普段はあまり気にしていない玄関や和室でのマナー
現代ではお中元やお歳暮も宅配便で送るのが一般的になり、お世話になった方のお宅などを訪問する機会は少なくなった。しかしそれでも、何かの用事で個人宅を訪れる可能性はあるし、和室に通されることもあるだろう。
そのときになって慌てないよう、普段はあまり気にしていない玄関や和室でのマナーをおさらいしておこう。
まず和室とは、畳をしきつめた日本の伝統的な部屋を指す。障子や襖で仕切られているが明確な境界線ではなく、障子や襖を取り外せば複数の部屋をつなげて使うことも可能で、大人数が集まるのにも適している。また、外界とも完全には遮断されておらず、室内にいながら季節の情緒を楽しめるのも特徴だ。障子は閉じていても柔らかな光を通すし、障子や襖を取り外せば自然な風が屋内に入り、開放的な空間を楽しめる。
日本家屋には「床の間」と呼ばれる格式の高い部屋があり、招待客が通されるのはこの部屋が多い。床の間は、「床(とこ)」のある部屋を意味する。床は壁面の一隅を床柱で仕切った部分で、下部は床框で一段高くなっており、天上部分は落掛けが入って少し低くなっている。また、床板には花、壁には掛け軸などが飾られており、見た目にも美しい。
これは本来の「床」が、貴人が座ったり寝たりする場所だったからで、現代でも、床に近い席に身分の高い人が座るのがマナーとなっている。
それでは次章から、玄関や和室での作法・マナーを詳しくみていこう。
玄関は、外界と室内を区切る結界
訪問先に到着すると、まずは玄関から入ることになる。靴を脱ぐ習慣のない欧米では、エントランスを入ればすぐ室内だが、日本の玄関は外界と室内を区切る結界であり、室内に汚れたものを持ち込まないように準備するための場所といえる。玄関に入る前に靴についた目立つ泥などは落とし、上着や帽子、マフラーなどを脱いで埃をはらっておこう。
雨天の場合は傘についた水滴をティッシュなどでふき取ってたたみ、傘立てなどの指定された場所に置こう。また、靴下が濡れてしまう可能性もあるので、履き替えを持参しておくとよい。濡れていなくても、格式の高い和室に入る前には、新しい靴下に履き替えた方がよいだろう。この場合、玄関で履き替えるのではなく、「靴下を履き替えたいのですが」と家の人に声をかけ、場所を指示してもらおう。
靴を脱ぐ際は、相手にお尻を向けないのが基本ルール。最初から後ろを向いて靴を脱ぐと、家の人にお尻を向けてしまうので、正面を向いて靴を脱いでから、体を斜めに向けてひざまずき、靴の向きを変えてそろえよう。
また、靴の置き場所にも上座と下座があり、靴箱の横が下座にあたる。靴箱がなければ出口にもっとも近い場所が下座。他の招待客が部下や後輩などの場合はへりくだりすぎると却って気を使わせてしまうが、一人で招待された場合は、靴箱の横か出口に近い側にそろえるとよい。
畳の縁や敷居は、決して踏まないように
和室に入ったら、畳の縁(へり)や敷居は、決して踏まないようにしよう。
日本には「畳の縁や敷居には神様が住んでいる」という伝統的な考え方があるが、現実的な理由もある。畳の縁には絹などの繊細な布が使われており、刺繍が施されていることも多い。美しい分、強度は十分でなく、足で踏むと傷んでしまう。また、畳の縁には家紋など「家」を表す紋様が刺繍されている場合もあり、それを踏むのは失礼にあたる。
敷居は戸を開け閉めする際に埃がたまりやすい場所なので、踏んだ跡に通された家の中で埃を撒き散らさないように……との心遣いや配慮の意味もある。まさに敷居は「またぐ」ようにしたい。
和室に通されたら、座る順番に気をつけよう。前述の通り床の前が上座、そして入口に近い席が下座だ。基本的には家の人が指定した席に座れば間違いがないが、特に指示がなければ、招待客の顔ぶれを見て考えたい。
座布団に座るとき、立ち上がるときにもマナーがある
着席する前にも、一呼吸ついて落ち着きたい。
まず、座布団より下座の畳に正座をし、両手をついて招待のお礼を述べる。手土産がある場合は膝の前に置き、すべらせるように差し出すとよい。そして座布団に座るときは立ち上がらず、にじるように移動する。
座布団から立ち上がるときは、体を後ろにずらし、腰を少し浮かしてつま先を立てる。万一、しびれがきれた場合は無理に立ち上がろうとせず、そのままおさまるまで待とう。もちろん無理をして正座をし続ける必要はないが、できれば家の人が「足を楽にしてください」と声をかけてからくずすようにしたい。が、どうしても我慢できない場合は、一言断りをいれてからにしよう。また、足をくずす場合は、上座ではなく下座に向けて足をくずした方がよい。
和室に招待されると緊張するものだが、日本の礼儀作法の基本は「相手への思いやり」である。
細かい作法を知らなくても、招待していただいたお宅を汚さないよう、しつらえを傷めないようにと、細やかなところまで目を配って注意をすれば、間違いはないはずだ。
しかし、最低限のマナーを覚えておけば恥をかかなくて済む。これから年末年始にかけては、和室を訪問する機会も増えるかもしれないから、知識として知っておいたほうがよいだろう。
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