住みたい街には人が集まってくる

皆さんにとって住みたい街はどんな街だろうか?
ただ部屋や住宅が最新だから、広いから、といった理由だけでは選ばないだろう。HOME’Sが2013年1月に公表した「東京都民が選ぶ住みたい街ランキング」では、総合1位が吉祥寺の街。どうして吉祥寺はこんなに人気があるのだろうか。

しかし、人気の理由を探る前にもう1つ気にしたい街がある。それは「つくば」。つくばという名前を聞いて連想するものは何だろうか?つくばエクスプレス?筑波山?筑波大学?

今回、街づくりのプロデューサーなどを行っている筑波大学 准教授の渡和由先生に取材を行い、つくば市の“人が集まり不動産も動く街づくり”について聞いてみた。

つくば市の移り変わり

筑波大学 渡准教授に街づくりに伺ってみた筑波大学 渡准教授に街づくりに伺ってみた

渡先生の研究のメインは全国各地の街の活性化につながるサイトプランニング(敷地計画)。筑波大学のキャンパスがある「つくば市」の街づくりにも総合プロデューサーとして関わっている。つくばと言えば、1960年ころから筑波研究学園都市として開発が進み、2005年に開通した“つくばエクスプレス”の終着駅だが、街はどう変化したのだろうか?

「2004年あたりは駅の周辺は何もありませんでしたが、今は建物が増えてきましたね。開発が進み、ようやく都市として姿が形づいてきたと思います。今、つくばが目指しているものは“歩きたくなる街”です。開発が一段落した今だからこそ、足りないものを補っていく意味での“再生”が必要だと感じています」

つくばエクスプレスの利用状況を見てみると、鉄道が開通した2005年は輸送人員3,469万人だったのに対して、2012年では輸送人員11,066万人。実に3倍以上の人の行き来になったのがうかがえる。つくばの駅周辺も、ショッピングモールや公共施設などが集まり、にぎわいをみせている。しかし、建物がまばらでゆったりとした敷地のある街並みや車線など、“歩きたい”という思う街からまだ遠い印象を受けた。他の地方都市と同じくやはり車での移動が生活のメインだ。

「人が街に出て歩きたくなる街になってほしいと思います。つくばは達成度からしたらまだ50%ですが、歩きたくなる街への環境は揃ったと思います。足りないのは、人の流れを作る取り組みです」

では、人の流れができる取り組みとは一体何だろうか?

公的不動産を民間でも賢く使えることが必要

年2回発行されている「つくばスタイル」年2回発行されている「つくばスタイル」

現在、つくばでは主に2つの取り組みを行っており、いずれも渡先生が深くかかわっている。

一つは、つくばの“不動産価値をあげる”ための取り組みだ。
どんなに開発が進み交通の便がよくなろうが住宅地ができようが、つくば市自体の街が魅力的でないと住みたい街には思えないはず。そうした課題を払拭するために、茨城県とUR都市機構が手を結び、つくばの魅力をアピールするために行動を始めた。他県から来た地元に住む人たちの協力や、東京の出版社、広告代理店とも提携して、その結果できたのがライフスタイル雑誌「つくばスタイル」。つくばは、もともと東京のベッドタウンでもなく、つくばエクスプレスが開通するまではどちらかと言えば陸の孤島だったため独自の文化をはぐくんできた街。そのため取材ネタも豊富で現在まで年2回発行、計17冊刊行されている。

職住だけ考える地域ではなく、こだわりのお店も多く自然にあふれた地域。つくばに対して当初、「学園都市」というどちらかと言えば少し不便な都市のイメージしかなかったが、今回の取材や「つくばスタイル」をみるととても魅力的な街だと伝わってきた。ハードだけでなく、こうしたソフト面の育成やプロモーションで魅力をアピールすることで、つくばへのファン化を促す結果になったのだろう。

人の流れが活性化する取り組み

つくば歩道での社会実験の様子つくば歩道での社会実験の様子

もう一つは、行政による街づくりの条例化だ。条例によって“人が活動的になる環境”を作り上げるという。
現在、つくば市では通称オープンカフェ条例を検討しているという。この条例は、歩道を一部開放し食事やベンチでくつろぐことができる場所を増やしていくという試み。あまり、しっくりこない人は欧米のカフェをイメージしてほしい。お店からはみ出て、道路にイスやテーブルが並んでいる光景を見たことがあるだろう。実はこの条例があると、お店自体の収容人数も増えて活性化につながり、またところどころに休み処も増える。既存のお店だけでなく、例えばそうしたスペースを利用して市場(マルシェ)がたったり、イベントが行われて、さらに人の動きが出るようになるのだ。

活動的環境になるためには、商業施設だけでなく、たとえば駅前のマンションの1階部分もガラス張りにしたコミュニティスペースにするなども不可欠だという。確かに、お店がないマンションは1階にも居住スペースが作られ、結果的に壁だらけの建物になってしまう。これでは、街が閉じてしまい新しい人の流れは生まれない。

これまで道路や公園などは“公的不動産”として不可侵なイメージがあったが、これからはそうした今までデッドスペースだった場所をいかした街作りが“人”の動きを活性化させるのだ。しかし、課題もあるという。

「今までこうした取り組みは認可されませんでしたが、公共団体も目的や主体がはっきりしていれば認可する風潮になっています。そういう環境なので、行政と話し合い公的不動産を生かした取り組みができればいいと思います。しかし、行政は変わってきているのですが、実は民間の方に課題があるのです」

公的不動産の不可侵なイメージ強く、民間側に行政と一緒にやっていこうという動きがないのだ。少しずつ全国的な事例が出てきているので、民間からの活発的な動きは今後に期待だ。

しかし、こうした「つくば市」のアンチテーゼ、あるいは目標ともいえる“歩きたい街”が実は住みたい街ランキング1位の「吉祥寺」だという。

住みたい街、歩きたい街、今後目指す街づくりについて

吉祥寺での歩行者と居場所吉祥寺での歩行者と居場所

住みたい街ランキングでも、1位吉祥寺、5位下北沢、9位三鷹、11位中野と東京の西部の街が多い。

「歩行環境を優先した都市は実は東京に多くあります。それが吉祥寺や下北沢、高円寺といった東京の西部にある街です」

吉祥寺は細い道や路地も多く、街歩きには楽しい街だ。駅のまわりに、戦後の闇市からの街区を残している。そこにお店が軒をつらね、街自体も活性化している。吉祥寺の街は全て人の足で行ける距離にあり、いわゆるヒューマンスケールの街なのだ。道路は狭く、新しく大きな商業施設は他の街より少ないが、それでも若者からお年寄りまで幅広く支持が集まり、ファンも多い。

つくばは当初、概念的な東京を模倣した街作りをしてしまったという。概念的な東京とは、駅前広場があり、駐車場があり、高層のビルが建ち並ぶ、そんな東京のイメージ。そうしたイメージにつられて、つくばだけでなく他の地方都市も昔からの駅前のお店や商店街を壊し、再開発を行った結果、味気ない街になってしまったケースが多々あるという。

戦後、約70年。様々な都市での開発は終わり、今は渡先生の言う“再生”の時期なのだ。人の流れと居場所がある吉祥寺や下北沢などを参考に、これから“ソフトとハード面で人が中心の街づくり”が求められているのかもしれない。

2014年 02月03日 09時46分