カシの木とイチョウの木のツリーハウスが立つ小さな森

"ツリーハウス"と聞くと、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。森林の奥地に存在する秘密基地、トム・ソーヤーの冒険の起点になった小屋…大人子供を問わず、どことなく非日常でわくわくした思いにかられる人が多いのではないだろうか。
ツリーハウスとは生えている木が土台になった建造物のことを言うが、あまり見る機会は多くはない。そもそも自然のままの木に触れる機会も少なくなった。首都圏などの建物が密集したエリアにあるビルの間の木はどこか弱々しくも見えたりする。

なかなか日常ではお目にかかれないツリーハウスだが、千葉市に2棟のツリーハウスが存在するコミュニティシェアスペース「椿森コムナ」が2015年10月31日にオープンした。
オープン以来、近隣の人だけでなく遠方から訪れる人もおり、大変賑わっているようだ。

この「椿森コムナ」は、千葉市のセントラルパークとも呼ばれる千葉公園のほど近くに立地し、千葉都市モノレールの千葉公園駅から3分ほどの場所にある。千葉公園を大きな森林とするなら椿森コムナは住宅街そばの小さな森にある秘密基地のような異空間である。

「椿森コムナ」のコムナ(komuna)は、人工言語エスペラント語で「common(共有)」という意味だ。"空間を共有する"という意味が込められたこのスペースは廃材や古材を再利用してつくられており、コンセプトや提供されるサービスも一般的な商業施設とは趣が異なる点が特徴的な個性として際立っている。

この「椿森コムナ」をプロデュースしているのは、株式会社拓匠開発。宅地開発や分譲戸建て事業をメインとするこの会社がどうしてこの地に「椿森コムナ」を企画し、運営しているのであろうか?実際に「椿森コムナ」におじゃまして、拓匠開発 ブランド戦略部の湯浅里実さんにお話を伺った。

「椿森コムナ」の入口すぐの場所に2棟のツリーハウスがある<br>右側の木はカシの木で左手に見えるのはイチョウの木のツリーハウス<br>事前に木の強度調査を実施し、木材は新しい木材と建築廃材を組み合わせて造られた「椿森コムナ」の入口すぐの場所に2棟のツリーハウスがある
右側の木はカシの木で左手に見えるのはイチョウの木のツリーハウス
事前に木の強度調査を実施し、木材は新しい木材と建築廃材を組み合わせて造られた

住宅地に残った2本の大木をどうするか?

株式会社拓匠開発 ブランド戦略部の湯浅里実さん。<br>
湯浅さんの後ろに写っているテーブルやベンチも廃材を再利用して作られた。晴天時はツリーハウスの隣のスペースにハンモックがかけられるそうだ株式会社拓匠開発 ブランド戦略部の湯浅里実さん。
湯浅さんの後ろに写っているテーブルやベンチも廃材を再利用して作られた。晴天時はツリーハウスの隣のスペースにハンモックがかけられるそうだ

もともとこの地は一軒家と大きな木が2本ある、住宅地のなかの一角だった。

不動産開発業をメインとする企業であれば、この土地を更地にして再度売りに出す方法をまず考えるのではないかと思われるが…。

「千葉公園駅すぐの好立地にあり、また立派な木が2本左右に並ぶ空間を見て、切ってしまうのはもったいない。なにかこの空間と木を活用できる方法はないかと思ったのがはじまりでした。拓匠開発は分譲住宅事業に携わっており、木とともにある事業であると言えます。木材を切る、家を作る、そのサイクルだけに留まらず、残す、活かすことが出来ないかと思いました」と、拓匠開発の湯浅さん。

家を建てる際にはどうしても木の伐採が必要で、そして建築の後には木片や廃材が残ってしまう。「椿森コムナ」はこういった廃材を再利用してつくられており、まさに思い描いたサイクルが活かされている。では何故、ツリーハウスをシンボルとしようと思ったのだろうか。

「弊社は2014年に、長野県での『ツリーハウスの街による森林の保全活動』によりグッドデザイン賞を受賞した実績があり、ツリーハウス造りのノウハウがあったことが理由としてあります。コミュニティスペースとして活用し、ツリーハウスを造れば、木を伐採する必要もなくなりますし土地の荒廃を防ぐこともできます。そこに人が集まり気軽にコミュニケーションが取れ、自然と触れ合える場所にしたいという思いがありました」

拓匠開発がグッドデザイン賞を受賞した「ツリーハウスの街」は、森林の保全を目的として現在も継続しているプロジェクトだ。日本は国土面積の約67%を占める森林大国であるにもかかわらず、有数の木材輸入国でもある。日本の木材自給率は約3割と非常に低い。戦後に拡大した需要に対応しようと植林を急速に進めたものの供給が間に合わず、その間に安い海外の輸入木材が流通した。その結果、日本の林業は衰退し、戦後拡大した樹林は手つかずのまま放置され、荒廃している森林も多くある。
森の手入れの仕組みとしてツリーハウスをつくる長野県の「千年の森」に共感した拓匠開発は、送客と集客を促し、森の管理が継続されるモデルケースを考案しサポートした。その「ツリーハウスの街による森林の保全活動」が評価されたそうだ。

2本の木を切らずに残したのは、日本の森林に課題感を感じており、ツリーハウスの実績がある会社であったからこその選択だったと言える。

タイニーハウスやエアストリームが様々な空間をつくる

「椿森コムナ」にはツリーハウスの他にも子供や大人を楽しませる工夫がある。
エアストリームの銀色のキッチンカーでは常設カフェ「バンビ」(bambi)がオーガニックコーヒーや千葉県産の野菜を利用したメニューなどを提供している。キッチンカーは1960年代のアメリカのビンテージキャンピングカーだそうで、ここにもモノを大切にする思いが表現されている。建築廃材を利用して作られたタイニーハウスという小さな木の小屋は、車輪が付いており可動式のつくりになっていて、手作りのお菓子などが販売されている。常設カフェ以外の出店者は日によって異なり、ワークショップやイベントが実施されている日もあるそうで、ショップテントやキッチンカーはその時々に合わせて移動し、用途や状況に合わせた空間をつくることが出来るそうだ。

訪れた人が寛ぐことができるテーブルやベンチ、ブランコなども、施設内の設備は建築廃材や古材などを再利用してつくられている。すべて本来であれば廃棄されてしまう、「もったいないもの」たちだ。

環境にも配慮された施設づくりは、ポートランドを参考にしたのだと言う。

「椿森コムナは全米で住みたい街No.1の都市、ポートランドの『人と環境にやさしい街』を参考にしてつくりました。ここをコミュニティシェアスペースにしようと決めたあと、社内の複数部署からの選抜メンバーで4月にポートランドへ視察に行ってきました。ポートランドでは、それぞれ個性を持つタイニーハウスがあり、住民たちが集まってコミュニケーションをとる空間がありました。またオレゴンにはツリーハウスのメッカと言われている場所がありまして、そこではツリーハウス造りの最新のノウハウを教えてもらうことができました」

施設のひとつひとつが個性的であるのももちろんだが、常設カフェ「バンビ」で提供するメニューも十分に検討したそうだ。
椿森コムナのそばの千葉公園では朝6時から体操をする高齢者の方が多くおり、メニューを決めるに際し、60歳以上の千葉公園に訪れる人を対象にマーケティング調査をした。朝食の需要はあるのか?どういったメニューを望んでいるのだろうか?、などである。
「おにぎりなどの和食を求めている方が多いと予想していたのですが、結果はホットケーキやサンドイッチなどのメニューで、自宅では普段食べないものを外で食べたいという需要があることがわかりました。朝の体操のあと、ほんとはもっとみんなでゆっくり話がしたい…でも、周辺には早朝に集まれるような場所が無い。そういった声もあり、常設カフェのオープン時間は7時にすることに決まりました」

地域の方の生活を考え、また事前に調査をしてメニューに反映したことも、人気の理由のひとつなのだろう。

(写真左)ツリーハウスからの風景。ピザやイタリアンなどのメニューを提供するフードトラックが並ぶ<br>(写真右)廃材で制作された可動式のタイニーハウス。手作りのお菓子などが販売されている(写真左)ツリーハウスからの風景。ピザやイタリアンなどのメニューを提供するフードトラックが並ぶ
(写真右)廃材で制作された可動式のタイニーハウス。手作りのお菓子などが販売されている

遊休地を三世代が集まる空間に変化させたアイディア

銀色のキッチンカー、常設カフェの「バンビ」と先日開催されたクリスマスリースのセミオーダーイベントの様子銀色のキッチンカー、常設カフェの「バンビ」と先日開催されたクリスマスリースのセミオーダーイベントの様子

「椿森コムナ」では、毎週末に季節ごとのイベントが行われ、クリスマスリースのセミオーダーや、子どもも一緒に楽しめるダンスのワークショップ、タイ料理教室や森ヨガなどが開催されている。三世代で訪れる家族も多いそうで、年齢性別を問わずに同じ空間で時を過ごすそうだ。

取材時に県外から「椿森コムナ」を見に来た人たちがいた。60歳代くらいの方たちだったが、「せっかくだからツリーハウスに昇りたい!」と言っていたのが印象的だった。やはり子どもも大人もツリーハウスは興味が沸くものなのだろう。自然との触れ合いは世代を問わずに安らぎや楽しさを与えるのだと、あらためて感じた。

物件が売りに出されたり、更地になったりした後に、次の用途が決まらないまま放置され、そのまま空地や遊休地になってしまうケースがよく見受けられる。
「椿森コムナ」は既存樹を活かし、またタイニーハウスやキッチンカーなどの状況によって移動ができる店舗を導入することで、遊休地を有効利用しコミュニティシェアスペースとして変化させることができた。
このアイディアは地域の活性化に繋がっており、結果的にそれは人にも優しく、環境にも優しい活用が出来ているということだと思った。

◆取材協力
椿森コムナ http://tsubakimorikomuna.com/

2016年 01月05日 11時07分