“小商い”が立ち並ぶ、ビルの1階にできた小さな商店街

左から、清川リトル商店街の運営会社「スペースRデザイン」の牛島さんと、フリーランスのプランナー下野さん左から、清川リトル商店街の運営会社「スペースRデザイン」の牛島さんと、フリーランスのプランナー下野さん

福岡市中央区清川にあるリノベーションマンション「新高砂マンション」1階で、一風変わったプロジェクトが行なわれている。これは、テナントが入っていた1階の空きスペースを利用した活用法で、第1弾は「清川リトル商店街」。2016年3月1日~7月31日までの期間限定企画だ。
中に入ると、駄菓子、八女茶、ハンドメイド雑貨、もみほぐし、カーペット、タイ雑貨、カラーセラピーなど、車輪が付いた1坪の小屋が軒を連ねている。店は、原則ひと業種につきひとつ。借り主が店主となって1坪の小屋を月額1万5,000円でレンタルし、小屋を自分色にDIYして“小商い”をしているのだ。
「当初は、ネットショップやイベント出店など何かしら活動をしている人でリアルショップを出すまでのつなぎとして活用したい人や、腕試しをしたい人の参画を想定していました」と企画立案者の下野さん。下野さんはフリーランスのプランナーで、「清川リトル商店街」の自治会長も務めている。しかし、いざこのプロジェクトがスタートすると、小屋を使って意識的に働き方を切り変えようとする人や、小屋自体を作品にしてしまう人など、下野さんたちが思いつかなかったアイデアを出店者たちが提示してくれたという。
出店者は若い人が中心かと思いきや、11店舗中、20代3人、30代3人、40代1人、50代2人、70代1人。50代以降の出店率がそれなりにあることに着目をしたい。運営会社であり、ビンテージビルの創出事業を手がける「スペースRデザイン」の牛島さんは、「2月の見学会時に出店の申し込みが多かったのは、40代以降の方たちでした」という。表現の場が多様化する中、働く場をどう創り出しているのか。牛島さんと下野さん、そして出店者の方たちに話を聞いてみた。

商店街を通して、人々が行き交う場を創造していく

出店者たちがお店を構える新高砂マンションは、2011年に耐震補強を終えたばかりの、1977年生まれの"レトロビル"だ。このマンションの住人でもある下野さんは「人が年齢を重ねると経験が増えて深みが出るように、古いビルには新しいビルには出せない独特のどーんとした安心感や味わいがあると思います」と話す。
ビルが放つあたたかみのある雰囲気や、出店者のバランスの取れた年齢構成も手伝ってか、最初はぎこちなく接していた出店者同士も、プロジェクトが2か月目に入ると自然に仲良くなっていたという。
「スペースRデザイン」にとっても、下野さんにとっても、“商店街づくり”は初の試み。この商店街にお客を呼び込み、人が行き交う場所にしたいと、月に一度の出店者会議や個別の会話を通して、様々な意見を出し合っている。毎月開催しているロータリー市や、各種イベントなども行なってきた。
商店街といえば、お店の商品を見たり店員と話をしながら、自由にぶらぶらお散歩するのが醍醐味のひとつだと思うが、その楽しい動線をブラッシュアップしていきたいと、車輪を活かして自分たちの手で店と店の距離を近づけたり、靴を脱いで人工芝の上で自由にくつろげるスペースを移動させたりと、よりよい場をつくるために出店者たち自身も自主的に行動をしている。

毎月第3日曜に開催しているロータリー市の様子毎月第3日曜に開催しているロータリー市の様子

仲間意識や思いやりが、明るい商店街の雰囲気を彩っていく

この日、ビルオーナーからおかしの差し入れが入ると、出店者同士が自然と声をかけ合い、お茶会が始まったこの日、ビルオーナーからおかしの差し入れが入ると、出店者同士が自然と声をかけ合い、お茶会が始まった

ビジネス要素の強い小商い、ではなく、"コミュニケーション性の高い小商い"。
この取材を通し、そのような印象を受けた。向こう三軒両隣ではないが、助け合いの精神がこの商店街には自然と息づいている。

「清川リトル商店街」は、火曜を除き11時~21時まで開いているが、各店舗の営業時間はバラバラ。出店者に課せられるのは、週に3日以上、1日4時間以上開店のルールだけ。 
イラストとデザイングッズの販売をしている「napsac」の諌山(いさやま)さんは「一般的に打ち合わせなどで外出をするときは、店を閉めるか店番が必要になるけれど、この商店街だと他の店の人たちが対応をしてくれるから安心して店を空けることができるんです。しかも、僕が店にいないときにお客さまが来れば絵を売ってくれたり、金額の少し高い絵が売れたときは、『おめでとう!』とあたたかな拍手を贈ってくれたり。僕はフリーランスで仕事をしていますが、この商店街に事務所兼ギャラリーを構えてからは、チームでがんばっているんだと感じることが多くて、この一体感がすごくうれしいんです」と話す。
一般的な商店街と違って、店舗の大きさはどのお店も同じ。同じサイズの箱の中で、自店の個性をどう出すかがカギになる。どうしたらお客に立ち止まってもらえる店づくりができるか、それぞれが考え工夫を凝らしている姿をお互いに見ているからこそ、仲間たちが助けてくれるのだ。

働き方や自分自身を変えたかった人、腕試しをしたかった商店街メンバーの声

イラストレーター・諌山 直矢さんのアトリエ兼事務所。店頭ではイラストやデザイングッズを販売しているイラストレーター・諌山 直矢さんのアトリエ兼事務所。店頭ではイラストやデザイングッズを販売している

 そんな諌山さんは、イラストとデザインを生業としている。仕事は委託業務が多く、エンドユーザーとの接点がほしいと思いギャラリー兼事務所を構えたそうだ。話を聞き進むうちに、「ここに事務所を置くことで、自分の働き方も変えたかったんです」と話してくれた。「以前は、委託業務が僕の仕事の98%を占めていたけれど、日々の仕事と並行しながら自分が描いたイラストやデザインをこの店で売るようになったら、作家としての収入が少しずつ増えてきたんです。ゆくゆくは、委託業務と作家収入のバランスが取れるようになるとすごくうれしい!だって、“好きなものを描いて収入を得る”、こんなに幸せなことはないと思うんです。7月末でこのプロジェクトは終了するけれど、店や商店街の運営で養ったすべての経験をこれからの仕事に活かしたい」と語った。
 また、ネットショップでの販売を主としている「お茶の千代乃園」の原島さんは「今まで、八女茶は上質な玉露や煎茶など濃厚な味が好まれると思っていたけれど、抹茶入り玄米茶や紅茶など、あっさりしたお茶の方が売れ行きがいいことに気づきました。これは、この商店街にお店を出して初めてわかったこと。今後、お茶の販路を考えるにあたっての大きな学びとなりました」。
 小屋にブルーのペイントを施し、作品として手がけた絵師・石田さんは「僕も期間限定で、僕自身に対して実験的なことをやりたいと思いこのプロジェクトに手を挙げました。付かず離れずの距離間を持った人たちと共同生活のようなことができて、良い意味で肩の力を抜くことができるようになりました」と感想を教えてくれた。

世の中が変化している今だからこそ、新しい仕事の場を切り拓いていく

 昔は珍しかったSOHOも、数年前までは珍しかったシェアオフィスも、今やスタンダードになり市民権を得ているが、働き方が多様化している現在、働き方に伴う「働く場」は、まだ掘り起こしの少ない分野なのかもしれない。「清川リトル商店街」は、自分の店を持つだけでなく、月額1万5,000円で他者を知り、共同生活で学び、商店街の運営を体験できる学校のようなものだと感じた。   
「今後も、様々な仕事の“場”の可能性を追求していきたい」と話す牛島さん。第2弾となるプロジェクトは、飲食やショップ、オフィスなどを想定していて、予定では8月から募集を開始するのだとか。飲食やショップはなんとなく想像ができるが、そこにオフィスがどう調和していくのか。9月から工事に入るそうだが、もしかしたら「スペースRデザイン」が提案する新しい場の提案は、今後、未来のスタンダードになっていくのかもしれない。
 新しいものをつくるのに、ルールはない。何でもありだし、既存の枠組みを超えたところに、広義な解釈になるが、スペースRデザインが手がけるリノベーション構想があるのだろう。新高砂マンションの1階を活用した第2弾のプロジェクトにも注目をしたい。

「清川リトル商店街」
http://littleshoutengai.com

第1弾プロジェクト「清川リトル商店街」は、2016年3月1日~7月31日(11時~21時・火曜休)まで第1弾プロジェクト「清川リトル商店街」は、2016年3月1日~7月31日(11時~21時・火曜休)まで

2016年 07月24日 11時00分