「家具の固定をしていない」人が全体の過半数を占める

拓殖大学の白石照美准教授(右)と、同学科の阿部眞理准教授拓殖大学の白石照美准教授(右)と、同学科の阿部眞理准教授

東日本大震災以降、住宅の防災に対する関心が高まっている。一方で、建物の耐震化と比べると、室内の防災については、十分な対策がとられているとはいいがたいのが実情だ。

株式会社つなぐネットコミュニケーションズが2011年7月に実施したマンション居住者向けのインターネット調査によれば、家具を固定している人の割合は46%。各自治体が啓蒙活動を行ってはいるものの、「必要ない」「面倒」「お金がかかる」「効果があるかどうかわからない」など、さまざまな理由から、家具の固定が進んでいない現状が浮かび上がった。

拓殖大学工学部デザイン学科准教授・白石照美氏はこう語る。
「阪神淡路大震災では、家具の転倒やクラッシュ・シンドロームで多くの方が亡くなりました。いずれ直下型地震が襲来すれば、かなりの揺れが首都圏を襲うことになります。その被害をできるかぎり少なくするためにも、室内の防災への取り組みは火急の課題。インテリアデザインの観点からも、防災について真剣に取り組む必要があると考えています」

金具による家具固定をはばむ、さまざまな障壁の存在

現在、小売店の店頭では、家具固定のための防災グッズが市販されている。なかでも人気なのが、家具の下に敷く転倒防止用のプレートや粘着シート、家具と天井の間で家具を固定する突っ張り棒式など、金具やネジを使わないタイプ。だが、家具をネジと金具で壁に固定しないかぎり、その効果は限定的といわざるをえない、と白石氏は指摘する。

とはいうものの、工具で家具や壁に穴を開け、金具を使って家具を固定するのは容易ではない。女性や高齢者、大工仕事が苦手な人にとってはなおさらのことだ。
「今は住宅の内装材として石膏ボードが普及していますが、石膏ボードの壁にネジを打っても簡単に抜けてしまいます。また、賃貸住宅では、壁に穴を開けること自体が難しいという問題もあります」

さらに深刻なのが、壁に傷をつけたくないという心理的な障壁の存在だ。
「家具の固定を進めるためには、こうしたさまざまな障壁をクリアしなければならない。ネジでしっかりと金具を止めることができ、なおかつ、インテリアとしても美しい壁面システムが求められているのです」

こうした中、白石氏と同僚の阿部眞理准教授は、筑波大学大学院生命環境科学研究科の小幡谷英一准教授とともに共同研究をスタート。2011年にLIXIL住生活財団の助成採択を受け、家具固定が行いやすい壁面システムについての研究に取り組んできた。

壁面のネジ跡を目立たなくするため、被覆材を活用

「家具の固定がしやすい壁面の条件とは、①しっかりとネジを止められる基材を配置していることと、②ネジ穴が目立たないような工夫がされていることです。なぜ、自宅の壁に穴を開けることに抵抗があるのかというと、後で家具を動かした時にネジの跡が目立ってしまうからです。そこで、さまざまな被覆材を使い、ネジの穴を目立たなくする方法を検討しました」と、白石氏は語る。

そこで、かねてから注目していた籐やペーパーコードなど、ひも形状の自然素材を織ったり組んだりしたシートで、ベースの板材を覆う方法を試してみたところ、ネジ穴を目立たなくする効果があることがわかった。
「こうした被覆材を家具固定が必要な場所に使えば、壁面のアクセントにもなり、ネジの跡も気にならなくなります。壁を傷つけたくないという心理的な障壁がなくなって、家具の固定がしやすくなるわけです」

ネジ穴を目立たなくするために検討した被覆材の数々ネジ穴を目立たなくするために検討した被覆材の数々

壁面にあらかじめ「家具固定用の場所」を作る

では、ネジを打つための基材と被覆材を、壁のどこに使えば、効果的に家具を固定できるのか。研究チームでは、リビング、ダイニング、寝室など、部屋タイプ別に市販家具の寸法を調査。その結果をもとに、壁面に家具固定用の部材を配するシミュレーションを行った(下図)。

「今後は、住宅の供給側が、家具を固定できる場所をあらかじめ壁面に作り、『ここに家具を固定しましょう』とアピールすることも必要になってくるのではないか。こうした取り組みが進めば、賃貸住宅でも家具の固定が進むと考えられます」

家具の固定を行う場所に被覆材を施し、ネジ穴を目立たなくする家具の固定を行う場所に被覆材を施し、ネジ穴を目立たなくする

普及のカギは、壁面デザインのバリエーションをいかに増やすか

一方で、課題も山積している。最大のネックは、「大切な家具にネジを打てるかどうか」という問題だ。防災のためとはいえ、高価な家具や思い出のこもった家具を傷つけることには抵抗も大きい。また、電動工具を持たない一般の人にとっては、ネジで家具を固定するという作業自体が難しいという問題もある。「今後は、一般の人でも簡単に家具を固定できるような方法を考える必要があります」、と白石氏は指摘する。

もう1つの課題は、インテリアデザインの観点から、いかに選択肢を増やしていくかという点だ。今回の研究で使用した被覆材は、自然素材を使ったアジアンテイストのものが中心。
「同様の方法で、さまざまな素材や色彩、デザインの展開が可能であり、幅広いニーズに対応することができます」と、白石氏。こうした壁面システムの普及にあたっては、「いかにバリエーションを増やすか」ということも、今後の重要な焦点になってくるといえそうだ。

「住宅の防災は、ただ『家具を固定すればいい』という考え方では実現しない。そこに求められるのは、生活の場としての“楽しさ”や“豊かさ”を追求しながら、いかに安全を実現するかということです。現在、拓殖大学では軽量家具の研究も行っていますが、軽量家具とセットで考えれば、家具固定の効果はさらに倍増する。今後も引き続き研究を進めたいですね」

地震大国に住む私たちにとって、家具の固定はまさに喫緊の課題。愛着のある家具を“凶器”にしないためにも、今後の研究の進展に期待したい。

2014年 01月05日 11時06分