管理費・修繕積立金が想定外に上がり始めた背景
近年、全国の分譲マンションで管理費や修繕積立金の値上げが相次いでいる。背景にあるのは、単純な「物価高」だけではない。建設業界の人手不足による人件費上昇に加え、マンション設備の高度化や管理内容の多様化など、マンション維持管理を取り巻く環境そのものが変化している。
特に管理費については、管理員や清掃スタッフの人件費上昇、設備点検費や警備費の高騰、共用部の電気料金上昇などが負担増の要因となっている。近年は管理会社側も人材確保に苦戦しており、従来と同じ管理水準を維持するために管理委託費の見直しを求めるケースが増えている。
また、修繕積立金へ大きな影響を与えているのが大規模修繕工事費の上昇だ。一般財団法人経済調査会の資料によると、マンション大規模修繕工事費は2013年の1戸当たり平均93.5万円から、2023年には129.9万円まで上昇。さらに2025年調査では150.6万円に急伸し、直近2年間で約16%増となった。
修繕積立金不足マンションはなぜ増えているのか
こうしたコスト上昇は、既存の修繕積立金では賄いきれない事態を引き起こしている。加えて、この事態をより深刻化させている原因が、多くのマンションが「将来的な値上げ前提」で積立計画を組んでいた点である。
背景には、分譲時の販売戦略がある。新築マンション市場では、住宅ローンと合わせた月々の支払額が購入判断に大きく影響するため、管理費や修繕積立金を低めに設定し、購入しやすく見せる手法が長年用いられてきた。その代表例が段階増額積立方式である。これは、新築当初の修繕積立金を低く設定し、長期修繕計画に沿って段階的に引き上げていく仕組みだ。
特に1990年代後半以降は、超高層マンションの供給増加もあり、競争力強化のために共用施設維持コストを将来へ先送りする設計も少なくなかった。しかし実際には、区分所有者の高齢化や空室増加によって値上げ合意が難航し、計画通りに積立金を確保できないケースも珍しくない。一方で、マンションは築年数とともに修繕費用が膨らんでいく。外壁・防水・配管・昇降機(エレベーター等)などの設備更新は避けられない。ところが区分所有者側は高齢化し、年金生活では急な値上げに耐えられないという現実も生じる。
結果として起きるのが「修繕延期」である。本来12〜15年周期で行うべき工事が先送りされ、劣化が進行する。そして劣化が進行するほど、将来的な修繕費もさらに膨らむ。これがマンション管理の現場で非常に増えている悪循環だ。
修繕積立金不足は、一部の古いマンションだけの問題ではない。比較的新しい物件でも将来的な積立金不足リスクを抱えるケースは少なくなく、現状の修繕積立金が安いからといって、安心できるわけではない。
こうした背景から、中古マンション購入時には、現在の月額だけでなく、長期修繕計画や積立金残高まで確認することが不可欠になりつつある。
(参照:国土交通省|令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査|マンション大規模修繕工事について)
管理状態は中古価格へどこまで影響するのか
これまでの中古マンション市場では、駅からの距離・築年数・専有面積などが価格形成の中心だった。しかし近年は、これらに加えて“管理状態”を重視する購入検討者が急速に増えている。
実際の仲介現場でも、長期修繕計画書や総会議事録を細かく確認する購入検討者が増加傾向にある。金融機関側も、管理不全リスクを以前より強く意識するようになっており、修繕積立金不足や滞納率の高さを懸念材料として考慮するケースが出てきた。
管理状態が悪化すると、まず建物外観に影響が出る。外壁の劣化や共用部の老朽化などは、内見時の印象を大きく下げる。さらに問題なのは、「今後さらに負担増が起きるのでは」という不安心理が働くことである。
つまり中古市場では、単純な築古化以上に「将来維持できるマンションなのか」が問われ始めているのである。
特にタワーマンションでは、共用施設維持費や設備更新費が高額化しやすい。ジム・ラウンジ・内廊下空調・各種コンシェルジュサービスなどは、高級感を生む一方で固定費負担も大きい。そのため近年は、豪華な共用施設の多さが資産価値を高めるとは、必ずしも言えなくなってきた。
「駅近だから安心」「人気エリアだから値下がりしにくい」といった従来の認識だけでは、中古マンションの価値を測りづらくなっている。今後は、建物の管理状態そのものが、価格や売れやすさに直結する場面も増えていきそうだ。
今後売れにくくなるマンションの特徴
今後の中古市場で注意すべきなのは「築古マンション=危険」という単純な話ではない点である。実際には、築年数以上に“管理継続能力”の差が価格に影響し始めている。特に売却時に敬遠されやすいのが、修繕積立金不足が顕在化している物件だ。
例えば、次のようなマンションは、購入検討者に強い不安を与える。
・長期修繕計画が実態と乖離している
・積立金値上げ議論が停滞している
・総会議事録に修繕延期が繰り返し記載されている
また、空室率や高齢化率の上昇も重要なシグナルとなる。区分所有者が高齢化すると、修繕費増加への抵抗感が強まり、合意形成が難航しやすい。加えて、賃貸化率が高すぎる場合、管理組合活動への参加意識低下も起きる。
さらに今後は「管理会社依存型マンション」も売却が困難になる可能性がある。管理会社への過度の依存の結果として理事会機能が弱く、管理内容を十分把握できていない物件では、コスト上昇局面で適切な判断が難しくなるためだ。
一方で、築年数が古くても、修繕履歴や管理体制がしっかりしているマンションは現在も安定した評価を維持している。今後の中古市場では、築年数だけで資産価値を判断しにくくなり、日頃の管理状況や修繕への対応状況まで含めて総合的に見られる場面が増えていくだろう。
全国のマンション管理評価書付き物件を探す
国も動き始めた「管理不全マンション問題」
こうした状況を受け、国もマンション管理問題への関与を強め始めている。2022年には改正マンション管理適正化法が本格施行され、自治体による管理計画認定制度も始まった。
背景には、高経年マンション増加への危機感がある。国土交通省によれば、築40年超のマンションは2018年の約81.4万戸から2028年ごろには約2.4倍の約198万戸、2038年ごろには約4.5倍の約367万戸まで増加する見込みである。
問題は、単なる老朽化だけではない。区分所有者の高齢化・空室増加・役員のなり手不足など、管理主体そのものが弱体化していく点にある。
特に地方都市では、すでに「修繕費値上げの合意形成ができない」「空室増加で資金計画が成り立たない」といった相談も増えている。管理不全は、もはや一部のマンションだけの問題ではなくなっている。
さらに、管理状況が悪化したマンションは、周辺の不動産価格や地域のイメージにマイナスの影響を及ぼす可能性も指摘されている。空き家問題と同様、今後は“放置できない都市問題”として扱われる場面も増えていくだろう。
今後は「立地が良い」「築浅だから安心」といった条件だけでは、マンション価値を判断しにくくなる。管理組合が実際に機能しているか、きちんと修繕対応ができているかまで含めて見られる時代になりつつある。
安く買えるマンションの見方は変わる
これまで中古マンション市場では、築年数が古いほど価格が下がり、割安感が出やすいと考えられてきた。しかし今後は、この考え方だけでは本来の価値を適切に判断しにくくなっていきそうだ。
例えば、購入価格が安くても、数年後に修繕積立金の大幅値上げが予定されているケースもある。あるいは、大規模修繕工事の一時金として、数十万円単位の負担が発生するマンションも存在する。購入時は“安く買えた”と感じても、維持費まで含めると結果的に負担が重くなるケースは珍しくない。
一方で、適切な積立てと計画的な修繕が行われてきたマンションは、月々の負担額は高く見えるものの、建物状態や資産価値が安定しやすい傾向がある。
実際に、中古マンション購入時に長期修繕計画書や管理組合運営状況を確認する購入希望者は増えている。価格だけでなく、「今後もきちんと維持できるマンションなのか」を重視する流れが強まり始めているのである。
管理費や修繕積立金は、毎月の家計の負担としてネガティブに見られやすい。一方で、これらは建物の価値を維持するために必要な費用でもある。今後は、販売価格の安さだけで中古マンションを選ぶのではなく、修繕計画や管理状況まで含めて判断する購入者がさらに増えそうだ。
LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す
全国のマンション管理評価書付き物件を探す
マンション管理のチェックポイント5つ。 良いマンションの管理を見極めるために購入時に確認を





