに加え、道路を別の場所に動かし、その道路に対して適法な建物を建てるという、段階を踏んだ計画が必要になったというわけである。

エレベーターのない5階は高齢者に厳しいと8割が建替えに前向き

階によって外観のデザインなども異なっており、圧迫感を与えないように配慮されているという階によって外観のデザインなども異なっており、圧迫感を与えないように配慮されているという

建替えにあたってこうした難問があることはあらかじめ分かってはいた。というのは、2006年(平成18年)の東京都住宅供給公社への割賦償還完了以前にも建替えの話は出ていたのである。だが、その時は一団地認定が壁となり、計画は頓挫。復活したのは償還完了後に管理組合が発足してからである。管理組合は発足とともに建替え検討委員会を含む各種委員会を作り、区分所有者へのアンケートを実施するなど建替えに向かって動き始める。

建替え以前の調布富士見町住宅はRC造5階建ての5棟が並ぶ典型的な団地で、各棟の間に広い緑地が広がり、日照、通風に恵まれた住環境は魅力だったものの、エレベーターのない5階建てはこの当時で70歳台中心だった入居者には厳しい。物理的に閉じ込められているようだ、辛いという声が多く、アンケートでは80%以上が建替えに前向きという結果だった。その上、この時期には、水漏れも頻発した。

そうした建物の状況、入居者の声を受け、管理組合は大規模修繕と建替えの比較検討、デベロッパー4社のコンペ、アンケートなどの段取りを経て、建替えを決定。事業協力者として旭化成不動産レジデンスを選ぶことに。選択にあたっては同じ調布市内の国領住宅建替えで一団地認定を外す経験があったことが決め手となったそうである。

また、同時期には管理組合内に建替え推進委員会を立ち上げて容積率などの緩和を市に申し入れると同時に、市道の付替えを提案するための街づくり協議会も作られている。

街を良くするためと街づくり協議会を作り、市道付け替えを提案

敷地の隅にある公園。今までは敷地内を横切る形で利用されていたが、現在は公道に面し、利用しやすくなっている敷地の隅にある公園。今までは敷地内を横切る形で利用されていたが、現在は公道に面し、利用しやすくなっている

今後、建替えを考える人たちの参考になるのは市道付替え提案にあたって街づくり協議会を作ったという点だろう。もともと当該物件の敷地だったとはいえ、市道になった時点でその土地には公的な意味が付加される。それを住民だけの利益になるからと変更することはできない。だとしたら、街の利益になる提案をする必要がある。それが街づくり協議会の意味である。

街づくり協議会が道路付替え提案の根拠としたのは2点。ひとつは当該市道が敷地中央ではなく、敷地内の隅に近い場所にあったため、本来直交すべき道路と離れており、通行が不便であるという点。付替えれば2段階に曲がる必要がなくなり、スムーズに通行できるようになるというのである。

もうひとつは、敷地角にある公園へのアクセスが良くなるという点。公園は市が管理しているが、現状では公道に面していないため、市の係員が清掃に入る際には敷地内を通ることになる。地域の人が利用する場合も同様で、市道を付替えれば公園が利用しやすくなるというのである。

地元での3回に及ぶ説明会ではこの提案を繰り返し、地域のためになる付替えであることを説いた。また、説明会には多くの高齢の居住者も参加、その姿が市を動かしたと建替え組合の副理事長。住民の熱意がと言い換えても良かろう。結果、建替えは可能になったのである。

個別に世間話を積み重ねて合意を形成。喜ばれる建替えに

建替えの経緯、苦労などについて語る建替え組合のご担当者建替えの経緯、苦労などについて語る建替え組合のご担当者

もうひとつ、合意形成にも手間がかかった。これはどこの建替え事例を聞いても同じだが、最初から全員が賛成というケースはあり得ない。特に高齢になればなるほど、住み慣れた土地を離れる不安は強くなり、住替えの手間を面倒と感じる人も増える。といっても多くの人を集めての説明会では反対の人はそもそも参加しないし、参加しても自分の意見を言わない人も少なくない。

そこで管理組合はお茶を飲みながらの世間話の時間を設けることにした。10数回に及んだ「談話室」と呼ばれるこの集まりで管理組合の役員らは「建替えは自分の問題。他人の意見に引きずられてはダメ、委任状ではなく自分の意見を出してください」と言い続けたという。並行して個別面談なども行われている。そして事業協力者が決まり、行政との協議が始まってから3年後の2011年(平成23年)、ようやく地区整備計画が制定され、一括建替え決議が成立。いよいよ、建替えが具体化に向けてスタートした。建替え決議後はこれまで何を言っても反対と言い続けた人も建替えに参画、最終的には100%の同意を得ての決議となっている。

その後、3年余の工事期間を経て、調布富士見町住宅はアトラス調布として生まれ変わるのだが、竣工した姿に入居者は非常に喜んでいるという。「わざわざ電話がかかってきたり、歩いていると後ろから大声で呼びとめられ『建替えて良かった』と感謝されることもしばしば。関わった私もうれしい」。計画開始から9年、その間の苦労が報われたわけである。

マンションというより、ひとつの街として再生

緩やかにカーブする道路を中心に空地が広がり、全体が気持ちよくまとまって見える緩やかにカーブする道路を中心に空地が広がり、全体が気持ちよくまとまって見える

調布富士見町住宅では着工時に見学会を開いており、私も参加している。当時の印象は古いコンクリートの塊が広い敷地に並んでいるという至って無味乾燥なものだったが、竣工後は緩やかに蛇行する道を中心に、周囲の緑のボリュームがまず目につく、潤いのあるものになっている。道路側が低く、後ろに行くに従って高くなる建物配置が圧迫感を抑えているためか、従前より高い建物があるというのに窮屈な印象はない。公園のようにも見える道のせいか、マンションというより、ひとつの街のようにも感じられるほどだ。

ただ、道路を真ん中に持ってくるにあたっては、車が敷地中央をびゅんびゅん走るようでは危ないから嫌だ、道路でコミュニティが分断されるのではないかなどと、住民からは反対も多かった。そこで道路がコミュニティの場として機能している例を見学すると同時に、減速を促す形状、歩道と車道が一体に見えるようなデザインなど道路作りには様々な努力が払われた。公道と違う素材で作ってあるため、補修時に困るという行政に対しては使用した材料をストック、補修時にそれを使ってもらうことで同意を得てもいるそうだ。

また、かつては約50m2の3DKしかなかったところに、2LDKから3LDK、約56m2~約95m2までの90タイプを用意されるなど住宅としての質も大きく変わり、最近では珍しいメゾネットも用意されている。緑を眺める共有スペースが随所に設けられているのも魅力的だ。

だが、今後に問題がないわけではない。それはかつての居住者のうち、建替え後のマンションに戻ってくる104人の区分所有者と200人を超す新しい居住者の融合。長年、建替えに奔走した副理事長の女性は「新しい人たちと良いコミュニティを作ること」を次の課題として挙げており、管理組合の苦労はまだまだ続く。そうした地道な努力が新しいマンションを住みやすいものにしていくことなのだろうと思うと、頭の下がる思いだ。

2015年 06月25日 11時06分